脳死でも膝はピクッと動く―法的脳死判定に「腱反射」が入らない理由
第120回医師国家試験 E問題 第34問
国試問題にチャレンジ
25歳の男性。バイクを運転中に転倒したため救急車で搬入された。病院到着時に心肺停止状態であったが,心拍は再開し,ICUに入院した。入院3日目,意識レベルは①JCSⅢ-300。体温36.2℃。心拍数48/分,整。血圧98/60mmHg(昇圧薬投与下)。②自発呼吸はない。SpO2 98%(FIO2 0.5で人工呼吸器装着)。③瞳孔散大・固定。④膝蓋腱反射は消失。頭部単純CTで低酸素脳症の所見を認めた。脳波検査で⑤平坦脳波を認める。患者の運転免許証には臓器提供の意思表示があった。家族から本人の意思を尊重し,臓器提供をしたいと申し出があった。そこで,法的な脳死判定を実施することにした。 下線部のうち,この患者で法的な脳死判定基準に含まれないのはどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
脳死は脳幹を含む全脳機能の不可逆的停止であり、法的脳死判定では深昏睡、瞳孔の固定(左右とも4mm以上)、7つの脳幹反射の消失、平坦脳波、自発呼吸の消失(無呼吸テストは最後に実施)の5項目を確認します。膝蓋腱反射などの深部腱反射は脊髄で完結する反射であり、脳死でも残りうるため、その有無は判定基準に含まれません。判定の前提として器質的脳障害の確実な診断が必要で、急性薬物中毒、代謝・内分泌障害、低体温、低血圧などは除外されます。2回の判定は6歳以上で6時間以上あけて行い、2回目の終了時刻が死亡時刻となります。「どの部位の機能を見ている項目か」を意識すると、判定項目の暗記が理解に変わり、臨床でご家族へ説明する際の土台にもなります。
解答・解説
正解はdです
状況の整理
・25歳の男性がバイク事故後に心肺停止となり、心拍再開後もICUで管理されている。頭部CTで低酸素脳症(心停止中の脳への酸素供給途絶による脳障害)の所見があり、器質的な脳障害が確認されている。 ・入院3日目、JCS Ⅲ-300の深昏睡で、人工呼吸器に依存し自発呼吸がない。瞳孔は散大・固定し、脳波は平坦である。 ・本人の運転免許証に臓器提供の意思表示があり、家族も同意しているため、臓器移植法に基づく法的脳死判定を行う場面である。
設問の考え方
脳死とは「脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止した状態」である。したがって法的脳死判定で確認する項目は、大脳と脳幹の機能を反映するもの、すなわち深昏睡、瞳孔の散大・固定、脳幹反射の消失、平坦脳波、自発呼吸の消失(無呼吸テスト)の5項目である。 一方、膝蓋腱反射のような深部腱反射は、反射弓が脊髄内で完結する「脊髄反射」であり、脳の機能を反映しない。脳死であっても脊髄が生きていれば脊髄反射は残りうるため、その有無は脳死判定の項目に含まれない。下線部のうち、判定基準に含まれないのは④の膝蓋腱反射の消失である。 なお、本例は判定の前提条件や除外条件にも照らしておく必要がある。器質的脳障害(低酸素脳症)が確実に診断され、深昏睡かつ無呼吸であり、回復の見込みがない状態である。体温36.2℃(深部温32℃未満なら判定除外)、収縮期血圧98mmHg(13歳以上では90mmHg以上が必要)であり、いずれも判定を妨げない。
選択肢考察
- ×a. ①
①JCS Ⅲ-300は、痛み刺激に全く反応しない状態で、深昏睡に相当する(GCSではE1V1M1の3点)。深昏睡は法的脳死判定の必須項目の一つであり、判定基準に含まれる。
- ×b. ②
②自発呼吸の消失は、呼吸中枢がある延髄の機能停止を示す。法的脳死判定では、他の項目をすべて確認したあと、最後に無呼吸テスト(人工呼吸器を外し、動脈血二酸化炭素分圧を60mmHg以上に上昇させても自発呼吸が出ないことを確かめる)で確認する。判定基準に含まれる。
- ×c. ③
③瞳孔の散大・固定は判定基準に含まれる。法的脳死判定では、瞳孔が固定し、瞳孔径が左右とも4mm以上であることを確認する。これは中脳の機能停止を反映する所見である。
- ○d. ④
④膝蓋腱反射は、大腿四頭筋の筋紡錘からの求心路と脊髄前角の運動ニューロンで完結する脊髄反射(深部腱反射)であり、脳幹の機能を反映しない。脳死状態でも脊髄機能が保たれていれば腱反射や屈曲反射などの脊髄反射が出現することがあり、その存在は脳死判定を否定しない。逆にその消失も脳死判定の根拠にならないため、判定基準に含まれない。判定で確認するのは脊髄反射ではなく脳幹反射の消失である。
- ×e. ⑤
⑤平坦脳波(脳波が電気的に無活動であること)は大脳機能の停止を示し、法的脳死判定の必須項目に含まれる。感度を上げた条件で30分以上記録し、音・痛みなどの刺激を加えても脳波活動が現れないことを確認する。
法的脳死判定の流れ(臓器移植法および施行規則)
1.前提条件 ・器質的脳障害により深昏睡かつ無呼吸を来している。 ・原疾患が確実に診断されている。 ・あらゆる適切な治療を行っても回復の可能性がないと判断される。 2.除外例 ・生後12週未満(在胎週数40週未満の場合は出産予定日から12週未満)。 ・急性薬物中毒、代謝・内分泌障害による昏睡。 ・深部温が32℃未満(6歳未満では35℃未満)の低体温。 ・収縮期血圧の低下(1歳未満65mmHg未満、1歳以上13歳未満で年齢×2+65mmHg未満、13歳以上で90mmHg未満)。 ・知的障害など、本人の有効な意思表示が困難な者は臓器提供の対象外とされる。 3.判定項目(すべて満たすことが必要) (1)深昏睡(JCS Ⅲ-300、GCS 3点) (2)瞳孔の固定、瞳孔径は左右とも4mm以上 (3)脳幹反射の消失:対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射(人形の目現象)、前庭反射(カロリックテスト)、咽頭反射、咳反射の7つ (4)平坦脳波 (5)自発呼吸の消失(無呼吸テスト。必ず最後に行う) 4.観察時間 ・1回目の判定終了後、6歳以上では6時間以上、6歳未満では24時間以上あけて2回目の判定を行う。2回目の判定終了時刻が死亡時刻となる。 ・判定は脳死判定に十分な経験を持ち、移植に関係しない2名以上の医師が行う。
脳死と植物状態の違い
脳死は脳幹を含む全脳の機能停止であり、自発呼吸がなく、人工呼吸器なしでは心停止に至る。植物状態(遷延性意識障害)は大脳機能が高度に障害されていても脳幹機能は保たれ、自発呼吸があることが多い。
脳死でもみられうる脊髄由来の運動
腱反射、足底の屈曲反射、ラザロ徴候(上肢を胸の前で組むような動き)などは脊髄反射・脊髄自動運動であり、脳死判定を否定しない。
臓器提供の意思
2010年施行の改正臓器移植法により、本人の意思が不明でも家族の書面による承諾で臓器提供が可能となり、15歳未満からの提供も可能となった。本例のように本人の書面による意思表示があり、家族が拒まない場合は当然提供が可能である。
POINT
・法的脳死判定の5項目:深昏睡、瞳孔固定(左右とも4mm以上)、脳幹反射(7つ)の消失、平坦脳波、自発呼吸の消失(無呼吸テストは最後)。 ・膝蓋腱反射などの脊髄反射は脳死判定に含まれない(脳死でも残りうる)。 ・脳幹反射7つ:対光・角膜・毛様脊髄・眼球頭・前庭・咽頭・咳反射。 ・除外:急性薬物中毒、代謝・内分泌障害、低体温(6歳以上で深部温32℃未満)、低血圧、生後12週未満。 ・2回目の判定は6歳以上で6時間以上、6歳未満で24時間以上あけ、2回目終了時刻が死亡時刻。
