「聞こえたら手を挙げて」が通じない―3歳児の難聴を見抜くABRの力
第119回医師国家試験 D問題 第7問
国試問題にチャレンジ
3歳児健康診査で難聴が疑われた児に実施する精密検査で適切なのはどれか。
- a.語音聴力検査
- b.自記オージオメトリ
- c.純音聴力検査
- d.聴性脳幹反応〈ABR〉
- e.ティンパノメトリ
対話形式の解説
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ドクターまとめ
3歳児健診で難聴が疑われた場合、精密検査の中心は本人の応答を必要としない他覚的聴力検査であり、選択肢の中では聴性脳幹反応(ABR)が適切です。ABRは音刺激で生じる脳幹由来の電位を記録し、V波の出現閾値から聴力を推定する検査で、体動を避けるため睡眠下や鎮静下で行います。純音聴力検査、語音聴力検査、自記オージオメトリはいずれも被検者の正確な応答を要する自覚的検査で、3歳児では実施困難または不正確になりやすく、ティンパノメトリは中耳の状態を評価する検査で聴力閾値は測れません。クリック音のABRは主に高音域を反映するため、周波数別評価には聴性定常反応(ASSR)を併用します。言語発達の大切な時期に難聴を見逃さないために、年齢と協力度に応じて検査を選ぶ考え方を身につけておくことが重要です。
解答・解説
正解はdです
問われていること
3歳児健康診査(母子保健法に基づく健診)では、家庭でのささやき声による聴覚検査やアンケートで聞こえの問題をスクリーニングし、難聴が疑われた児は耳鼻咽喉科で精密検査を受ける。言語発達が急速に進むこの時期に難聴を見逃すと、言葉の遅れや構音障害につながるため、聴力の程度を正確に評価することが重要である。
考え方
聴力検査は大きく2つに分けられる。 ・自覚的(主観的)聴力検査: 被検者自身が「聞こえた」「聞こえない」を判断して応答する検査。純音聴力検査、語音聴力検査、自記オージオメトリなど。検査の意味を理解し、指示どおりに応答する協力が必要である。 ・他覚的(客観的)聴力検査: 音刺激に対する生体の反応(神経の電気活動など)を記録する検査。被検者の応答が不要で、聴性脳幹反応(ABR)、聴性定常反応(ASSR)、耳音響放射(OAE)などがある。 3歳児は検査の指示を理解して正確に応答し続けることが難しく、自覚的検査だけでは信頼できる聴力閾値が得られないことが多い。そこで、応答を必要とせず聴力閾値を推定できる他覚的検査が精密検査の中心となる。選択肢の中でこれに該当するのは聴性脳幹反応(ABR)である。
選択肢考察
- ×a. 語音聴力検査
誤り。語音聴力検査は、単音節の語音(「ア」「キ」など)を聞かせて復唱や書き取りをさせ、言葉をどの程度正しく聞き取れるか(語音明瞭度)を評価する自覚的検査である。補聴器の適合評価や後迷路性難聴の推定に用いられるが、検査語音を理解して正確に応答する能力が必要で、言語発達途上の3歳児には実施が難しい。また語音の聞き取り能力をみる検査であり、難聴の程度(聴力閾値)を周波数ごとに測る目的には適さない。
- ×b. 自記オージオメトリ
誤り。自記オージオメトリ(Békésy型オージオメトリ)は、被検者が音が聞こえている間ボタンを押し、聞こえなくなったら離すことで音の強さが自動的に上下し、閾値の変動を連続記録する自覚的検査である。連続音と断続音の記録パターンの違い(Jerger分類)から、内耳性・後迷路性・機能性難聴などの障害部位の推定に用いられる。長時間にわたり正確なボタン操作が必要で、3歳児には実施できない。
- ×c. 純音聴力検査
誤り。純音聴力検査は、125〜8,000Hzの純音を気導・骨導で聞かせ、聞こえたら応答させて周波数ごとの聴力閾値を測定する、聴力評価の基本となる自覚的検査である。しかし、ヘッドホンを装着して小さな音に集中し、聞こえたときに正確にボタンを押すという協力が必要で、通常の方法で信頼性のある結果が得られるのはおおむね4〜5歳以降である。3歳児では検査が成立しないか、結果が不正確になりやすい。なお幼児では、聞こえたら玩具を動かすなど遊びを利用して応答させる遊戯聴力検査が工夫されるが、それでも年齢や発達によって結果の信頼性にばらつきがあり、他覚的検査で裏付ける必要がある。
- ○d. 聴性脳幹反応〈ABR〉
正しい。聴性脳幹反応(auditory brainstem response:ABR)は、クリック音などの音刺激を与え、蝸牛神経から脳幹の聴覚伝導路で生じる電位を頭皮上の電極から加算平均して記録する他覚的検査である。刺激後約10ミリ秒以内にI〜VII波が出現し、とくに明瞭なV波が出現する最小の刺激音圧から聴力閾値を推定できる。被検者が応答する必要がないため、乳幼児や意思疎通が困難な人でも聴力を客観的に評価でき、乳幼児難聴の精密検査の標準的な方法である。体動があると記録できないため、幼児では睡眠下や鎮静下で行う。クリック音のABRは主に2,000〜4,000Hz付近の高音域を反映し、低音域の評価には不向きなため、周波数別の閾値が必要な場合は聴性定常反応(ASSR)を併用する。また各波の潜時から後迷路性病変(聴神経腫瘍など)の推定にも用いられる。
- ×e. ティンパノメトリ
誤り。ティンパノメトリは、外耳道の圧を変化させながら鼓膜・耳小骨系の動きやすさ(音響インピーダンス、コンプライアンス)を測定し、結果をティンパノグラムとして表す検査である。A型(正常)、B型(平坦:滲出性中耳炎など中耳腔の貯留液)、C型(ピークが陰圧側:耳管狭窄など)などに分類され、中耳の状態の評価に有用である。幼児の難聴の原因として頻度が高い滲出性中耳炎の検出には役立つが、聞こえの程度(聴力閾値)そのものを測る検査ではなく、内耳や後迷路の難聴も評価できないため、難聴の精密検査として最も適切とはいえない。
小児の聴力検査(発達段階に応じて選択)
・行動反応聴力検査(BOA): 新生児〜乳児。音に対する驚愕反射や振り向きなどの反応を観察する。 ・条件詮索反応聴力検査(COR): 生後6か月頃〜2歳頃。音と同時に光や人形を見せて条件づけし、音源への振り向きで判定する。 ・遊戯聴力検査(ピープショウテストなど): 3歳頃〜。音が聞こえたら玩具を動かすなど遊びの形で応答させる。 ・純音聴力検査(通常法): 4〜5歳以降。 行動観察による検査は児の発達や集中力に左右され、閾値の推定には信頼性に限界があるため、他覚的検査と組み合わせて総合的に判断する。
主な他覚的聴力検査
・ABR: 脳幹由来の電位から閾値を推定する。主に高音域を反映。 ・ASSR(聴性定常反応): 変調音を用い、周波数ごとの閾値を推定できる。 ・OAE(耳音響放射): 蝸牛外有毛細胞の機能を反映する。新生児聴覚スクリーニングに用いられる。 ・自動ABR(AABR): 新生児聴覚スクリーニングに用いられ、正常か要再検かを自動判定する。
3歳児健診の聴覚検査
家庭でのささやき声検査(指こすり音や絵カードを用いた検査)とアンケートで一次スクリーニングを行い、疑いがあれば二次検査・精密検査へ進む。軽度〜中等度難聴や一側性難聴は新生児聴覚スクリーニングでは見逃されたり、後から進行・発症したりすることがあるため、3歳児健診は重要な発見の機会となる。
POINT
・乳幼児の難聴の精密検査は、本人の応答を必要としない他覚的聴力検査(ABR、ASSR)が中心となる。 ・純音聴力検査・語音聴力検査・自記オージオメトリは自覚的検査であり、3歳児では実施困難または不正確である。 ・ABRはV波の出現閾値から聴力を推定する。主に高音域を反映し、周波数別評価にはASSRを用いる。 ・ティンパノメトリは中耳の状態(滲出性中耳炎など)を評価する検査で、聴力閾値は測定できない。
