StudyMed医師国家試験

米のとぎ汁が語る正体―crazy-paving patternと肺胞蛋白症

第120回医師国家試験 A問題 第48問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第48問

78歳の女性。労作時の息切れを主訴に来院した。6か月前から咳嗽を自覚し,1か月前から労作時の息切れが出現した。体温36.5℃。脈拍92/分,整。血圧136/90mmHg。呼吸数20/分。SpO2 92%(room air)。両側下肺野にfine cracklesを聴取する。血液所見:赤血球467万,Hb 13.8g/dL,Ht 41%,白血球3,800,血小板32万。CRP 0.1mg/dL。胸部エックス線写真(A),胸部単純CT(B)及び気管支肺胞洗浄液の写真(C)を下に示す。  考えられる疾患はどれか。

第120回 A問題 第48問の問題画像
  1. a.肺胞蛋白症
  2. b.特発性肺線維症
  3. c.サルコイドーシス
  4. d.ニューモシスチス肺炎
  5. e.びまん性汎細気管支炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、慢性の咳嗽と息切れ、両側のびまん性陰影を示す高齢女性で、疾患を絞り込む問題だ。注目してほしいのは、炎症反応の有無、CTの陰影の「模様」、そして気管支肺胞洗浄液の「見た目」の3つ。特に最後の写真が強力なヒントになる。
医学生医学生
高齢で、半年かけて息切れが出てきて、両下肺野でfine cracklesとなると、まず特発性肺線維症を思い浮かべました。
ドクタードクター
その連想は正しい出発点だよ。fine cracklesは吸気の終わりに聞こえる細かいパチパチ音で、肺胞や間質レベルのびまん性病変を示唆する。間質性肺炎はもちろん候補だ。ただ、同じ音は肺胞の中に何かが溜まる病気でも聞こえる。そこで画像を読み解いてみよう。
医学生医学生
胸部エックス線では両側にすりガラス陰影が広がっています。
ドクタードクター
CTではそのすりガラス陰影に、小葉間隔壁の肥厚による網目状の線が重なって、メロンの皮や不揃いな石畳のように見える。これをcrazy-paving patternと呼ぶ。しかも病変部と正常部の境界がくっきりしていて、地図状に分布しているのが特徴的だ。
医学生医学生
放射線科の実習で、crazy-pavingは肺胞蛋白症の代表的な所見だと教わりました。でも、ほかの病気でも出ると聞いた気がします。
ドクタードクター
その通りで、ニューモシスチス肺炎、ARDS、肺胞出血、浸潤性粘液性腺癌、薬剤性肺障害などでもみられる。だから画像だけで決めつけず、臨床経過とBALFを組み合わせる。気管支肺胞洗浄液はどんな色だったかな。
医学生医学生
乳白色に濁っています。米のとぎ汁みたいです。
ドクタードクター
まさにそれが決め手。白濁しているのは、肺胞内に過剰に溜まったサーファクタント由来の物質、つまりリン脂質と蛋白の複合体を反映している。crazy-paving patternと米のとぎ汁様のBALF、この組み合わせは肺胞蛋白症に典型的だ。
医学生医学生
なぜサーファクタントが溜まってしまうんですか。
ドクタードクター
サーファクタントはII型肺胞上皮細胞から分泌され、余分は肺胞マクロファージが取り込んで分解している。マクロファージがこの仕事をするにはGM-CSFによる成熟が必要なんだ。成人例の大部分は自己免疫性で、抗GM-CSF自己抗体がこの働きを妨げるため、処理が滞って肺胞に溜まっていく。肺胞が埋まるから、ガス交換が妨げられて低酸素血症になるわけだ。
医学生医学生
なるほど。では最初に思い浮かべた特発性肺線維症はどこで外れますか。
ドクタードクター
IPFのCTは通常型間質性肺炎パターンが典型で、両側下葉・胸膜直下優位の網状影、蜂巣肺、牽引性気管支拡張が主体になる。広範なすりガラス陰影やcrazy-pavingは特徴的ではないし、BALFが白く濁ることもない。症状は似ていても、画像とBALFで区別できるんだ。
医学生医学生
ニューモシスチス肺炎もcrazy-pavingを示すなら、迷いそうです。
ドクタードクター
そこは臨床経過で見分けよう。ニューモシスチス肺炎はHIV感染症やステロイド・免疫抑制薬の使用など細胞性免疫が落ちた人に起こり、発熱と急速に進む低酸素血症を伴って日から週の単位で悪化する。β-Dグルカンも上がる。今回は免疫不全の背景がなく、半年かけた緩徐な経過で、発熱もCRP上昇もない。
医学生医学生
サルコイドーシスは両側肺門リンパ節腫脹がまず思い浮かびます。BALFならリンパ球増加とCD4/CD8比の上昇ですよね。
ドクタードクター
よく整理できているね。肺野ではリンパ路に沿った粒状影が中心で、進むと上肺野優位の線維化になる。BALFが白濁することはない。最後のびまん性汎細気管支炎はどうかな。
医学生医学生
呼吸器内科の講義で、副鼻腔炎の合併と膿性痰、マクロライド少量長期療法とセットで習いました。
ドクタードクター
その通り。湿性咳嗽で聴診はcoarse cracklesが中心、CTは小葉中心性の粒状影と細気管支の拡張で、肺は過膨張になる。今回の乾いた経過やすりガラス陰影とは合わない。
医学生医学生
経過で感染症を外して、CTの模様とBALFの外観で肺胞蛋白症に絞る、という流れですね。
ドクタードクター
そう。発展知識もまとめておこう。血清ではKL-6、SP-A、SP-D、CEA、LDHが上昇し、BALFではPAS染色陽性の無構造物質と泡沫状マクロファージがみられる。自己免疫性なら抗GM-CSF抗体の測定が診断に役立つ。そして画像の広がりのわりに症状が軽いことが多く、健診で偶然見つかる例も少なくない。
医学生医学生
治療はステロイドでしょうか。
ドクタードクター
そこは間違えやすいポイントだ。炎症が主体の病気ではないので、ステロイドは基本的に治療の柱ではない。軽症なら経過観察も選ばれ、呼吸不全を伴う例では全身麻酔下に片肺ずつ大量の生理食塩水で洗い流す全肺洗浄が標準的治療だ。自己免疫性に対しては、GM-CSF製剤の吸入療法もわが国で使えるようになっている。もう1つ臨床で注意したいのは、マクロファージの機能が落ちているため、ノカルジアや抗酸菌、真菌などの日和見感染を合併しやすいことだよ。

まとめ

慢性経過の咳嗽・労作時呼吸困難とfine cracklesに両側びまん性すりガラス陰影を伴う場合、間質性肺炎だけでなく肺胞内に物質が貯留する疾患も鑑別に挙げます。CTですりガラス陰影に小葉間隔壁肥厚が重なるcrazy-paving patternを示し、気管支肺胞洗浄液が米のとぎ汁様に白濁していれば、肺胞蛋白症が強く疑われます。成人例の多くは抗GM-CSF自己抗体による自己免疫性で、肺胞マクロファージのサーファクタント処理が障害されることが病態の本質であり、BALFのPAS陽性物質や血清KL-6・SP-D・CEAの上昇が診断を支えます。crazy-paving patternはニューモシスチス肺炎などでもみられるため、免疫状態や経過の速さ、炎症反応と組み合わせて判断することが大切です。治療は全肺洗浄やGM-CSF吸入療法で、日和見感染の合併にも注意が必要であり、画像所見と検体の肉眼像を統合する考え方はびまん性肺疾患の診療全般に通じます。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・78歳の女性。6か月前から咳嗽、1か月前から労作時の息切れがあり、数か月単位で緩徐に進む慢性の経過である。 ・SpO2 92%(室内気)と軽度の低酸素血症があり、両側下肺野にfine crackles(捻髪音:吸気終末に聞こえる細かいパチパチ音)を聴取する。肺胞・間質レベルのびまん性病変を示唆する。 ・発熱はなく、白血球3,800、CRP 0.1mg/dLと炎症反応はみられない。急性感染症は考えにくい。 ・胸部エックス線写真(A):両側に広がるすりガラス陰影(肺の濃度が淡く上昇し、血管影は透見できる陰影)。 ・胸部単純CT(B):広範なすりガラス陰影に小葉間隔壁の肥厚による網目状の線状影が重なり、メロンの皮や不揃いな石畳のような模様を呈する(crazy-paving pattern)。病変部と正常部の境界が明瞭で、地図状に分布する。 ・気管支肺胞洗浄液(BALF)(C):白濁した乳白色の液体で、「米のとぎ汁様」と表現される外観である。

診断へのプロセス

慢性経過の咳嗽・労作時呼吸困難、fine crackles、両側びまん性すりガラス陰影という組み合わせからは、間質性肺炎、肺胞内に物質が貯留する疾患、感染症などが鑑別に挙がる。炎症反応がなく経過が慢性であることから急性感染症は考えにくい。決め手は、CTのcrazy-paving patternと、BALFが米のとぎ汁様に白濁していることである。白濁は肺胞内に過剰に貯まったサーファクタント(肺胞表面活性物質:リン脂質と蛋白の複合体)を反映しており、両者の組み合わせは肺胞蛋白症に特徴的である。 なお、肺胞蛋白症は画像上の陰影の広がりに比べて自覚症状が軽いこと(臨床・画像の解離)がしばしばあり、健診で偶然見つかる例も少なくない。

選択肢考察

  1. ○a.  肺胞蛋白症

    肺胞蛋白症は、肺胞マクロファージによるサーファクタントの分解・処理が障害され、肺胞腔内にサーファクタント由来物質が貯留してガス交換が妨げられる疾患である。成人例の大部分は自己免疫性で、GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)に対する自己抗体がマクロファージの機能を低下させる。CTでのcrazy-paving pattern(すりガラス陰影+小葉間隔壁肥厚)、BALFの米のとぎ汁様白濁という本例の所見はいずれも典型的であり、緩徐な経過・炎症反応陰性という臨床像とも合致する。BALF中の物質はPAS染色陽性の無構造物質として確認される。

  2. ×b.  特発性肺線維症

    特発性肺線維症(IPF)は高齢者に多い慢性進行性の線維化性間質性肺炎で、乾性咳嗽、労作時呼吸困難、両側下肺野のfine crackles、ばち指がみられる点は本例と共通する。しかしCTの典型像は通常型間質性肺炎(UIP)パターンで、両側下葉・胸膜直下優位の網状影と蜂巣肺(壁の厚い小嚢胞の集簇)、牽引性気管支拡張が主体であり、広範なすりガラス陰影やcrazy-paving patternは特徴的ではない。また、BALFは白濁せず、本例とは合致しない。

  3. ×c.  サルコイドーシス

    サルコイドーシスは、全身の諸臓器に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が形成される原因不明の疾患である。胸部では両側肺門リンパ節腫脹(BHL)が最も特徴的で、肺野にはリンパ路に沿った粒状影や気管支血管束の肥厚がみられ、進行すると上肺野優位の線維化をきたす。BALFではリンパ球比率の上昇とCD4/CD8比の上昇がみられるが、液が白濁することはない。本例の画像所見・BALFの外観とは異なる。

  4. ×d.  ニューモシスチス肺炎

    ニューモシスチス肺炎(PCP)は真菌Pneumocystis jiroveciiによる肺炎で、HIV感染症(CD4陽性T細胞数200/μL未満)、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の使用、悪性腫瘍に対する化学療法など、細胞性免疫が低下した患者に発症する。CTではびまん性すりガラス陰影を示し、crazy-paving patternを呈することもあるが、発熱・乾性咳嗽・急速に進む低酸素血症を伴う日〜週単位の急性〜亜急性の経過をとり、β-Dグルカンが上昇する。本例は免疫不全の背景がなく、6か月に及ぶ緩徐な経過で炎症所見もないため考えにくい。

  5. ×e.  びまん性汎細気管支炎

    びまん性汎細気管支炎(DPB)は呼吸細気管支を主座とする慢性炎症で、多量の膿性痰を伴う湿性咳嗽と慢性副鼻腔炎の合併が特徴である。聴診ではcoarse crackles(水泡音)や連続性ラ音を聴取し、CTでは両側びまん性の小葉中心性粒状影と細気管支の拡張・壁肥厚がみられ、肺は過膨張を示す。寒冷凝集素価の持続高値も特徴で、治療はマクロライド少量長期療法である。本例の画像所見やBALFの外観とは合致しない。

肺胞蛋白症(PAP:pulmonary alveolar proteinosis)

・病態:サーファクタントは肺胞上皮のⅡ型肺胞上皮細胞から分泌され、その一部は肺胞マクロファージが取り込んで分解する。この処理にはGM-CSFによるマクロファージの成熟が必要であり、GM-CSFの作用が阻害されると処理が滞って肺胞内にサーファクタントが蓄積する。 ・分類:  (1) 自己免疫性:成人例の約9割を占める。血清・BALF中に抗GM-CSF自己抗体が検出される。喫煙者・男性にやや多い。  (2) 続発性:骨髄異形成症候群などの血液疾患、粉塵吸入、感染症、免疫抑制状態などに伴う。  (3) 先天性(遺伝性):サーファクタント蛋白遺伝子やGM-CSF受容体遺伝子の異常による。 ・症状:労作時呼吸困難、咳嗽。無症状で健診の画像異常から見つかることもある。画像の広がりに比べ症状が軽いことが多い。 ・検査:血清KL-6、SP-A、SP-D、CEA、LDHの上昇。CTでcrazy-paving pattern、地図状分布。BALFは米のとぎ汁様に白濁し、PAS染色陽性の無構造物質と泡沫状マクロファージがみられる。経気管支肺生検でも肺胞内のPAS陽性物質を確認できる。自己免疫性では抗GM-CSF抗体陽性。 ・合併症:肺胞マクロファージの機能低下のため、ノカルジア、抗酸菌、真菌などの日和見感染を起こしやすい。 ・治療:軽症では経過観察も選択される。呼吸不全を伴う中等症〜重症では、全身麻酔下に片肺ずつ大量の生理食塩水で洗い出す全肺洗浄が標準的治療である。自己免疫性に対しては、遺伝子組換えGM-CSF製剤の吸入療法がわが国でも承認されている。

crazy-paving patternを呈する主な疾患

肺胞蛋白症が代表であるが、ニューモシスチス肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、肺胞出血、浸潤性粘液性腺癌、薬剤性肺障害などでもみられるため、臨床経過やBALF所見と合わせて判断する。

POINT

・肺胞蛋白症:CTでcrazy-paving pattern(すりガラス陰影+小葉間隔壁肥厚)、BALFは米のとぎ汁様の白濁、PAS染色陽性物質。 ・成人の多くは自己免疫性で、抗GM-CSF自己抗体が陽性となる。 ・血清KL-6、SP-D、CEAが上昇する。画像に比べて症状が軽いことが多い。 ・治療は全肺洗浄、自己免疫性ではGM-CSF吸入療法。日和見感染(ノカルジアなど)の合併に注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。