StudyMed医師国家試験

BHLよりも怖いのは心臓―サルコイドーシスで「治療すべき病変」を見抜く

第119回医師国家試験 D問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第119回 D問題 第19問

30歳の男性。健康診断で胸部エックス線写真の異常を指摘され来院した。自覚症状はない。意識は清明。体温36.2℃。脈拍56/分,整。血圧120/74mmHg。呼吸数14/分。SpO2 98%(room air)。頸部リンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟。下腿に浮腫を認めない。神経診察で異常を認めない。血液生化学所見:尿素窒素14mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL,アンジオテンシン変換酵素〈ACE〉37.4U/L(基準3.3~21.4)。12誘導心電図でⅠ度房室ブロックを認める。胸部エックス線写真を下に示す。  この患者でグルココルチコイド内服治療の適応と判断する画像所見はどれか。

第119回 D問題 第19問の問題画像
  1. a.頭部MRAでの脳動脈瘤
  2. b.FDG-PETでの心筋への異常集積
  3. c.胸部造影CTでの両側縦隔リンパ節腫大
  4. d.心エコー検査での心室中隔の非対称性肥大
  5. e.Gaシンチグラフィでの両側肺門リンパ節への集積

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はサルコイドーシスの治療適応を問う問題だ。診断がつくかどうかよりも、「どの病変があればステロイドを使うのか」を判断できるかがポイントになる。胸部エックス線写真と血液検査、そして心電図の所見をどう結びつけるかに注目しよう。まず、この患者さんの診断は何を考える?
医学生医学生
胸部エックス線写真で両側の肺門が対称性に腫れていてBHLですし、ACEも高いので、サルコイドーシスだと思います。
ドクタードクター
その通り。若年で無症状のBHLにACE高値が加われば、まずサルコイドーシスを考える。ACEは肉芽腫をつくる類上皮細胞から産生されるので、病勢のマーカーになるんだ。もちろんBHLの鑑別には悪性リンパ腫や結核、癌の転移もあるから、確定診断には気管支鏡下のリンパ節生検などで非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を証明する必要がある。
医学生医学生
病理実習で、乾酪壊死のない肉芽腫と結核の乾酪性肉芽腫を見比べました。診断がついたら、すぐにステロイドを始めるんでしょうか。
ドクタードクター
そこが今回の核心だね。サルコイドーシスは自然軽快する例が多くて、BHLだけで症状がなければ治療せずに経過観察するのが原則なんだ。全身性のグルココルチコイドを考えるのは、重要臓器の機能が脅かされているときだよ。
医学生医学生
では、BHLが目立つからといって、それを根拠にステロイドを使うことはないということですね。
ドクタードクター
そう。胸部造影CTで両側縦隔リンパ節が腫れているのも、Gaシンチグラフィで両側肺門リンパ節に集積するのも、サルコイドーシスらしさを裏づける診断の手がかりにはなるけれど、どちらもリンパ節病変を見ているにすぎない。リンパ節病変そのものが臓器障害を起こすことはまれだから、治療適応の根拠にはならないんだ。
医学生医学生
Gaシンチといえば、縦隔と肺門のラムダサインや、涙腺と耳下腺のパンダサインを講義で習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。全身の病変分布をつかむには役立つ検査だよ。では本題。この症例で見逃してはいけない所見はどれだと思う?
医学生医学生
心電図のⅠ度房室ブロックでしょうか。脈も少し遅めですが、若い人ならスポーツ心臓くらいかなと思ってしまいました。
ドクタードクター
そう考えたくなるのも分かるけれど、サルコイドーシスと分かっている患者さんの房室ブロックは、心臓への肉芽腫病変、つまり心サルコイドーシスを疑うサインとして扱うべきなんだ。心サルコイドーシスは完全房室ブロックや心室頻拍による突然死、心不全の原因になる予後規定因子だから、診断されれば無症状でも治療の適応になる。
医学生医学生
だから心臓に活動性の炎症があるかどうかを調べる、FDG-PETの心筋への異常集積が正解なんですね。
ドクタードクター
正解。FDG-PETはブドウ糖類似物質の取り込みで、炎症の場の糖代謝亢進を描き出す検査だ。ただ心臓はふだんからブドウ糖を使っているから、長時間の絶食や低糖質食といった前処置で正常心筋の生理的集積を抑えてから撮像する。そのうえで斑状・局所的な集積が見えれば、活動性の心サルコイドーシスを強く示唆するんだ。治療効果の判定にも使えるよ。
医学生医学生
心エコーでの心室中隔の非対称性肥大も、心臓の所見なので迷いました。
ドクタードクター
いい迷いどころだね。非対称性中隔肥大は肥大型心筋症の特徴的な所見だ。心サルコイドーシスの心エコーでは、むしろ心室中隔基部の菲薄化が特徴的で、ほかに冠動脈の支配に一致しない局所壁運動異常や心室瘤、駆出率の低下がみられる。「厚くなる」のではなく「薄くなる」と覚えておこう。
医学生医学生
頭部MRAでの脳動脈瘤は、神経サルコイドーシスを意識した選択肢でしょうか。
ドクタードクター
神経サルコイドーシス自体はステロイドの適応になるけれど、その病変は髄膜や脳実質、視床下部・下垂体への肉芽腫として造影MRIでとらえるもので、脳動脈瘤はサルコイドーシスの病変ではない。血管を見るMRAは評価法としてもずれているね。
医学生医学生
整理すると、リンパ節の所見は診断の手がかりで、治療を決めるのは心臓や神経など重要臓器の病変、ということですね。
ドクタードクター
その通り。ほかにステロイド全身投与を考えるのは、呼吸機能低下や症状を伴う進行性の肺病変、高カルシウム血症や腎障害、点眼などで抑えきれないぶどう膜炎などだ。高カルシウム血症は、肉芽腫のマクロファージが活性型ビタミンDをつくるために起こる。心サルコイドーシスの治療は、日本ではプレドニゾロン30mg/日程度から始めて漸減するのが一般的で、効果不十分ならメトトレキサートなどを併用する。
医学生医学生
不整脈そのものへの対応も必要になりますよね。
ドクタードクター
そうだね。高度房室ブロックにはペースメーカ、持続性心室頻拍や突然死リスクの高い例には植込み型除細動器を考慮する。臨床では、サルコイドーシスの患者さんを見たら心電図を必ず確認し、伝導障害があれば心臓MRIの遅延造影やFDG-PETで心病変を積極的に探す、という姿勢が大切だよ。

まとめ

若年者の無症状の両側肺門リンパ節腫脹(BHL)と血清ACE上昇はサルコイドーシスを示唆しますが、BHLのみの病変は自然軽快が多く、縦隔リンパ節腫大やGaシンチグラフィでの肺門集積はグルココルチコイドの適応根拠になりません。全身性ステロイド治療の代表的な適応は、房室ブロックや心室性不整脈による突然死、心不全を招く心サルコイドーシスであり、房室ブロックを見たら前処置後のFDG-PETや心臓MRI遅延造影で心病変を評価します。FDG-PETで心筋に斑状の異常集積があれば活動性病変として治療を開始し、効果判定にも用います。心サルコイドーシスの心エコー所見は心室中隔基部の菲薄化であり、非対称性中隔肥大は肥大型心筋症の所見である点も区別が必要です。「診断の手がかりとなる所見」と「治療を決める臓器病変」を分けて考えることは、自然軽快もある多臓器疾患を診るうえでの基本になります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・30歳の男性で、健診の胸部エックス線写真で異常を指摘された。自覚症状はなく、身体所見にも異常がない。 ・胸部エックス線写真:両側の肺門部が左右対称性に腫大しており、両側肺門リンパ節腫脹(BHL:bilateral hilar lymphadenopathy)の所見である。肺野に目立つ浸潤影はない。 ・血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)が37.4U/Lと上昇している。ACEは肉芽腫を構成する類上皮細胞から産生されるため、サルコイドーシスの活動性を反映するマーカーとなる。 ・12誘導心電図でⅠ度房室ブロック(PR間隔の延長)を認め、脈拍は56/分とやや遅い。

診断と考え方

若年者の無症状のBHLにACE高値が加わっており、まずサルコイドーシスを考える。サルコイドーシスは原因不明の非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が全身の臓器にできる疾患で、肺・リンパ節のほか、眼(ぶどう膜炎)、皮膚、心臓、神経などが侵される。BHLの鑑別には悪性リンパ腫、結核、肺癌などの転移があるが、無症状の若年者で、ACE高値と伝導障害を伴う点はサルコイドーシスに合致する。確定には気管支鏡下のリンパ節生検(EBUS-TBNA)などで非乾酪性肉芽腫を証明する。 サルコイドーシスは自然軽快する例も多く、BHLのみで症状がなければ治療はせず経過観察とするのが原則である。全身性のグルココルチコイド治療を考えるのは、臓器障害が進行している場合や、生命・重要臓器の機能に関わる病変がある場合である。その代表が心サルコイドーシスで、完全房室ブロックや心室頻拍による突然死、心機能低下による心不全の原因となるため、診断されれば無症状でも治療の適応となる。 本例ではⅠ度房室ブロックが心病変の存在を示唆しており、心臓に活動性の肉芽腫性炎症があるかを評価することが重要となる。そのための画像検査がFDG-PET(心臓の生理的な糖取り込みを抑える前処置を行ったうえで撮像する)や心臓MRI(ガドリニウム遅延造影)である。設問は「この患者でグルココルチコイド内服の適応と判断する画像所見」を問うており、心サルコイドーシスの活動性病変を示すFDG-PETでの心筋への異常集積が該当する。

選択肢考察

  1. ×a.  頭部MRAでの脳動脈瘤

    脳動脈瘤はサルコイドーシスの病変ではなく、ステロイドの適応を判断する所見にもならない。サルコイドーシスの中枢神経病変(神経サルコイドーシス)は、髄膜や脳実質、視床下部・下垂体などへの肉芽腫形成として現れ、造影MRIで髄膜の肥厚・増強効果や腫瘤状の病変として捉えられる。脳動脈瘤の評価に用いるMRAはサルコイドーシスの病変評価とは関係が乏しい。なお、神経サルコイドーシスであればステロイド治療の適応となる。

  2. ○b.  FDG-PETでの心筋への異常集積

    FDG-PETは、活動性炎症の場で糖代謝が亢進していることを18F-FDG(ブドウ糖類似物質)の集積として描出する検査である。心臓はふだんからブドウ糖を利用するため、検査前に長時間の絶食や低糖質食などの前処置を行って正常心筋への生理的集積を抑え、そのうえで斑状・局所的な集積がみられれば活動性の心サルコイドーシスを強く示唆する。心サルコイドーシスは房室ブロック、心室性不整脈による突然死、心不全を起こしうる予後規定因子であり、診断されればグルココルチコイドの全身投与(日本ではプレドニゾロン30mg/日程度から開始し漸減する方法が一般的)の適応となる。本例はⅠ度房室ブロックがあり、FDG-PETで心筋への異常集積が確認されれば治療を開始する根拠となる。FDG-PETは治療効果の判定にも用いられる。

  3. ×c.  胸部造影CTでの両側縦隔リンパ節腫大

    両側の肺門・縦隔リンパ節腫大はサルコイドーシスの最も典型的な胸部所見で、診断の手がかりとして重要である。しかし、リンパ節病変そのものが臓器機能を障害することはまれで、無症状の例では自然に縮小することも多い。したがって、リンパ節腫大があるだけではグルココルチコイドの適応にはならず、経過観察とする。肺病変での治療適応は、肺野病変が進行し呼吸機能の低下や強い症状を伴う場合である。

  4. ×d.  心エコー検査での心室中隔の非対称性肥大

    心室中隔の非対称性肥大(ASH:asymmetric septal hypertrophy)は肥大型心筋症の特徴的所見であり、心サルコイドーシスの所見ではない。心サルコイドーシスの心エコーでは、むしろ心室中隔基部の菲薄化が特徴的で、ほかに冠動脈の支配領域に一致しない局所的な壁運動異常、心室瘤、左室駆出率の低下などがみられる。なお、心サルコイドーシスの初期には炎症による浮腫で壁が局所的に厚く見えることもあるが、ASHをステロイド適応の根拠とすることはない。

  5. ×e.  Gaシンチグラフィでの両側肺門リンパ節への集積

    67Ga(ガリウム)シンチグラフィは炎症・肉芽腫に集積し、両側肺門リンパ節への集積はサルコイドーシスで典型的にみられる(縦隔・肺門リンパ節に集まる像はラムダサイン、涙腺・耳下腺への集積はパンダサインと呼ばれる)。全身の病変分布を把握するのに役立ち、診断基準の項目にも含まれるが、肺門リンパ節への集積は選択肢cと同様にリンパ節病変を示すにとどまり、それだけでグルココルチコイドの適応とはならない。

サルコイドーシスの概要

・原因不明の多臓器疾患で、病理学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を形成する。20〜30歳代と中高年女性(50〜60歳代)に発症のピークがある。 ・主な病変:肺・リンパ節(BHL、肺野の粒状影・網状影)、眼(肉芽腫性ぶどう膜炎)、皮膚(皮膚サルコイド、結節性紅斑)、心臓、神経(顔面神経麻痺、髄膜病変、尿崩症)、腎(高カルシウム血症による障害)など。 ・検査所見:血清ACE上昇、血清リゾチーム上昇、可溶性IL-2受容体上昇、高カルシウム血症・高カルシウム尿症(肉芽腫内のマクロファージが活性型ビタミンDを産生するため)、ツベルクリン反応陰転化、気管支肺胞洗浄液でのリンパ球増加とCD4/CD8比上昇。 ・画像:67Gaシンチグラフィ・FDG-PETでの病変部集積。

胸部病変の病期分類(Scadding分類)

0期:胸部エックス線写真で異常なし Ⅰ期:BHLのみ Ⅱ期:BHLと肺野病変 Ⅲ期:肺野病変のみ(BHLなし) Ⅳ期:肺の線維化 Ⅰ期は自然軽快しやすく、病期が進むほど自然軽快の率は下がる。

全身性グルココルチコイド治療の主な適応

・心サルコイドーシス(房室ブロック、心室性不整脈、心機能低下、FDG-PETでの活動性病変) ・神経サルコイドーシス ・進行性の肺病変で呼吸機能低下や症状を伴うもの ・高カルシウム血症、腎障害 ・局所治療(ステロイド点眼など)で抑えられないぶどう膜炎など、視力障害の恐れがある眼病変 ・顔面などの重い皮膚病変 ステロイドで効果不十分な場合や減量が困難な場合は、メトトレキサートなどの免疫抑制薬を併用する。

心サルコイドーシス

・心電図:房室ブロック(Ⅰ度から完全房室ブロックまで)、脚ブロック、心室性不整脈、異常Q波。 ・心エコー:心室中隔基部の菲薄化、局所壁運動異常、心室瘤、左室収縮能低下。 ・心臓MRI:ガドリニウム遅延造影(線維化・炎症部位の描出)。 ・FDG-PET:心筋への斑状集積(活動性炎症)。 ・治療:グルココルチコイドに加え、高度房室ブロックにはペースメーカ、持続性心室頻拍や突然死リスクの高い例には植込み型除細動器(ICD)を考慮する。

POINT

・若年者の無症状のBHLとACE上昇はサルコイドーシスを考える。 ・BHLのみ(リンパ節病変)は自然軽快が多く、ステロイドの適応にならない。 ・心サルコイドーシスは突然死や心不全の原因となるため、ステロイド全身投与の適応である。 ・房室ブロックはサルコイドーシスの心病変を疑う手がかりで、FDG-PET(前処置後)や心臓MRI遅延造影で評価する。 ・心サルコイドーシスのエコー所見は心室中隔基部の菲薄化であり、非対称性中隔肥大は肥大型心筋症の所見である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。