その体温、本当に「芯」の温度?―重症熱中症で直腸温を測る理由
第120回医師国家試験 E問題 第33問
国試問題にチャレンジ
22歳の男性。意識障害のため救急車で搬入された。炎天下で運動中に頭痛と悪心が出現した。ふらふらして真っ直ぐに歩けなくなり,倒れたところを友人が気付き,救急車を要請した。本人は水分を補給していなかった。既往歴に特記すべきことはない。意識レベルはJCSⅡ-30。心拍数116/分,整。血圧92/62mmHg。呼吸数24/分。SpO2 96%(マスク5L/分酸素投与下)。瞳孔径は両側4mmで対光反射は正常である。発汗はなく,体幹部から末梢にかけての皮膚は乾燥し,熱感を認める。 最も適切な体温測定部位はどれか。
- a.前額部
- b.鼓膜
- c.舌下
- d.腋窩
- e.直腸
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
暑熱環境での労作後に意識障害や小脳症状が現れ、発汗が消失して皮膚が熱く乾いている場合は、Ⅲ度以上の重症熱中症(熱射病)を考えます。重症熱中症では高体温にさらされた温度と時間が臓器障害を左右するため、深部体温をモニターしながら速やかに冷却し、目標に達したら過冷却を避けて冷却を止めることが重要です。救急外来で簡便に深部体温を測る代表的な部位は直腸で、膀胱温や食道温も用いられます。一方、前額部・鼓膜(赤外線式)・舌下・腋窩は外気温や発汗、呼吸、冷却処置の影響を受けやすく、重症例の管理には適しません。熱中症の高体温はセットポイントが正常なうつ熱であり解熱薬は無効、という病態の理解とあわせて押さえておきたい知識です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・22歳の健康な男性が、炎天下での運動中に発症している(暑熱環境+労作)。 ・水分補給をしておらず、頻脈(116/分)、血圧低下傾向(92/62mmHg)、皮膚の乾燥があり、脱水による循環血液量減少がうかがえる。 ・頭痛・悪心に続いて、まっすぐ歩けないふらつき(小脳失調を思わせる症状)が出現し、搬入時はJCS Ⅱ-30(大声で呼びかけ、体を揺さぶると開眼する程度)の意識障害がある。 ・瞳孔は左右同大で対光反射も正常であり、脳ヘルニアなどの頭蓋内病変を強く示唆する局所所見はない。 ・発汗が消失し、体幹から四肢末梢まで皮膚が乾燥して熱い。体温調節機構が破綻した高体温が疑われる。 ・頻呼吸があり、酸素投与下でSpO2 96%と、呼吸状態にも注意が必要である。
診断
暑熱環境での労作、脱水、無汗で熱い皮膚、中枢神経症状(意識障害・運動失調)がそろっており、労作性熱中症の重症型(日本救急医学会の分類でⅢ度以上、いわゆる熱射病)と診断できる。2024年の熱中症診療ガイドラインでは、Ⅲ度のうち深部体温40℃以上かつGCS 8点以下のものをⅣ度として区別し、より積極的な冷却を求めている。若年者で既往歴がなく、発症状況が典型的であることから、脳血管障害や中枢神経感染症よりも熱中症をまず考える。
設問の考え方
重症熱中症では、臓器障害の程度が「高体温にさらされた温度と時間」に左右されるため、ただちに冷却を開始し、目標温度に達したら過冷却を避けて冷却を止める必要がある。そのためには、重症度判定と冷却効果の評価に使える「深部体温(核心温)」を、連続的かつ正確に測定しなければならない。体表や口腔などの測定値は外気温・発汗・呼吸・冷却操作そのものの影響を大きく受け、深部体温を正しく反映しない。救急外来で簡便かつ確実に深部体温を測る代表的な部位が直腸であり、本問の答えとなる(ほかに膀胱温・食道温も深部体温として用いられる)。
選択肢考察
- ×a. 前額部
前額部は皮膚表面の温度(赤外線式の非接触体温計などで測る)であり、外気温、日射、発汗、送風・氷嚢などの冷却処置の影響をそのまま受ける。発熱のスクリーニングには使われるが、深部体温とのずれが大きく、重症熱中症の重症度判定や冷却の管理には適さない。
- ×b. 鼓膜
鼓膜は内頸動脈系の血流を受け、理論上は脳温を反映しやすい部位である。しかし市販の赤外線式耳式体温計は、プローブの向きや耳垢、外耳道の温度、周囲の気温の影響で値がばらつきやすく、暑熱環境や冷却中には実際の深部体温と乖離しやすい。連続測定にも向かず、重症熱中症の管理には不適切である。
- ×c. 舌下
舌下温(口腔温)は直前の飲食、口呼吸・頻呼吸、喫煙などの影響を受ける。本例は頻呼吸で酸素マスクを装着しており、口からの気流で値が下がりやすい。さらに意識障害があるため口を閉じて体温計を正しく保持できず、体温計を噛む危険もある。深部体温の測定部位としては適さない。
- ×d. 腋窩
腋窩温は日本の日常診療で最も広く使われるが、腋窩をしっかり閉じて一定時間保つ必要があり、運動・入浴・発汗・外気温の影響を受けやすい。体表に近い温度であり深部体温より低く出るうえ、冷却中は特に誤差が大きくなる。意識障害のある患者の救急管理で深部体温の代わりにはならない。
- ○e. 直腸
直腸温は外気温や発汗・体表冷却の影響を受けにくく、深部体温をよく反映する。救急外来で特別な機器なしに測定でき、温度プローブを留置すれば連続モニタリングも可能である。このため重度の高体温(熱中症)や偶発性低体温症の診断・管理で標準的に用いられる。重症熱中症ではこの値をみながら冷却を行い、目標温度に達したら冷却を終了して過冷却を防ぐ。ただし直腸温は体温の急激な変化に対して追従がやや遅れる点に留意する。
熱中症の重症度分類(日本救急医学会)
・Ⅰ度:めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、こむら返り。意識障害はない。現場での応急処置(涼しい場所での安静、冷却、経口補水)で対応する。 ・Ⅱ度:頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力・判断力の低下(JCS 1以下)。医療機関での診察・輸液が必要。 ・Ⅲ度:中枢神経症状(JCS 2以上の意識障害、小脳症状、痙攣)、肝・腎機能障害、血液凝固異常(DIC)のいずれかを認める。入院・集中治療が必要。 ・Ⅳ度(2024年ガイドラインで追加):深部体温40℃以上かつGCS 8点以下。Active cooling(積極的冷却)を考慮する。
深部体温の測定部位
・直腸温:簡便で救急外来の標準。体温変化への追従はやや遅い。 ・膀胱温:温度センサー付き膀胱留置カテーテルで連続測定でき、尿量測定と兼ねられる。尿量が少ないと精度が落ちる。 ・食道温:下部食道で測り、心臓・大血管の温度をよく反映し変化への追従も速い。気管挿管下などで用いる。 ・肺動脈血温:肺動脈カテーテル(一部の中心静脈カテーテルも含む)で血液温を連続測定できる。侵襲的。 一方、前額部・鼓膜(赤外線式)・舌下・腋窩は、いずれも環境や測定手技の影響を受けやすい。
重症熱中症の治療の要点
・気道・呼吸・循環の安定化と同時に、速やかな冷却を行う。 ・冷却法:冷水浸漬(労作性熱中症で特に有効)、蒸散冷却(体表に水を噴霧し送風する)、氷嚢による頸部・腋窩・鼠径部の冷却、冷却輸液、血管内冷却カテーテルやゲルパッド式体表冷却装置など。 ・脱水に対しては細胞外液補充液を輸液する。 ・横紋筋融解症(CK上昇、ミオグロビン尿)、急性腎障害、肝障害、DIC、電解質異常を検査・監視する。 ・解熱薬(アセトアミノフェンやNSAIDs)は、視床下部の設定温度上昇によらない熱中症の高体温には効果が期待できず、肝・腎障害を悪化させうるため用いない。
熱中症と発熱の違い
感染症などの発熱は視床下部の体温設定値(セットポイント)が上がった状態で、解熱薬が効く。熱中症は設定値は正常のまま熱産生・熱吸収が熱放散を上回った状態(うつ熱)であり、物理的冷却が治療の主体となる。
POINT
・暑熱環境下の労作+意識障害+無汗で熱く乾いた皮膚 → 重症熱中症(Ⅲ度以上)を考える。 ・重症熱中症の管理では深部体温を測る。代表的な測定部位は直腸(ほかに膀胱、食道、肺動脈血)。 ・前額部、鼓膜(赤外線式)、舌下、腋窩は外気温・発汗・呼吸・冷却の影響を受け、重症例の体温管理には不適。 ・深部体温をモニターしながら速やかに冷却し、目標に達したら過冷却を避けて冷却を止める。 ・熱中症の高体温に解熱薬は無効である。
