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「今は元気」が一番危ない―側頭骨線状骨折と意識清明期の落とし穴

第99回医師国家試験 E問題 第56問

国試問題にチャレンジ

第99回 E問題 第56問

頭部外傷直後の成人患者で,意識は清明だが頭部エックス線単純写真で側頭骨に線状骨折を認める場合,最も注意すべき病態はどれか。

  1. a.脳内出血
  2. b.髄液鼻漏
  3. c.硬膜外出血
  4. d.硬膜下出血
  5. e.内頸動脈海綿静脈洞瘻

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、頭部外傷のあとで「いま意識がはっきりしている」患者さんに何を警戒するかを問う問題だ。注目してほしいのは骨折の「部位」。側頭骨という場所に何が走っているかを思い浮かべられるかがカギになるよ。
医学生医学生
側頭骨の骨折なので、耳鼻科的な合併症を考えるのかと思いました。髄液漏とか難聴とか。
ドクタードクター
その発想は自然だし、実際に側頭骨骨折では大事な合併症だ。でも問題文は「最も注意すべき」と聞いている。命に直結するものは何か、という目線で考え直してみよう。側頭部の頭蓋骨の内側には、骨に溝をつくるようにして太い動脈が走っている。
医学生医学生
解剖実習で頭蓋骨の内面を見たときに、枝分かれした溝がありました。中硬膜動脈ですね。
ドクタードクター
そう。顎動脈の枝で、棘孔から頭蓋内に入って硬膜の外側を走る。側頭骨は薄いから、ここに骨折線が入るとこの動脈が傷つきやすい。動脈から出た血は頭蓋骨と硬膜の間にたまっていく。これが急性硬膜外血腫で、正解は硬膜外出血だ。
医学生医学生
でも、患者さんは意識清明なんですよね。出血しているなら意識が悪くなるのではないでしょうか。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だよ。硬膜外血腫では脳そのものの損傷が軽いことが多いから、受傷直後は意識が保たれていたり、一瞬気を失ってもすぐ回復したりする。ところが動脈性の出血なので血腫は数時間で急に大きくなり、再び意識が落ちて脳ヘルニアに進むことがある。いったん意識が戻る時期を意識清明期、lucid intervalと呼ぶんだ。
医学生医学生
つまり「意識清明」は安心材料ではなく、むしろ硬膜外血腫らしさを示す所見なんですね。
ドクタードクター
その通り。だからこの組み合わせでは頭部CTを撮り、意識レベル、瞳孔、片麻痺の出現を厳重に追う。では他の選択肢も見ていこう。硬膜下出血はどうかな。
医学生医学生
架橋静脈が切れるんでしたよね。CTでは三日月型、硬膜外は凸レンズ型とCBTの前に必死に覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。急性硬膜下血腫は強い加速・減速の外力で脳表と硬膜をつなぐ架橋静脈が切れたり、脳挫傷部から出血したりして起こる。脳損傷を伴うことが多いので、受傷直後から意識障害を呈することが多く、骨折の部位との結びつきも硬膜外血腫ほど強くない。意識清明期をみる例もあるけれど、典型的ではないんだ。ちなみに慢性硬膜下血腫は数週から数か月後の話だから、受傷直後の問題ではない。
医学生医学生
脳内出血は、脳挫傷に伴うものですよね。
ドクタードクター
そう。脳実質そのものの損傷だから、受傷直後から意識障害や局所症状が出やすいし、側頭骨の線状骨折と特定の血管損傷が結びつくわけでもない。髄液鼻漏は頭蓋底骨折で硬膜が破れたときに起こり、鼻漏は主に篩板など前頭蓋底の骨折で生じる。側頭骨の骨折なら鼓膜が破れていれば耳漏、保たれていれば耳管経由で鼻漏として出ることもある。ただ多くは自然に止まり、髄膜炎には注意が必要でも、すぐ命に関わるものではない。
医学生医学生
内頸動脈海綿静脈洞瘻は、拍動性の眼球突出が出るものでしたっけ。
ドクタードクター
正解。頭蓋底骨折などで海綿静脈洞内の内頸動脈が傷ついて起こり、拍動性眼球突出、結膜の充血と浮腫、眼窩部の血管雑音、外眼筋麻痺が特徴だ。受傷後しばらくしてから目立ってくることが多く、今回の状況で最優先に警戒するものではない。
医学生医学生
臨床実習で救急外来にいたとき、軽症に見える頭部外傷の患者さんでも帰宅させる前に注意事項を細かく説明していたのは、こういう理由だったんですね。
ドクタードクター
まさにそう。急変のサインとして、意識レベルの低下、瞳孔不同、片麻痺、それにCushing現象、つまり血圧上昇と徐脈は頭蓋内圧亢進や脳ヘルニアを示す。硬膜外血腫は早く見つけて開頭血腫除去術を行えば予後は良好だから、見逃さないことが何より大事なんだ。CTでは硬膜が頭蓋縫合に強く付着しているため、血腫が縫合線を越えにくいのも特徴だよ。
医学生医学生
耳鼻科の視点では、側頭骨骨折の縦骨折と横骨折の違いも試験に出ると聞きました。
ドクタードクター
いい補足だね。縦骨折は頻度が高く、外耳道や中耳が傷ついて伝音難聴、耳出血、髄液耳漏を起こしやすい。横骨折は内耳道や迷路を横切るので感音難聴、めまい、顔面神経麻痺が出やすい。ただ救急の場面では、まず命に関わる硬膜外血腫を除外してから、こうした耳の合併症を評価する、という順番を意識しておこう。

まとめ

側頭骨の内面には中硬膜動脈が走るため、側頭骨骨折はこの動脈を損傷して急性硬膜外血腫を起こしやすく、意識清明であっても最も警戒すべき病態となります。硬膜外血腫は脳実質の損傷が軽いことが多く、受傷後いったん意識が保たれる意識清明期を経て、動脈性出血による血腫増大で急速に意識障害や脳ヘルニアへ進むことがあります。CTでは凸レンズ型の高吸収域で縫合線を越えにくく、架橋静脈損傷による三日月型の急性硬膜下血腫とは出血源・画像・意識経過が異なります。髄液漏や難聴、顔面神経麻痺、内頸動脈海綿静脈洞瘻も頭部外傷の合併症として重要ですが、まず命に関わる病態を優先して評価する姿勢が求められます。早期発見と開頭血腫除去術で予後が良好になる疾患だからこそ、「今は元気」を過信しない臨床判断が大切です。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・頭部外傷の直後である。 ・現時点で意識は清明である。 ・頭部単純X線写真で側頭骨に線状骨折がある。

考え方

側頭部の頭蓋骨の内面には、中硬膜動脈(外頸動脈系の顎動脈の枝で、棘孔から頭蓋内に入る)が骨に溝を作るように走行している。側頭骨は薄く、ここに骨折線が入ると中硬膜動脈やその分枝が損傷されやすい。動脈性の出血は頭蓋骨と硬膜の間に広がり、急性硬膜外血腫を形成する。 急性硬膜外血腫では、脳実質そのものの損傷が軽いことが多いため、受傷直後は意識が保たれている(あるいは一過性の意識消失の後に回復する)ことが少なくない。しかし動脈性出血のため血腫は数時間のうちに急速に増大し、再び意識が低下して脳ヘルニアに至ることがある。この「受傷後いったん意識が清明となる時期」を意識清明期(lucid interval)と呼ぶ。 したがって「意識清明+側頭骨線状骨折」という組み合わせは、今は元気でも急変しうる硬膜外血腫を最も警戒すべき状況である。頭部CTで凸レンズ型(両凸型)の高吸収域を確認し、意識レベル・瞳孔所見・片麻痺の出現などを厳重に経過観察する必要がある。

選択肢考察

  1. ×a.  脳内出血

    外傷性の脳内出血(脳挫傷に伴う出血)は脳実質そのものの損傷であり、受傷直後から意識障害や局所神経症状を伴うことが多い。また、線状骨折の部位と直接結びつく血管損傷の機序もない。意識清明で側頭骨骨折がある状況で最も警戒すべきものではない。

  2. ×b.  髄液鼻漏

    髄液漏は頭蓋底骨折で硬膜が破れた場合に生じる。髄液鼻漏は主に前頭蓋底(篩板など)の骨折で起こる。側頭骨(錐体部)の骨折では鼓膜が破れていれば髄液耳漏となり、鼓膜が保たれていれば耳管を経て鼻漏として出ることもあるが、いずれにせよ多くは自然に止まり、生命を直ちに脅かす病態ではない。髄膜炎の危険に注意は必要だが、「最も注意すべき」ものではない。

  3. ○c.  硬膜外出血

    側頭骨骨折は内面を走る中硬膜動脈を損傷しやすく、急性硬膜外血腫の典型的な原因となる。受傷直後は意識清明であっても、動脈性出血により血腫が急速に増大し、数時間以内に意識障害・瞳孔不同・片麻痺などを呈して鉤ヘルニアに進行しうる(意識清明期)。早期に発見して開頭血腫除去術を行えば予後は良好であるため、見逃してはならない病態である。

  4. ×d.  硬膜下出血

    急性硬膜下血腫は、脳表と硬膜を結ぶ架橋静脈の断裂や脳挫傷部からの出血で生じ、強い加速・減速外力による脳損傷を伴うことが多い。このため受傷直後から意識障害を呈することが多く、骨折の有無や部位との関連は硬膜外血腫ほど強くない。意識清明期をみることもあるが、硬膜外血腫ほど典型的ではない。なお慢性硬膜下血腫は軽微な外傷から数週〜数か月後に発症するもので、受傷直後に問題となるものではない。

  5. ×e.  内頸動脈海綿静脈洞瘻

    外傷性の内頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous fistula:CCF)は、蝶形骨や中頭蓋底を含む頭蓋底骨折などにより、海綿静脈洞内を走る内頸動脈が損傷されて生じる。拍動性眼球突出、結膜充血・浮腫、眼窩部の血管雑音、外眼筋麻痺などをきたす。受傷後しばらくして顕在化することが多く、側頭骨の線状骨折で意識清明の患者に最も注意すべき病態ではない。

急性硬膜外血腫と急性硬膜下血腫の比較

・出血部位:硬膜外血腫は頭蓋骨と硬膜の間、硬膜下血腫は硬膜とくも膜の間。 ・出血源:硬膜外血腫は中硬膜動脈(ほかに静脈洞や板間静脈)、硬膜下血腫は架橋静脈や脳挫傷部の皮質血管。 ・骨折の合併:硬膜外血腫では高率に頭蓋骨骨折を伴い、特に側頭骨骨折が重要。 ・CT所見:硬膜外血腫は凸レンズ型(両凸型)の高吸収域で、硬膜が頭蓋縫合部に強く付着しているため縫合線を越えにくい。硬膜下血腫は三日月型の高吸収域で、縫合線を越えて広がる。 ・意識:硬膜外血腫では意識清明期が特徴的。硬膜下血腫は脳損傷を伴い受傷直後から意識障害を呈することが多い。 ・予後:硬膜外血腫は早期手術で予後良好。急性硬膜下血腫は脳実質損傷を伴うため予後不良なことが多い。

側頭骨骨折と耳鼻咽喉科的合併症

・縦骨折(錐体の長軸に平行):頻度が高い。外耳道・中耳の損傷による伝音難聴、耳出血、髄液耳漏をきたしやすい。顔面神経麻痺は比較的少ない。 ・横骨折(錐体の長軸に直交):内耳道や迷路を横切るため感音難聴、めまい、顔面神経麻痺をきたしやすい。 ・近年はCTでの骨折線と耳包(内耳を包む骨)の損傷の有無で分類する考え方も用いられる。

頭部外傷で注意すべき徴候

・意識レベルの低下(Glasgow Coma Scaleの2点以上の低下など)、瞳孔不同、片麻痺、Cushing現象(血圧上昇と徐脈)は頭蓋内圧亢進・脳ヘルニアの徴候である。

POINT

・側頭骨骨折 → 中硬膜動脈損傷 → 急性硬膜外血腫。 ・急性硬膜外血腫は意識清明期(lucid interval)が特徴で、受傷直後に意識清明でも急変しうる。 ・CTで凸レンズ型の高吸収域、縫合線を越えない。 ・急性硬膜下血腫は架橋静脈の損傷で三日月型、受傷直後から意識障害が多い。 ・側頭骨骨折では髄液耳漏、難聴、顔面神経麻痺にも注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。