StudyMed医師国家試験

痛いか、痛くないか―リンパ節腫脹の「成因」を見分ける触診のツボ

第99回医師国家試験 C問題 第36問(連問)

国試問題にチャレンジ

第99回 C問題 第36問

連問の共通文

次の文を読み,35と36の問いに答えよ。 48歳の女性。全身倦怠感と発熱とのため来院した。 現病歴:3か月前から全身倦怠感を自覚し,1か月前から発熱と体重減少とが出現した。 既往歴:特記すべきことはない。 現症:意識は清明。身長154 cm,体重54 kg。体温38.4℃。呼吸数20/分。脈拍96/分,整。血圧112/72 mmHg。眼瞼結膜に貧血はなく,眼球結膜に黄疸はない。両側の頸部と腋窩とに大豆大のリンパ節を数個触知する。胸部所見に異常を認めない。腹部は平坦,軟で,脾を左肋骨弓下に2 cm触知する。下肢に浮腫を認めない。 検査所見:尿所見:蛋白(-),糖(-)。血液所見:赤血球380万,Hb 11.5 g/dL,Ht 35%,白血球6,200,血小板27万。血液生化学所見:総蛋白7.0 g/dL,アルブミン4.0 g/dL,クレアチニン0.7 mg/dL,AST 22 IU/L,ALT 12 IU/L,LD 560 IU/L(基準176〜353),CK 35 IU/L(基準10〜40)。CRP 3.2 mg/dL。

この患者でリンパ節腫脹の成因の鑑別に最も有用なのはどれか。

  1. a.数
  2. b.部位
  3. c.有痛性
  4. d.大きさ
  5. e.可動性

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、悪性リンパ腫が疑われる患者で、腫れたリンパ節の性状のうち、どれが成因の鑑別に最も役立つかを考える問題だ。リンパ節を診るときの観察項目はたくさんあるけれど、「この患者で」何と何を見分けたいのかを意識することがカギになるよ。
医学生医学生
発熱、体重減少、多発リンパ節腫脹、脾腫、LD上昇なので、やっぱり悪性リンパ腫を一番に考えます。
ドクタードクター
そうだね。ただ、同じような全身のリンパ節腫脹は、結核などの慢性感染症や、SLE・成人Still病のような膠原病でも起こる。つまりこの患者で知りたいのは、感染や炎症による反応性の腫れなのか、腫瘍による腫れなのか、という点なんだ。
医学生医学生
それなら、数や部位が手がかりになりそうです。多発していたら全身性の病気ですよね。
ドクタードクター
全身性か局所性かの判断にはもちろん役立つ。でもこの患者では、両側の頸部と腋窩に数個あることがすでにわかっている。多発・複数領域という特徴は、リンパ腫でも全身性の感染症や膠原病でも同じように起こりうるから、反応性か腫瘍性かを分ける決め手にはならないんだ。
医学生医学生
部位でいうと、左鎖骨上窩のVirchow転移みたいに、場所が意味を持つこともありますよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。部位は局所の感染巣や癌の転移経路を推定するのに有用だ。咽頭炎なら頸部、上肢の傷なら腋窩、という具合だね。ただ今回の分布は、鑑別の中心である感染・炎症とリンパ腫のどちらとも矛盾しない。では大きさはどうだろう。
医学生医学生
2 cmを超えると悪性を疑う、と内科の講義で聞きました。大豆大だとそれより小さいですね。
ドクタードクター
その通りで、1 cm前後の腫れは感染症でもリンパ腫の初期でもみられる。大きさは反応性と腫瘍性で重なりが大きいんだ。そこで注目したいのが痛みの有無。細菌感染などの急性炎症では、リンパ節が短期間で腫れて被膜が引き伸ばされるから、自発痛や圧痛が出やすい。一方、悪性リンパ腫はゆっくり大きくなるので、原則として痛みがない。
医学生医学生
だから有痛性かどうかが、反応性と腫瘍性を分ける一番直接的な指標になるんですね。
ドクタードクター
そういうこと。これが正解だ。ただし例外もあるから注意しよう。結核性リンパ節炎は痛みに乏しいことがあるし、リンパ腫でも急速に大きくなったり壊死を起こしたりすると痛むことがある。痛みだけで確定はできないんだ。
医学生医学生
可動性も迷いました。臨床実習で耳鼻科を回ったとき、硬くて動かないリンパ節は要注意と教わったので。
ドクタードクター
その感覚は大事だよ。可動性が失われるのは、癌のリンパ節転移で腫瘍が被膜を越えて周囲に浸潤し、癒着するからだ。転移リンパ節は石のように硬く、周りに固着する。ところが悪性リンパ腫のリンパ節はゴムのような弾性硬で、かなり大きくなっても可動性が保たれることが多い。反応性のリンパ節も動くから、リンパ腫と感染症の鑑別には可動性はあまり役立たないんだ。
医学生医学生
なるほど。可動性は癌転移を見抜くのに強くて、有痛性は炎症とリンパ腫を分けるのに強い、と使い分ければいいんですね。
ドクタードクター
見事な整理だね。もう一つ、若い女性で発熱と有痛性の頸部リンパ節腫脹、白血球減少があれば、亜急性壊死性リンパ節炎、いわゆる菊池病も覚えておきたい。痛むリンパ節イコール細菌感染、と決めつけないことも大切だ。
医学生医学生
結局、リンパ腫かどうかは生検しないとわからないんですよね。
ドクタードクター
その通り。40歳以上、2週間以上続く腫脹や増大傾向、2 cm以上、硬く無痛性、鎖骨上窩の腫脹などがあれば生検を考える。リンパ腫を疑うときは、構造が保たれた検体が得られる切除生検が望ましい。病理組織に加えて免疫染色やフローサイトメトリー、染色体検査で病型を決め、PET-CTなどで病期を評価する流れだよ。

まとめ

リンパ節腫脹の評価では、数・部位・大きさ・硬さ・圧痛・可動性などを総合しますが、どの所見が重要かは何を鑑別したいかで変わります。発熱と多発リンパ節腫脹で悪性リンパ腫と感染・炎症性疾患を鑑別したい場面では、急性炎症の反応性腫大は被膜伸展により有痛性、悪性リンパ腫は緩徐増大で無痛性という違いが最も直接的な手がかりになります。可動性は石様硬で癒着する癌転移の評価に有用ですが、弾性硬で可動性が保たれやすいリンパ腫と反応性腫大の区別には向きません。結核性リンパ節炎の無痛性や菊池病の有痛性など例外もあり、確定診断には切除生検による病理診断が必須です。所見の意味を病態から理解しておくことで、触診一つから鑑別を効率よく絞り込めるようになります。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・48歳女性。3か月前からの全身倦怠感、1か月前からの発熱(38.4℃)と体重減少。 ・両側の頸部と腋窩に大豆大のリンパ節を複数触知(複数領域のリンパ節腫脹)。 ・脾を左肋骨弓下に2 cm触知(脾腫)。 ・Hb 11.5 g/dLの軽度貧血、白血球・血小板は正常。 ・AST・ALT・CKは正常だがLD(乳酸脱水素酵素)が560 IU/Lと上昇、CRP 3.2 mg/dL。

診断へのプロセス

発熱・体重減少という全身症状(B症状)に、複数領域のリンパ節腫脹、脾腫、肝・筋に由来しないLD上昇が加わっており、悪性リンパ腫がまず疑われる。鑑別には、結核などの慢性感染症や、成人Still病・全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病・自己炎症性疾患が挙がる。48歳という年齢と3か月の経過から、伝染性単核球症は考えにくい。

設問の考え方

リンパ節腫脹の性状(数、部位、大きさ、硬さ、圧痛、可動性、癒着)は、いずれも原因を考えるうえでの観察項目であるが、本問は「この患者で」最も有用なものを問うている。本症例で鑑別の中心となるのは、感染症・炎症による反応性のリンパ節腫脹と、悪性リンパ腫による腫瘍性のリンパ節腫脹である。 感染や炎症によるリンパ節腫脹は、短期間でリンパ節が腫れて被膜が引き伸ばされるため、痛みや圧痛を伴いやすい。一方、悪性リンパ腫のリンパ節腫脹は徐々に進行し、原則として無痛性である。したがって疼痛・圧痛の有無は両者を分ける最も直接的な指標となる。部位・数・大きさについては、本症例ではすでに両側頸部・腋窩に大豆大のものが数個と判明しており、これらは反応性病変と腫瘍性病変のいずれでも生じうる所見である。可動性は癌のリンパ節転移の評価で重要となるが、悪性リンパ腫では可動性が保たれることが多く、本症例の鑑別には役立ちにくい。

選択肢考察

  1. ×a.  数

    リンパ節腫脹が単発か多発かは局所性か全身性かを判断する材料になるが、多発性のリンパ節腫脹は悪性リンパ腫だけでなく、結核などの慢性感染症、ウイルス感染症、SLEなどの膠原病でもみられる。本症例ではすでに複数個であることがわかっており、反応性か腫瘍性かを見分ける情報としての力は弱い。

  2. ×b.  部位

    部位は、局所の感染巣(咽頭炎での頸部、上肢の外傷での腋窩など)やがんの転移経路(左鎖骨上窩のVirchow転移など)を推定するのに役立つ。しかし本症例の両側頸部・腋窩という複数領域の腫脹は、悪性リンパ腫でも全身性の感染症・膠原病でも起こりうるため、成因の鑑別に最も有用とはいえない。

  3. ○c.  有痛性

    細菌感染症などによる急性のリンパ節炎では、リンパ節が急速に腫大して被膜が伸展するため、自発痛や圧痛を伴うことが多い。これに対し、悪性リンパ腫によるリンパ節腫脹は緩徐に増大し、通常は痛みを伴わない(無痛性)。したがって、疼痛・圧痛の有無は、本症例で問題となる反応性(感染・炎症性)のリンパ節腫脹と悪性リンパ腫とを鑑別するうえで最も有用な所見である。なお、結核性リンパ節炎は痛みが乏しいことがあり、悪性リンパ腫でも急速増大や壊死を伴う場合には痛むことがあるため、痛みの有無だけで確定はできず、最終的にはリンパ節生検が必要となる。

  4. ×d.  大きさ

    一般に長径1 cmを超えるリンパ節は病的腫大と考え、2 cm以上や増大傾向のあるものでは悪性の可能性が高まる。しかし大きさは反応性と腫瘍性で重なりが大きく、本症例の大豆大(1 cm前後)という大きさは、感染症でも悪性リンパ腫の初期でもみられるため、成因を見分ける決め手にはなりにくい。

  5. ×e.  可動性

    癌のリンパ節転移では、腫瘍が被膜を越えて周囲組織へ浸潤するため、硬く周囲と癒着して可動性が失われることが多い。一方、悪性リンパ腫のリンパ節は弾性硬(ゴムのような硬さ)で、かなり大きくなっても可動性が保たれることが多く、感染による反応性リンパ節とも可動性の点では差が出にくい。本症例は悪性リンパ腫と感染症・炎症性疾患の鑑別が主眼であり、また貧血が軽度で癌を示唆する所見にも乏しいことから、可動性の有用性は有痛性に劣る。

リンパ節腫脹の性状と成因

・反応性(細菌感染などの急性炎症):軟〜弾性軟、圧痛あり、可動性良好、急速に出現 ・悪性リンパ腫:弾性硬(ゴム様)、無痛性、可動性は比較的保たれる、緩徐に増大、複数が集簇して大きな腫瘤を作ることもある ・癌のリンパ節転移:石様硬、無痛性、周囲と癒着して可動性不良 ・結核性リンパ節炎:痛みに乏しく、進行すると互いに癒着し、乾酪壊死により自壊・瘻孔を形成することがある ・亜急性壊死性リンパ節炎(菊池病):若年女性に多く、発熱と有痛性の頸部リンパ節腫脹を示し、白血球減少を伴う

リンパ節腫脹の評価項目

年齢、経過(急性か慢性か)、局所性か全身性か、部位、大きさ、硬さ、圧痛、可動性・癒着を総合して判断する。40歳以上、2週間以上持続・増大、長径2 cm以上、硬い・無痛性・癒着、鎖骨上窩の腫脹などは悪性を疑う所見であり、リンパ節生検の適応を考える。

悪性リンパ腫の診断

確定診断にはリンパ節生検(切除生検が望ましい)による病理組織診断と免疫染色・フローサイトメトリー・染色体検査を行う。血清LDや可溶性IL-2受容体は腫瘍量や病勢の指標となる。病期診断にはPET-CTや骨髄検査を用い、Ann Arbor(Lugano)分類で評価する。

POINT

・感染・炎症による反応性リンパ節腫脹は有痛性(圧痛あり)、悪性リンパ腫は無痛性が原則。 ・悪性リンパ腫のリンパ節は弾性硬で可動性が保たれることが多く、癌転移は石様硬で可動性不良。 ・数・部位・大きさは反応性と腫瘍性で重なりが大きい。 ・確定診断はリンパ節生検による病理診断。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。