StudyMed医師国家試験

シックデイが招いた糖尿病ケトアシドーシス―血清浸透圧を「3つの物質」で読み解く

第120回医師国家試験 A問題 第75問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第75問

10歳の女児。嘔吐を主訴に母親に連れられて受診した。8歳時に1型糖尿病と診断され,インスリン強化療法を行っている。昨夜から発熱と嘔吐があり,食事がとれずインスリン注射を行っていなかった。意識は傾眠状態。身長140cm(+0.5 SD),体重38kg。体温37.5℃。脈拍132/分,整。血圧100/44mmHg。呼吸数35/分。SpO2 100%(room air)。口腔内と皮膚は乾燥し,皮膚ツルゴールの低下を認める。尿所見:糖3+,ケトン体4+。血液生化学所見:総蛋白7.2g/dL,アルブミン4.3g/dL,尿素窒素56mg/dL,クレアチニン1.7mg/dL,随時血糖918mg/dL,HbA1c 8.0%(基準4.9~6.0),Na 122mEq/L,K 6.3mEq/L,Cl 81mEq/L。静脈血ガス分析:pH 7.07,PCO2 25Torr,HCO3- 7mEq/L。 この患者の血清浸透圧の予想値を求めよ。 ただし,小数点以下の数値が得られた場合は,小数第1位を四捨五入すること。 解答:①②③mOsm/kgH2O

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、1型糖尿病の子どもがシックデイにインスリンを打たなかった結果どうなったかを把握したうえで、血清浸透圧を計算する問題だ。まず病態を整理して、それから計算式の意味を一緒に確認していこう。全体像から見て、何が起きていると考える?
医学生医学生
著明な高血糖と尿ケトン体強陽性、pHも低いので、糖尿病ケトアシドーシスだと思います。
ドクタードクター
その通り。HCO3-が7mEq/LとpHの低下が高度な代謝性アシドーシスで、PCO2が下がっているのは呼吸による代償だ。頻呼吸はKussmaul呼吸を反映していると考えられる。アニオンギャップを計算すると122から81と7を引いて34と大きく開大していて、ケト酸の蓄積で説明できる。
医学生医学生
血糖が900mg/dLを超えているので、高浸透圧高血糖状態との鑑別も気になりました。
ドクタードクター
いい着眼点だね。高浸透圧高血糖状態は高齢の2型糖尿病に多く、インスリンがある程度残っているのでケトン体産生は少なく、アシドーシスは目立たない。今回は小児の1型糖尿病で、高度のケトアシドーシスを伴うからDKAと判断する。ただし実臨床では、両者の要素が重なることもある点は覚えておこう。
医学生医学生
それで、血清浸透圧の計算式は2×Na+血糖/18+BUN/2.8でしたよね。生理学の講義で丸暗記しました。
ドクタードクター
その式で正解だ。せっかくだから中身も理解しておこう。Naを2倍するのは、Na+には必ずClやHCO3-などの陰イオンが伴っていて、その分も浸透圧として数えるためだ。血糖を18で割るのは、ブドウ糖の分子量が180で、mg/dLをmmol/Lに直すには10倍して180で割るから。
医学生医学生
BUNの2.8も同じ発想ですか。尿素の分子量は60だったような……。
ドクタードクター
惜しい。BUNは尿素そのものではなく、尿素に含まれる窒素の量で表しているんだ。尿素1分子には窒素原子が2つあって、その質量は28。だから10倍して28で割る、つまり2.8で割ることになる。
医学生医学生
なるほど、BUNの「N」がポイントなんですね。では代入すると、2×122で244、918÷18で51、56÷2.8で20、合計315mOsm/kgH2Oです。
ドクタードクター
正解。どれも割り切れるから四捨五入も不要だね。基準値がおよそ275から290だから、明らかに高浸透圧だ。ところで、Naが122と低いのに浸透圧は高い。この矛盾をどう説明する?
医学生医学生
高血糖で細胞外の浸透圧が上がって、細胞内から水が出てきてNaが薄まった、ということでしょうか。
ドクタードクター
その通り。脂質や蛋白が多いせいで測定上低く出る偽性低Na血症とは区別して、高血糖による希釈性の低Na血症と考える。真のNa状態をみるには補正Naを使う。血糖が100mg/dLを超える分、100mg/dLごとに約1.6mEq/L足すと、今回はおよそ135mEq/Lで、高血糖を除けばほぼ正常範囲になる。治療で血糖が下がるとNaは上がってくるから、その推移も追う必要がある。
医学生医学生
カリウムが6.3と高いのも気になります。補充はいらないんでしょうか。
ドクタードクター
ここは臨床でとても大事なところだ。高K血症はインスリン不足、アシドーシス、高浸透圧で細胞内のKが外に出てきたことと、腎機能低下によるもの。でも尿中にKが失われているから、体内の総K量はむしろ欠乏していることが多い。インスリンと輸液を始めるとKは一気に細胞内へ戻って低K血症になりうるから、頻回に測定して、下がってきたら尿量を確認したうえで補充する。
医学生医学生
見かけは高いのに、実は足りていないんですね。小児科の実習でDKAの子の輸液を見たとき、K入りの輸液に切り替えていた理由がやっとわかりました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。発展的な話をすると、尿素は細胞膜を自由に通るので水の移動にはほとんど関与しない。水の移動を決める有効浸透圧は2×Na+血糖/18で、今回は295になる。意識障害の程度はこちらと相関しやすいんだ。また、実測浸透圧と計算値の差を浸透圧ギャップといい、開大していればメタノールやエチレングリコールなど式に含まれない物質を疑う。
医学生医学生
治療では、早く浸透圧を下げたほうがいいように思ってしまいますが。
ドクタードクター
そこが小児DKAの落とし穴だ。急速・大量の輸液や急激な浸透圧低下は脳浮腫のリスクになるので、生理食塩水を中心に循環を回復させつつ、速効型インスリンの少量持続静注で血糖をゆっくり下げる。重炭酸ナトリウムは原則として使わない。そして何より予防が大切で、シックデイでも基礎インスリンは自己判断で中止しない、ケトン体を測る、嘔吐が続けば早めに受診する、といったシックデイ・ルールを患者と家族に教えておくことが重要だ。
医学生医学生
計算問題でも、背景の病態とつなげて考えると治療の注意点まで見えてきますね。
ドクタードクター
その通り。式の意味がわかっていれば、Naや血糖の値を見ただけで浸透圧の変化や水の動きがイメージできるようになる。それが急性期の安全な管理につながるんだ。

まとめ

1型糖尿病患者がシックデイにインスリンを中断すると、インスリンの絶対的欠乏から脂肪分解とケトン体産生が進み、アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスを伴う糖尿病ケトアシドーシスを来します。血清浸透圧は2×Na+血糖/18+BUN/2.8で推定でき、18はブドウ糖の分子量180、2.8は尿素中の窒素の質量28に由来し、本例では244+51+20=315mOsm/kgH2Oとなります。高血糖時の低Na血症は細胞内からの水移動による希釈で補正Naで評価し、高K血症でも体内総Kは欠乏しているため治療開始後の低K血症に注意が必要です。尿素を除いた有効浸透圧や浸透圧ギャップの考え方、小児での脳浮腫予防、シックデイ・ルールの教育まで含めて理解しておくと、計算問題の知識がそのまま急性期管理と予防の実践に生きてきます。

解答・解説

正解は315mOsm/kgH2Oです

所見の整理

・10歳女児。8歳で1型糖尿病と診断され、インスリン強化療法(基礎インスリン+食事ごとの追加インスリンを頻回注射で補う方法)中である。 ・前夜から発熱・嘔吐があり、食事がとれないためインスリンを自己判断で打っていなかった。これは糖尿病患者が感染症などで体調を崩した状態、すなわちシックデイ(sick day)であり、その対応を誤った典型的な経過である。 ・意識は傾眠、脈拍132/分の頻脈、血圧100/44mmHgとやや低く、口腔内・皮膚の乾燥と皮膚ツルゴール低下から高度の脱水がある。 ・呼吸数35/分の頻呼吸は、代謝性アシドーシスを呼吸で代償しようとする深く速い呼吸(Kussmaul呼吸)を反映していると考えられる。 ・尿糖3+、尿ケトン体4+、随時血糖918mg/dLと著明な高血糖とケトーシスがある。HbA1c 8.0%は、慢性的な血糖管理がやや不十分であることを示す。 ・静脈血ガスはpH 7.07、HCO3- 7mEq/L、PCO2 25Torrで、高度の代謝性アシドーシスに呼吸性代償が加わった状態である。アニオンギャップ(AG)=Na-(Cl+HCO3-)=122-(81+7)=34mEq/Lと著明に開大しており、ケト酸(アセト酢酸・3-ヒドロキシ酪酸)の蓄積で説明できる。 ・BUN 56mg/dL、Cr 1.7mg/dLで、BUN/Cr比は約33と高く、脱水による腎前性急性腎障害が示唆される。 ・Na 122mEq/Lの低ナトリウム血症は、高血糖で細胞外液の浸透圧が上がり細胞内から水が移動してNaが希釈された結果である(高血糖による偽性ではない「希釈性」の低Na、いわゆるみかけ上の低Na血症)。 ・K 6.3mEq/Lの高カリウム血症は、インスリン作用不足(インスリンはKを細胞内に取り込ませる)、アシドーシス、高浸透圧による細胞内からのK移動、腎機能低下による。体内総K量はむしろ尿中喪失で欠乏していることが多い点が重要である。

診断

1型糖尿病患者のシックデイにおけるインスリン中断を契機とした糖尿病ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis:DKA)である。著明な高血糖と脱水を呈する鑑別として高浸透圧高血糖状態(hyperosmolar hyperglycemic state:HHS)があるが、HHSは高齢の2型糖尿病患者に多く、ケトン体は陰性〜軽度陽性でアシドーシスは原則として目立たない。本例は小児の1型糖尿病で高度のケトアシドーシスを伴うためDKAと判断できる。

血清浸透圧の計算

血清浸透圧の推定値は、血液中の主な浸透圧物質であるNa(陰イオンを伴うため2倍)、ブドウ糖、尿素の寄与を足し合わせて求める。  血清浸透圧(mOsm/kgH2O)≒ 2×Na(mEq/L)+血糖(mg/dL)/18 + BUN(mg/dL)/2.8 ・血糖を18で割るのは、ブドウ糖の分子量が180であり、mg/dLをmmol/Lに換算する(×10÷180)ためである。 ・BUNを2.8で割るのは、尿素1分子に含まれる窒素2原子の質量が28であり、同様にmg/dLをmmol/Lに換算する(×10÷28)ためである。 本例に代入すると、  2×Na = 2×122 = 244  血糖/18 = 918/18 = 51  BUN/2.8 = 56/2.8 = 20  合計 = 244+51+20 = 315 いずれも割り切れるため四捨五入は不要で、血清浸透圧の予想値は315mOsm/kgH2Oとなる(基準値はおよそ275〜290mOsm/kgH2O)。

有効浸透圧と補正Na

・尿素は細胞膜を自由に通過するため、細胞内外の水の移動にはほとんど関与しない。水の移動を決める「有効浸透圧(張度)」は 2×Na+血糖/18 で計算し、本例では 244+51=295mOsm/kgH2O となる。意識障害の程度は有効浸透圧と相関しやすい。 ・高血糖では細胞内から水が移動してNaが希釈されるため、血糖値で補正したNa(補正Na)で真のNa状態を評価する。一般に血糖が100mg/dLを超える分100mg/dLごとにNaを約1.6mEq/L(2.4mEq/Lとする報告もある)加える。本例では 122+1.6×(918-100)/100 ≒ 135mEq/L となり、高血糖を除けばNaはほぼ正常範囲である。治療で血糖が下がるとNaは上昇してくるので、その推移に注意する。

浸透圧ギャップ

・実測浸透圧から計算浸透圧を引いた値を浸透圧ギャップといい、通常は10mOsm/kgH2O程度以下である。開大している場合は、エタノール、メタノール、エチレングリコール、マンニトールなど、計算式に含まれない浸透圧物質の存在を考える。

DKAとHHSの比較

・DKA:主に1型糖尿病、若年者。インスリンの絶対的欠乏により脂肪分解が進み、ケトン体が産生されてアニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスを来す。血糖は250mg/dL以上が目安で、HHSほど高くならないことも多い。腹痛・嘔吐、Kussmaul呼吸、アセトン臭を伴う。 ・HHS:主に高齢の2型糖尿病。インスリンがある程度残っているためケトン産生は少なく、アシドーシスは軽度か認めない。血糖は600mg/dL以上と著明に高く、血清浸透圧は320mOsm/kgH2O以上と高度で、著しい脱水と意識障害を来しやすい。 ・本例のように両者の要素(高度高血糖・高浸透圧とケトアシドーシス)が重なることもある。

DKAの治療の原則

・まず生理食塩水を中心とした輸液で循環血漿量を回復させる(小児では脳浮腫の危険があるため、急速・大量の輸液や急激な浸透圧低下を避ける)。 ・速効型インスリンの少量持続静注で血糖とケトーシスを是正する。血糖を急激に下げすぎない。 ・インスリン投与と輸液によりKは細胞内へ移動して急速に低下するため、血清Kを頻回に測定し、K値が下がってきたら(尿量を確認のうえ)Kを補充する。 ・重炭酸ナトリウムの投与は、原則として行わない(極めて高度のアシドーシス時などに限られる)。

シックデイ・ルール

・発熱・嘔吐・下痢などで食事がとれないときでも、1型糖尿病では基礎インスリンを自己判断で中止してはならない。ストレスホルモンの作用でむしろインスリン需要が増えることがある。 ・水分・炭水化物の摂取を心がけ、血糖や尿・血中ケトン体を頻回に測定する。嘔吐が続く、ケトン体強陽性、意識が低下するなどの場合は速やかに医療機関を受診するよう、あらかじめ患者・家族を教育しておく。

POINT

・血清浸透圧(mOsm/kgH2O)≒ 2×Na+血糖/18+BUN/2.8。分母の18はブドウ糖分子量180、2.8は尿素窒素の28に由来する。 ・本例:2×122+918/18+56/2.8=244+51+20=315mOsm/kgH2O。 ・有効浸透圧(張度)は尿素を除いた 2×Na+血糖/18 で評価する。 ・高血糖時の低Na血症は細胞内からの水移動による希釈で、補正Naで評価する。 ・1型糖尿病のシックデイでインスリンを中断するとDKAを来す。基礎インスリンは中止しないよう教育する。 ・DKAの高K血症は細胞外へのシフトによるもので、体内総Kは欠乏している。治療開始後の低K血症に注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。