成人の物差しを捨てよ―乳児のバイタルで本当に危ない「遅い脈」
第119回医師国家試験 B問題 第23問
国試問題にチャレンジ
乳児で緊急処置を要するバイタルサインはどれか。
- a.体温 ―― 38.0℃
- b.脈拍 ―― 52/分
- c.血圧 ―― 76/52mmHg
- d.呼吸数 ―― 36/分
- e.SpO2 ―― 96%(room air)
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
小児のバイタルサインは年齢で基準値が大きく異なり、乳児では心拍数およそ100〜160/分、呼吸数30〜50/分、収縮期血圧70〜100mmHgが目安で、低血圧は70mmHg未満と判断します。乳児の心拍出量は心拍数に強く依存するため、脈拍52/分のような高度徐脈はそのまま循環不全につながり、心停止切迫のサインとなります。小児の徐脈の主因は低酸素血症であり、気道確保と酸素化・換気を行っても心拍数60/分未満で循環不全があれば胸骨圧迫を開始します。一方、38.0℃の発熱、血圧76/52mmHg、呼吸数36/分、SpO2 96%は乳児としてただちに蘇生的処置を要する値ではありません。成人の物差しを持ち込まず、年齢別の基準と小児特有の心停止への経過を理解しておくことが、救急の現場で子どもを守る第一歩になります。
解答・解説
正解はbです
小児のバイタルサインは年齢によって基準値が大きく異なる。成人の基準で判断すると、正常な乳児の速い心拍・呼吸を「異常」と誤認したり、逆に危険な徐脈を見逃したりする。本問は、乳児(生後1か月〜1歳未満)の基準値を踏まえ、ただちに介入が必要な値を選ぶ問題である。
乳児のおおよその基準値
・心拍数(脈拍):覚醒時でおよそ100〜160/分 ・呼吸数:およそ30〜50/分 ・収縮期血圧:およそ70〜100mmHg(70mmHg未満は低血圧) ・体温:36.5〜37.5℃程度(成人よりやや高め) ・SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度):室内気で95%以上
考え方
乳児の心拍出量は、1回拍出量を増やす余力が小さいため、主に心拍数に依存している。そのため徐脈はそのまま心拍出量の低下、すなわち循環不全につながりやすい。小児の徐脈の原因として最も多いのは低酸素血症であり、心停止が切迫しているサインとみなされる。小児の二次救命処置の手順では、酸素投与と換気を行っても心拍数が60/分未満で末梢循環不全の徴候があれば、脈が触れていても胸骨圧迫を開始することになっている。 選択肢を見ると、体温、血圧、呼吸数、SpO2はいずれも乳児の基準範囲内か、ただちに処置を要する値ではない。脈拍52/分だけが乳児の基準を大きく下回り、胸骨圧迫開始の目安である60/分も下回っているため、緊急処置を要する。
選択肢考察
- ×a. 体温 ―― 38.0℃
誤り。乳児の平熱は36.5〜37.5℃程度で、38.0℃は発熱にあたる。しかし乳児の発熱はウイルス感染などで日常的にみられ、全身状態が保たれていれば、この値だけで緊急の蘇生的処置が必要になるわけではない。ただし生後3か月未満の乳児の38℃以上の発熱は、重症細菌感染症(敗血症、細菌性髄膜炎、尿路感染症など)の頻度が比較的高いため、注意深い評価と精査の対象となる。また40℃を超える高熱や、35℃台前半以下の低体温は重症感染症などを示唆し、とくに注意を要する。
- ○b. 脈拍 ―― 52/分
正しい。乳児の心拍数は覚醒時でおよそ100〜160/分であり、52/分は高度の徐脈である。乳児の心拍出量は心拍数に大きく依存するため、徐脈は直ちに循環不全をもたらす。小児の徐脈の多くは低酸素血症によるもので、心停止の直前の状態であることが多い。小児の二次救命処置では、酸素投与・換気を行っても心拍数が60/分未満で循環不全の徴候があれば胸骨圧迫を開始する。気道確保、酸素投与・換気補助、必要に応じた胸骨圧迫やアドレナリン投与などの緊急処置が必要である。
- ×c. 血圧 ―― 76/52mmHg
誤り。小児の血圧は年齢が低いほど低く、乳児の収縮期血圧はおよそ70〜100mmHgが基準である。乳児で低血圧と判断する目安は収縮期血圧70mmHg未満であり、76mmHgはその基準を上回っている。拡張期52mmHgも乳児としては許容範囲であり、緊急処置を要する値ではない。成人の基準で「低い」と判断しないことが大切である。
- ×d. 呼吸数 ―― 36/分
誤り。呼吸数も年齢が低いほど多く、乳児ではおよそ30〜50/分が基準である。36/分は正常範囲内であり、成人なら頻呼吸に相当する値でも乳児では問題ない。乳児で注意すべきなのは、60/分を超えるような頻呼吸や、陥没呼吸・呻吟・鼻翼呼吸などの努力呼吸、あるいは逆に呼吸数の低下(呼吸不全の進行による疲弊を示唆)である。
- ×e. SpO2 ―― 96%(room air)
誤り。室内気(酸素投与なし)でのSpO2は、乳児でも成人と同様に95%以上が正常の目安であり、96%は正常範囲である。酸素化は保たれており、緊急処置を要する値ではない。一般に94%未満では酸素投与を考慮し、90%未満では重篤な低酸素血症として緊急対応が必要となる。
小児のバイタルサインの年齢による変化(おおよその目安)
・新生児:心拍数 100〜180/分、呼吸数 40〜60/分、収縮期血圧 60〜90mmHg ・乳児:心拍数 100〜160/分、呼吸数 30〜50/分、収縮期血圧 70〜100mmHg ・幼児:心拍数 90〜140/分、呼吸数 20〜40/分、収縮期血圧 80〜110mmHg ・学童:心拍数 70〜120/分、呼吸数 18〜30/分、収縮期血圧 90〜120mmHg 年齢が上がるにつれて心拍数・呼吸数は減少し、血圧は上昇して成人の値に近づく。基準値は資料によって多少の幅がある。
小児の低血圧の目安(収縮期血圧)
・新生児(生後28日以内):60mmHg未満 ・乳児(1〜12か月):70mmHg未満 ・1〜10歳:70+(年齢×2)mmHg未満 ・10歳以上:90mmHg未満
小児の循環の特徴
小児は心筋が未熟で1回拍出量を増やす予備力が小さいため、心拍出量は心拍数に強く依存する。循環血液量が減ると、まず頻脈と末梢血管収縮で血圧を維持しようとするため、ショックの初期には血圧が保たれることが多い(代償性ショック)。血圧が低下するのは代償が破綻した段階であり、そこから心停止へ急速に進行しうる。したがって小児では、血圧よりも心拍数、毛細血管再充満時間(CRT:爪床を圧迫して赤みが戻るまでの時間、2秒以内が正常)、皮膚色、意識状態などで早期に循環不全を見抜くことが重要である。
小児の徐脈と心停止
成人の心停止は不整脈(心室細動など)による心原性が多いのに対し、小児の心停止は呼吸不全やショックから低酸素血症を経て徐脈となり、心静止に至る経過が多い。そのため、小児の徐脈にはまず気道確保・酸素化・換気の改善で対応し、それでも心拍数60/分未満で循環不全があれば胸骨圧迫を開始する。
POINT
・乳児の基準値:心拍数100〜160/分、呼吸数30〜50/分、収縮期血圧70〜100mmHg、SpO2 95%以上。 ・小児の心拍出量は心拍数に依存し、徐脈は循環不全・心停止切迫のサインである。 ・酸素化・換気を行っても心拍数60/分未満で循環不全があれば胸骨圧迫を開始する。 ・小児の徐脈の主因は低酸素血症である。 ・乳児の低血圧の目安は収縮期血圧70mmHg未満。成人の基準で判断しない。
