悪寒と高熱、顔に広がる赤い腫れ―丹毒の犯人はA群β溶連菌
第117回医師国家試験 B問題 第31問
国試問題にチャレンジ
65歳の女性。発熱を主訴に来院した。2日前から悪寒を伴う39℃台の発熱と右顔面の痛みが出現したため受診した。鼻閉や鼻汁はない。生来健康で,アレルギー歴や外傷歴はない。意識は清明。体温38.4℃。脈拍92/分,整。血圧134/68mmHg。呼吸数20/分。顔面に右を主体とする腫脹があり,左右差を認める。右額面から,右頰部にかけて硬結と圧痛を伴う浮腫性紅斑を認める。右眼に充血はなく,眼球運動は正常である。顔面の写真を示す。 考えられる病原微生物はどれか。

- a.結核菌
- b.緑膿菌
- c.カンジダ
- d.A群β溶連菌
- e.水痘・帯状疱疹ウイルス
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
悪寒を伴う急な高熱と、片側顔面の境界が比較的明瞭で熱感・硬結・圧痛を伴う浮腫性紅斑がみられれば、真皮浅層の細菌感染症である丹毒を考え、その原因菌として最も多いのはA群β溶連菌です。水疱がないことから帯状疱疹は否定的で、眼所見や鼻症状がないことから眼窩蜂窩織炎や副鼻腔炎も考えにくく、結核菌・緑膿菌・カンジダは経過や患者背景、好発部位が合いません。蜂窩織炎はより深い真皮深層〜皮下脂肪組織の感染で、黄色ブドウ球菌も原因となる点が異なります。治療はペニシリン系抗菌薬が第一選択で、治療後は溶連菌感染後急性糸球体腎炎を尿検査で確認し、急速な進展や激痛、壊死を伴う場合は壊死性筋膜炎を疑います。皮疹の性状と全身症状の組み合わせから原因微生物を推定する考え方は、皮膚・軟部組織感染症の初期対応の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・65歳女性、生来健康。免疫不全の背景はなく、外傷歴やアレルギー歴もない。 ・2日前から、悪寒(寒気・震え)を伴う39℃台の高熱が急に出現し、右顔面の痛みも伴っている。急性の発症で、全身症状が強い。 ・顔面は右側を主体に腫れており、左右差がある。右顔面の額から頰部にかけて、硬く触れ(硬結)、押すと痛む(圧痛)、むくんだ赤い斑(浮腫性紅斑)がある。 ・写真では、右頰部を中心に赤く腫れた紅斑が広がっている。表面に水疱、びらん、痂皮(かさぶた)、落屑(皮膚がはがれ落ちること)は見られない。 ・鼻閉や鼻汁はない。右眼の充血はなく、眼球運動も正常である。 ・バイタルサイン:体温38.4℃、脈拍92/分、呼吸数20/分。発熱と軽い頻脈はあるが、血圧は保たれ、意識も清明である。ショックや敗血症を疑わせる所見はない。
鑑別診断のプロセス
急に始まった片側の顔面の有痛性紅斑と腫脹に、悪寒を伴う高熱が加わっている。このような場合に考える疾患は次のとおりである。 ・丹毒:真皮浅層の細菌感染症で、顔面に多い。急な高熱・悪寒と、境界が比較的はっきりした、触ると熱く、硬く、痛む浮腫性紅斑が特徴である。本例の所見とよく合う。 ・蜂窩織炎:丹毒より深い真皮深層から皮下脂肪組織の細菌感染症である。下肢に多く、紅斑の境界は不明瞭になりやすい。丹毒と蜂窩織炎は、実際の診療では区別がはっきりしないことも多い。 ・帯状疱疹:三叉神経領域に出ると片側の顔面に痛みと紅斑が生じる。しかし通常は、紅斑の上に小水疱が神経の支配領域に沿って帯状に集まって出る。本例では水疱も痂皮もなく、高熱も典型的ではない。眼の症状もない。 ・眼窩蜂窩織炎:眼球運動障害や眼球突出、眼の充血などを伴う。本例では眼の所見が正常であり否定的である。 ・急性副鼻腔炎:鼻閉や膿性鼻汁がないため考えにくい。 以上から、本例は顔面の丹毒と診断できる。
設問への考え方
丹毒の原因菌は主にβ溶血性レンサ球菌(β溶連菌)で、なかでもA群β溶連菌(Streptococcus pyogenes、化膿レンサ球菌)が最も多い。菌は、小さな傷、鼻や耳の周りの皮膚の亀裂、足白癬によるびらんなど、目に見えにくい皮膚のバリアのほころびから侵入する。本例のように外傷歴がはっきりしなくても発症する。
選択肢考察
- ×a. 結核菌
誤り。結核菌による皮膚結核のうち、尋常性狼瘡は顔面に好発する。しかし、赤褐色の小さな結節(狼瘡結節)がゆっくり広がって局面を作り、中心部が瘢痕になる慢性の疾患であり、年単位の経過をとる。2日の経過で高熱と悪寒を伴って急に起こる浮腫性紅斑は、結核の経過とは合わない。
- ×b. 緑膿菌
誤り。緑膿菌は、好中球減少症などの免疫不全患者で壊疽性膿瘡(中心が黒く壊死する潰瘍)を起こしたり、熱傷創、褥瘡、爪周囲、外耳道(悪性外耳道炎)などに感染したりする日和見病原体である。健康な人の顔面に、急性の浮腫性紅斑の形で丹毒様の病変を起こすことはまれであり、本例には当てはまらない。
- ×c. カンジダ
誤り。皮膚カンジダ症は、腋窩、陰股部、乳房の下などの間擦部(皮膚どうしがこすれ合う湿った部位)や指の間に、ふやけた紅斑とその周りの小さな膿疱(衛星病変)を作る。高熱を伴わない浅い感染症であり、顔面に急に有痛性の浮腫性紅斑と高熱を起こすことはない。
- ○d. A群β溶連菌
正しい。丹毒の原因菌として最も多いのがA群β溶連菌である(ほかにG群・C群などのβ溶連菌も原因となり、黄色ブドウ球菌はまれである)。A群β溶連菌は、ストレプトキナーゼやヒアルロニダーゼなどの酵素で組織の中を広がり、真皮浅層とその中のリンパ管に沿って炎症を広げる。このため、悪寒を伴う急な高熱と、境界が比較的明瞭で、熱感・硬結・圧痛を伴う浮腫性紅斑が生じる。血液検査では白血球増加とCRP上昇がみられ、ASO(抗ストレプトリジンO抗体)が上がることもある。治療はペニシリン系抗菌薬が第一選択である。
- ×e. 水痘・帯状疱疹ウイルス
誤り。片側の顔面の痛みと紅斑からは、三叉神経領域の帯状疱疹も鑑別に挙がる。しかし帯状疱疹では、神経の支配領域に沿って、紅斑の上に小水疱が集まって出現し、やがてびらんや痂皮になるのが特徴である。本例の写真には水疱も痂皮もない。また帯状疱疹では、汎発化したり二次感染を合併したりしない限り、39℃台の高熱はあまりみられない。なお、三叉神経第1枝(眼神経)領域の帯状疱疹では結膜炎・角膜炎などの眼合併症に注意が必要で、鼻尖部に皮疹がある(Hutchinson徴候)と眼の合併症が起こりやすい。本例は眼の所見も正常である。
丹毒と蜂窩織炎の比較
・感染の深さ:丹毒は真皮浅層(およびリンパ管)、蜂窩織炎は真皮深層〜皮下脂肪組織である。 ・主な原因菌:丹毒はA群β溶連菌が最も多い。蜂窩織炎は黄色ブドウ球菌とβ溶連菌である。 ・好発部位:丹毒は顔面に多い(下肢にも生じる)。蜂窩織炎は下肢に多い。 ・紅斑の境界:丹毒は比較的明瞭で、周囲より盛り上がることが多い。蜂窩織炎は不明瞭である。 ・全身症状:丹毒では悪寒を伴う急な高熱がよくみられる。 両者は連続した病態であり、臨床的に区別しにくいことも多い。
丹毒の治療と注意点
・ペニシリン系抗菌薬(アモキシシリン内服、重症例ではベンジルペニシリンやアンピシリンの点滴静注など)が第一選択である。β溶連菌はペニシリンに対する耐性がほとんどない。 ・治療期間は10〜14日程度が目安である。症状がよくなっても途中でやめないよう指導する。 ・A群β溶連菌感染後には、急性糸球体腎炎(感染後1〜数週で発症)を合併することがある。治療後に尿検査で血尿・蛋白尿を確認する。 ・手術やリンパ節郭清の後などで、リンパ浮腫がある四肢では、同じ部位に丹毒を繰り返すことがある(習慣性丹毒)。 ・顔面の感染症では、眼窩蜂窩織炎や海綿静脈洞血栓症への進展にも注意する。
見逃してはならない重症の皮膚・軟部組織感染症
壊死性筋膜炎は、A群β溶連菌、Vibrio vulnificus、混合感染などで起こる。皮膚の見た目に比べて痛みが強い、急速に広がる、紫斑・水疱・皮膚壊死・握雪感(皮下のガスによるざくざくした感触)がある、血圧低下がある、といった場合に疑う。A群β溶連菌では劇症型溶血性レンサ球菌感染症(ショックや多臓器不全を起こす)にも注意する。いずれも緊急の外科的デブリドマン(壊死組織の切除)と抗菌薬投与が必要である。
A群β溶連菌が起こす主な疾患
咽頭炎・扁桃炎、猩紅熱、伝染性膿痂疹(痂皮性)、丹毒、蜂窩織炎、壊死性筋膜炎、劇症型溶血性レンサ球菌感染症。感染後の続発症としてリウマチ熱、急性糸球体腎炎がある。
POINT
・顔面の片側の、境界が比較的明瞭で熱感・硬結・圧痛を伴う浮腫性紅斑に、悪寒を伴う急な高熱があれば、丹毒を考える。 ・丹毒の原因菌はA群β溶連菌が最多である。治療はペニシリン系抗菌薬。 ・丹毒は真皮浅層、蜂窩織炎は真皮深層〜皮下脂肪組織の感染症である(蜂窩織炎は黄色ブドウ球菌も多い)。 ・帯状疱疹との鑑別は、神経の支配領域に沿った小水疱の有無で行う。 ・A群β溶連菌感染後は急性糸球体腎炎に注意し、尿検査で確認する。
