血小板が減るのに血が固まる―出血症状の地図とHITという例外
第119回医師国家試験 D問題 第8問
国試問題にチャレンジ
出血症状と疾患の組合せで誤っているのはどれか。
- a.鼻出血 ―― von Willebrand病
- b.過多月経 ―― ヘパリン起因性血小板減少症
- c.歯肉出血 ―― 急性前骨髄球性白血病
- d.点状出血 ―― 免疫性血小板減少症
- e.関節内出血 ―― 血友病
対話形式の解説
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ドクターまとめ
出血症状は止血のどの段階が障害されたかを反映し、血小板やvon Willebrand因子の異常による一次止血障害では点状出血・紫斑、鼻出血、歯肉出血、過多月経などの皮膚・粘膜出血、血友病などの凝固因子異常による二次止血障害では関節内出血や筋肉内血腫などの深部出血が主体となります。急性前骨髄球性白血病は血小板減少に加えてDICを高率に合併し、歯肉出血を含む著しい出血傾向を示します。一方、ヘパリン起因性血小板減少症は抗PF4/ヘパリン抗体による血小板活性化で血小板が消費される病態で、本質は静脈・動脈の血栓傾向であり、過多月経のような出血症状と結びつけるのは誤りです。治療はヘパリンの中止とアルガトロバンなど非ヘパリン系抗凝固薬の投与で、血小板輸血は原則避けます。出血のパターンから障害部位を推定し、血小板減少でも血栓が問題となる例外的な疾患を押さえておくことが、出血・血栓性疾患を正しく見極める土台になります。
解答・解説
正解はbです
出血傾向をきたす疾患は、止血のどの段階が障害されているかによって出血の現れ方が異なる。この対応関係を整理しておくと、本問のような組合せ問題は確実に解ける。
一次止血の障害(血小板の数・機能の異常、von Willebrand因子の異常)
血管が傷つくと、まず血小板がvon Willebrand因子(VWF)を介して傷口に粘着・凝集し、血小板血栓をつくる(一次止血)。ここが障害されると、皮膚の点状出血・紫斑、鼻出血、歯肉出血、過多月経など「皮膚・粘膜の表在性出血」が中心となる。出血は外傷直後から始まりやすい。
二次止血の障害(凝固因子の異常)
血小板血栓をフィブリンで補強する過程(二次止血)が障害されると、関節内出血・筋肉内血腫などの「深部出血」が目立つ。点状出血はまれで、外傷後しばらくして遅れて出血しやすい。代表は血友病である。
両方が障害される病態
播種性血管内凝固(DIC)では血小板と凝固因子の両方が消費されるため、皮膚・粘膜出血と深部出血の両方が起こりうる。 本問は「誤っている組合せ」を選ぶ問題である。選択肢のうち、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)だけは、血小板が減少するにもかかわらず病態の本質が「出血」ではなく「血栓」にある疾患であり、過多月経のような出血症状と結びつけるのは誤りである。
選択肢考察
- ×a. 鼻出血 ―― von Willebrand病
正しい組合せである。von Willebrand病はVWFの量的減少または質的異常による先天性出血性疾患で、頻度の高い遺伝性出血性疾患の一つである。VWFは血小板を血管内皮下のコラーゲンに粘着させる働きと、第Ⅷ因子と結合して血中で安定化させる働きを持つ。そのため一次止血障害(出血時間延長)が主体となり、反復する鼻出血、歯肉出血、過多月経、抜歯後の止血困難など皮膚・粘膜出血が典型的である。病型によっては第Ⅷ因子も低下し、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が延長することがある。
- ○b. 過多月経 ―― ヘパリン起因性血小板減少症
誤った組合せであり、これが正解である。ヘパリン起因性血小板減少症(HIT: heparin-induced thrombocytopenia)では、ヘパリンと血小板第4因子(PF4)の複合体に対する抗体(主にIgG)が産生され、この抗体が血小板を活性化する。その結果、血小板は消費されて減少する一方で、深部静脈血栓症・肺塞栓症や四肢動脈閉塞・脳梗塞・心筋梗塞などの血栓症を高頻度に合併する(血栓症の合併はおよそ半数とされる)。血小板減少も中等度にとどまることが多く、出血症状はまれである。過多月経のような粘膜出血は、免疫性血小板減少症(ITP)やvon Willebrand病など、血小板の減少・機能異常によって一次止血が障害される疾患でみられる症状である。
- ×c. 歯肉出血 ―― 急性前骨髄球性白血病
正しい組合せである。急性前骨髄球性白血病(APL、FAB分類M3)では、骨髄が白血病細胞に占拠されて巨核球が減り、血小板が減少する。さらにAPLの腫瘍細胞は豊富なアズール顆粒を持ち、組織因子などの凝固促進物質を放出するとともに線溶系も強く亢進させるため、発症時から高率にDICを合併する。このため歯肉出血、皮下出血、鼻出血などの著しい出血傾向を示し、頭蓋内出血など致死的出血の危険も高い。歯肉出血は急性白血病全般でもよくみられる初発症状である。
- ×d. 点状出血 ―― 免疫性血小板減少症
正しい組合せである。免疫性血小板減少症(ITP: immune thrombocytopenia、かつての特発性血小板減少性紫斑病)は、血小板に対する自己抗体により、主に脾臓で血小板が破壊されて寿命が短縮する疾患である(巨核球からの血小板産生障害も関与する)。一次止血が障害されるため、皮膚の点状出血や紫斑が最も典型的な症状であり、ほかに鼻出血、歯肉出血、過多月経などの粘膜出血もみられる。
- ×e. 関節内出血 ―― 血友病
正しい組合せである。血友病はX連鎖潜性遺伝形式をとる先天性凝固因子欠乏症で、血友病Aは第Ⅷ因子、血友病Bは第Ⅸ因子の欠乏による。二次止血が障害されるため、関節内出血や筋肉内血腫などの深部出血が特徴であり、膝・肘・足関節などの荷重関節や頻用関節に出血を繰り返すと血友病性関節症(関節の変形・拘縮)に至る。検査ではAPTTが延長し、プロトロンビン時間(PT)・血小板数・出血時間は正常である。
HITの病態と臨床
ヘパリンが投与されると、血小板から放出されるPF4とヘパリンが複合体を形成する。一部の患者ではこの複合体に対するIgG抗体が産生され、抗体がヘパリン-PF4複合体と結合した免疫複合体が血小板表面のFcγRⅡa受容体に結合する。これにより血小板が強く活性化・凝集して血栓を生じ、同時に血小板は消費されて減少する。単球や血管内皮も活性化されてトロンビン産生が亢進し、血栓傾向がさらに強まる。 典型的にはヘパリン投与開始後5〜14日ごろに血小板数が前値から50%程度以上低下する。直近にヘパリン投与歴があり抗体が残っている場合は、再投与後早期(24時間以内)に発症することもある。臨床的な可能性の評価には4Tsスコア(血小板減少の程度、発症時期、血栓症の有無、他の原因の有無)が用いられる。 治療は、ヘパリンを直ちに中止する(ヘパリンロックやヘパリンコーティングカテーテルも含む)とともに、血栓予防・治療のためアルガトロバンなどの非ヘパリン系抗凝固薬を開始することである。ヘパリンを止めるだけでは血栓症のリスクが残るため、抗凝固療法の継続が必要である。血小板輸血は血栓を助長しうるため原則として避け、急性期のワルファリン単独開始も皮膚壊死や静脈性四肢壊疽を招くおそれがあるため行わない。
血小板が減少するのに血栓傾向となる病態
HITのほか、抗リン脂質抗体症候群、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS)などがある。これらは「血小板減少=出血傾向」という単純な図式が当てはまらない疾患として整理しておくとよい。
出血症状からみた鑑別の目安
・点状出血・紫斑、鼻出血、歯肉出血、過多月経 → 血小板減少症(ITP、白血病など)、血小板機能異常症、von Willebrand病 ・関節内出血、筋肉内血腫、外傷後の遅発性出血 → 血友病などの凝固因子異常 ・皮膚・粘膜出血と深部出血の混在、採血部位からの止血困難 → DIC
POINT
・一次止血障害(血小板・VWFの異常)では点状出血、紫斑、鼻出血、歯肉出血、過多月経などの皮膚・粘膜出血が主体。 ・二次止血障害(血友病など凝固因子異常)では関節内出血、筋肉内血腫などの深部出血が主体。 ・APLはDICを高率に合併し、著しい出血傾向を示す。 ・HITは血小板減少をきたすが、本態は血栓傾向(静脈・動脈血栓症)であり、出血症状はまれ。治療はヘパリン中止と非ヘパリン系抗凝固薬(アルガトロバンなど)。
