突っ張る麻痺か、ぐにゃりとした麻痺か―運動ニューロンの「上下」で読み解く小児の麻痺
第116回医師国家試験 E問題 第17問
国試問題にチャレンジ
小児で痙性麻痺を生じる疾患はどれか。
- a.脳性麻痺
- b.ボツリヌス症
- c.脊髄性筋萎縮症
- d.Prader-Willi症候群
- e.Guillain-Barré症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
運動麻痺は、上位運動ニューロン(錐体路)の障害による痙性麻痺と、下位運動ニューロン・神経筋接合部・筋の障害による弛緩性麻痺に分けて考えます。脳性麻痺は受胎から生後4週以内に生じた脳の非進行性病変による運動・姿勢の異常で、最も多い痙直型は腱反射亢進やBabinski徴候を伴う痙性麻痺を呈し、小児の痙性麻痺の代表です。ボツリヌス症(神経筋接合部)、脊髄性筋萎縮症(前角細胞)、Guillain-Barré症候群(末梢神経)は弛緩性麻痺を、Prader-Willi症候群は乳児期の筋緊張低下を示し、いずれもフロッピーインファントの原因となります。病変部位から麻痺の性質を予測する考え方は、小児に限らずあらゆる神経診察の基本であり、進行性の痙性麻痺では脳性麻痺以外の疾患を疑う視点も重要です。
解答・解説
正解はaです
運動麻痺を「痙性麻痺」と「弛緩性麻痺」に分け、それぞれの責任病巣を考える問題である。
痙性麻痺と弛緩性麻痺
・痙性麻痺:上位運動ニューロン(大脳皮質運動野から皮質脊髄路=錐体路を通って脊髄前角に至る経路)の障害で生じる。下位の反射回路への抑制が外れるため、筋緊張亢進(痙縮)、腱反射亢進、Babinski徴候などの病的反射の出現、表在反射(腹壁反射など)の消失を伴う。 ・弛緩性麻痺:下位運動ニューロン(脊髄前角細胞・末梢神経)、神経筋接合部、筋の障害で生じる。筋緊張低下、腱反射の低下・消失を伴い、下位運動ニューロン障害では筋萎縮や線維束性収縮もみられる。
本問の考え方
選択肢のうち、上位運動ニューロン(脳)の病変によるのは脳性麻痺のみである。脳性麻痺の中で最も多い痙直型(痙性型)は、錐体路障害による痙性麻痺を呈する。その他の選択肢は、神経筋接合部(ボツリヌス症)、脊髄前角細胞(脊髄性筋萎縮症)、末梢神経(Guillain-Barré症候群)の障害、あるいは中枢性だが筋緊張低下を主徴とする疾患(Prader-Willi症候群)であり、いずれも小児では筋緊張低下・弛緩性麻痺(フロッピーインファント)の原因となる。
選択肢考察
- ○a. 脳性麻痺
脳性麻痺は、受胎から新生児期(生後4週以内)までに生じた脳の非進行性病変による、永続的だが変化しうる運動と姿勢の異常である。原因として脳形成異常、新生児仮死(低酸素性虚血性脳症)、早産・低出生体重(脳室周囲白質軟化症)、核黄疸などがある。病型は痙直型(痙性型)、アテトーゼ型(ジスキネジア型)、失調型、低緊張型、混合型に分けられ、最も多い痙直型では錐体路障害により痙性麻痺を呈し、腱反射亢進やBabinski徴候を認める。麻痺の分布により四肢麻痺、両麻痺(下肢優位、脳室周囲白質軟化症に多い)、片麻痺に分類される。小児で痙性麻痺を来す代表的疾患であり、正しい。
- ×b. ボツリヌス症
ボツリヌス症は、Clostridium botulinum が産生する神経毒素が神経筋接合部や自律神経終末でアセチルコリンの放出を阻害して起こる。食品中の毒素を摂取する食餌性ボツリヌス症は、摂取後おおむね半日〜数日で、複視・眼瞼下垂・構音障害・嚥下障害などの脳神経症状に始まり、下行性に広がる左右対称の弛緩性麻痺を呈し、呼吸筋麻痺で死亡しうる。散瞳・便秘・口渇などの自律神経症状を伴い、通常は発熱や意識障害、感覚障害はない。乳児では、腸管内で芽胞が発芽して毒素を産生する乳児ボツリヌス症が問題となり(はちみつ摂取が代表的な原因)、便秘、哺乳力低下、弱い泣き声、筋緊張低下を示す。いずれも弛緩性麻痺であり、痙性麻痺ではない。
- ×c. 脊髄性筋萎縮症
脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)は、主に第5染色体上の SMN1 遺伝子の異常による常染色体潜性(劣性)遺伝疾患で、脊髄前角の運動神経細胞(下位運動ニューロン)が変性・脱落する。近位筋優位の筋力低下・筋萎縮、筋緊張低下、腱反射の消失、舌の線維束性収縮を示す。最重症のI型(Werdnig-Hoffmann病)は生後6か月までに発症し、座位を獲得できず、無治療では早期に呼吸管理を要する。下位運動ニューロン障害なので弛緩性麻痺であり、痙性麻痺ではない。近年はアンチセンス核酸(ヌシネルセン)や遺伝子治療などの疾患修飾治療が行われている。
- ×d. Prader-Willi症候群
Prader-Willi症候群は、15番染色体長腕(15q11-q13)の父由来遺伝子が機能しないこと(父由来染色体の欠失、母性片親性ダイソミーなど)で起こるゲノムインプリンティング疾患である。新生児期〜乳児期早期に著明な筋緊張低下と哺乳不良を示し、腱反射も低下する。筋緊張は成長とともに改善するが、幼児期以降は視床下部機能異常による過食と肥満、知的障害、低身長、性腺機能低下などが目立つ。乳児期の主症状は筋緊張低下であり、痙性麻痺は呈さない。
- ×e. Guillain-Barré症候群
Guillain-Barré症候群は、上気道感染や下痢(Campylobacter jejuni など)などの先行感染の後、末梢神経の糖脂質(ガングリオシド)に対する自己抗体などが関与して急性に発症する自己免疫性の多発根ニューロパチーである。通常、下肢から上行する左右対称性の弛緩性運動麻痺と腱反射の低下・消失を示し、感覚障害や顔面神経麻痺、自律神経障害、重症例では呼吸筋麻痺を伴う。髄液では蛋白細胞解離を認める。治療は免疫グロブリン大量静注療法または血液浄化療法で、両者の効果は同等とされる(副腎皮質ステロイド単独では有効性が示されていない)。末梢神経障害なので弛緩性麻痺であり、痙性麻痺ではない。
痙縮の特徴
痙縮は、筋を他動的に速く伸ばすほど抵抗が強くなる速度依存性の筋緊張亢進である。上肢では屈筋、下肢では伸筋に強く現れやすく(上肢を伸ばす・下肢を曲げる方向で抵抗を感じる)、他動運動の初めに強い抵抗があり、途中で急に抵抗が抜ける「折りたたみナイフ現象」が特徴である。これに対し、パーキンソン病などの錐体外路障害では、運動の全範囲で一様な抵抗を示す固縮(鉛管様・歯車様)がみられる。
上位・下位運動ニューロン障害の比較
・上位運動ニューロン障害:痙性麻痺、腱反射亢進、病的反射(Babinski徴候)陽性、表在反射消失、筋萎縮は目立たない(廃用性のみ)。 ・下位運動ニューロン障害:弛緩性麻痺、腱反射低下・消失、病的反射陰性、筋萎縮・線維束性収縮あり。
フロッピーインファント(筋緊張低下児)の主な原因
・中枢性:Prader-Willi症候群、Down症候群、低緊張型脳性麻痺、代謝異常症など(腱反射は保たれることが多い) ・脊髄前角:脊髄性筋萎縮症 ・末梢神経:先天性ニューロパチー、Guillain-Barré症候群 ・神経筋接合部:乳児ボツリヌス症、先天性筋無力症候群 ・筋:先天性筋ジストロフィー、先天性ミオパチーなど
小児で痙性麻痺を来すその他の疾患
脳性麻痺のほか、遺伝性痙性対麻痺、副腎白質ジストロフィーなどの白質変性症、脳腫瘍・脊髄腫瘍、脳炎・脳症の後遺症などがある。
POINT
・痙性麻痺は上位運動ニューロン(錐体路)障害、弛緩性麻痺は下位運動ニューロン・神経筋接合部・筋の障害で生じる。 ・脳性麻痺(特に痙直型)は小児の痙性麻痺の代表である。受胎〜生後4週以内の非進行性脳病変による。 ・ボツリヌス症(神経筋接合部)、脊髄性筋萎縮症(前角細胞)、Guillain-Barré症候群(末梢神経)は弛緩性麻痺。 ・Prader-Willi症候群は乳児期の筋緊張低下と、その後の過食・肥満が特徴。
