生まれつきの仙骨部のこぶ―MRIの「脂肪の通り道」が示す閉鎖性二分脊椎
第99回医師国家試験 A問題 第3問
国試問題にチャレンジ
2歳2か月の男児。仙骨部の皮下腫瘤を主訴に来院した。腫瘤は出生時から認められ定期的に受診している。ひとり歩き1歳3か月。身長80cm,体重11kg。頭囲48cm。言語発達に異常を認めない。腫瘤は径5cmの半球状で,正常な皮膚に覆われている。腰仙部MRIのT1強調正中矢状断像を示す。 診断はどれか。

- a.奇形腫
- b.骨軟骨腫
- c.脊髄血管腫
- d.脊髄腫瘍
- e.二分脊椎
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
出生時から存在する腰仙部正中の皮膚に覆われた腫瘤で、MRIで皮下の脂肪信号の腫瘤が椎弓欠損部を通って脊柱管内の脊髄・硬膜と連続していれば、閉鎖性(潜在性)二分脊椎、なかでも脂肪腫を伴う脂肪脊髄髄膜瘤と考えられます。仙尾部奇形腫は多彩な信号や石灰化を示して脊柱管内への連続は通常なく、骨軟骨腫は骨性の硬い隆起、脊髄血管腫や脊髄腫瘍は脊柱管内の病変で皮下腫瘤としては触れない点で区別できます。閉鎖性二分脊椎は無症状でも、成長とともに脊髄係留症候群(下肢の運動・感覚障害、足変形、排尿・排便障害)を起こしうるため、係留解除術の検討と定期的な評価が欠かせません。腰仙部の皮下腫瘤、多毛、血管腫、皮膚陥凹は潜在性二分脊椎のサインであり、妊娠前からの葉酸摂取による予防とあわせて、小児診療や健診の場で役立つ知識です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・2歳2か月の男児。仙骨部の皮下腫瘤が出生時から存在する(先天性の病変である)。 ・ひとり歩き1歳3か月(正常範囲内、おおむね1歳6か月までに獲得すれば正常とされる)。身長80cm・体重11kg・頭囲48cmはいずれも年齢相応で、水頭症を示唆する頭囲拡大はない。言語発達も正常。 ・腫瘤は径5cmの半球状で、正常な皮膚に覆われている(神経組織が露出していない)。
画像の読み方
腰仙部MRIのT1強調正中矢状断像では、仙骨部背側の皮下に、皮下脂肪と同様の高信号を示す大きな腫瘤がある。この高信号域は椎弓が欠損した部分を通って脊柱管内へ連続し、脊髄の下端(脊髄円錐)は正常より低い位置まで引き下げられて腫瘤と連続しているように見える。T1強調像で高信号を示す組織の代表は脂肪であり、皮下の脂肪腫が椎弓欠損部を介して脊柱管内の脊髄・硬膜とつながっている像である。
診断へのプロセス
出生時から存在する腰仙部正中の皮膚に覆われた腫瘤があり、画像で椎弓の欠損とそこを通る脊柱管内外の連続性が示されていれば、二分脊椎(脊椎の椎弓が癒合しない先天奇形)と診断できる。皮膚で覆われていることから、神経組織が露出する開放性二分脊椎(脊髄髄膜瘤)ではなく、閉鎖性(潜在性)二分脊椎に属し、画像からは脂肪腫を伴う型(脂肪脊髄髄膜瘤・腰仙部脂肪腫)と考えられる。現時点で運動・言語発達に異常はないが、成長に伴って脊髄が下方に牽引される脊髄係留症候群を起こしうる病態である。
選択肢考察
- ×a. 奇形腫
新生児・乳児の仙骨部腫瘤としては仙尾部奇形腫が重要な鑑別である。奇形腫は三胚葉成分(脂肪、軟部組織、嚢胞、骨・歯、石灰化など)を含むため、MRIでは多彩な信号が混在する不均一な腫瘤となり、CTでは石灰化を伴うことが多い。多くは尾骨から発生して臀部や骨盤内に発育し、脊柱管内へ椎弓欠損を通って連続する像は通常示さない。本例は均一な脂肪信号の腫瘤が椎弓欠損部から脊柱管内に連続しており、奇形腫には合わない。
- ×b. 骨軟骨腫
骨軟骨腫(外骨腫)は骨表面から軟骨帽をかぶった骨性の隆起が突出する良性骨腫瘍で、主に長管骨の骨幹端に生じ、多くは学童期以降に気づかれる。骨と連続した硬い腫瘤であり、出生時から存在する柔らかい皮下腫瘤という経過や、皮下脂肪と同じ信号で脊柱管内に連続する本例の画像とは一致しない。
- ×c. 脊髄血管腫
脊髄血管腫(海綿状血管腫や血管芽腫など)は脊柱管内・脊髄内に生じる病変で、皮下腫瘤として触れることはない。MRIでは出血の時期により混在した信号や、血管芽腫では流れのある血管による無信号域(flow void)がみられる。本例のような皮下に及ぶ脂肪信号の腫瘤とは異なる。
- ×d. 脊髄腫瘍
脊髄腫瘍は脊柱管内(髄内・硬膜内髄外・硬膜外)に生じ、背部の皮下腫瘤として触知されることはまずない。また腫瘍が脊髄を圧迫していれば、下肢の運動・感覚障害や膀胱直腸障害が出現するはずであり、ひとり歩きを正常時期に獲得し発達に異常のない本例の経過とも合わない。脂肪腫を伴う二分脊椎でも脊柱管内に脂肪腫がみられるが、それは先天奇形の一部であり、脊髄腫瘍とは分けて考える。
- ○e. 二分脊椎
出生時から存在する腰仙部正中の皮膚に覆われた腫瘤で、MRIでは皮下の脂肪信号の腫瘤が椎弓欠損部を通って脊柱管内の脊髄・硬膜と連続しており、二分脊椎と診断できる。皮膚に覆われていることから閉鎖性(潜在性)二分脊椎に分類され、脂肪腫を伴う型(脂肪脊髄髄膜瘤)と考えられる。現在は神経症状がなくても、成長とともに脊髄係留症候群(下肢の運動・感覚障害、足変形、排尿・排便障害)が出現しうるため、脳神経外科での係留解除術の検討と定期的な神経・泌尿器科的評価が必要である。
二分脊椎の分類
二分脊椎は、胎生期の神経管閉鎖不全や、それに伴う椎弓の癒合不全によって生じる先天奇形である。 1. 開放性(嚢胞性)二分脊椎:神経組織が皮膚に覆われず露出、または薄い膜のみで覆われる。 ・脊髄髄膜瘤:脊髄・神経根が嚢内に脱出したもので最も頻度が高く重症。出生直後に閉鎖術を要し、下肢麻痺、膀胱直腸障害を伴う。Chiari II型奇形と水頭症の合併が多く、脳室-腹腔シャント術を要することが多い。 ・髄膜瘤:髄膜のみが脱出し、神経症状は比較的軽い。 2. 閉鎖性(潜在性)二分脊椎:病変が正常皮膚で覆われる。 ・単なる椎弓癒合不全のみ(健常人でも腰仙部にしばしばみられ、無症状)。 ・脂肪脊髄髄膜瘤・腰仙部脂肪腫、終糸脂肪腫、先天性皮膚洞、割髄症(脊髄が骨性・線維性の隔壁で二分される)など。
潜在性二分脊椎を疑う皮膚所見
腰仙部正中の皮下腫瘤(脂肪腫)、多毛、血管腫、皮膚陥凹(dimple)・皮膚洞、皮膚の色素異常など。これらがあれば脊髄MRIで評価する。
脊髄係留症候群
脊髄の下端が脂肪腫や太い終糸などで固定されているため、身長の伸びに伴って脊髄が牽引され、虚血性障害が進行する状態である。症状は下肢の筋力低下・感覚障害、凹足などの足変形、側弯、排尿障害(神経因性膀胱)、便失禁・便秘、腰痛など。MRIで脊髄円錐の低位(通常は第1〜第2腰椎レベルより下方)を確認する。治療は係留解除術である。
予防
妊娠前からの葉酸摂取(1日0.4mg)により神経管閉鎖障害のリスクが低下する。開放性二分脊椎では母体血清・羊水のαフェトプロテイン(AFP)が上昇する。
POINT
・出生時からの腰仙部正中の皮下腫瘤+MRIで椎弓欠損部を通る脊柱管内外の連続 → 二分脊椎。 ・皮膚で覆われていれば閉鎖性(潜在性)二分脊椎、T1高信号なら脂肪腫を伴う型(脂肪脊髄髄膜瘤)。 ・潜在性二分脊椎は成長に伴い脊髄係留症候群(下肢運動・感覚障害、排尿障害、足変形)を起こしうる。 ・腰仙部の皮膚所見(脂肪腫、多毛、血管腫、dimple)は潜在性二分脊椎のサイン。 ・仙骨部腫瘤の鑑別:仙尾部奇形腫は多彩な信号・石灰化を示し、脊柱管内への連続はふつうない。
