血流が止まっても託せる命―心停止後に提供できる臓器を「虚血への強さ」で読み解く
第119回医師国家試験 B問題 第24問
国試問題にチャレンジ
我が国で心臓死の後に移植で提供できる臓器はどれか。
- a.肺
- b.角膜
- c.肝臓
- d.小腸
- e.心臓
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
我が国の臓器移植は臓器移植法に基づき、亡くなった人からの提供には脳死下と心停止後の2つの経路があります。心停止後は血流が途絶えて温阻血障害が進むため、提供できるのは虚血に比較的強い腎臓・膵臓・眼球(角膜)に限られ、無血管組織の角膜はその代表です。心臓・肺・肝臓・小腸は亡くなった人からは脳死下でのみ提供でき、肺・肝臓・小腸には生体からの部分提供もありますが、心臓には生体提供はありません。角腎法から1997年の臓器移植法、2010年の改正法全面施行へと続く制度の流れや、日本臓器移植ネットワークとアイバンクの役割もあわせて押さえておきましょう。臓器ごとの虚血耐性という生理学的な理由から制度を理解しておくと、暗記に頼らず整理でき、臨床で家族に説明する際の土台にもなります。
解答・解説
正解はbです
我が国の臓器移植は「臓器の移植に関する法律(臓器移植法)」に基づいて行われる。亡くなった人からの臓器提供には、脳死下での提供と心臓死(心停止)後の提供の2つの経路があり、どちらで提供できるかは臓器ごとに決まっている。
脳死下と心停止後の違い
脳死下での提供では、人工呼吸などにより心臓が動き続け、臓器に血液が流れている状態で摘出できる。そのため、虚血(血流の途絶)に弱い心臓・肺・肝臓・小腸を含め、多くの臓器を提供できる。 一方、心停止後は臓器への血流が止まり、時間とともに組織が傷む(温阻血障害)。この障害にある程度耐えられる臓器・組織に限って提供が認められており、我が国では腎臓・膵臓・眼球(角膜)が該当する。
考え方
選択肢のうち、心停止後に提供できるのは眼球に含まれる角膜だけである。角膜には血管がなく、周囲の液体から酸素や栄養を受け取っているため、血流が止まっても比較的長く状態が保たれる。肺・肝臓・小腸・心臓は、心停止後の提供は認められていない。
選択肢考察
- ×a. 肺
肺は虚血に弱く、我が国では心停止後の提供は認められていない。肺移植は、脳死下での提供か、生体肺移植(主に2人の健康な家族から肺葉を1つずつ提供してもらう方法)で行われる。
- ○b. 角膜
心停止後に提供できると法で定められている眼球に、角膜が含まれる。角膜は血管のない組織で、涙液や前房水から酸素・栄養を受けているため、心停止後も一定時間は移植に使える状態が保たれる。そのため、亡くなった後の角膜提供(献眼)はアイバンクを通じて広く行われており、脳死下でも心停止後でも提供できる。
- ×c. 肝臓
肝臓は温阻血障害を受けやすく、我が国では心停止後の提供は認められていない。肝移植は、脳死下での提供か、生体肝移植(健康な家族の肝臓の一部を提供してもらう方法)で行われる。我が国では生体肝移植の件数が多いことが特徴である。
- ×d. 小腸
小腸は虚血に特に弱い臓器であり、我が国では心停止後の提供は認められていない。小腸移植は、脳死下での提供か、生体からの部分小腸の提供で行われるが、件数は少ない。
- ×e. 心臓
心臓の提供は脳死下に限られる。心停止後の心臓は虚血により傷み、移植に使えないためである。また、心臓は生命維持に不可欠な1つしかない臓器なので、生体からの提供はあり得ない。
臓器ごとの提供経路(我が国)
・心臓:脳死下のみ ・肺:脳死下、生体(肺葉) ・肝臓:脳死下、生体(部分肝) ・小腸:脳死下、生体(部分小腸) ・腎臓:脳死下、心停止後、生体 ・膵臓:脳死下、心停止後 ・眼球(角膜):脳死下、心停止後
法律の経緯
・かつては「角膜及び腎臓の移植に関する法律(角腎法)」により、心停止後の角膜と腎臓の移植が認められていた。 ・1997年に「臓器の移植に関する法律」が施行され、角腎法は廃止された。この法律で、本人の書面による意思表示と家族の承諾がある場合に、脳死下での臓器提供ができるようになった。 ・2010年の改正法全面施行により、本人の意思が不明な場合でも家族の書面による承諾があれば脳死下での提供ができるようになり、15歳未満の小児からの脳死下臓器提供も可能となった。また、親族への優先提供の意思表示も認められた。
臓器移植の仲介
亡くなった人からの臓器のあっせんは日本臓器移植ネットワークが担い、角膜はアイバンクがあっせんを行う。
POINT
・心停止後に提供できるのは、腎臓・膵臓・眼球(角膜)の3つである。 ・心臓・肺・肝臓・小腸は脳死下でしか亡くなった人から提供できない。 ・心臓は脳死下のみで、生体からの提供はない。 ・角膜は無血管組織で虚血に強く、心停止後でも移植できる。
