「声は聞こえるのに言葉がわからない」―高音から忍び寄る老人性難聴
第119回医師国家試験 B問題 第4問
国試問題にチャレンジ
老人性難聴で正しいのはどれか。
- a.耳鳴は伴わないことが多い。
- b.聴力低下は高音から始まる。
- c.伝音難聴を示すことが多い。
- d.補聴器の使用は極力避ける。
- e.純音聴力検査で左右非対称性の難聴を示す。
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
老人性難聴は、蝸牛の有毛細胞・血管条・ラセン神経節細胞の加齢変性による感音難聴で、気導・骨導ともに低下し気骨導差はみられません。高音を担当する蝸牛基底回転から障害されやすいため聴力低下は高音域から始まり、右下がりのオージオグラムを示し、子音が聞き取りにくく語音明瞭度が低下します。両側ほぼ左右対称が典型で、明らかな左右差があれば聴神経腫瘍や突発性難聴などを鑑別し、耳鳴を伴うことも多いのが特徴です。根本治療はなく補聴器が対応の中心で、難聴は認知症の修正可能な危険因子でもあるため積極的な聴覚補償が勧められます。補充現象を踏まえ、正面からゆっくり低めの声で話すといった配慮は、高齢患者を診るあらゆる場面で役立つ知識です。
解答・解説
正解はbです
老人性難聴(加齢性難聴)は、加齢に伴って内耳を中心とした聴覚路が変性し、徐々に聞こえが悪くなる状態である。原因となる主病変は蝸牛(内耳の聴覚を担う渦巻き状の器官)にあり、音を感じ取る有毛細胞や、内耳のイオン環境を保つ血管条、聴神経(ラセン神経節細胞)が年齢とともに減少・萎縮する。したがって難聴の型は、外耳・中耳の音の伝達障害による伝音難聴ではなく、内耳以降の障害による感音難聴である。 蝸牛では入口に近い基底回転が高い周波数、奥の頂回転が低い周波数を担当しており(周波数局在)、基底回転側の有毛細胞から先に障害されやすい。そのため聴力低下は高音域から始まり、年齢とともに中音域・低音域へと広がっていく。また加齢という全身的な要因で起こるため、両耳がほぼ同じように障害され、左右対称性の聴力像となるのが典型である。 本問は、この「感音難聴・高音域から・両側対称性」という3つの特徴と、耳鳴の合併や補聴器による対応といった臨床像を押さえていれば正解を選べる。
選択肢考察
- ×a. 耳鳴は伴わないことが多い。
誤り。老人性難聴では耳鳴を伴うことが多い。内耳障害によって聴覚中枢への入力が減ると、中枢側の神経活動が代償的に変化し、耳鳴として自覚されると考えられている。高音域が障害されるため「キーン」「ジー」といった高い音の耳鳴を訴えることが多い。
- ○b. 聴力低下は高音から始まる。
正しい。蝸牛の基底回転は高い周波数を担当し、加齢による有毛細胞の脱落はこの部位から起こりやすい。そのため純音聴力検査(オージオグラム)では高音域ほど閾値が上昇する右下がりの型(高音漸傾型)を示し、進行すると中音域・低音域にも低下が及ぶ。日常生活では、子音(サ行・カ行など高い周波数成分を多く含む音)が聞き取りにくくなり、「声は聞こえるが言葉がはっきりしない」という訴えになりやすい。
- ×c. 伝音難聴を示すことが多い。
誤り。老人性難聴は内耳(蝸牛)や聴神経の変性による感音難聴である。伝音難聴は外耳道閉塞や中耳炎、耳硬化症など、音を内耳へ伝える経路の障害で生じ、オージオグラムで気導閾値と骨導閾値に差(気骨導差)がみられる。老人性難聴では気導と骨導がともに低下し、気骨導差はみられない。
- ×d. 補聴器の使用は極力避ける。
誤り。老人性難聴は感音難聴であり、伝音難聴のように手術で聴力を改善することはできないため、補聴器による聴覚補償が対応の中心となる。難聴を放置するとコミュニケーションの障害から社会的孤立やうつ傾向を招き、難聴は認知症の修正可能な危険因子の一つとしても注目されている。日常生活に支障がある場合は補聴器の装用を積極的に勧める。高度に進行して補聴器の効果が乏しい場合には人工内耳も検討される。
- ×e. 純音聴力検査で左右非対称性の難聴を示す。
誤り。加齢という両耳に共通する要因によるため、両側性でほぼ左右対称の感音難聴を示すのが典型である。明らかな左右差がある場合は、老人性難聴と決めつけず、聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)、突発性難聴、メニエール病など一側性の病変を鑑別する必要がある。
老人性難聴の病態
加齢に伴う内耳・聴覚路の変性が原因で、蝸牛有毛細胞の減少(感覚性)、ラセン神経節細胞の減少(神経性)、血管条の萎縮(代謝性)などが組み合わさって生じる。騒音曝露、糖尿病・高血圧などの血管危険因子、遺伝的素因、耳毒性薬剤も進行に影響する。
臨床像
・両側対称性、緩徐進行性の感音難聴 ・高音域から低下する右下がり型のオージオグラム ・耳鳴を伴うことが多い ・語音明瞭度(言葉の聞き取りの良さ)が低下し、「音は聞こえるが言葉が聞き分けにくい」、特に騒がしい場所や早口で聞き取りにくい ・内耳性難聴の特徴として補充現象(小さい音は聞こえにくいのに、少し大きくすると急にうるさく感じる現象)を伴うことがあり、大声で話しかけるとかえって聞き取りにくいことがある
対応
根本的に聴力を回復させる治療はなく、補聴器の装用が中心となる。会話では、正面からゆっくり、はっきり、やや低めの声で話すと伝わりやすい。高度難聴で補聴器の効果が不十分な場合は人工内耳の適応が検討される。難聴は認知機能低下の危険因子とされ、早期からの聴覚補償が重視されている。
難聴の分類の整理
・伝音難聴:外耳・中耳の障害。気骨導差あり。手術で改善しうるものが多い(慢性中耳炎、耳硬化症など)。 ・感音難聴:内耳(内耳性)または蝸牛神経より中枢(後迷路性)の障害。気骨導差なし。老人性難聴、騒音性難聴、突発性難聴、メニエール病、聴神経腫瘍など。
POINT
・老人性難聴は内耳の変性による感音難聴である。 ・聴力低下は高音域から始まり、右下がり型のオージオグラムを示す。 ・両側性で左右ほぼ対称。左右差が目立つときは聴神経腫瘍などを鑑別する。 ・耳鳴を伴うことが多く、語音明瞭度が低下する。 ・治療の中心は補聴器であり、積極的に勧める(難聴は認知症の危険因子)。
