FSHが高いのにエストロゲンが低い―ホルモンの「すれ違い」が指し示す無月経の障害部位
第119回医師国家試験 B問題 第21問
国試問題にチャレンジ
血中FSH 54mIU/mL(基準5.2~14.4),血中エストラジオール10pg/mL(基準25~75)の場合,続発性無月経の原因部位はどれか。
- a.視床
- b.視床下部
- c.下垂体
- d.副腎
- e.卵巣
対話形式の解説
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ドクターまとめ
続発性無月経の障害部位は、視床下部-下垂体-卵巣系のフィードバックを踏まえ、ゴナドトロピンとエストロゲンの動きの組み合わせから推定します。FSH高値かつエストラジオール低値は、卵巣がエストロゲンを作れずネガティブフィードバックが外れた高ゴナドトロピン性性腺機能低下症であり、原因部位は卵巣です。一方、FSH・LHとエストラジオールがともに低い場合は視床下部性または下垂体性で、両者の鑑別にはGnRH負荷試験が役立ち、ホルモン値が正常なら子宮性も考えます。卵巣性の代表である早発卵巣不全では、エストロゲン欠乏による骨粗鬆症や心血管リスクに備えたホルモン補充療法が重要です。ホルモンを階層構造とフィードバックで読み解く考え方は、甲状腺や副腎など内分泌疾患全般の理解にも通じる基本です。
解答・解説
正解はeです
続発性無月経(これまであった月経が3か月以上停止した状態)の障害部位を、ホルモン値のパターンから推定する問題である。
所見の整理
・血中FSH(卵胞刺激ホルモン)54mIU/mL:基準値上限(14.4)の数倍に上昇している。 ・血中エストラジオール(E2)10pg/mL:基準値下限(25)を下回る低値である。 つまり「エストロゲンは低いのに、それを促すはずのゴナドトロピンは高い」という組み合わせである。
考え方:視床下部−下垂体−卵巣系のフィードバック
月経周期は、視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)が下垂体に作用してFSH・LH(黄体形成ホルモン)を分泌させ、FSH・LHが卵巣に作用して卵胞発育とエストロゲン産生を促す、という階層構造で調節されている。卵巣から出たエストロゲンは視床下部・下垂体にネガティブフィードバックをかけ、ゴナドトロピンの過剰分泌を抑えている。 この系のどこが障害されたかで、ホルモン値のパターンは次のように変わる。 ・上位(視床下部または下垂体)の障害:卵巣への刺激そのものが減るため、FSH・LHが低値〜正常低値、E2も低値となる(低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)。 ・下位(卵巣)の障害:卵巣がエストロゲンを作れずE2が低値となり、ネガティブフィードバックが外れるため、正常な視床下部・下垂体はFSH・LHを大量に分泌する(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)。 本問はFSH高値・E2低値であり、典型的な高ゴナドトロピン性性腺機能低下症のパターンである。したがって原因部位は卵巣と判断できる。続発性無月経でこのパターンを示す代表例は、早発卵巣不全(40歳未満で卵巣機能が停止する状態)や、卵巣への放射線照射・抗がん薬による卵巣障害、卵巣摘出後などである。
選択肢考察
- ×a. 視床
誤り。視床は間脳の一部で、主に嗅覚以外の感覚情報(視覚・聴覚・体性感覚など)を大脳皮質へ中継する神経核の集まりである。性腺系ホルモンの分泌調節は担っておらず、月経周期を調節する視床下部−下垂体−卵巣系には含まれない。名称が似ている視床下部との取り違えを狙った選択肢である。
- ×b. 視床下部
誤り。視床下部はGnRHを分泌して下垂体からのFSH・LH分泌を促す中枢である。視床下部性の無月経(ストレス、体重減少・神経性やせ症、過度の運動などによるもの)ではGnRH分泌が低下するため、FSH・LHは低値〜正常低値となり、E2も低値となる。本問のようにFSHが高値になることはない。
- ×c. 下垂体
誤り。下垂体前葉はFSH・LHを産生する。下垂体性の無月経(Sheehan症候群、下垂体腫瘍による圧排、下垂体手術後など)ではゴナドトロピン産生能そのものが落ちるため、FSH・LHは低値となる。FSHが54mIU/mLと高値を示す本問とは合わない。なお、高プロラクチン血症も下垂体に関連する無月経の重要な原因だが、この場合もGnRH分泌抑制を介してゴナドトロピンは低め〜正常となる。
- ×d. 副腎
誤り。副腎は皮質からコルチゾール・アルドステロン・副腎アンドロゲンを、髄質からカテコラミンを分泌する。先天性副腎過形成やCushing症候群、アンドロゲン産生腫瘍などで月経異常を来すことはあるが、その場合は過剰なアンドロゲンやコルチゾールが視床下部−下垂体系を抑制する形で生じ、FSHが著明に上昇するパターンにはならない。卵巣自体が正常であれば、FSHがここまで上がりE2がここまで下がることは説明できない。
- ○e. 卵巣
正しい。卵巣の機能が低下すると卵胞からのエストロゲン(主にエストラジオール)産生が減り、E2は低値となる。すると視床下部・下垂体へのネガティブフィードバックが弱まるため、正常に働く下垂体はFSH・LHの分泌を増やし、FSHが高値となる。FSH高値+E2低値という本問のパターン(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)は、障害部位が卵巣であることを示している。
続発性無月経の障害部位別の分類とホルモンパターン
・視床下部性:ストレス、体重減少、神経性やせ症、過度の運動など。FSH・LH低値〜正常、E2低値。 ・下垂体性:Sheehan症候群、下垂体腫瘍、下垂体手術・放射線治療後など。FSH・LH低値、E2低値。GnRH負荷試験でゴナドトロピンの反応が乏しいことが視床下部性との鑑別に役立つ。 ・卵巣性:早発卵巣不全、卵巣摘出・放射線・化学療法後、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)など。早発卵巣不全や卵巣障害ではFSH・LH高値、E2低値。PCOSではLHがFSHに比べて相対的に高いことが多く、FSHは正常範囲である点が異なる。 ・子宮性:Asherman症候群(子宮内膜の癒着)など。ホルモン値は正常で、ホルモン負荷を行っても消退出血が起こらない。
月経周期のホルモン変化(要点)
卵胞期にはFSHの作用で卵胞が発育しE2が上昇する。E2が十分な濃度に一定期間達すると、逆にポジティブフィードバックとしてLHサージが起こり、排卵に至る。排卵後の卵胞は黄体となりプロゲステロンとE2を分泌して子宮内膜を分泌期に変える。妊娠が成立しなければ黄体は退縮してE2・プロゲステロンが急に低下し、子宮内膜が剥がれて月経となる。同時にネガティブフィードバックが解除されてFSHが再び上昇し、次の周期の卵胞発育が始まる。
早発卵巣不全(POI)
40歳未満で卵巣機能が低下し、無月経・ゴナドトロピン高値・エストロゲン低値を示す状態である。原因には染色体異常(Turner症候群など)、自己免疫疾患、医原性(手術・放射線・化学療法)などがあるが、原因不明も多い。エストロゲン欠乏による骨粗鬆症や心血管リスク上昇を防ぐため、ホルモン補充療法が行われる。
POINT
・FSH高値+E2低値=高ゴナドトロピン性性腺機能低下症=卵巣性の障害。 ・FSH・LH低値+E2低値=低ゴナドトロピン性=視床下部性または下垂体性。 ・卵巣性ではエストロゲン低下によりネガティブフィードバックが外れ、ゴナドトロピンが上昇する。 ・視床(感覚の中継核)と視床下部(GnRH分泌)を混同しない。
