癌で亡くなっても角膜は贈れる―眼球提供の除外基準を「3本柱」で読み解く
第119回医師国家試験 D問題 第9問
国試問題にチャレンジ
死後に移植のために眼球を提供できる疾患はどれか。
- a.乳癌
- b.敗血症
- c.白血病
- d.B型肝炎
- e.Creutzfeldt-Jakob病
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
死後に提供された眼球は主に角膜移植に用いられ、ドナーの除外基準は「移植片を介した感染症の伝播」「腫瘍細胞の持ち込み」「原因不明の死・原因不明の中枢神経系疾患」の3本柱で整理できます。敗血症などの全身感染症、HBs抗原・HCV抗体・HIV抗体・HTLV-1抗体陽性、Creutzfeldt-Jakob病などのプリオン病、白血病・悪性リンパ腫などの造血器悪性腫瘍、眼内悪性腫瘍は提供できません。一方、角膜は血管を持たない組織であるため、眼内に病変のない乳癌などの固形癌は除外基準に該当せず、提供が可能です。高齢や白内障などの眼疾患も、それだけでは提供の妨げになりません。除外基準を「なぜ除外されるのか」という理由とともに理解しておくことは、試験対策だけでなく、臨床の場でドナー候補の方やご家族に正確な情報を伝えるうえでも役立ちます。
解答・解説
正解はaです
死後に提供された眼球は、主に角膜移植に用いられる。角膜移植は、角膜の混濁や変形によって視力を失った人の視機能を回復させる治療である。提供者(ドナー)から移植片を介して病気がうつることを防ぐため、角膜の提供には除外基準が定められている。 除外基準の考え方は大きく次の3点に整理できる。 ①移植片を介して感染症が伝播するおそれがあるもの(全身性の細菌・真菌・ウイルス感染症、HIV・HTLV-1・B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスの感染、プリオン病など) ②腫瘍細胞が移植片とともに持ち込まれるおそれがあるもの(白血病・悪性リンパ腫などの造血器悪性腫瘍、眼内悪性腫瘍) ③原因不明の死や原因不明の中枢神経系疾患(未知の感染症が隠れている可能性を否定できないため) 一方、眼内に病変のない固形癌は除外基準に含まれない。角膜は血管を持たない組織であり、固形癌が角膜へ転移して移植片を介して持ち込まれる危険はきわめて低いと考えられているからである。したがって、5つの選択肢のうち眼球提供が可能なのは乳癌だけである。
選択肢考察
- ○a. 乳癌
眼球を提供できる。乳癌は固形癌であり、造血器悪性腫瘍にも眼内悪性腫瘍にも当たらないため、角膜提供の除外基準に該当しない。癌で亡くなった人でも、眼内に腫瘍が及んでいなければ角膜を提供できる。癌の既往があることや高齢であることは、それだけでは眼球提供を妨げない点を押さえておく。
- ×b. 敗血症
提供できない。敗血症は感染症に対する生体反応が制御不能となり臓器障害をきたした状態で、病原体が全身に広がっている可能性が高い。細菌性・真菌性・ウイルス性の全身感染症は、移植片を介してレシピエント(移植を受ける人)に感染を起こす危険があるため除外される。
- ×c. 白血病
提供できない。白血病は造血器悪性腫瘍であり、腫瘍細胞が血流に乗って全身を循環しているため、移植片とともにレシピエントへ持ち込まれるおそれがある。同様の理由で、Hodgkinリンパ腫・非Hodgkinリンパ腫などの悪性リンパ腫も除外基準に含まれる。
- ×d. B型肝炎
提供できない。B型肝炎ウイルス(HBV)は血液・体液を介して感染するウイルスで、移植片を通じてレシピエントに感染する危険がある。ドナーの血液検査でHBs抗原が陽性であれば提供はできない。同様に、HCV抗体、HIV抗体、HTLV-1抗体の陽性者も除外される。
- ×e. Creutzfeldt-Jakob病
提供できない。Creutzfeldt-Jakob病(CJD)は異常プリオン蛋白が脳に蓄積して急速に進行する認知症などをきたすプリオン病である。異常プリオンは通常の消毒・滅菌では不活化されにくく、実際に角膜移植や硬膜移植を介して感染した医原性CJDの報告がある。眼は網膜・視神経を通じて中枢神経系とつながる組織であり、CJDのほか脳炎・脳症などの原因不明の中枢神経系疾患も除外される。
角膜提供の主な除外基準
・原因不明の死 ・細菌性・真菌性・ウイルス性の全身感染症(敗血症など) ・HIV抗体、HTLV-1抗体、HBs抗原、HCV抗体のいずれかが陽性 ・Creutzfeldt-Jakob病などのプリオン病、および脳炎・脳症などの原因不明の中枢神経系疾患 ・造血器悪性腫瘍(白血病、悪性リンパ腫など) ・眼内悪性腫瘍(網膜芽細胞腫、ぶどう膜悪性黒色腫など) ・重症急性呼吸器症候群(SARS)などの新興感染症
眼球提供の特徴
・眼球(角膜)の提供は、心臓が停止した後の死後提供で可能である。 ・提供の意思表示は、臓器提供意思表示カードや運転免許証・健康保険証などの意思表示欄、またはアイバンクへの登録で行える。本人の意思が不明な場合でも、家族の承諾があれば提供できる。 ・眼球摘出は死後できるだけ早く(一般に数時間〜十数時間以内)行う必要がある。 ・近視・乱視・白内障などの眼疾患や、高齢であることは、それだけでは提供の妨げにならない。 ・提供された角膜は各地のアイバンクがあっせんし、検査で適格と判断されたものが移植に用いられる。
角膜移植の適応
水疱性角膜症、円錐角膜、角膜白斑(感染後の瘢痕など)、角膜ジストロフィなど。角膜は血管を持たないため、他の臓器移植に比べて拒絶反応が起こりにくい。
POINT
・角膜提供の除外基準は「感染症の伝播」「造血器・眼内悪性腫瘍の持ち込み」「原因不明の死・原因不明の中枢神経疾患」の3本柱で覚える。 ・固形癌(眼内に病変のないもの)は除外基準に該当せず、眼球提供が可能。 ・白血病・悪性リンパ腫は不可、全身感染症(敗血症)は不可、HBs抗原・HCV抗体・HIV抗体・HTLV-1抗体陽性は不可。 ・CJDは角膜移植による感染例があり不可。
