「原因をどうお考えですか」―患者の頭の中をのぞく一言、解釈モデル
第117回医師国家試験 B問題 第30問
国試問題にチャレンジ
40歳の女性。心窩部痛を主訴に来院した。医療面接で解釈モデルを把握するための質問はどれか。
- a.「どうされましたか」
- b.「どのような痛みですか」
- c.「最近ストレスはありましたか」
- d.「このような痛みは初めてですか」
- e.「痛みの原因をどのように考えていますか」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
解釈モデルとは、Kleinmanが提唱した、患者が自分の症状や病気の原因・重症度・経過・治療について抱いている考えや信念のことです。把握するには「痛みの原因をどのようにお考えですか」と、患者自身の考えを開かれた形で尋ねるのが基本で、「ストレスはありましたか」のように医師が原因候補を挙げて確認する質問は該当しません。「どうされましたか」は主訴、「どのような痛みですか」は性状、「初めてですか」は経過を聞く質問であり、いずれも医師が診断のために集める情報です。患者の病い体験は感情・解釈・期待・影響(かきかえ)で整理でき、これを把握することで患者の不安に沿った説明が可能になり、納得と信頼関係の構築につながります。
解答・解説
正解はeです
何が問われているか
40歳女性が心窩部痛(みぞおちの痛み)で受診した場面で、医療面接の質問のうち「解釈モデル」を把握するためのものを選ぶ問題である。症状から診断を絞り込む問題ではなく、医療面接で使う用語の意味と質問の目的を正しく対応させられるかが問われている。
解釈モデルとは
解釈モデル(explanatory model)は、医療人類学者Kleinmanが提唱した概念である。患者が自分の症状や病気について抱いている考えを指し、たとえば「なぜこうなったのか(原因)」「どれくらい重いのか(重症度)」「これからどうなるのか(経過・予後)」「どんな検査や治療が必要か」といった判断や信念が含まれる。 医学的に同じ心窩部痛でも、ある患者は「胃がんではないか」と心配し、別の患者は「仕事のストレスのせいだろう」と考えている。こうした考えを知らないまま医学的な説明だけをすると、患者の不安が残ったり、説明に納得できなかったりして、治療への協力が得られにくくなる。
正解を導く考え方
解釈モデルを知るには、医師の側から特定の原因を挙げて確認するのではなく、患者自身の考えを開かれた形で尋ねるのが基本である。「原因についてどうお考えですか」「何か心配な病気はありますか」のような質問がこれに当たる。各選択肢について、「医師が診断のための情報を集める質問」なのか、「患者自身の考えを引き出す質問」なのかを見分ければよい。
選択肢考察
- ×a. 「どうされましたか」
誤り。受診の理由である主訴を聞き出すための質問である。患者が自由に答えられる開放型質問(open-ended question)で、面接の最初に使うのが一般的である。ただし、この質問で聞いているのは「何に困って来たか」であり、症状の原因を患者がどう考えているかを直接尋ねるものではない。
- ×b. 「どのような痛みですか」
誤り。痛みの性状(鈍痛、灼熱感、差し込むような痛みなど)を確認する質問であり、現病歴を聴取する際の焦点を絞った質問(focused question)に当たる。痛みを評価する項目(部位、性状、強さ、発症の仕方、持続時間、増悪・寛解因子、随伴症状など)の一つを聞いて、医師が鑑別診断を進めるための情報である。患者の解釈を尋ねるものではない。
- ×c. 「最近ストレスはありましたか」
誤り。心窩部痛には、ストレスが関わる機能性ディスペプシア(内視鏡などで異常がないのに胃もたれやみぞおちの痛みが続く病態)や消化性潰瘍などがある。この質問は、そうした誘因や心理社会的背景を医師が確かめる閉鎖型質問(はい・いいえで答える質問)である。原因の候補を挙げているのは医師であり、患者が自分の症状をどう考えているかを引き出すものではない。むしろ、医師の考えを患者に押しつけるおそれもある。
- ×d. 「このような痛みは初めてですか」
誤り。同じような痛みが以前にもあったか(初発か再発か、繰り返しているか)を確かめる閉鎖型質問であり、症状の経過や既往歴を聴取するためのものである。急な発症か慢性・反復性かは鑑別に役立つが、患者の解釈を尋ねるものではない。
- ○e. 「痛みの原因をどのように考えていますか」
正しい。症状の原因について患者自身の考えを開かれた形で尋ねており、解釈モデルを把握するための典型的な質問である。この質問によって「胃がんではないかと心配している」「最近飲んでいる痛み止めのせいかもしれない」といった患者の考えや不安がわかる。それに応じた説明や検査計画を立てることで、患者の納得と信頼関係(ラポール)が得られやすくなる。
患者中心の医療面接で把握する「患者の病い体験」
医療面接では、医学的な疾患(disease)の情報に加え、患者が体験している病い(illness)を理解することが重要とされる。病い体験は次の4つの要素で整理され、頭文字をとって「かきかえ」と覚えることがある。 ・感情(不安、心配、恐れなど):「何か心配なことはありますか」 ・解釈(解釈モデル):「原因についてどのようにお考えですか」 ・期待(受診や医療に何を望んでいるか、受療行動への期待):「今日はどのようなことを希望されて来られましたか」 ・影響(症状が日常生活や仕事に与えている影響):「痛みのために生活で困っていることはありますか」 英語圏ではFIFE(Feelings, Ideas, Function, Expectations)と呼ばれ、このうちIdeasが解釈モデルに相当する。
質問法の種類
・開放型質問(open-ended question):「どうされましたか」など、患者が自由に答えられる質問。情報が豊富に得られ、患者の考えや感情も表に出やすい。面接の初めに用いる。 ・焦点を絞った質問(focused question):「どのような痛みですか」など、話題を限定しつつ自由に答えてもらう質問。 ・閉鎖型質問(closed question):「初めてですか」「ストレスはありましたか」など、はい・いいえで答える質問。情報を確認するのに適しているが、多用すると患者の話を狭めてしまう。 ・誘導的な質問や、複数のことを一度に聞く質問は避ける。
Kleinmanの解釈モデルに含まれる主な問い
病気の名前は何だと思うか、原因は何か、なぜ今起こったのか、体にどんなことが起きているか、どれくらい重いか、どんな治療を望むか、一番恐れていることは何か、など。
POINT
・解釈モデル=患者が自分の症状・病気の原因、重症度、経過、治療などについて抱いている考えや信念(Kleinman)。 ・把握するには「原因をどのようにお考えですか」と、患者自身の考えを開かれた形で尋ねる。 ・医師が原因の候補を挙げて確認する質問(「ストレスはありましたか」)は、解釈モデルを聞く質問ではない。 ・患者の病い体験は「かきかえ」(感情・解釈・期待・影響)で整理する。 ・質問法の使い分け:開放型 → 焦点を絞った質問 → 閉鎖型。
