3秒が告げる危険信号―乳児の「循環不全」を脱水所見と見分ける
第116回医師国家試験 C問題 第42問
国試問題にチャレンジ
10か月の男児。昨夜から血便,嘔吐を認め,機嫌も悪いため母親に連れられて来院した。①足底を刺激すると開眼し,②皮膚色はピンク色である。③ツルゴールは軽度低下しており,④口唇の乾燥は軽度である。⑤毛細血管再充満時間は3秒である。 この患児で循環不全を示す所見は下線部のうちどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
小児の初期評価では、病名の診断より先にABCDEアプローチで生理学的な異常を評価し、緊急度を判断します。毛細血管再充満時間(CRT)は末梢循環を簡便に評価する指標で、正常は2秒以内、それを超えると循環不全を示唆するため、本例の3秒は循環不全を示す所見です。一方、ツルゴール低下や口唇・口腔粘膜の乾燥は体液量(脱水)の所見、刺激への反応は意識レベルの所見、ピンク色の皮膚は正常所見であり、評価対象を区別することが求められます。小児は代償能力が高く血圧低下はショックの末期に現れるため、頻脈・CRT延長・四肢冷感・皮膚の蒼白やまだら模様といった早期徴候で循環不全を捉えることが、重症化を防ぐ鍵になります。
解答・解説
正解はeです
症例の背景
10か月の乳児が、昨夜からの血便、嘔吐、不機嫌で受診している。この年齢でこの組み合わせをみたら、まず腸重積症を考える(腸重積症は生後3か月~2歳ごろ、特に1歳前後に多く、間欠的な不機嫌・啼泣、嘔吐、イチゴゼリー状の血便が典型である)。細菌性腸炎なども鑑別に挙がる。いずれにせよ、嘔吐による水分喪失や腸管の循環障害が進めば、脱水やショックに陥りうる状態である。
設問の考え方
本問は病名の診断ではなく、小児の初期評価で「循環(Circulation)」の異常を示す所見を、意識・皮膚色・脱水の所見と区別して選べるかを問うている。小児救急では、病名を決める前にまず生理学的な評価(気道A・呼吸B・循環C・神経学的評価D・全身観察E、いわゆるABCDEアプローチ)を行い、緊急度を判断する。 下線部の所見をこの枠組みで整理すると、 ・①足底刺激で開眼:意識レベル(D)の評価 ・②皮膚色ピンク:皮膚色の評価で、正常所見 ・③ツルゴール軽度低下、④口唇の軽度乾燥:体液量(脱水の程度)の評価で、軽度脱水を示す ・⑤毛細血管再充満時間(CRT)3秒:末梢循環(C)の評価で、正常上限の2秒を超えて延長している となり、循環不全を直接示すのは⑤である。脱水所見はあくまで体内水分の減少を示すものであり、それ自体が循環不全を意味するわけではない。脱水が進行して循環血液量が減ると、CRT延長、頻脈、四肢冷感、皮膚の蒼白・まだら模様が現れ、最後に血圧が低下する。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。足底への刺激で開眼するかどうかは、刺激に対する反応をみる意識レベルの評価(ABCDEのD)である。乳児では呼びかけに反応しにくいため、足底刺激などを用いて覚醒の程度を確認する。刺激で開眼するのは意識レベルがやや低下している可能性を示すが、循環不全そのものを示す所見ではない。なお、意識レベルの低下は循環不全が進行して脳血流が低下した結果としても生じうるため、他の所見と合わせて重症度を判断する。
- ×b. ②
誤り。皮膚色は循環や酸素化を評価する所見の一つであるが、ピンク色は正常である。循環不全では末梢血管が収縮して皮膚が蒼白になったり、網目状のまだら模様(網状皮斑)を呈したりする。酸素化が低下すればチアノーゼ(皮膚・粘膜が青紫色になる)がみられる。チアノーゼには手足の末梢にみられる末梢性チアノーゼと、口唇や口腔粘膜にもみられる中枢性チアノーゼがある。
- ×c. ③
誤り。ツルゴール(皮膚の張り)は、腹部などの皮膚をつまんで離したときに元に戻るまでの速さで評価し、戻りが遅いほど細胞外液が減少していると判断する。軽度低下は軽度の脱水を示す所見であり、体液量の評価であって、循環不全を直接示す所見ではない。
- ×d. ④
誤り。口唇や口腔粘膜の乾燥は脱水を示唆する所見である。軽度の乾燥は軽度脱水に相当し、循環不全を直接示すものではない。口唇の乾燥は口呼吸や環境の乾燥、ビタミン欠乏・低栄養などでもみられ、特異性は高くない。
- ○e. ⑤
正しい。毛細血管再充満時間(capillary refill time:CRT)は、爪床や指先、胸骨部の皮膚を数秒間圧迫して白くさせ、離してから元の赤みに戻るまでの時間を測る簡便な末梢循環の評価法である。正常は2秒以内で、2秒を超えると末梢循環不全を示唆する。測定時は四肢を心臓よりやや高い位置に保つ。本例は3秒と延長しており、循環血液量の減少などにより末梢への血流が低下していることを示す。なお、寒冷環境では循環が正常でもCRTが延長しうるため、室温や皮膚温にも注意して評価する。
小児の循環(C)の評価項目
・心拍数・リズム:頻脈は循環不全の早期に現れる代償反応である。進行すると徐脈となり、心停止の前兆として危険である。 ・脈の触知:中枢(大腿・上腕動脈)と末梢(橈骨・足背動脈)の脈の強さを比較する。末梢の脈が弱いのは循環不全の徴候である。 ・毛細血管再充満時間(CRT):2秒を超えれば延長。 ・皮膚色・皮膚温:蒼白、まだら模様、四肢冷感は循環不全を示す。 ・血圧:小児は代償能力が高く、血圧低下はショックの末期に現れる。血圧が保たれていても循環不全は否定できない。 ・尿量、意識レベルも臓器灌流の指標となる。
小児のショック
血圧が保たれているが組織灌流が不十分な状態を代償性ショック、血圧が低下した状態を低血圧性ショックとよぶ。小児では低血圧になってからでは心停止まで進行が速いため、頻脈やCRT延長などの早期徴候で循環不全を見つけることが重要である。
小児の脱水の評価
・軽度:口腔粘膜のやや乾燥程度で、ほぼ正常の外観 ・中等度:ツルゴール低下、口腔粘膜乾燥、大泉門・眼窩の陥凹、尿量減少、頻脈、CRT延長傾向 ・高度:ぐったりして意識レベルが低下、四肢冷感、CRTの著明な延長、低血圧 脱水の程度は体重減少率でも評価される(目安として乳児では軽度5%未満、中等度5~10%、高度10%以上など)。
腸重積症
口側の腸管が肛門側の腸管に入り込む疾患で、乳幼児では回腸末端が結腸に入り込む回腸結腸型が最も多い。三主徴は間欠的腹痛(不機嫌・啼泣)、嘔吐、イチゴゼリー状の血便。右上腹部にソーセージ様腫瘤を触れることがある。超音波検査でtarget sign(同心円状構造)を認める。発症から時間が短く全身状態が良好であれば、注腸造影下や超音波ガイド下での非観血的整復を行う。腸管壊死・穿孔、ショック、腹膜炎を伴う場合は手術適応となる。
POINT
・小児の初期評価はABCDEアプローチで、病名診断より先に生理学的徴候を評価する。 ・毛細血管再充満時間(CRT):正常2秒以内、2秒を超えれば末梢循環不全。 ・循環不全の徴候:頻脈、CRT延長、末梢脈拍の減弱、四肢冷感、皮膚の蒼白・まだら模様。血圧低下は末期の所見。 ・ツルゴール低下・口腔粘膜乾燥は脱水(体液量)の所見、刺激への反応は意識レベル(D)の所見。 ・乳児の血便・嘔吐・不機嫌 → 腸重積症を考える。
