StudyMed医師国家試験

脚のしびれが腸閉塞の犯人を告げる―Howship-Romberg徴候で見抜く閉鎖孔ヘルニア

第120回医師国家試験 D問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第28問

75歳の女性。腹痛と嘔吐を主訴に来院した。2日前から排便と排ガスがなく,徐々に腹部膨満が出現してきた。今朝から腹痛と嘔吐が出現したため受診した。既往歴は骨粗鬆症で治療中である。3年前に子宮筋腫で子宮全摘術を受けた。喫煙は20本/日を30年間。飲酒は日本酒1合/日を30年間。意識は清明。身長160cm,体重75kg。体温36.9℃。脈拍112/分,整。血圧148/74mmHg。SpO2 97%(room air)。①腹部膨隆を認める。②腹部全体に軽度の圧痛を認めるが,③反跳痛を認めない。④筋性防御を認めない。⑤左股関節の伸展,外転により下肢の痛みやしびれを認める。直腸指診で異常を認めない。血液所見:赤血球410万,Hb 13.0g/dL,Ht 40%,白血球9,600,血小板27万。血液生化学所見:総蛋白6.4g/dL,アルブミン3.0g/dL,AST 25U/L,ALT 15U/L,尿素窒素35mg/dL,クレアチニン1.0mg/dL。CRP 2.5mg/dL。腹部単純CT(A,B)を下に示す。  下線部のうち,この患者の腸閉塞の原因に特徴的な所見はどれか。

第120回 D問題 第28問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は高齢女性の腸閉塞で、その「原因」を身体所見から見抜けるかを問う問題だ。下線部の所見は5つあるけれど、それぞれが「腸閉塞があること」「腹膜炎があるかどうか」「腸閉塞の原因」のどれを示しているのかを仕分けるのがポイントになる。まず、腸閉塞の原因として一番多いものは何だったかな。
医学生医学生
開腹手術後の癒着です。この方は子宮全摘術を受けているので、最初は癒着性腸閉塞かと思いました。
ドクタードクター
その発想は正しいよ。手術歴のある人の腸閉塞なら、癒着はまず考えるべき候補だ。高齢者なら大腸癌による閉塞も忘れてはいけない。ただ、この問題には腹部とは一見関係なさそうな所見が1つ混じっているね。
医学生医学生
左の股関節を伸展・外転すると脚が痛んだりしびれたりする、というところですね。整形外科的な問題が偶然合併しているのかと思っていました。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。これはHowship-Romberg徴候と呼ばれる所見で、閉鎖孔ヘルニアを疑う最も重要な手がかりになる。解剖から考えてみよう。閉鎖孔は大部分が閉鎖膜で覆われているけれど、上外側に閉鎖管という隙間があって、そこを閉鎖神経と閉鎖動静脈が通っている。
医学生医学生
解剖実習で骨盤を剖出したとき、閉鎖神経が閉鎖管をくぐって大腿の内転筋群に向かうのを確認しました。
ドクタードクター
よく覚えているね。閉鎖神経は腰神経叢のL2〜L4から起こり、内転筋群を支配するとともに大腿内側の皮膚感覚を担っている。この閉鎖管に小腸が入り込んで嵌頓すると、閉鎖神経が圧迫される。股関節を伸展・外転・内旋すると周囲の筋が緊張して圧迫がさらに強まり、大腿内側から膝にかけて痛みやしびれが放散するわけだ。
医学生医学生
だから脚の症状なのに、腸閉塞の原因を直接示す所見になるんですね。CTではどう確認するのでしょうか。
ドクタードクター
拡張した小腸と鏡面像があって腸閉塞であることがわかり、さらに左の恥骨筋と外閉鎖筋の間に脱出した腸管が描出されている。これで左閉鎖孔ヘルニア嵌頓による腸閉塞と診断できる。では残りの下線部も整理しよう。腹部膨隆と、腹部全体の軽い圧痛はどうかな。
医学生医学生
閉塞部より口側の腸管にガスや腸液がたまって膨らむので、原因に関係なく腸閉塞ならみられる所見だと思います。
ドクタードクター
その通り。どちらも腸閉塞一般の非特異的な所見で、原因を絞る手がかりにはならない。むしろ閉鎖孔ヘルニアは脱出部が深い筋層の下にあるから、鼠径ヘルニアのように外から膨らみとして見えたり触れたりすることはまずないんだ。
医学生医学生
反跳痛と筋性防御がないことはどう考えればいいですか。OSCEの腹部診察で必ず確認する項目ですが。
ドクタードクター
これらは腹膜刺激徴候で、壁側腹膜に炎症が及んでいるかどうかの評価だ。ないということは、現時点で穿孔や腸管壊死による腹膜炎がはっきりしない可能性を示すだけで、どんな原因の腸閉塞にもあてはまる。注意したいのは、腹膜刺激徴候がないからといって絞扼、つまり血流障害を否定できるわけではないことだ。
医学生医学生
腹膜刺激徴候は重症度の評価、Howship-Romberg徴候は原因の特定、と役割が違うんですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展知識も押さえておこう。閉鎖孔ヘルニアは典型的には「やせた高齢の経産婦」に多い。骨盤が広いこと、出産による骨盤底の脆弱化、加齢やるいそうで閉鎖管周囲の脂肪が減ることが関係している。今回の方は体格がよく典型像からは外れるけれど、所見とCTがそろえば診断は揺るがない。
医学生医学生
典型的な患者像だけに頼ると見逃しかねない、ということですね。ほかに閉鎖神経の圧迫を示す所見はありますか。
ドクタードクター
膝蓋腱反射は保たれるのに内転筋反射が消える、Hannington-Kiff徴候というものがある。また腸管壁の一部だけが嵌頓するRichter型が多く、完全閉塞にならず症状が軽かったり間欠的だったりして、診断が遅れやすいのも特徴だ。
医学生医学生
救急外来で高齢女性の腸閉塞を診たら、CTを骨盤の下まで撮って閉鎖孔を確認したほうがよさそうですね。
ドクタードクター
まさにそれが臨床での最大の教訓だ。大腿上部まで撮像範囲に入れて、閉鎖孔と大腿輪を必ず確認する。嵌頓例は自然には戻りにくく腸管壊死のリスクが高いので、原則として緊急手術でヘルニアを還納し、ヘルニア門を閉鎖・補強する。壊死腸管があれば切除が必要になる。状態が安定していれば超音波ガイド下の用手整復を試みて待機手術とする方法もあるけれど、高齢者が多く、診断の遅れが予後を左右する疾患だと覚えておこう。

まとめ

閉鎖孔ヘルニアは閉鎖管から小腸が脱出・嵌頓するヘルニアで、やせた高齢の経産婦の腸閉塞で特に疑うべき疾患です。嵌頓した腸管が閉鎖神経を圧迫するため、股関節の伸展・外転・内旋で大腿内側から膝に痛みやしびれが放散するHowship-Romberg徴候が、原因を示す特徴的な所見となります。一方、腹部膨隆やびまん性の圧痛は腸閉塞一般の所見、反跳痛や筋性防御の有無は腹膜炎の評価であり、原因の特定には役立ちません。外表から膨隆を触れにくいため診断にはCTが有用で、恥骨筋と外閉鎖筋の間の脱出腸管を確認し、嵌頓例は原則として緊急手術を行います。腸閉塞を診るときに「存在」「重症度」「原因」を分けて所見を読む姿勢は、見逃しやすいヘルニアの早期診断に直結します。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

75歳の女性が、2日前からの排便・排ガスの停止と腹部膨満に続き、腹痛と嘔吐を訴えて来院した。排便・排ガスの停止、腹部膨満、腹痛、嘔吐は腸閉塞の典型的な症状の組み合わせである。 バイタルでは脈拍112/分の頻脈があり、BUN 35mg/dLに対してクレアチニン1.0mg/dL(BUN/Cr比35と20を超える)であることから、嘔吐と腸管内への体液貯留(サードスペースへの移行)による脱水が示唆される。白血球9,600、CRP 2.5mg/dLと軽度の炎症反応がある。アルブミン3.0g/dLと低値である。 腹部は膨隆し、全体に軽い圧痛はあるが、反跳痛・筋性防御といった腹膜刺激徴候はない。現時点では腸管壊死や穿孔による腹膜炎を強く示唆する所見はない。

原因の鑑別

腸閉塞の原因として最も多いのは開腹手術後の癒着であり、本例も子宮全摘術の既往があるため癒着性腸閉塞はまず考えるべき候補である。高齢者では大腸癌による閉塞も常に念頭に置く。 しかし本例には「左股関節の伸展・外転で下肢の痛みやしびれが生じる」という特異な所見がある。これはHowship-Romberg徴候であり、閉鎖孔に嵌頓したヘルニア内容が閉鎖管内を走る閉鎖神経を圧迫することで、大腿内側から膝にかけて放散する疼痛・しびれが出現するものである。腹部単純CTでは、拡張した小腸と腸管内の液面形成(鏡面像、ニボー)がみられ、左閉鎖孔(恥骨筋と外閉鎖筋の間)に脱出した腸管が確認できる。以上から左閉鎖孔ヘルニア嵌頓による腸閉塞と診断できる。

設問の考え方

下線部の所見のうち、「腸閉塞であること」を示す所見(腹部膨隆、びまん性の軽い圧痛)や「腹膜炎がないこと」を示す所見(反跳痛・筋性防御の欠如)は、腸閉塞の原因が何であっても同様にみられうるため、閉鎖孔ヘルニアに特徴的とはいえない。閉鎖孔ヘルニアという原因に結びつく特異的な所見は、閉鎖神経の圧迫症状であるHowship-Romberg徴候(⑤)である。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    腹部膨隆は、閉塞部より口側の腸管にガスと腸液が貯留して拡張することで生じる。癒着性、腫瘍性、ヘルニア嵌頓など原因を問わず、腸閉塞一般でみられる所見であり、閉鎖孔ヘルニアに特有のものではない。むしろ閉鎖孔ヘルニアでは脱出した腸管が鼠径部の外表から見えたり触れたりすることはほとんどなく、腹部の外観だけから原因を推定することは困難である。

  2. ×b.  ②

    腹部全体の軽度の圧痛は、拡張した腸管の伸展や腸管壁の浮腫を反映したもので、腸閉塞の多くで認められる非特異的な所見である。原因疾患を特定する手がかりにはならず、閉鎖孔ヘルニアに特徴的とはいえない。

  3. ×c.  ③

    反跳痛(Blumberg徴候)は、腹壁を圧迫して急に離したときに痛みが増強する所見で、壁側腹膜に炎症が及んでいることを示す腹膜刺激徴候である。これを認めないことは、現時点で腸管壊死や穿孔による腹膜炎が進行していない可能性を示すにとどまる。閉鎖孔ヘルニアに限らず、腹膜炎を伴わないあらゆる腸閉塞であてはまるため、原因に特徴的な所見ではない。なお、反跳痛がないからといって絞扼(血流障害)を否定できるわけではない点にも注意が必要である。

  4. ×d.  ④

    筋性防御は、壁側腹膜の炎症に対して腹壁筋が反射的に緊張する所見で、腹膜炎や腹腔内出血などで認められる。筋性防御がないことも、腹膜刺激を生じる病態が現時点では目立たないことを示すだけであり、腸閉塞の原因を閉鎖孔ヘルニアと特定する根拠にはならない。

  5. ○e.  ⑤

    股関節の伸展・外転(さらに内旋)により大腿内側から膝にかけて痛みやしびれが生じる所見はHowship-Romberg徴候と呼ばれる。閉鎖神経は腰神経叢(L2〜L4)から起こり、閉鎖孔の上外側にある閉鎖管を通って骨盤外へ出て、大腿内転筋群を支配するとともに大腿内側の皮膚感覚を担う。閉鎖管にヘルニア内容が嵌頓すると閉鎖神経が圧迫され、股関節の伸展・外転・内旋で閉鎖管周囲の筋が緊張することで圧迫が強まり、閉鎖神経の支配領域に放散痛が出現する。閉鎖孔ヘルニア患者の半数前後でみられるとされ、腸閉塞の原因として閉鎖孔ヘルニアを疑う最も重要な身体所見である。

閉鎖孔ヘルニアの概要

骨盤の閉鎖孔は大部分が閉鎖膜で覆われているが、上外側に閉鎖神経・閉鎖動静脈が通る閉鎖管という隙間がある。閉鎖孔ヘルニアは、この閉鎖管を通って腹腔内臓器(ほとんどが小腸、特に回腸)が恥骨筋の深部へ脱出するヘルニアである。脱出部位が深い筋層の下にあるため、鼠径ヘルニアのように外から膨隆として見えたり触れたりすることはまれである。

疫学・危険因子

・やせた高齢の経産婦に多く、「やせた高齢女性の腸閉塞」で疑うべき代表的疾患である。 ・女性は骨盤が広く閉鎖管も大きいこと、妊娠・出産による骨盤底の脆弱化、加齢やるいそうによる閉鎖管周囲の脂肪組織の減少、便秘や慢性呼吸器疾患による腹圧上昇などが関与する。 ・右側にやや多いとされるが、左側や両側例もある。

症状・所見

・腸閉塞症状(腹痛、嘔吐、腹部膨満、排便・排ガス停止)。腸管壁の一部のみが嵌頓するRichter型が多く、完全閉塞にならず症状が軽かったり間欠的であったりして診断が遅れやすい。 ・Howship-Romberg徴候:股関節の伸展・外転・内旋で大腿内側〜膝の疼痛・しびれが増強する。 ・Hannington-Kiff徴候:閉鎖神経の圧迫により、膝蓋腱反射は保たれるのに内転筋反射が消失する所見。 ・直腸診・内診で閉鎖孔付近に圧痛のある腫瘤を触れることがある。

診断

腹部〜骨盤のCTが診断に最も有用で、恥骨筋と外閉鎖筋の間に脱出した腸管(またはその内容)が描出される。腸閉塞の高齢女性ではCTを骨盤下端(大腿上部)まで撮像し、閉鎖孔部を確認することが重要である。

治療

嵌頓例は自然還納しにくく、腸管壊死・穿孔のリスクが高いため、原則として緊急手術(開腹または腹腔鏡下でのヘルニア還納とヘルニア門の閉鎖・補強、壊死腸管があれば切除)を行う。状態が安定していれば、超音波ガイド下の用手整復を試みたうえで待機的に手術する方法が選ばれることもある。診断の遅れにより腸管切除を要する例が多く、高齢者が多いため死亡率も他のヘルニアより高い。

腸閉塞の原因の整理

腸閉塞の原因で最も多いのは術後癒着であり、次いで腫瘍(特に大腸癌)、ヘルニア嵌頓(鼠径・大腿・閉鎖孔ヘルニアなど)が続く。高齢女性の腸閉塞では、大腿ヘルニアと閉鎖孔ヘルニアを必ず鑑別に挙げ、鼠径部の診察とCTでの骨盤下部の確認を怠らない。

POINT

・股関節の伸展・外転・内旋で大腿内側〜膝に放散する痛み・しびれ=Howship-Romberg徴候(閉鎖神経の圧迫)→閉鎖孔ヘルニアを示唆する。 ・閉鎖孔ヘルニアは、やせた高齢の経産婦の腸閉塞で疑う。外表から膨隆を触れにくく、CTで恥骨筋と外閉鎖筋の間に脱出腸管を確認して診断する。 ・腹部膨隆・びまん性圧痛は腸閉塞一般の所見、反跳痛・筋性防御の有無は腹膜炎の有無の評価であり、原因の特定には役立たない。 ・嵌頓例は腸管壊死のリスクが高く、原則として緊急手術の適応である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。