生まれてすぐの手術が必要な理由―露出した脊髄を守る48時間
第109回医師国家試験 A問題 第48問
国試問題にチャレンジ
出生直後の新生児。在胎37週,2,720 gで出生した。Apgarスコアは8点(1分),10点(5分)。出生前の胎児超音波検査で水頭症を指摘された。腰仙部の写真を別に示す。 この病変の手術時期として適切なのはどれか。

- a.生後0~2日
- b.生後1~2週
- c.生後3~6か月
- d.1~2歳
- e.5~6歳
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腰仙部正中の皮膚欠損を伴う病変に胎児期からの水頭症を合併していれば、開放性二分脊椎である脊髄髄膜瘤を考えます。神経組織が外界に露出しているため、髄膜炎・脳室炎の予防と神経機能の保護を目的に、生後48時間以内に閉鎖術を行うのが原則で、術前は腹臥位とし湿らせた滅菌ガーゼで病変を保護します。ほぼ全例にChiari II型奇形を合併し、水頭症に対してシャント術を要することが多く、下肢麻痺や足部変形、神経因性膀胱などに対する多職種での長期管理が必要です。皮膚に覆われた潜在性二分脊椎では乳児期に手術を検討するなど考え方が異なり、また妊娠前からの葉酸摂取が予防に重要です。皮膚欠損の有無が緊急度を決めるという視点は、先天奇形の初期対応を考えるうえで基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・在胎37週、出生体重2,720 gの正期産児で、低出生体重児ではない ・Apgarスコアは1分8点、5分10点で、新生児仮死はない(7点以下で仮死と判断する) ・出生前の胎児超音波検査で水頭症を指摘されている ・腰仙部の写真では、正中部に皮膚に覆われていない(皮膚欠損を伴う)隆起性の病変があり、神経組織や髄膜が外界に露出している
診断
腰仙部正中の皮膚欠損を伴う嚢状の病変で、水頭症を合併していることから、開放性(顕在性)二分脊椎である脊髄髄膜瘤と診断する。脊髄髄膜瘤は胎生期の神経管閉鎖不全によって生じ、ほとんどの例でChiari II型奇形(小脳虫部や脳幹の一部が大後頭孔から脊柱管内へ下垂する奇形)を合併し、それによる髄液の通過障害のため高率に水頭症を伴う。本例の胎児期からの水頭症もこれで説明できる。
手術時期の考え方
病変部では脊髄や髄膜が皮膚に覆われずに露出しており、出生後は細菌が直接付着して髄膜炎・脳室炎を起こす危険が高い。また乾燥や機械的刺激により、残っている神経組織がさらに傷害される。そのため、出生直後から病変部を生理食塩水で湿らせた滅菌ガーゼなどで覆い、腹臥位として病変を圧迫や汚染から保護したうえで、感染が成立する前の生後48時間以内(おおむね24~72時間以内)に修復術(脊髄の還納と硬膜・皮膚の閉鎖)を行うのが原則である。よって生後0~2日が適切である。
選択肢考察
- ○a. 生後0~2日
皮膚欠損を伴う開放性の脊髄髄膜瘤では、露出した神経組織から細菌が侵入して髄膜炎・脳室炎を起こしやすく、時間とともに感染の危険が急速に高まる。露出した神経組織の乾燥や損傷による機能悪化も防ぐ必要があるため、生後48時間以内を目安に閉鎖術を行う。これにより感染率を下げ、残存する神経機能を守ることができる。
- ×b. 生後1~2週
生後1~2週まで閉鎖を遅らせると、その間に露出部からの細菌感染(髄膜炎・脳室炎)が成立しやすく、神経組織の損傷も進む。感染が起こると閉鎖術そのものや、その後に必要となる水頭症に対するシャント手術も行いにくくなる。開放性病変に対する手術時期としては遅すぎる。
- ×c. 生後3~6か月
開放性の脊髄髄膜瘤をこの時期まで放置すれば、感染や神経組織の損傷は避けられない。なお、皮膚に覆われた潜在性二分脊椎(脊髄脂肪腫など)では、脊髄係留による症状の出現・進行を予防するため乳児期に手術を検討することがあるが、皮膚欠損のある本例には当てはまらない。
- ×d. 1~2歳
開放性病変の閉鎖を1~2歳まで待つことはない。脊髄髄膜瘤の患児では、閉鎖術後も成長に伴う脊髄係留症候群、足部変形、膀胱直腸障害などに対して幼児期以降に追加の治療を行うことがあるが、それは初回の閉鎖術とは別のものである。
- ×e. 5~6歳
開放性の脊髄髄膜瘤に対する手術時期として全く不適切である。露出した神経組織を長期間放置すれば、重篤な中枢神経感染症や神経機能のさらなる喪失をまねく。
二分脊椎の分類
神経管の閉鎖不全によって生じる脊椎・脊髄の奇形を二分脊椎と総称し、大きく2つに分ける。 ・開放性(顕在性)二分脊椎:皮膚欠損があり、神経組織や髄膜が外界に露出する。脊髄髄膜瘤、脊髄披裂(脊髄破裂)など。出生直後から感染の危険があり、早期の閉鎖術が必要 ・潜在性二分脊椎:皮膚に覆われており、腰仙部の皮膚異常(脂肪腫様の膨隆、皮膚陥凹、限局性多毛、血管腫など)を手がかりに見つかる。脊髄脂肪腫、先天性皮膚洞、終糸肥厚(終糸脂肪腫)、割髄症など。脊髄係留による症状の予防や進行防止のために手術を検討する
脊髄髄膜瘤の症状と合併症
・病変部以下の脊髄機能障害:下肢の運動麻痺と感覚障害、足部変形(内反足など)、神経因性膀胱、直腸障害 ・Chiari II型奇形:ほぼ全例に合併する。重症例では脳幹圧迫による嚥下障害、喘鳴、無呼吸などを起こす ・水頭症:大部分の例で合併し、脳室腹腔シャント術(VPシャント)や神経内視鏡による第三脳室底開窓術を要することが多い ・その他:脊髄空洞症、脊髄係留症候群、ラテックスアレルギーなど
出生後の管理
腹臥位として病変部を圧迫から守り、生理食塩水で湿らせた滅菌ガーゼなどで覆って乾燥と汚染を防ぐ。生後48時間以内に修復術を行い、水頭症の進行に応じてシャント術を行う(閉鎖術と同時あるいは後日)。その後は脳神経外科、小児科、泌尿器科(清潔間欠導尿など)、整形外科、リハビリテーション科による多職種での長期管理が必要になる。
予防と胎児治療
妊娠前から妊娠初期の葉酸摂取により、神経管閉鎖障害の発生リスクを低減できる(日本では妊娠を計画している女性に1日400 μgの葉酸補充が推奨されている)。出生前診断には母体血清α-フェトプロテイン(AFP)の上昇や胎児超音波検査が用いられる。海外では、条件を満たす症例に対して胎児期に子宮内で閉鎖術を行う胎児手術が行われ、出生後手術と比べてシャント必要率の低下や運動機能の改善が報告されている。
POINT
・腰仙部の皮膚欠損を伴う病変+水頭症 → 脊髄髄膜瘤(開放性二分脊椎) ・感染(髄膜炎・脳室炎)予防と神経機能保護のため、生後48時間以内に閉鎖術 ・術前は腹臥位、病変部を湿った滅菌ガーゼで保護 ・Chiari II型奇形・水頭症をほぼ全例に合併し、シャント術を要することが多い ・下肢麻痺、足部変形、神経因性膀胱、直腸障害が問題となる ・予防には妊娠前からの葉酸摂取
