StudyMed医師国家試験

2歳で歩けない早産児―脳室のそばの白質が語る痙性両麻痺の正体

第120回医師国家試験 A問題 第46問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第46問

2歳の女児。早産児の定期外来のため母親に連れられて来院した。出生歴は,在胎29週,体重1,020g,Apgarスコアは7点(1分),8点(5分)で出生した。NICUに約4か月間入院した。入院中に光線療法を2日間行った。退院後は外来で定期的に経過観察されており,独歩がまだできない。意識は清明。身長82cm,体重10.5kg。体温37.1℃。脈拍112/分,整。呼吸数26/分。SpO2 98%(room air)。頭囲の拡大は認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。皮膚に異常を認めない。下肢に筋緊張と腱反射の亢進を認め,尖足位である。Babinski徴候は陽性である。頭部単純MRIのT2強調像を下に示す。  最も考えられるのはどれか。

第120回 A問題 第46問の問題画像
  1. a.脳性麻痺
  2. b.Chiari奇形
  3. c.結節性硬化症
  4. d.脊髄小脳変性症
  5. e.先天性筋ジストロフィー

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、早産で生まれた子が2歳になっても歩けない理由を考える問題だ。ポイントは3つ。周産期にどんなリスクがあったか、神経所見が中枢性か末梢性か、そしてMRIの白質がどうなっているか。まず、独歩が2歳でできないことをどう評価する?
医学生医学生
独歩は1歳6か月ころまでにできるようになるはずなので、明らかな運動発達の遅れだと思います。でも早産児なので、修正月齢で考えればまだ許容範囲ということはないでしょうか。
ドクタードクター
いい視点だね。早産児は修正月齢で発達を評価するのが基本だ。ただ在胎29週なら修正しても約2か月半の差で、それでも1歳9か月を超えている。しかも単なる遅れではなく、はっきりした神経学的異常を伴っている点が重要なんだ。
医学生医学生
下肢の筋緊張亢進、腱反射亢進、尖足、Babinski徴候陽性ですね。どれも錐体路徴候だと思います。
ドクタードクター
その通り。上位運動ニューロン障害のサインだ。ここで大きく方向が決まる。筋緊張が高く反射も亢進しているなら中枢性、逆に筋緊張低下で反射が低下・消失していれば筋原性や末梢神経の病気を考える。
医学生医学生
だとすると先天性筋ジストロフィーは合わないですね。小児科の実習で、福山型の子はフロッピーインファントだったと教わりました。
ドクタードクター
まさにそう。福山型は常染色体潜性遺伝で、乳児期早期から筋緊張低下と筋力低下があり、CKが上昇し、知的障害や多小脳回などの脳形成異常を伴う。今回の錐体路徴候とは逆の所見だね。では画像を見てみよう。頭部MRIのT2強調像では、側脳室、特に三角部周囲の深部白質が高信号になっていて、白質の容量が減って脳室が不整に拡大している。
医学生医学生
脳室周囲白質軟化症、PVLでしょうか。早産児に多いと新生児学の講義で習いました。
ドクタードクター
正解。早産児の脳室周囲白質は血管の分水嶺にあたり、さらに未熟なオリゴデンドロサイト前駆細胞が虚血や炎症に弱いので傷害を受けやすい。在胎32週未満で特に多いんだ。PVLを背景に、非進行性の中枢性運動障害が残った状態、つまり脳性麻痺と考えられる。
医学生医学生
脳性麻痺の定義は、受胎から新生児期までに生じた非進行性の脳病変による、永続的な運動と姿勢の異常でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。進行性の疾患や、いずれ正常化する一時的な運動発達遅延は含まない。病型としては痙直型の両麻痺、つまり下肢優位の痙性麻痺だ。なぜ下肢に強く出るかわかるかな。
医学生医学生
解剖の講義で、運動野の内側が下肢の領域だと習いました。そこから降りてくる線維が脳室に近いということですか。
ドクタードクター
その通り。下肢を支配する皮質脊髄路の線維は側脳室のすぐ外側を通るから、脳室周囲の白質が傷むと下肢の症状が最も強くなる。視放線が傷つくと視覚認知の障害を伴うこともあるよ。では、ほかの選択肢も確認しておこう。Chiari奇形はどうかな。
医学生医学生
小脳扁桃が大後頭孔から下に落ち込む奇形ですよね。II型は脊髄髄膜瘤や水頭症と合併しやすいはずです。
ドクタードクター
そう。I型では後頭部痛や、脊髄空洞症による解離性感覚障害が出ることがある。今回は頭囲の拡大もなく、画像も脳室周囲白質の病変だから合わない。結節性硬化症は?
医学生医学生
神経皮膚症候群なので、葉状白斑や顔面の血管線維腫、West症候群などのてんかんが手がかりですね。皮膚所見もけいれんもないので考えにくいです。
ドクタードクター
そうだね。画像でも上衣下結節や皮質結節が特徴で、今回の白質病変とは違う。脊髄小脳変性症は、小脳性運動失調が主体で緩徐に進行し、多くは成人発症、MRIでは小脳や脳幹の萎縮が見られる。今回は小脳症状がなく、周産期の脳障害による非進行性の経過だから当てはまらない。
医学生医学生
周産期リスク、錐体路徴候、MRIの白質病変がそろって、脳性麻痺に収束するという流れですね。光線療法を受けていたので核黄疸も一瞬気になりました。
ドクタードクター
よく気づいたね。核黄疸はアテトーゼ型脳性麻痺の原因になり、MRIでは淡蒼球に信号変化が出る。ただ今回は光線療法が2日間だけで重い高ビリルビン血症はうかがえず、症状も不随意運動ではなく痙性麻痺だ。臨床では、PVLの病変自体は元に戻らないので、理学療法を中心としたリハビリを続けながら、痙縮にはボツリヌス毒素療法、尖足にはアキレス腱延長術、症例によっては選択的脊髄後根切断術も検討する。新生児期には頭部超音波で脳室周囲の高輝度域や囊胞を追い、ハイリスク児をフォローアップすることが早期介入につながるんだ。

まとめ

早産・極低出生体重児が独歩の遅れと下肢優位の痙性麻痺(筋緊張亢進、腱反射亢進、尖足、Babinski徴候陽性)を示し、MRI T2強調像で側脳室周囲白質の高信号と脳室の不整な拡大を認める場合、脳室周囲白質軟化症(PVL)による痙直型両麻痺の脳性麻痺を考えます。脳性麻痺は受胎から新生児期までに生じた非進行性の脳病変による永続的な運動・姿勢の異常で、PVLで下肢が優位に障害されるのは下肢支配の皮質脊髄路が側脳室のすぐ近くを通るためです。筋緊張亢進・腱反射亢進なら中枢性、筋緊張低下・腱反射低下なら筋原性や末梢性と考えることで、先天性筋ジストロフィーなどを鑑別できます。Chiari奇形、結節性硬化症、脊髄小脳変性症はそれぞれ水頭症や後頭蓋窩所見、皮膚所見やてんかん、進行性の小脳失調が手がかりとなり、本例とは合致しません。早産児の脳障害の特徴と脳性麻痺の病型を結びつけて理解することは、ハイリスク児のフォローアップと早期リハビリテーションの実践に直結します。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・周産期歴:在胎29週で生まれた早産児で、出生体重1,020gの極低出生体重児(1,500g未満)である。Apgarスコアは1分7点、5分8点で、高度な新生児仮死はない。NICU入院は約4か月と長い。光線療法は2日間のみで、重い高ビリルビン血症(核黄疸のリスク)はうかがえない。 ・発達:2歳になっても独歩ができない。独歩は通常1歳6か月ころまでに獲得されるため、明らかな粗大運動発達の遅れである。 ・神経所見:下肢に限局して筋緊張亢進(痙縮)、腱反射亢進、尖足位、Babinski徴候陽性がみられる。これらはいずれも上位運動ニューロン(錐体路)障害を示す徴候である。 ・その他:頭囲拡大なし(水頭症を示唆しない)、皮膚所見なし(神経皮膚症候群を示唆しない)、全身状態は良好。 ・頭部MRI T2強調像:側脳室、特に後角(三角部)周囲の深部白質に高信号域がみられ、白質の容量が減って側脳室が不整に拡大している。これは脳室周囲白質軟化症(PVL:periventricular leukomalacia)に典型的な像である。

診断へのプロセス

早産・極低出生体重という周産期のリスクがある児が、乳幼児期に運動発達の遅れを示し、上肢よりも下肢に強い痙性麻痺(錐体路徴候)を呈している。症状は出生後に新たに出現・進行したものではなく、周産期に生じた脳の病変を背景とする非進行性の中枢性運動障害と考えられる。MRIでPVLが確認されることから、早産児のPVLに起因する脳性麻痺、病型としては痙性両麻痺(下肢優位の痙性麻痺)と診断できる。 PVLで下肢優位の麻痺になる理由は、側脳室のすぐ外側を下肢を支配する皮質脊髄路の線維が走行しているためである。運動野の内側(下肢領域)から下行する線維ほど脳室に近い位置を通るので、脳室周囲の白質が傷害されると下肢の症状が最も強く出る。

鑑別のポイント

2歳で歩けない原因には、中枢神経疾患(脳性麻痺、水頭症、脳奇形など)、神経変性疾患、神経筋疾患(筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症など)、代謝疾患など多くのものがある。本例では「錐体路徴候あり(筋緊張亢進・腱反射亢進)」によって筋原性・末梢性疾患が、「頭囲正常」によって水頭症が、「皮膚所見なし」によって神経皮膚症候群が、「小脳症状なし・非進行性の経過」によって変性疾患がそれぞれ考えにくくなる。

選択肢考察

  1. ○a.  脳性麻痺

    脳性麻痺は、受胎から新生児期(生後4週以内)までに脳に生じた非進行性の病変によって起こる、永続的で変化しうる運動および姿勢の異常である(厚生省脳性麻痺研究班の定義)。進行性疾患や一過性の運動障害、将来正常化すると考えられる運動発達遅延は除外される。本例は在胎29週・出生体重1,020gの早産・極低出生体重児で、2歳でも独歩不能、下肢の痙縮・腱反射亢進・尖足・Babinski徴候陽性という下肢優位の痙性麻痺を呈し、MRIで側脳室周囲白質の高信号と脳室の不整な拡大(PVL)を認める。早産児PVLによる痙性両麻痺型の脳性麻痺として典型的であり、最も考えられる。

  2. ×b.  Chiari奇形

    Chiari奇形は小脳扁桃(Ⅰ型)や小脳虫部・脳幹(Ⅱ型)が大後頭孔を越えて脊柱管内へ下垂する後頭蓋窩の奇形である。Ⅰ型では後頭部痛や、脊髄空洞症の合併による解離性感覚障害(温痛覚のみ障害され触覚は保たれる)などがみられ、Ⅱ型は脊髄髄膜瘤に合併して水頭症をきたすことが多い。診断は正中矢状断MRIで小脳扁桃の下垂を確認する。本例には周産期の危険因子に一致する脳室周囲白質病変があり、頭囲拡大(水頭症)もなく、Chiari奇形を示唆する所見はない。

  3. ×c.  結節性硬化症

    結節性硬化症は常染色体顕性(優性)遺伝の神経皮膚症候群で、TSC1またはTSC2遺伝子の異常による。乳児期の葉状白斑(木の葉状の脱色素斑)、のちに顔面の血管線維腫、てんかん(乳児期のWest症候群が多い)、知的障害が特徴で、頭部画像では上衣下結節(CTで石灰化として描出される)や皮質結節を認める。本例では皮膚に異常がなく、けいれんの記載もなく、MRI所見も脳室周囲白質病変であり合致しない。

  4. ×d.  脊髄小脳変性症

    脊髄小脳変性症は、緩徐に進行する小脳性運動失調(歩行時のふらつき、構音障害、測定障害など)を主症状とする神経変性疾患の総称である。病型により錐体路症状や末梢神経障害などを伴うこともあるが、中心は小脳失調であり、多くは成人期に発症し、MRIでは小脳や脳幹の萎縮がみられる。本例は小脳症状がなく、周産期の脳障害を背景とした非進行性の痙性麻痺であり、該当しない。

  5. ×e.  先天性筋ジストロフィー

    先天性筋ジストロフィーは、出生時から乳児期早期に筋緊張低下(フロッピーインファント)と筋力低下で発症する筋疾患群である。わが国で最も多い福山型は常染色体潜性(劣性)遺伝で、知的障害やてんかん、脳の形成異常(多小脳回など)を伴い、関節拘縮が進行する。筋疾患では筋緊張低下と腱反射の低下〜消失がみられ、血清CK(クレアチンキナーゼ)が上昇する。本例は筋緊張亢進・腱反射亢進・Babinski徴候陽性という錐体路徴候を示しており、筋原性疾患とは逆の所見である。

脳性麻痺の病型

・痙直型:錐体路障害による。最多の病型。障害の分布により、片麻痺(一側上下肢)、両麻痺(下肢優位の四肢麻痺)、四肢麻痺などに分ける。早産児のPVLでは痙性両麻痺が典型的である。 ・アテトーゼ型(ジスキネジア型):大脳基底核の障害による不随意運動が主体。かつては新生児重症黄疸による核黄疸が主因であったが、現在は重症仮死や、早産児の遷延する高ビリルビン血症によるものが問題となる。核黄疸ではMRIで淡蒼球にT1・T2強調像で高信号がみられる。 ・失調型、混合型など。

脳室周囲白質軟化症(PVL)

・在胎32週未満の早産児に多い。早産児の脳室周囲白質は血管の境界領域(分水嶺)にあたり、また未熟なオリゴデンドロサイト前駆細胞が虚血・炎症に弱いため傷害を受けやすい。 ・危険因子:出生前の子宮内感染(絨毛膜羊膜炎)、胎児機能不全、一絨毛膜性双胎、出生時の新生児仮死、出生後の低血圧などの循環不全、低二酸化炭素血症、敗血症など。 ・病型:白質に囊胞(空洞)が形成される囊胞性PVLと、囊胞を作らず白質容量が減少して側脳室が不整に拡大する非囊胞性PVLがある。 ・診断:新生児期には頭部超音波で脳室周囲の高輝度域(PVE:periventricular echogenicity)や囊胞を捉え、乳児期以降にMRIで確定する。MRI T2強調像では脳室周囲(特に三角部周囲)の白質高信号、白質の菲薄化、側脳室の拡大・壁の不整がみられる。 ・症状:下肢優位の痙性麻痺(痙性両麻痺)。視放線が障害されると視覚認知障害を伴うことがある。 ・治療:脳病変自体は不可逆的で根本的治療はない。発達経過を追いながらリハビリテーション(理学療法など)を行い、痙縮にはボツリヌス毒素療法、整形外科的手術(アキレス腱延長術など)、選択的脊髄後根切断術などが検討される。

早産児の脳障害の区別

・脳室内出血(IVH):上衣下胚層からの出血。重症例では出血後水頭症や脳室周囲出血性梗塞をきたす。 ・PVL:虚血・炎症による白質傷害。痙性両麻痺の主因。 ・成熟児の低酸素性虚血性脳症:基底核・視床や大脳皮質が障害されやすく、痙性四肢麻痺やアテトーゼ型の原因となる。

POINT

・脳性麻痺は、受胎から新生児期までに生じた非進行性の脳病変による永続的な運動・姿勢の異常である。 ・早産児+下肢優位の痙性麻痺(腱反射亢進、尖足、Babinski徴候陽性)+MRIで側脳室周囲白質のT2高信号・脳室不整拡大 → PVLによる痙性両麻痺。 ・下肢優位になるのは、下肢支配の皮質脊髄路が側脳室のすぐ近くを走るためである。 ・筋緊張亢進・腱反射亢進なら中枢性、筋緊張低下・腱反射低下なら筋原性・末梢性を考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。