ホルモンは正常なのに月経が減った―流産手術のあとに潜むAsherman症候群
第120回医師国家試験 A問題 第47問
国試問題にチャレンジ
32歳の女性(1妊0産)。月経量の減少を主訴に来院した。6か月前から月経量と持続日数が減少している。月経周期は28日型,整,持続1日間。8か月前に妊娠10週で流産手術を受けたが,手術後しばらく腹痛と発熱が持続し,保存的治療で軽快した。流産以前の月経持続日数は6日間であった。身長158cm,体重62kg。体温36.2℃。脈拍72/分,整。血圧120/76mmHg。内診で子宮は正常大で,両側付属器は触知しない。血液所見:赤血球440万,Hb 12.2g/dL,Ht 44%,白血球6,600,血小板20万。血液生化学所見(月経7日目):LH 6.2 mIU/mL(基準1.8~7.6),FSH 7.8 mIU/mL(基準5.2~14.4),プロラクチン〈PRL〉6.6 ng/mL(基準15以下),エストラジオール120pg/mL(基準11~230),テストステロン42ng/dL(基準30~90)。経腟超音波像を下に示す。 診断のために必要な検査はどれか。

- a.子宮鏡検査
- b.腹腔鏡検査
- c.腹部単純CT
- d.頭部単純MRI
- e.コルポスコピー
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
月経量は子宮内膜がどれだけ増殖して剥がれるかで決まり、過少月経はホルモン分泌の低下によるものと、ホルモンは正常でも内膜が応答できない子宮性のものに分けて考えます。流産手術などの子宮内操作や術後感染のあとに過少月経・無月経が生じ、ホルモン値が正常で月経周期も整っているのに内膜が薄い場合は、内膜基底層の損傷による子宮腔癒着症(Asherman症候群)を疑います。確定診断には子宮内腔を直接観察できる子宮鏡検査が必要で、そのまま癒着剥離術による治療にも移行できます。腹腔鏡は子宮の外側、コルポスコピーは子宮頸部、頭部MRIは中枢性の月経異常を評価する検査であり、病変の場所に応じて検査を選ぶ視点が重要です。本症は不妊症や反復流産、癒着胎盤の原因にもなるため、子宮内操作後の月経変化を見逃さない姿勢が臨床につながります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・32歳、1妊0産。主訴は月経量の減少(過少月経)で、月経持続日数も6日間から1日間に短縮している。 ・月経周期は28日型で整である。周期が保たれていることは、排卵が規則的に起きている、すなわち視床下部-下垂体-卵巣系のホルモン調節が正常に働いていることを示唆する。 ・8か月前に妊娠10週で流産手術(子宮内容除去術)を受け、術後に腹痛と発熱が続いた。術後の子宮内感染(子宮内膜炎)が疑われる経過であり、その2か月後から症状が始まっている。 ・内診:子宮は正常大、付属器は触知しない(腫瘤性病変なし)。 ・血液検査:貧血なし。LH、FSH、PRL(プロラクチン)、エストラジオール、テストステロンはすべて基準範囲内で、高プロラクチン血症や卵巣機能低下、多嚢胞性卵巣症候群を示唆する所見はない。 ・経腟超音波:卵巣には発育した卵胞がみられ、エストラジオールも十分分泌されているにもかかわらず、子宮内膜は薄く描出される。
診断へのプロセス
月経量はホルモンにより増殖した子宮内膜がどれだけ剥がれ落ちるかで決まる。過少月経の原因は大きく、(1)エストロゲン分泌の低下(視床下部・下垂体・卵巣の機能低下)と、(2)ホルモンは正常でも子宮内膜そのものが反応できない子宮性のもの、に分けられる。本例ではホルモン値が正常で月経周期も整っており、(1)は否定的である。一方、子宮内操作(流産手術)とその後の子宮内感染という明確なきっかけがあり、エストロゲンが十分あるのに内膜が薄い。したがって、子宮内膜基底層の損傷による子宮内腔の癒着、すなわち子宮腔癒着症(Asherman症候群)が最も疑われる。
設問の考え方
子宮内腔の癒着は子宮の内側の病変であり、外形や付属器は正常であるため、内診・腹腔鏡・CTでは評価できない。確定診断には子宮内腔を直接観察する子宮鏡検査が必要である。子宮鏡では癒着の部位・範囲・程度を評価でき、そのまま癒着剥離術という治療にも移行できる。
選択肢考察
- ○a. 子宮鏡検査
子宮鏡検査は、細径の内視鏡を子宮頸管から子宮腔内に挿入し、内腔を直接観察する検査である。Asherman症候群の確定診断の標準的な方法であり、癒着の有無・部位・範囲を直視下で評価して重症度を分類できる。さらに子宮鏡下に癒着剥離術を行えるため、診断と治療を兼ねる。流産手術後の子宮内感染を契機とし、ホルモン正常にもかかわらず内膜が薄い本例では、子宮内腔の癒着を確認するために必要な検査である。
- ×b. 腹腔鏡検査
腹腔鏡検査は腹腔内から子宮の外表面、卵管、卵巣、腹膜を観察する検査で、子宮内膜症や卵管周囲癒着、付属器腫瘤などの評価に用いる。子宮の内腔は観察できないため、子宮内腔癒着の診断には役立たない。また本例では内診・超音波で子宮外の異常は指摘されておらず、全身麻酔を要する侵襲的検査を行う適応はない。
- ×c. 腹部単純CT
CTは子宮内膜の状態や内腔の細かな癒着を評価する能力に乏しく、子宮内腔癒着の診断には用いない。本例では内診と経腟超音波で子宮・付属器に腫瘤などの器質的異常がないことが確認されており、放射線被ばくを伴うCTを行う必要はない。
- ×d. 頭部単純MRI
頭部MRIは、高プロラクチン血症を伴うプロラクチノーマや、視床下部・下垂体の腫瘍などによる中枢性の月経異常を疑う場合に行う。本例ではPRL、LH、FSH、エストラジオールがいずれも正常で、月経周期も整っており、頭痛や視野障害もないため、間脳・下垂体の病変を疑う根拠はない。
- ×e. コルポスコピー
コルポスコピー(腟拡大鏡診)は子宮頸部を拡大して観察する検査で、子宮頸部細胞診で異常を認めた際に、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)や頸癌を疑う部位を見つけて狙い生検を行うために用いる。子宮内腔は観察できず、本例の月経量減少の評価には役立たない。
子宮腔癒着症(Asherman症候群)
・定義:子宮内操作や感染により子宮内膜の基底層が損傷され、子宮壁同士が線維性に癒着して内腔が部分的または完全に閉塞する病態である。 ・原因:妊娠に関連した子宮内容除去術(流産手術・人工妊娠中絶術・分娩後の遺残除去など)が最も多い。妊娠子宮は軟らかく、内膜が損傷を受けやすい。帝王切開や子宮筋腫核出術などの子宮手術、子宮内膜炎(結核性を含む)も原因となる。術後感染は危険因子である。 ・症状:過少月経、続発性無月経、不妊症、反復流産、胎盤異常(癒着胎盤など)。頸管付近が閉塞すると月経血が貯留し周期的な下腹部痛を生じることもある。 ・特徴:卵巣機能は正常なので基礎体温は二相性を示し、ホルモン値も正常である。エストロゲン・プロゲスチンを投与しても消退出血が起こらない(子宮性無月経)。 ・検査:経腟超音波(内膜の菲薄化・不連続)、子宮卵管造影(HSG:内腔の充盈欠損や不整)、ソノヒステログラフィー、MRIなどで疑い、子宮鏡で確定する。 ・治療:子宮鏡下癒着剥離術。再癒着予防として術後に子宮内器具の留置や、エストロゲン投与による内膜再生の促進が行われる。
過少月経・無月経の原因の整理
・視床下部性:ストレス、体重減少(過度のダイエット)、過度の運動など。ゴナドトロピンとエストロゲンが低下する。 ・下垂体性:プロラクチノーマ(高PRL血症)、Sheehan症候群など。 ・卵巣性:早発卵巣不全、閉経期移行(FSH高値、エストロゲン低下)。多嚢胞性卵巣症候群では稀発月経となりLH高値などを示す。 ・子宮性:Asherman症候群、子宮内膜炎など。ホルモンは正常。 ・薬剤性:低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP/OC)の服用中は内膜増殖が抑えられ、月経量が減るのは通常の作用である。
POINT
・子宮内操作(流産・中絶手術など)+術後感染のあとに過少月経・無月経 → Asherman症候群を疑う。 ・ホルモン値正常・月経周期整(卵巣機能正常)なのに内膜が薄い → 子宮性の原因を考える。 ・確定診断と治療(癒着剥離)は子宮鏡で行う。HSGもスクリーニングに用いられる。 ・腹腔鏡は子宮の外側、コルポスコピーは子宮頸部の観察であり、子宮内腔は評価できない。
