「膿」の字にだまされるな―とびひだけが急性の細菌感染症である理由
第116回医師国家試験 D問題 第8問
国試問題にチャレンジ
急性の細菌感染症はどれか。
- a.癜風
- b.掌蹠膿疱症
- c.膿疱性乾癬
- d.化膿性汗腺炎
- e.伝染性膿痂疹
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
伝染性膿痂疹(とびひ)は表皮の浅い層に細菌が感染して起こる急性の皮膚細菌感染症で、水疱性は黄色ブドウ球菌の表皮剥脱毒素がデスモグレイン1を切断して生じ、痂皮性は主にA群β溶血性連鎖球菌が原因です。掌蹠膿疱症と膿疱性乾癬の膿疱は無菌性で免疫・自己炎症の異常によるもの、化膿性汗腺炎は毛包の閉塞から起こる慢性炎症性疾患で細菌は二次的な関与にとどまり、癜風はマラセチアによる真菌症です。膿痂疹ではMRSAの増加、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群への進展、連鎖球菌感染後の急性糸球体腎炎に注意が必要です。病名の「膿」「化膿性」にとらわれず、病原体と経過という病態の軸で整理することが、皮膚疾患の鑑別と適切な治療選択の基本になります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
皮膚疾患のうち「急性」かつ「細菌」による感染症を選ぶ問題である。条件は二つあるので、選択肢ごとに次の二点を確かめていけばよい。 (1) 病原体による感染症か。感染症なら、その病原体は細菌か、それとも真菌・ウイルスか。 (2) 経過は急性か、慢性・再発性か。
考え方
名前に「膿疱」「化膿性」が入っていても、感染症とは限らない。皮膚科でいう膿疱は、表皮内に好中球などの白血球がたまった小さな隆起を指す形態の用語である。掌蹠膿疱症や膿疱性乾癬の膿疱は、培養しても菌が検出されない無菌性膿疱であり、自己炎症・免疫の異常で生じる。化膿性汗腺炎も、名前に反して本態は毛包の閉塞から起こる慢性炎症性疾患であり、細菌感染は二次的にとどまる。癜風は感染症ではあるが、病原体は真菌(マラセチア)である。 このように整理すると、細菌が直接の原因で、かつ数日の単位で急に発症・拡大するものは伝染性膿痂疹(とびひ)だけになる。
選択肢考察
- ×a. 癜風
皮膚の常在真菌であるマラセチア属(Malassezia、主にM. globosa)が増殖して起こる表在性真菌症であり、細菌感染症ではない。高温多湿の時期や汗をかきやすい若年〜成人に多い。前胸部・背部・頸部・腋窩などの脂漏部位に、境界のはっきりした小さな円形斑が多発し、癒合して広がる。色調は褐色斑(黒色癜風)のことも、脱色素斑(白色癜風)のこともある。表面をこすると細かい糠のような鱗屑(粃糠様落屑)が出るのが特徴である。鱗屑のKOH直接鏡検で、短い菌糸と球状の胞子が混在する像(スパゲッティ・ミートボール像)がみられれば診断できる。経過も急性というより、慢性的に続き再発しやすい。
- ×b. 掌蹠膿疱症
手のひらと足の裏に無菌性の小膿疱が、慢性的に出たり消えたりを繰り返す疾患である。膿疱は小水疱から始まり、膿疱を経て茶褐色の痂皮・鱗屑になる。中年に多く、喫煙が強い増悪因子である。病巣感染(扁桃炎・歯性感染・副鼻腔炎など)や歯科金属アレルギーが発症・悪化に関わるとされ、扁桃摘出や病巣歯の治療、禁煙で改善することがある。ただし、細菌が皮膚で増えているわけではなく、膿疱の内容は無菌である。胸鎖肋関節などの骨関節炎(掌蹠膿疱症性骨関節炎)を伴うことがある。慢性疾患であり、急性の細菌感染症にはあたらない。
- ×c. 膿疱性乾癬
乾癬の病型の一つで、紅斑の上に無菌性膿疱が多発する。特に汎発型膿疱性乾癬は、高熱・全身倦怠感とともに全身の潮紅と膿疱が急速に広がり、低アルブミン血症や電解質異常、循環不全を来しうる重症型で、指定難病である。発症が急激でも、病態は自己炎症・免疫の異常であり(IL-36受容体拮抗因子をコードするIL36RN遺伝子の変異が一部で関与する)、細菌感染症ではない。膿疱を培養しても菌は検出されない。誘因として感染症、妊娠、副腎皮質ステロイド全身投与の中止などがある。
- ×d. 化膿性汗腺炎
思春期以降に発症し、腋窩・鼠径部・臀部・肛門周囲・乳房下など、皮膚がこすれ合う部位(間擦部)に、痛みを伴う結節・膿瘍・瘻孔(皮下のトンネル)を繰り返し作り、瘢痕を残す慢性炎症性疾患である。病名には「汗腺」が入っているが、現在は毛包の上皮が角化して閉塞し、毛包が破綻して炎症を起こすのが本態と考えられている。肥満・喫煙がリスク因子であり、細菌感染は二次的に加わる程度である。慢性・再発性の経過をとり、急性の細菌感染症ではない。重症例には抗TNF-α抗体のアダリムマブなどの生物学的製剤が用いられる。
- ○e. 伝染性膿痂疹
細菌が表皮の浅い層(角層の直下)に感染して起こる、急性の皮膚細菌感染症である。俗に「とびひ」と呼ばれる。病型は二つある。 ・水疱性膿痂疹: 原因は黄色ブドウ球菌。菌が産生する表皮剥脱毒素(exfoliative toxin)が、表皮細胞どうしをつなぐ接着分子デスモグレイン1を切断し、表皮の浅い層が裂けて弛緩性の水疱ができる。夏季に乳幼児・小児に多い。 ・痂皮性膿痂疹: 主にA群β溶血性連鎖球菌(化膿性連鎖球菌)が原因で、黄色ブドウ球菌が混合感染していることも多い。季節や年齢を問わず起こり、厚い痂皮を伴い、発熱やリンパ節腫脹などの全身症状を伴うこともある。アトピー性皮膚炎の患者にも生じやすい。 水疱内容や滲出液に触れた手指を介して、自分の他の部位や周囲の人へ次々と広がるのが名前の由来である。治療は患部の洗浄と抗菌薬(外用、範囲が広ければ内服)である。
膿疱は感染とは限らない
膿疱は、表皮内に好中球などがたまった病変を指す形態の用語である。原因によって次のように分けられる。 ・感染性膿疱: 伝染性膿痂疹、毛包炎、カンジダ症など。内容物から病原体が検出される。 ・無菌性膿疱: 掌蹠膿疱症、膿疱性乾癬、急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP、主に薬剤が原因)、角層下膿疱症など。
主な皮膚細菌感染症
・伝染性膿痂疹: 表皮の浅い層の感染。 ・毛包炎 → せつ(毛包が深くまで化膿したもの)→ よう(隣り合う複数の毛包に及ぶもの): 主に黄色ブドウ球菌。 ・丹毒: 真皮浅層の感染。主にA群β溶血性連鎖球菌。境界のはっきりした、盛り上がった鮮紅色の紅斑が特徴。 ・蜂窩織炎(蜂巣炎): 真皮深層〜皮下脂肪組織の感染。境界は不明瞭。 ・壊死性筋膜炎: 筋膜に沿って急速に広がり、緊急手術(デブリードマン)を要する。 ・ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS): 表皮剥脱毒素が血流に乗って全身に作用し、全身の表皮が剥がれる。主に乳幼児。
伝染性膿痂疹の補足
・原因菌としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の割合が増えており、抗菌薬の選択に注意が要る。 ・水疱性膿痂疹から、上記のSSSSに進展することがある。 ・連鎖球菌による痂皮性膿痂疹では、後に急性糸球体腎炎を合併することがあるため、尿所見を確認する。 ・登園・登校は、病変部を覆えば禁止する必要はないとされる。プールは治るまで控えるのが一般的である。
真菌症との区別
癜風(マラセチア)、白癬(皮膚糸状菌)、カンジダ症(カンジダ)は真菌感染症である。診断はKOH直接鏡検で行う。
POINT
・伝染性膿痂疹(とびひ)は急性の皮膚細菌感染症である。 水疱性: 黄色ブドウ球菌(表皮剥脱毒素がデスモグレイン1を切断する)。夏の小児に多い。 痂皮性: 主にA群β溶血性連鎖球菌。季節・年齢を問わない。急性糸球体腎炎に注意。 ・癜風は真菌(マラセチア)感染症である。KOH鏡検で菌糸と胞子がみられる。 ・掌蹠膿疱症と膿疱性乾癬の膿疱は無菌性である。 ・化膿性汗腺炎は毛包の閉塞から起こる慢性炎症性疾患であり、細菌感染は二次的なものにすぎない。 ・名前に「膿」「化膿性」が入っていても、細菌感染症とは限らない。
