StudyMed医師国家試験

食べずに走る代償は骨に出る―女性アスリートの三主徴と骨粗鬆症

第117回医師国家試験 E問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第117回 E問題 第2問

やせと続発性無月経の学生アスリートの診療で注意すべき合併症はどれか。

  1. a.痤瘡
  2. b.脂肪肝
  3. c.骨粗鬆症
  4. d.下垂体腺腫
  5. e.子宮腺筋症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、やせて月経が止まった学生アスリートを診るときに、何に気をつけるべきかを問う問題だ。キーワードは「エネルギー不足」と「低エストロゲン」。この2つがどこにつながるかを考えてみよう。
医学生医学生
やせと無月経のアスリートというと、講義で聞いた「女性アスリートの三主徴」でしょうか。
ドクタードクター
その通り。三主徴は、利用可能エネルギー不足、視床下部性無月経、骨粗鬆症(低骨密度)の3つだ。利用可能エネルギーというのは、食事で摂ったエネルギーから運動で使った分を差し引いた、体を維持するために残るエネルギーのことだよ。
医学生医学生
摂食障害がある人だけの話かと思っていました。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいところだね。摂食障害を伴うこともあるけれど、本人は普通に食べているつもりでも、練習量に食事が追いついていないだけで起こりうる。体操、新体操、陸上長距離、審美系や階級制の競技のように、体重を軽く保ちたい競技で特に多い。
医学生医学生
エネルギーが足りないと、どうして月経が止まるんですか。
ドクタードクター
体が「今は生殖どころではない」と判断するイメージだね。視床下部からのGnRHの拍動性分泌が抑えられ、下垂体からのLHとFSHが低下する。すると卵胞が育たず排卵も起こらず、エストロゲンが低いまま無月経になる。これが機能性の視床下部性無月経だ。
医学生医学生
生理学で習ったフィードバックの話がつながりました。そのエストロゲン低下が骨に響くわけですね。
ドクタードクター
そう。エストロゲンには破骨細胞による骨吸収を抑える働きがある。それが欠乏すると骨吸収が骨形成を上回って骨量が減っていく。さらに低栄養そのものも骨形成を妨げるから、二重に骨に悪いんだ。だから正解は骨粗鬆症。特に10代から20歳前後は最大骨量を獲得する時期なので、ここで骨を貯められないと取り返しにくい。
医学生医学生
閉経後の女性の病気というイメージでしたが、若くても起こるんですね。整形外科の実習で、疲労骨折を繰り返す陸上部の高校生を見たのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその典型だね。では他の選択肢も見ておこう。痤瘡はどうかな。
医学生医学生
ホルモンが乱れているなら、にきびも出そうな気がします。
ドクタードクター
ホルモンの乱れといっても方向が大事なんだ。痤瘡はアンドロゲンの作用で悪化するから、月経不順に痤瘡や多毛を伴うなら多嚢胞性卵巣症候群を考える。今回のようにゴナドトロピンも性ステロイドも全体に下がっている状態では、特徴的な合併症とはいえない。
医学生医学生
脂肪肝は過栄養や肥満、飲酒が背景なので、運動量が多くてやせているアスリートとは逆の状況ですね。
ドクタードクター
その理解でいい。重度の神経性やせ症では飢餓で肝酵素が上がることはあるけれど、この問題で問われている合併症とは別の話だ。では下垂体腺腫はどうだろう。
医学生医学生
プロラクチノーマなら無月経になるので、迷いました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。プロラクチノーマは続発性無月経の「原因」として鑑別に挙げる疾患で、無月経の診療ではプロラクチンを測って除外する。でも、やせや過度の運動の「結果」として生じるものではないから、合併症には当たらない。原因と結果を区別するのがポイントだ。
医学生医学生
子宮腺筋症はエストロゲン依存性なので、低エストロゲンの若いアスリートでは、むしろ起こりにくい方向ですね。
ドクタードクター
その通り。子宮腺筋症は30〜40歳代の経産婦に多く、月経困難症や過多月経をきたす病気だ。最後に臨床での対応をまとめよう。治療の基本は、運動量に見合ったエネルギー摂取を確保すること。食事を増やすか、練習量を調整する。そのうえで骨密度を評価し、必要に応じてカルシウムやビタミンDの補充、ホルモン補充療法を検討する。摂食障害が背景にあれば精神科との連携も必要だ。
医学生医学生
月経を戻すことが骨を守ることにもつながるんですね。部活の指導者や本人に「生理が来ないのは頑張っている証拠」と思われていたら危ないですね。
ドクタードクター
まさにそこが現場の課題だよ。最近はエネルギー不足の影響が代謝、免疫、心血管、精神面、パフォーマンスにまで及ぶとして、性別を問わないREDs(スポーツにおける相対的エネルギー不足)という概念も提唱されている。無月経は体からのSOSとして受け止めて、早めに介入することが大切だ。

まとめ

やせと続発性無月経をきたした女性アスリートでは、利用可能エネルギー不足・視床下部性無月経・骨粗鬆症からなる「女性アスリートの三主徴」を考えます。エネルギー不足によりGnRH拍動性分泌が抑制され、LH・FSH低下から低エストロゲン状態となり、骨吸収の亢進と低栄養による骨形成低下が重なって骨量が減少します。最大骨量を獲得すべき若年期に起こるため、若くても骨粗鬆症や疲労骨折の原因となる点が重要です。プロラクチノーマは無月経の原因として鑑別する疾患であり合併症ではなく、痤瘡はアンドロゲン過剰、脂肪肝は過栄養、子宮腺筋症はエストロゲン依存性と、いずれも病態の方向が異なります。治療の基本はエネルギー摂取の確保であり、近年のREDsの概念も含め、アスリートの無月経を全身の問題として捉える視点が求められます。

解答・解説

正解はcです

やせ(低体重)と続発性無月経をきたした女性アスリートといえば、「女性アスリートの三主徴(female athlete triad:FAT)」を思い浮かべる必要がある。三主徴とは、(1) 利用可能エネルギー不足(low energy availability)、(2) 視床下部性無月経、(3) 骨粗鬆症(低骨密度)の3つである。 根本にあるのは、運動で消費するエネルギーに見合うだけの食事がとれていない状態(エネルギー不足)である。摂食障害を伴う場合も伴わない場合もある。エネルギー不足が続くと、視床下部からのゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の拍動性分泌が抑えられ、下垂体からの黄体形成ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌が低下する。その結果、卵巣での卵胞発育と排卵が起こらなくなり、エストロゲンが低い状態のまま無月経となる(機能性視床下部性無月経)。 エストロゲンには破骨細胞による骨吸収を抑える働きがあるため、低エストロゲン状態が長く続くと骨吸収が骨形成を上回り、骨量が減っていく。さらに低体重・低栄養そのものも骨形成を妨げる。10代〜20歳前後は一生のうちで骨量を最も蓄える時期(最大骨量の獲得期)であり、この時期に骨量を十分に増やせないと、若年でも骨粗鬆症となり、疲労骨折を繰り返したり、将来の骨折リスクが高まったりする。 したがって、やせと続発性無月経の学生アスリートを診る際に最も注意すべき合併症は骨粗鬆症であり、問題の要点は「エネルギー不足→低エストロゲン→骨量減少」という一連の流れを理解しているかどうかである。

選択肢考察

  1. ×a.  痤瘡

    痤瘡(にきび)は皮脂分泌の亢進と毛包の角化異常を背景に生じ、アンドロゲン(男性ホルモン)の作用で悪化する。月経不順に痤瘡や多毛を伴う場合には、アンドロゲンが過剰となる多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などを考える。本問のようなエネルギー不足による視床下部性無月経では、ゴナドトロピンも性ステロイドも全体として低下しており、痤瘡は特徴的な合併症ではない。

  2. ×b.  脂肪肝

    脂肪肝(脂肪性肝疾患)は過栄養・肥満・アルコール多飲・インスリン抵抗性などを背景に、肝細胞に中性脂肪がたまる病態であり、運動量が多くエネルギーが不足しているやせのアスリートで注意すべき合併症ではない。なお、重度の神経性やせ症では飢餓による肝逸脱酵素の上昇がみられることや、急な再栄養の際に肝障害をきたすことがあるが、これらは本問で問われている典型的な合併症ではない。

  3. ○c.  骨粗鬆症

    女性アスリートの三主徴の一つである。エネルギー不足による視床下部性無月経では、排卵が起こらずエストロゲン分泌が低い状態が続く。エストロゲンは骨吸収を抑制しているため、その欠乏により骨吸収が亢進して骨量が減少する。加えて低体重・低栄養は骨形成を低下させる。最大骨量を獲得すべき思春期〜若年期にこの状態が続くと骨量が十分に増えず、若年でも骨粗鬆症となり、疲労骨折のリスクが高まる。このため骨密度の評価と、エネルギー摂取の改善を中心とした介入が重要となる。

  4. ×d.  下垂体腺腫

    下垂体腺腫、特にプロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)は高プロラクチン血症を介して無月経や乳汁漏出を起こすため、続発性無月経の「原因」として鑑別に挙がる疾患である。しかし、やせや過度の運動・エネルギー不足の結果として生じる「合併症」ではない。無月経の診療ではプロラクチン値を測定して鑑別するが、本問で問われている注意すべき合併症には当たらない。

  5. ×e.  子宮腺筋症

    子宮腺筋症は子宮内膜に似た組織が子宮筋層内に入り込んで増殖する疾患で、エストロゲン依存性に進行し、月経困難症や過多月経をきたす。主に30〜40歳代の経産婦に多い。低エストロゲン状態で無月経となっている若年アスリートでは、むしろ発症・進行しにくい方向にあり、注意すべき合併症とはいえない。

女性アスリートの三主徴(FAT)

1. 利用可能エネルギー不足(摂食障害の有無を問わない) 2. 視床下部性無月経 3. 骨粗鬆症(低骨密度) 3つは互いに関連しており、出発点はエネルギー不足である。利用可能エネルギーとは、摂取エネルギーから運動による消費エネルギーを差し引いた、身体機能の維持に使えるエネルギーを指す。

好発する競技

体重制限のある競技(体操、新体操、フィギュアスケート、陸上長距離、審美系競技、階級制競技など)で起こりやすい。

病態の流れ

エネルギー不足 → 視床下部からのGnRH拍動性分泌の低下 → LH・FSH低下 → 卵巣機能低下・無排卵 → エストロゲン低下・無月経 → 骨吸収亢進 → 骨量減少・骨粗鬆症 → 疲労骨折

REDs(スポーツにおける相対的エネルギー不足)

近年、エネルギー不足の影響は月経や骨だけでなく、代謝、免疫、心血管、精神面、競技パフォーマンスなど全身に及ぶとして、性別を問わない「REDs(Relative Energy Deficiency in Sport)」という概念も提唱されている。三主徴はその一部とみなされる。

対応の基本

まず運動量に見合ったエネルギー摂取を確保すること(食事量の増加や運動量の調整)が治療の基本である。骨密度評価を行い、必要に応じてカルシウム・ビタミンDの補充やホルモン補充療法を検討する。摂食障害を伴う場合は精神科的介入も必要となる。

無月経の鑑別

続発性無月経では、妊娠の否定に加え、高プロラクチン血症(プロラクチノーマ、薬剤性など)、甲状腺機能異常、多嚢胞性卵巣症候群、早発卵巣不全などを鑑別する。

POINT

・女性アスリートの三主徴=利用可能エネルギー不足・視床下部性無月経・骨粗鬆症 ・原因の根本はエネルギー不足であり、低エストロゲン状態が骨量減少をもたらす ・最大骨量獲得期に骨量が増えず、疲労骨折のリスクが高まる ・下垂体腺腫(プロラクチノーマ)は無月経の原因として鑑別する疾患であり、合併症ではない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。