子宮の外で拍動する胎嚢―未破裂の異所性妊娠にどう向き合うか
第99回医師国家試験 A問題 第1問
国試問題にチャレンジ
19歳の女性。月経が3週遅れ,市販の試薬による妊娠診断検査が陽性となったため受診した。子宮は前傾前屈,ほぼ正常大,軟。両側付属器は触知しない。経腟超音波検査で子宮内膜厚14mm,子宮腔内にエコーフリースペースを認めない。子宮の左外側に径25mmの囊胞様病変を認め,内部に規則的拍動を認める。Douglas窩には異常を認めない。 対応として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.CA125測定
- b.子宮頸部細胞診
- c.子宮内膜組織診
- d.メトトレキサート投与
- e.腹腔鏡下手術
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
妊娠反応陽性にもかかわらず子宮内に胎嚢がなく、子宮外に心拍を伴う胎嚢を認めれば異所性妊娠の確定診断となり、子宮内膜の肥厚は妊娠による脱落膜変化であって子宮内妊娠の証拠にはなりません。Douglas窩に液体貯留がなければ腹腔内出血のない未破裂例と判断でき、治療は腹腔鏡下手術(卵管切除術、または挙児希望例での卵管温存手術)とメトトレキサート療法が選択肢になります。ただしメトトレキサートは胎児心拍陽性、hCG高値、大きな腫瘤では効きにくく相対的禁忌とされるため、心拍陽性例では手術がより確実で、薬物療法や温存手術後は血中hCGの陰性化まで追跡します。CA125や子宮頸部細胞診、子宮内膜組織診は腫瘍の検査であり、診断が確定した異所性妊娠への対応としては意味がありません。若い女性の腹痛や不正出血では常に妊娠を確認し、異所性妊娠と破裂の有無を評価する姿勢が、出血性ショックを防ぐ臨床の基本です。
解答・解説
正解はd, eです
所見の整理
・19歳女性、月経が3週遅れ、市販の尿妊娠検査(尿中hCGの定性検査)が陽性 → 妊娠していることは確実である。 ・内診:子宮はほぼ正常大で軟、付属器は触知しない。 ・経腟超音波:子宮内膜は14mmと厚いが、子宮腔内に胎嚢(GS:gestational sac)に相当するエコーフリースペースがない。 ・子宮の左外側に径25mmの嚢胞様病変があり、その内部に規則的な拍動(胎児心拍)がみられる。 ・Douglas窩に液体貯留(出血を示す所見)はない。
診断へのプロセス
妊娠反応陽性にもかかわらず子宮内に胎嚢がなく、子宮外に胎嚢様の構造があれば異所性妊娠(子宮外妊娠)を強く疑う。本例ではさらにその嚢胞内に心拍が確認されており、子宮外の胎嚢内に生存胎芽が存在する、すなわち異所性妊娠の確定診断となる。部位は子宮の左外側であり、最も頻度の高い左卵管(膨大部)妊娠と考えられる。子宮内膜が厚いのは、妊娠による黄体ホルモンの作用で内膜が脱落膜様に変化しているためであり、子宮内妊娠を意味する所見ではない。 Douglas窩に液体貯留がないことから、卵管破裂や卵管流産による腹腔内出血は現時点では起こっていない(未破裂)と判断できる。つまり本例は「未破裂の卵管妊娠」であり、緊急開腹が必要なショック状態ではない。
設問の考え方
診断はすでについているので、問われているのは異所性妊娠の治療選択である。未破裂の卵管妊娠に対しては、①手術療法(腹腔鏡下の卵管切除術または卵管線状切開による卵管温存手術)と、②薬物療法(メトトレキサート〈MTX〉投与)が選択肢になる。一方、腫瘍マーカーや子宮頸部・内膜の細胞診・組織診といった婦人科腫瘍の検査は、この段階での対応としては意味がない。
選択肢考察
- ×a. CA125測定
CA125は卵巣癌(特に漿液性癌)の腫瘍マーカーであり、子宮内膜症でも上昇する。子宮外の嚢胞様病変を卵巣腫瘍と誤認すると選びたくなるが、本例の病変は内部に心拍を伴う胎嚢であり腫瘍ではない。また CA125 は妊娠初期にも生理的に上昇しうるため、測定しても診断・治療に役立たない。
- ×b. 子宮頸部細胞診
子宮頸部細胞診は子宮頸癌およびその前がん病変(子宮頸部上皮内腫瘍〈CIN〉)のスクリーニング検査である。妊娠初期の検診として行われることはあるが、異所性妊娠の診断・治療には関係せず、本例で優先して行うべき対応ではない。
- ×c. 子宮内膜組織診
子宮内膜組織診は主に子宮体癌(子宮内膜癌)の診断に用いる検査である。超音波診断が発達する以前は、内膜掻爬で得た組織に絨毛がなく、脱落膜変化やArias-Stella反応(妊娠性ホルモンによる内膜腺上皮の異型変化)のみを認めることを異所性妊娠の補助診断に用いた時代もあった。しかし本例は超音波で子宮外の胎嚢と心拍が確認され診断が確定しているので不要であり、治療にもならない。
- ○d. メトトレキサート投与
メトトレキサート(MTX)は葉酸代謝拮抗薬で、増殖の盛んな絨毛細胞のDNA合成を阻害して妊娠組織を退縮させる。全身投与(筋注)や、超音波ガイド下・腹腔鏡下での妊娠部位への局所注入が行われ、卵管を温存できる保存的治療として位置づけられる。本例は未破裂でバイタルも安定していると考えられるため、薬物療法の対象となりうる。ただし一般に、胎児心拍を認める例、hCG値が高い例、妊娠部位の腫瘤が大きい例(おおむね3.5〜4cm以上)では MTX の奏効率が下がり、相対的禁忌とされる。したがって本例のように心拍陽性の場合は手術療法がより確実であり、MTX を選ぶ際は血中hCGの推移を厳重に追い、無効なら手術に移行する前提で行う。
- ○e. 腹腔鏡下手術
異所性妊娠の標準的治療は手術療法であり、未破裂でバイタルが安定していれば、低侵襲な腹腔鏡下手術が第一に選ばれる。術式は卵管切除術が基本で、挙児希望があり条件がよい場合には卵管を線状に切開して妊娠組織のみを除去する卵管温存手術(卵管線状切開術)も行われる。温存手術後は絨毛組織の遺残(存続絨毛症)がありうるため、術後も血中hCGが陰性化するまで追跡する。本例は心拍陽性で、MTX が効きにくい条件を備えるため、手術療法が最も確実な対応である。
異所性妊娠の概要
受精卵が子宮体部内膜以外の場所に着床した状態で、全妊娠の約1〜2%を占める。部位は卵管妊娠が大部分(約95%以上)で、なかでも膨大部が最多、次いで峡部である。ほかに卵巣妊娠、腹膜妊娠、頸管妊娠、間質部妊娠、帝王切開瘢痕部妊娠などがある。 危険因子:クラミジアなどによる骨盤内感染症(卵管炎)の既往、異所性妊娠の既往、卵管手術の既往、生殖補助医療、子宮内避妊具(IUD)使用中の妊娠、喫煙など。
症状と診断
・古典的三徴:無月経、下腹部痛、不正性器出血。破裂すると腹腔内出血により急激な腹痛、出血性ショックとなる。 ・妊娠反応陽性で子宮内に胎嚢がないことが出発点。経腟超音波では、最終月経から妊娠5週頃には子宮内に胎嚢が見えるのが通常であり、血中hCGがおおむね1,500〜2,000 IU/L以上なのに子宮内に胎嚢がなければ異所性妊娠を疑う(この閾値は施設や報告により幅がある)。 ・子宮外に胎嚢や心拍を認めれば確定診断。Douglas窩の液体貯留は腹腔内出血を示唆する。 ・子宮内膜の脱落膜変化により、子宮腔内に液体が貯留して胎嚢に似た像(偽胎嚢)を呈することがある点に注意する。
治療の選択
・破裂・ショック:輸液・輸血を行いつつ緊急手術(開腹または腹腔鏡下で卵管切除)。 ・未破裂・バイタル安定:腹腔鏡下手術(卵管切除術、または卵管温存の線状切開術)が基本。 ・薬物療法(MTX):未破裂で状態が安定し、血中hCGが比較的低値、胎児心拍がなく、腫瘤が小さい症例が良い適応。投与後はhCGの低下を確認し、低下不十分なら追加投与や手術を検討する。副作用として口内炎、肝機能障害、骨髄抑制などがある。 ・待機療法:hCGが低値で自然に下降している症例では経過観察のみで自然消退を期待することもある。
POINT
・妊娠反応陽性+子宮内に胎嚢なし → まず異所性妊娠を疑う。 ・子宮外に胎嚢・心拍があれば異所性妊娠の確定診断。Douglas窩の液体貯留の有無で破裂(腹腔内出血)を評価する。 ・未破裂・安定例の治療は腹腔鏡下手術(卵管切除または卵管温存手術)とメトトレキサート療法。 ・MTX は胎児心拍陽性、hCG高値、大きな腫瘤では効きにくく、相対的禁忌とされる。 ・CA125、子宮頸部細胞診、子宮内膜組織診は腫瘍の検査であり、異所性妊娠の対応ではない。
