StudyMed医師国家試験

「生活に変化はありましたか」―患者中心型モデルが聴きたいのは“病い”の物語

第120回医師国家試験 B問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第120回 B問題 第1問

患者中心型モデルに基づく面接に配慮した質問はどれか。

  1. a.「いつから熱が続いていますか」
  2. b.「血縁者に病気の方はいますか」
  3. c.「喫煙歴について教えてください」
  4. d.「この薬は過去に服用したことがありますか」
  5. e.「病気をされてから,何か生活に変化がありましたか」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医療面接の質問の仕方がテーマだ。選択肢はどれも外来で実際によく使う質問だけど、「誰の関心に沿った質問か」という視点で見直すと、一つだけ性格の違うものが見えてくる。まず、患者中心型モデルという言葉からどんなイメージを持つかな。
医学生医学生
患者さんに優しく、丁寧に話を聞くこと……でしょうか。OSCEの医療面接でも「共感的な態度」を何度も練習しました。
ドクタードクター
態度も大事だけど、それだけではないんだ。患者中心型モデルは、医師が診断のために捉える「疾患(disease)」に加えて、患者自身がその病気をどう体験しているかという「病い(illness)」にも目を向け、両方を統合して患者を理解しようとする方法論なんだ。カナダのMcWhinneyやStewartらが体系化した。
医学生医学生
疾患と病いを分けて考えるんですね。同じ病名でも、患者さんによって困っていることは違う、ということですか。
ドクタードクター
その通り。同じ糖尿病でも、ある人は失明が怖い、ある人は仕事の会食で食事制限が守れないことに悩んでいる。この病いの経験を探るときに使われるのがFIFEという4つの視点だ。Feelings(感情)、Ideas(解釈)、Function(生活機能への影響)、Expectations(期待)。
医学生医学生
FIFEは臨床医学総論の講義で聞いた気がします。とすると、病気をしてから生活に変化があったかを尋ねる質問は、Functionを聞いているわけですね。
ドクタードクター
正解だ。しかもこの質問は、患者が自分の言葉で自由に語れる開放型の質問になっている。生活の変化を話してもらううちに、不安や医療への期待といった他の要素も自然と出てきやすい。患者中心型モデルを意識した質問として最もふさわしい。
医学生医学生
でも、喫煙歴を「教えてください」と聞く質問も、自由に答えられる形なので開放型っぽく見えて迷いました。
ドクタードクター
鋭いね。形は「教えてください」でも、話題は喫煙という医師が指定した項目に限定されている。目的も危険因子の確認、つまり疾患のリスク評価だ。患者がどう病気を体験しているかを探る質問ではないんだ。
医学生医学生
熱がいつから続いているかを聞く質問は、鑑別診断に欠かせない時間経過の情報ですよね。
ドクタードクター
そう。答えの範囲が限られた焦点を絞った質問で、現病歴の把握のために医師が必要とする情報だ。血縁者の病気を尋ねる家族歴、過去にその薬を飲んだことがあるかを尋ねる薬歴も同じで、「はい/いいえ」で答えられる閉鎖型の質問。遺伝性疾患の評価や安全な処方には欠かせないけれど、医師側の目的に沿った情報収集だね。
医学生医学生
つまり残りの4つはどれも病歴聴取に必要だけど、疾患を捉えるための医師中心の質問で、病いの経験を引き出すものではない、ということですね。
ドクタードクター
その理解で完璧。誤解してほしくないのは、患者中心型だから医学的情報を聞かなくていいわけではないこと。疾患と病いの両方を並行して探るのがこのモデルの本質だ。ちなみに現在の枠組みは4つの構成要素からなる。病いの経験の探求、全人的な理解、共通基盤の構築、患者-医師関係の強化だ。
医学生医学生
共通基盤の構築というのは、治療方針を患者さんと一緒に決めるということですか。
ドクタードクター
そうだね。何が問題か、何を目標にするか、医師と患者がそれぞれ何を担うかについて合意を作ることだ。総合診療科の外来で、治療の選択肢を説明したあとに「どれが生活に合いそうですか」と尋ねる場面を見なかったかな。
医学生医学生
見ました。あと、指導医の先生が「ご自分では何が原因だと思われますか」と聞いていて、なぜそんなことを聞くのか不思議でした。
ドクタードクター
それはKleinmanが提唱した解釈モデルを引き出す質問で、FIFEのIdeasにあたる。患者が「がんではないか」と心配しているなら、検査結果の説明でそこに直接答えないと、いくら正確な説明でも安心してもらえない。面接の流れとしては、開放型の質問から始めて徐々に焦点を絞り、最後に閉鎖型で確認する、という順序が勧められている。閉鎖型ばかり続けると、患者は話したいことを話せなくなってしまうからね。

まとめ

患者中心型モデルは、医師が診断のために捉える「疾患」と、患者が主観的に体験する「病い」の両方を探り、統合して理解する医療面接の方法論です。病いの経験は、感情(Feelings)・解釈(Ideas)・生活機能への影響(Function)・期待(Expectations)のFIFEで探り、「病気をされてから生活に変化がありましたか」はFunctionを開放型質問で尋ねる典型例です。発症時期、家族歴、喫煙歴、薬歴の確認は病歴聴取に不可欠ですが、医師の診断上の関心に沿った情報収集であり、患者中心型の質問とは区別されます。現在のモデルは病いの経験の探求、全人的な理解、共通基盤の構築、患者-医師関係の強化の4要素からなり、解釈モデルの聴取も含めて、患者が納得できる診療を実現するための土台となります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

患者中心型モデル(患者中心の医療の方法、patient-centered clinical method)に基づく面接で、特に意識して用いる質問を選ぶ問題である。

患者中心型モデルとは

従来の医療面接は、医師が疾患(disease)を診断するために必要な情報を、医師の側から順に聞き取っていく「医師中心型(疾患中心型)」の進め方が中心であった。これに対し患者中心型モデルは、生物医学的な疾患の把握に加えて、患者自身がその病気をどのように体験しているか(病い、illness)にも目を向け、両者を統合して患者を理解しようとする考え方である。1980年代にカナダのMcWhinneyやStewartらのグループを中心に体系化された。 現在広く用いられる枠組みでは、次の4つの構成要素からなる。 1. 健康・疾患・病いの経験の探求 2. 全人的な理解(家族、仕事、地域など患者を取り巻く背景を含めて理解する) 3. 共通基盤(共通理解)の構築(問題点、治療目標、役割分担について患者と医師が合意する) 4. 患者-医師関係の強化 「病いの経験」を探る際には、FIFEと呼ばれる4つの視点が用いられる。 ・Feelings(感情):病気についてどう感じているか、何を心配しているか ・Ideas(解釈):病気の原因や意味をどう考えているか ・Function(機能への影響):病気によって日常生活や仕事、家庭での役割がどう変わったか ・Expectations(期待):医師や医療に何を望んでいるか

正解を導く考え方

選択肢a〜dは、いずれも医師が診断や処方の安全確認のために必要とする特定の医学的情報(現病歴の時間経過、家族歴、生活歴、薬歴)を、医師の関心に沿って聞き取る質問である。病歴聴取として重要ではあるが、患者の病いの体験を引き出す質問ではない。これに対しeは、病気が患者の生活にどのような影響を及ぼしているかを、患者自身の言葉で自由に語ってもらう開放型の質問であり、FIFEのうち「機能への影響(Function)」を探る、患者中心型モデルを意識した質問である。

選択肢考察

  1. ×a.  「いつから熱が続いていますか」

    発熱の始まりという特定の事実を尋ねる質問で、答えの範囲が限られた焦点を絞った質問(focused question)にあたる。現病歴の時間経過を把握し、疾患を鑑別するために医師が必要とする情報であり、患者の病いの経験(感情・解釈・生活への影響・期待)を引き出すものではない。

  2. ×b.  「血縁者に病気の方はいますか」

    家族歴の聴取であり、「はい/いいえ」で答えられる閉鎖型の質問(closed question)である。遺伝性疾患のリスク評価などに重要な情報だが、医師の診断上の関心に基づく質問であって、患者が病気をどう体験しているかに焦点を当てたものではない。

  3. ×c.  「喫煙歴について教えてください」

    「教えてください」という形をとっているが、話題は喫煙という医師が指定した項目に限定されており、生活歴(危険因子)を確認するための質問である。疾患のリスク評価には欠かせないが、患者の病いの体験を探るという患者中心型の観点からの質問ではない。

  4. ×d.  「この薬は過去に服用したことがありますか」

    薬歴を確認する「はい/いいえ」型の閉鎖型質問である。副作用歴や効果の確認など安全な処方のために必要な情報だが、医師側の目的に沿った情報収集であり、患者中心型モデルを意識した質問とはいえない。

  5. ○e.  「病気をされてから,何か生活に変化がありましたか」

    患者が自由に答えられる開放型の質問(open-ended question)で、病気が日常生活・仕事・家庭での役割などに与えた影響を患者自身の視点から語ってもらうものである。患者中心型モデルの第1の構成要素「病いの経験の探求」のうち、FIFEの「機能への影響(Function)」を探る質問にあたり、そこから患者の不安(Feelings)や期待(Expectations)など、さらに病いの経験を理解する手がかりも得られる。

疾患(disease)と病い(illness)

・疾患:医学的に定義される身体の構造や機能の異常で、診察・検査によって医師が把握するもの。 ・病い:患者がその病気を主観的にどう体験しているか。不安や恐れ、原因についての考え、生活への支障、医療への期待などを含む。 ・同じ疾患でも、病いの体験は患者ごとに大きく異なる。患者中心型モデルでは両者を並行して探り、統合して理解する。

患者中心型モデルの4つの構成要素

1. 健康・疾患・病いの経験の探求:疾患の診断に加え、FIFE(感情・解釈・機能への影響・期待)を探る。患者にとっての健康の意味や価値観も含める。 2. 全人的な理解:個人の発達段階や人生の経緯、家族・職場・地域社会・文化といった背景(近位・遠位のコンテクスト)を含めて患者を理解する。 3. 共通基盤の構築:問題が何か、何を目標にするか、医師と患者それぞれが何を担うかについて合意を形成する。 4. 患者-医師関係の強化:信頼関係、共感、継続性を通じて治療的な関係を築く。 ※初期の枠組みでは「予防と健康増進の組み込み」「現実的であること(時間や資源の制約を考慮)」を加えた6要素とされていたが、改訂により4要素に整理された。

医療面接における質問法

・開放型質問(open-ended question):「今日はどうなさいましたか」のように患者が自由に話せる質問。患者の考えや感情を引き出しやすく、面接の導入や病いの経験の探求に適する。 ・焦点を絞った質問(focused question):「痛みはどのようなときに強くなりますか」など、話題を限定しつつ答え方は自由な質問。 ・閉鎖型質問(closed question):「はい/いいえ」や単語で答える質問。事実の確認に有用だが、多用すると患者が話しにくくなる。 ・一般に、開放型質問から始めて徐々に焦点を絞り、最後に閉鎖型質問で確認していく流れ(開放型から閉鎖型へ)が勧められる。

解釈モデル

・患者が自分の病気について抱いている考え(原因、病状の重さ、経過、望む治療など)を解釈モデルという。Kleinmanが提唱した概念で、「ご自分では何が原因だとお考えですか」「どのような検査や治療を望まれていますか」といった質問で引き出す。これも患者中心型の面接で重視される。

POINT

・患者中心型モデルは「疾患」と「病い(患者の主観的体験)」の両方を探り、統合して理解する。 ・構成要素は、病いの経験の探求、全人的な理解、共通基盤の構築、患者-医師関係の強化の4つ。 ・病いの経験はFIFE(Feelings感情、Ideas解釈、Function生活機能への影響、Expectations期待)で探る。 ・「病気になって生活がどう変わったか」は、機能への影響を開放型質問で尋ねる患者中心型の質問である。 ・発症時期、家族歴、喫煙歴、薬歴の確認は医師主導の情報収集であり、病歴聴取には必須だが患者中心型の質問とは区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。