ステロイドが奪うのは「背の伸び」―慢性ITPの子どもを長期治療で守る視点
第120回医師国家試験 D問題 第27問
国試問題にチャレンジ
7歳の女児。免疫性血小板減少症に対する定期診察のため,母親に付き添われ来院した。2年前に発症しグルココルチコイド内服を継続しているが,血小板数は1万前後で推移しており,減量が困難である。活気は良好で,満月様顔貌を認める。体幹に点状出血斑と,下肢を中心に径10cm以上の紫斑を複数認める。血液所見:赤血球388万,Hb 13.8g/dL,Ht 32%,白血球8,800,血小板0.9万,PT-INR 1.0(基準0.9~1.1),APTT 32.2秒(基準対照32.2),フィブリノゲン252mg/dL(基準186~355)。血液生化学所見:総ビリルビン0.4mg/dL,AST 34U/L,ALT 37U/L,LD 198U/L(基準175~320),尿素窒素10mg/dL,クレアチニン0.5mg/dL。 現状の治療を継続するにあたり予想される合併症はどれか。
- a.関節腫脹
- b.色素沈着
- c.低身長
- d.末端肥大
- e.るい痩
対話形式の解説
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ドクターまとめ
小児の慢性免疫性血小板減少症(ITP)でグルココルチコイドを長期内服し、満月様顔貌などCushing徴候が出ている場合、治療継続で特に予想される合併症は成長障害(低身長)です。グルココルチコイドは成長ホルモン分泌の抑制、IGF-1の産生・作用の低下、骨端軟骨の軟骨細胞増殖の抑制によって骨の縦方向の成長を妨げ、投与量・期間に応じて影響が大きくなります。色素沈着はACTH過剰のAddison病、末端肥大は成長ホルモン過剰の先端巨大症、関節腫脹は血友病などの関節内出血でみられ、ステロイドでは中心性肥満となるためるい痩も典型ではありません。ステロイド依存の小児慢性ITPでは、成長曲線を確認しながら、トロンボポエチン受容体作動薬などステロイド以外の治療への切り替えと緩徐な減量を考えることが、子どもの将来を守る臨床判断につながります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・7歳女児。免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia:ITP)を2年前に発症した。発症から12か月を超えて続いているので、慢性ITPにあたる。 ・グルココルチコイド(副腎皮質ステロイド)の内服を2年間続けているが、血小板数は1万/μL前後のままで、薬を減らせない(ステロイド依存・抵抗性)。 ・満月様顔貌(ムーンフェイス)があり、長期間のステロイド投与による医原性Cushing症候群の徴候である。 ・体幹の点状出血と、下肢を中心とした径10cm以上の紫斑がある。血小板が少ないための皮膚の出血である。 ・血小板0.9万/μLと著しく少ない一方、PT-INR、APTT、フィブリノゲンは正常で、凝固因子の異常はない。白血球数とHbは保たれ、肝機能・腎機能も正常である。血小板だけが減っており、ITPとして矛盾しない。
設問の考え方
問われているのは、ITPそのものの合併症ではなく、「現状の治療」つまりグルココルチコイドの長期内服を続けた場合に予想される合併症である。ステロイドの副作用には大人にも子どもにも共通するもの(易感染性、耐糖能異常、高血圧、骨粗鬆症、白内障・緑内障、消化性潰瘍、中心性肥満、満月様顔貌、精神症状など)があるが、成長期の小児に特有で重要なのが成長障害(低身長)である。 グルココルチコイドは、下垂体からの成長ホルモンの分泌を抑え、肝臓でのインスリン様成長因子-1(IGF-1)の産生や作用を弱め、さらに骨の成長板(骨端軟骨)の軟骨細胞の増殖を直接妨げる。このため骨が縦に伸びにくくなり、身長の伸びが鈍る。投与量が多いほど、また投与期間が長いほど影響は大きい。本例は7歳で2年間内服を続けており、すでに満月様顔貌が出ているので、今後も続ければ低身長が予想される。
選択肢考察
- ×a. 関節腫脹
関節腫脹は、関節内出血を繰り返す血友病、若年性特発性関節炎(JIA)、化膿性関節炎などでみられる。ITPでは血小板が少ないため皮膚や粘膜の出血は起こるが、関節内出血は凝固因子の異常(血友病など)に特徴的で、ITPでは起こりにくい。ステロイドには抗炎症作用があり、むしろ関節の腫れを抑える。なお、長期のステロイドは大腿骨頭などの骨壊死や骨粗鬆症による骨折を起こしうるが、関節腫脹が典型的な副作用というわけではない。誤りである。
- ×b. 色素沈着
全身の皮膚の色素沈着は、副腎皮質ホルモンが足りないためACTH(副腎皮質刺激ホルモン)とその前駆体(POMC)が過剰に作られる状態、つまり原発性副腎不全(Addison病)でみられる。外からグルココルチコイドを投与すると、逆に下垂体のACTH分泌が抑えられるので、色素沈着は起こらない。ステロイドの皮膚の副作用は、痤瘡(にきび)、皮膚の菲薄化、皮膚線条、多毛、紫斑などである。誤りである。
- ○c. 低身長
成長期の小児にグルココルチコイドを長期間投与すると、成長ホルモンの分泌抑制、IGF-1の産生・作用の低下、骨端軟骨の軟骨細胞の増殖抑制などにより骨が縦に伸びにくくなり、成長率が落ちて低身長をきたす。骨形成の抑制は骨粗鬆症にもつながる。本例は2年間内服を続けても減量できず、満月様顔貌が出ているので、治療を続ければ低身長が予想される。そのため小児ではステロイドを長く使い続けず、トロンボポエチン受容体作動薬などのほかの治療を検討する。以上から、正しい。
- ×d. 末端肥大
末端肥大(手足の先や顔の骨・軟部組織が大きくなる変化)は、骨端線が閉じた後に成長ホルモンが過剰になる先端巨大症でみられる。グルココルチコイドは成長ホルモンの分泌や作用をむしろ抑えるので、末端肥大は起こらない。ステロイドでみられる体型の変化は、満月様顔貌、中心性肥満、水牛様脂肪沈着(首の後ろの脂肪の盛り上がり)、四肢が細くなることである。誤りである。
- ×e. るい痩
るい痩(病的なやせ)は、甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、神経性やせ症、吸収不良などでみられる。グルココルチコイドは食欲を高め、脂肪を体幹に再分布させるため、体重は増え中心性肥満になるのが典型である。四肢の筋萎縮(ステロイドミオパチー)で手足が細くなることはあるが、全身のるい痩とは異なる。誤りである。
小児ITPの概要
・血小板の膜糖蛋白(GPⅡb/Ⅲaなど)に対する自己抗体ができ、脾臓などで血小板が壊されて減る自己免疫疾患である。巨核球での血小板の産生が十分でないことも関わる。 ・小児では、ウイルス感染や予防接種のあとに急に発症することが多く、多くは6か月以内に自然に良くなる。一部(およそ10〜20%)は慢性に移行する。 ・病期の分類:診断から3か月未満を新規診断ITP、3〜12か月を持続性ITP、12か月を超えるものを慢性ITPとよぶ。 ・検査:血小板だけが減り、PT・APTTは正常である。骨髄では巨核球は正常または増加している。 ・治療:出血症状が軽ければ経過観察。出血が強いときや血小板数が極めて少ないときには、グルココルチコイド、免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)を用いる。慢性例・難治例では、トロンボポエチン受容体作動薬(エルトロンボパグ、ロミプロスチム)、リツキシマブ(抗CD20抗体)、脾摘などを検討する。Helicobacter pylori感染があれば除菌療法が効くことがある(主に成人)。
グルココルチコイドの主な副作用
・代謝:耐糖能異常(ステロイド糖尿病)、脂質異常症、中心性肥満、満月様顔貌。 ・骨・筋:骨粗鬆症、骨折、大腿骨頭壊死、ステロイドミオパチー、小児の成長障害。 ・感染:易感染性、日和見感染。 ・循環:高血圧、浮腫(ナトリウム・水の貯留)、血栓症。 ・眼:白内障(後嚢下白内障)、緑内障。 ・消化器:消化性潰瘍。 ・皮膚:痤瘡、皮膚の菲薄化、皮膚線条、多毛、紫斑。 ・精神:不眠、多幸感、抑うつ。 ・内分泌:視床下部-下垂体-副腎系の抑制。急にやめると副腎不全を起こすので、ゆっくり減量する。
POINT
・小児へのグルココルチコイド長期投与で特に注意すべき副作用=成長障害(低身長)。成長ホルモン分泌の抑制、IGF-1の低下、骨端軟骨の増殖抑制による。 ・ステロイドでは中心性肥満・満月様顔貌がみられる(るい痩ではない)。 ・色素沈着はAddison病(ACTH過剰)、末端肥大は先端巨大症(成長ホルモン過剰)の所見。 ・ITPは血小板だけが減り、PT・APTTは正常。12か月を超えれば慢性ITP。 ・ステロイド依存の小児慢性ITPでは、トロンボポエチン受容体作動薬などステロイド以外の治療を考える。
