StudyMed医師国家試験

狭い門ほど危ない―大腿ヘルニアは「見つけたら手術」が原則

第116回医師国家試験 D問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第116回 D問題 第9問

成人大腿ヘルニアで正しいのはどれか。

  1. a.中年男性に多い。
  2. b.嵌頓はまれである。
  3. c.手術治療が原則である。
  4. d.大腿外側部の痛みを伴う。
  5. e.鼠径靱帯の頭側から脱出する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は大腿ヘルニアの基本事項を問う問題だ。どこから出るか、誰に多いか、何が危ないか、どう治すかの4点を、解剖から一本の筋で理解するのが着眼点だよ。まず、大腿ヘルニアはどこから脱出するか覚えているかな。
医学生医学生
鼠径ヘルニアの仲間なので、鼠径靱帯の上あたりから出るイメージがあります。
ドクタードクター
そこがよくある誤解だね。鼠径靱帯の頭側、つまり上に膨らむのは鼠径管に関わる外鼠径・内鼠径ヘルニアだ。大腿ヘルニアは大腿輪から大腿管に入り込み、鼠径靱帯の尾側、足側の大腿内側上部に出てくる。伏在裂孔付近の皮下に膨らみを作るんだ。
医学生医学生
大腿輪は解剖実習で確認しましたが、境界をきちんと言えるか自信がありません。
ドクタードクター
整理しよう。前方が鼠径靱帯、後方が恥骨櫛靱帯つまりCooper靱帯、内側が裂孔靱帯、外側が大腿静脈だ。ポイントは、入口が狭いうえに周りが伸び縮みしにくい靱帯で囲まれていること。ここから大腿ヘルニアの性格がすべて説明できる。
医学生医学生
入口が狭いなら、腸が出にくくて嵌頓も少なそうに思えてしまいます。
ドクタードクター
逆なんだ。出るときは腹圧で押し込まれるけれど、狭くて硬い門をくぐった内容は締め付けられて戻れなくなる。だから大腿ヘルニアは鼠径部ヘルニアの中で最も嵌頓しやすい。血流が途絶えて絞扼になれば腸管が壊死することもある。
医学生医学生
反対に、内鼠径ヘルニアは門が広いので嵌頓が少ない、という対比ですね。
ドクタードクター
その理解でいい。もう一つ怖いのが、腸壁の一部だけがはまり込むRichterヘルニアの形をとることだ。腸の内腔が完全には閉じないので腸閉塞症状がはっきりせず、発見が遅れやすい。腸閉塞の原因を調べて初めて見つかることも少なくないんだ。
医学生医学生
だから、嵌頓しやすくて自然に治らない以上、診断がついたら手術が原則、ということですか。
ドクタードクター
その通り、それが正解だ。症状が軽くても診断がついた時点で手術による修復を行い、嵌頓していれば緊急手術になる。成人の鼠径部ヘルニアはヘルニアバンドなどの保存的治療で根治しないけれど、大腿ヘルニアでは特にこの原則が強く当てはまる。
医学生医学生
嵌頓したら、まず手で押し戻してみるのではだめなんでしょうか。外科実習で鼠径ヘルニアの用手整復を見たことがあります。
ドクタードクター
大腿ヘルニアでは狭い門を通して戻すのが難しいうえ、無理に戻すと壊死した腸管を腹腔内に戻してしまう危険がある。だから緊急手術が原則だ。術式はCooper靱帯を用いて縫い合わせるMcVay法やメッシュを用いたplug法などの前方到達法、それに腹腔鏡下のTAPP法やTEP法がある。腹腔鏡なら鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアの門をまとめてメッシュで覆える。腸管が壊死していれば切除も必要になる。
医学生医学生
疫学は、ヘルニアといえば男性のイメージなので中年男性に多いと思っていました。
ドクタードクター
鼠径部ヘルニア全体では男性の外鼠径ヘルニアが最多だから、そう思うのも無理はない。でも大腿ヘルニアは中高年の女性、特に経産婦ややせ型の高齢女性に多い。女性は骨盤が広く大腿輪も比較的広いこと、妊娠・出産で腹圧がかかり骨盤底が緩むことが背景にある。
医学生医学生
痛みの部位はどうでしょう。大腿ヘルニアという名前だと、太ももの外側まで痛みそうな気もします。
ドクタードクター
大腿管は大腿静脈の内側にあるから、膨隆も痛みも鼠径靱帯のすぐ下の大腿内側上部に出る。外側の痛みは出ないよ。大腿外側の痛みやしびれなら、外側大腿皮神経の圧迫による知覚異常性大腿痛を考える。触診では恥骨結節を目印にして、膨隆が外下方なら大腿ヘルニア、内上方なら鼠径ヘルニアと考えるといい。
医学生医学生
やせた高齢女性で嵌頓しやすいというと、閉鎖孔ヘルニアとも似ていますね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。閉鎖孔ヘルニアもやせた高齢の経産婦に多く、外から膨らみが見えにくいので腸閉塞として発症し、CTで診断されることが多い。脱出した内容が閉鎖神経を圧迫して大腿内側から膝に痛みやしびれが出るHowship-Romberg徴候が有名だ。股関節の伸展・外転・内旋で増強し、屈曲で軽くなる。
医学生医学生
高齢女性の原因不明の腸閉塞を見たら、鼠径部の診察とCTで大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアを探す、ということですね。
ドクタードクター
その通り。腹部ばかり見て鼠径部を診ないと見逃してしまう。皮膚の発赤や強い圧痛、腹膜刺激症状があれば絞扼を疑い、整復を試みずに緊急手術へ進む判断が大切だ。

まとめ

大腿ヘルニアは大腿輪から大腿管を通り、鼠径靱帯の尾側・大腿静脈の内側から大腿内側上部に脱出するヘルニアで、経産婦ややせ型の中高年女性に多くみられます。大腿輪は鼠径靱帯、Cooper靱帯、裂孔靱帯、大腿静脈に囲まれた狭く硬い門であるため、鼠径部ヘルニアの中で最も嵌頓しやすく、Richterヘルニアとして発見が遅れることもあります。そのため診断がつけば手術が原則で、嵌頓例では用手整復にこだわらず緊急手術を行い、術式にはMcVay法やメッシュ法、腹腔鏡下手術があります。閉鎖孔ヘルニアとあわせて、高齢女性の原因不明の腸閉塞では鼠径部の診察とCTを行うことが、腸管壊死を防ぐ臨床上の重要なポイントです。

解答・解説

正解はcです

テーマ

大腿ヘルニアについて、次の四点が問われている。どこから脱出するか(解剖)、誰に多いか(疫学)、何が危険か(嵌頓のしやすさ)、どう治療するか(治療方針)。

解剖から理解する

大腿ヘルニアは、腹腔内の臓器(主に小腸・大網)が大腿輪から大腿管に入り込み、鼠径靱帯より尾側(足側)の大腿内側上部に脱出するものである。大腿輪は次の四つで囲まれている。 ・前方: 鼠径靱帯 ・後方: 恥骨櫛靱帯(Cooper靱帯) ・内側: 裂孔靱帯 ・外側: 大腿静脈 この入口は狭いうえ、周りは伸び縮みしにくい靱帯である。そのため、いったん脱出した内容が締め付けられやすく、元に戻らなくなる状態(嵌頓)を起こしやすい。

結論

嵌頓しやすく、自然に治ることもないので、診断がついた時点で手術を行うのが原則である。嵌頓を起こしている場合は緊急手術になる。成人の鼠径部ヘルニアには、ヘルニアバンドなどの保存的治療による根治はなく、治療の基本は手術である。この原則は大腿ヘルニアで特に強く当てはまる。

選択肢考察

  1. ×a.  中年男性に多い。

    大腿ヘルニアは中高年の女性に多く、特に経産婦ややせ型の高齢女性に多い。女性は骨盤が広く大腿輪も比較的広いこと、妊娠・出産で腹圧がかかり骨盤底の組織が緩むことが背景にある。なお、鼠径部ヘルニア全体でみると、男性の外鼠径ヘルニアが最も多い。女性の鼠径部ヘルニアでも数としては鼠径ヘルニアのほうが多いが、大腿ヘルニアが占める割合は男性よりはるかに高い。

  2. ×b.  嵌頓はまれである。

    大腿ヘルニアは鼠径部ヘルニアの中で最も嵌頓しやすい。ヘルニア門(大腿輪)が狭く、周りを硬い靱帯(鼠径靱帯・裂孔靱帯・Cooper靱帯)に囲まれているためである。脱出した腸管が締め付けられて血流が途絶える(絞扼)と、腸管が壊死することがある。腸壁の一部だけがはまり込むRichterヘルニアの形をとることもあり、その場合は腸閉塞症状がはっきりせず、発見が遅れやすい。腸閉塞の原因を調べて初めて大腿ヘルニアの嵌頓が見つかることも少なくない。

  3. ○c.  手術治療が原則である。

    嵌頓しやすく自然治癒もしないため、症状が軽くても診断がついた時点で手術による修復を行うのが原則である。嵌頓している場合、狭いヘルニア門を通して手で押し戻す(用手整復)のは難しい。無理に戻すと壊死した腸管を腹腔内に戻してしまう危険があるため、緊急手術が原則となる。術式には次のようなものがある。 ・前方到達法: McVay法(Cooper靱帯を用いて縫い合わせる)、メッシュを用いたplug法など。 ・腹腔鏡下手術: TAPP法・TEP法。鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアのヘルニア門を一度にメッシュで覆える。 絞扼で腸管が壊死していれば、腸管の切除も行う。

  4. ×d.  大腿外側部の痛みを伴う。

    大腿管は大腿静脈の内側にあるため、膨隆と痛みは鼠径靱帯のすぐ下の大腿内側上部(鼠径部の下方)に生じる。大腿外側の痛みはみられない。嵌頓すると、この部位に硬く圧痛のある腫瘤を触れ、腸閉塞症状(腹痛・嘔吐・腹部膨満)を伴う。大腿外側の痛みやしびれは、外側大腿皮神経が圧迫されて起こる知覚異常性大腿痛でみられる所見である。

  5. ×e.  鼠径靱帯の頭側から脱出する。

    大腿ヘルニアは鼠径靱帯の尾側(足側)から脱出する。大腿輪から大腿管を通り、伏在裂孔(卵円窩)付近の皮下に膨隆を作る。鼠径靱帯の頭側に膨隆を作るのは、鼠径管に関わる鼠径ヘルニア(外鼠径ヘルニア・内鼠径ヘルニア)である。触診では恥骨結節が目印になる。膨隆が恥骨結節の外下方にあれば大腿ヘルニア、内上方にあれば鼠径ヘルニアを考える。

鼠径部ヘルニアの比較

・外鼠径ヘルニア: 内鼠径輪(下腹壁動静脈の外側)から鼠径管を通って脱出する。小児と若年〜中高年の男性に多く、最も頻度が高い。陰嚢まで達することがある。間接ヘルニアとも呼ぶ。 ・内鼠径ヘルニア: Hesselbach三角(下腹壁動静脈の内側)の腹壁が弱くなり、直接脱出する。中高年の男性に多い。ヘルニア門が広く、嵌頓は少ない。直接ヘルニアとも呼ぶ。 ・大腿ヘルニア: 大腿輪から鼠径靱帯の下に脱出する。中高年の女性に多い。嵌頓しやすい。

閉鎖孔ヘルニア(あわせて頻出)

・閉鎖孔から閉鎖管を通って脱出する。やせた高齢の経産婦に多い。 ・外から膨隆が見えにくく、腸閉塞として発症し、CTで診断されることが多い。嵌頓しやすく、緊急手術になりやすい。 ・Howship-Romberg徴候: 脱出したヘルニア内容が閉鎖神経を圧迫し、大腿内側から膝にかけて痛みやしびれが生じる。股関節を伸展・外転・内旋すると増強し、屈曲すると軽くなる。

嵌頓ヘルニアの注意点

・発症から時間がたち、皮膚の発赤や強い圧痛、腹膜刺激症状がある場合は、絞扼(腸管壊死)を疑う。用手整復は行わず、緊急手術とする。 ・高齢女性の原因不明の腸閉塞では、大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアを必ず鑑別に挙げ、鼠径部の診察とCT検査を行う。

POINT

・大腿ヘルニアは鼠径靱帯の下(尾側)、大腿静脈の内側から脱出する。 ・中高年の女性(経産婦、やせ型)に多い。 ・ヘルニア門が狭く周りの靱帯が硬いため、鼠径部ヘルニアの中で最も嵌頓しやすい。 ・診断がつけば手術が原則である。嵌頓していれば緊急手術を行う。 ・閉鎖孔ヘルニア(やせた高齢女性、Howship-Romberg徴候)とあわせて覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。