妊娠初期の流産は誰のせい?―「時期」で読み解く流産の原因
第116回医師国家試験 D問題 第10問
国試問題にチャレンジ
早期流産の原因で最も頻度が高いのはどれか。
- a.子宮奇形
- b.子宮筋腫
- c.頸管無力症
- d.胚染色体異常
- e.抗リン脂質抗体症候群
対話形式の解説
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ドクターまとめ
流産は妊娠22週未満で妊娠が終わることで、自然流産は妊娠の約15%に起こり、その大部分が12週未満の早期流産です。早期流産の原因で最も多いのは胚の染色体異常で、約半数から6割以上を占め、16トリソミーをはじめとする常染色体トリソミーが最多で、減数分裂時の不分離により偶発的に生じ母体年齢とともに増加します。一方、頸管無力症、子宮奇形、子宮筋腫、感染などの母体側の原因は後期流産・早産に関与しやすく、抗リン脂質抗体症候群は頻度こそ低いものの不育症の原因として重要です。「早期は胎児側、後期は母体側」という時期別の整理は、不育症の検査方針や、流産を経験した患者さんへの説明の基盤となります。
解答・解説
正解はdです
用語の定義
流産とは、妊娠22週未満で妊娠が終わることである。妊娠12週未満のものを早期流産、12週以降22週未満のものを後期流産という。
頻度
自然流産は、臨床的に確認された妊娠の約15%に起こる。その大部分(約8〜9割)は早期流産である。また、母体の年齢が上がるほど流産率は高くなる。
原因の考え方
原因の傾向は、流産が起こる時期によって異なる。 ・早期流産: 主に胎児(胚)側に原因がある。最も多いのは胚の染色体異常で、早期流産の約半数〜6割以上を占める。受精卵の段階で偶発的に起こる数的異常が大半であり、母体の治療で防げるものではない。 ・後期流産: 母体側の原因の比重が大きくなる。子宮の形態異常(子宮奇形、子宮筋腫)、頸管無力症、感染(絨毛膜羊膜炎)、抗リン脂質抗体症候群などである。早産の原因と共通する部分が多い。 本問は早期流産の原因で最も頻度が高いものを問うており、胚染色体異常が正解である。
選択肢考察
- ×a. 子宮奇形
中隔子宮・双角子宮・単角子宮などの子宮奇形(ミュラー管の発生異常)は流産の原因となる。中隔子宮では、血流に乏しい中隔に胚が着床すると早期流産を起こすこともある。ただし、子宮奇形による流産は主に後期流産・早産として現れやすい。子宮腔の容積が足りない、子宮頸管の機能が弱いといった問題が、胎児が大きくなるにつれて表面化するためである。どの程度流産に影響するかは奇形の種類や程度によって大きく異なり、早期流産の原因の中で最多ではない。流産を繰り返す場合には子宮形態の検査を行い、中隔子宮では子宮鏡下の中隔切除が検討される。
- ×b. 子宮筋腫
子宮筋腫、特に子宮の内腔側に突出する粘膜下筋腫や内腔を変形させる筋層内筋腫は、着床を妨げたり子宮腔を狭くしたりして、流産の原因となりうる。影響の大きさは筋腫の位置・大きさ・数によって大きく変わる。漿膜下筋腫は影響が少ない。また、早期流産よりも後期流産・早産に関わりやすい。早期流産の原因として最も頻度が高いわけではない。
- ×c. 頸管無力症
頸管無力症は、子宮収縮(陣痛)などの自覚症状がないまま子宮頸管が短くなり開いてしまい、胎胞が外へ出て流産・早産に至る状態である。胎児と羊水が大きくなり、頸管にかかる負担が増える妊娠中期(おおむね妊娠16週以降)に問題となる。そのため後期流産・早産の代表的な原因であり、早期流産の原因になることはまれである。既往歴や経腟超音波で測った頸管長から診断し、頸管縫縮術(McDonald法、Shirodkar法)が行われる。
- ○d. 胚染色体異常
早期流産の原因として最も多い。流産した胎児や絨毛の染色体を調べると、早期流産の約半数〜6割以上に異常がみられる。大部分は数の異常で、内訳は次のとおりである。 ・常染色体トリソミーが最も多く、なかでも16トリソミーが多い。 ・次いで45,X(モノソミーX)、三倍体などが続く。 これらの多くは、配偶子ができる際の減数分裂で染色体がうまく分かれないこと(不分離)によって偶然に生じる。卵子の加齢に伴って増えるため、母体年齢の上昇とともに流産率が高くなる主な理由になっている。偶発的な異常なので、1回の早期流産のあとに特別な治療は必要ない。一方、流産を繰り返す場合には、夫婦のどちらかが均衡型転座などの染色体構造異常を持っていないかを検査する。
- ×e. 抗リン脂質抗体症候群
抗リン脂質抗体症候群(APS)は自己免疫疾患である。ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインI抗体といった抗リン脂質抗体が陽性となり、血栓症や妊娠の合併症を起こす。胎盤で血栓や炎症が起こり、早期流産・後期流産(子宮内胎児死亡)、妊娠高血圧腎症、胎盤機能不全による胎児発育不全の原因となる。流産を繰り返す不育症の原因として重要で、低用量アスピリンとヘパリンの併用で妊娠の成績が改善する。ただし、すべての早期流産の中で占める割合は小さく、最も頻度が高い原因ではない。
流産の分類
・時期による分類: 早期流産(妊娠12週未満)、後期流産(妊娠12週以降22週未満)。 ・臨床経過による分類: 切迫流産: 出血などがあるが、まだ妊娠が続く可能性がある状態。 進行流産: 流産が始まり、止められない状態。 完全流産: 胎児・胎盤などの内容がすべて出た状態。 不全流産: 内容の一部が子宮内に残っている状態。 稽留流産: 胎児が死亡しているが、症状がなく子宮内にとどまっている状態。 ・その他: 感染流産(子宮内の感染を伴う流産)。
不育症
・定義: 妊娠はするが、流産・死産を2回以上繰り返して生児を得られない状態をいう。流産を3回以上連続して繰り返すものは習慣流産という。 ・主な検査項目: 抗リン脂質抗体 子宮の形態異常 夫婦の染色体(均衡型転座など) 内分泌異常(甲状腺機能異常、糖尿病) 凝固異常(プロテインS欠乏症など) ・検査を行っても原因がはっきりしない例が半数以上を占める。偶然に胚染色体異常による流産が重なった例も多く含まれる。
流産の原因の時期別整理
・早期流産(胎児側の原因が主): 胚の染色体異常(最多)。 ・後期流産(母体側の原因が主): 頸管無力症、絨毛膜羊膜炎、子宮奇形、子宮筋腫、抗リン脂質抗体症候群など。
POINT
・流産は妊娠22週未満で妊娠が終わること。早期流産は12週未満、後期流産は12週以降である。 ・自然流産は妊娠の約15%に起こり、大部分は早期流産である。 ・早期流産の原因で最も多いのは胚の染色体異常(約半数〜6割以上)である。トリソミーが最多で、母体年齢の上昇とともに増える。 ・後期流産の原因は母体側(頸管無力症、子宮奇形、子宮筋腫、感染、抗リン脂質抗体症候群)が中心である。 ・不育症の精査では、抗リン脂質抗体・子宮形態・夫婦の染色体などを調べる。抗リン脂質抗体症候群には低用量アスピリンとヘパリンを用いる。
