炎天下の畑で倒れた高齢者―まず「日陰」へ、熱を逃がす4つの経路で考える熱中症の応急処置
第120回医師国家試験 F問題 第42問
国試問題にチャレンジ
83歳の男性。畑で作業中に意識がもうろうとしているところを発見された。夏の日中,長時間の農作業中にめまいとふらつきを訴えていた。その後,意識がもうろうとなっているところを発見され,ドクターカーにより医師が派遣された。意識レベルはJCSⅢ-100。体温40.3℃。心拍数120/分,整。血圧92/50mmHg。呼吸数24/分。SpO2 98%(room air)。口腔内は乾燥している。 この患者に対する応急処置を行う場所で適切なのはどれか。
- a.アスファルトの上
- b.気温の高いところ
- c.湿度の高いところ
- d.風のあたらないところ
- e.直射日光を避けたところ
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
高温環境下での40℃以上の高体温と意識障害は重症熱中症を示し、2024年のガイドラインで新設されたⅣ度(深部体温40.0℃以上かつGCS 8以下)に相当しうる最重症の病態です。救命の鍵は一刻も早い冷却であり、応急処置は直射日光を避けた涼しく風通しの良い場所、理想的には冷房の効いた室内や救急車内で行います。熱は放射・伝導・対流・蒸発の4経路で逃げるため、熱いアスファルト、高温、高湿度、無風、直射日光はいずれも放熱を妨げます。移動後は衣服をゆるめ、蒸散冷却や頸部・腋窩・鼠径部の冷却を行い、意識障害がある場合は経口補水をせず輸液で対応します。放熱の生理学から応急処置を組み立てる考え方は、現場で迷わず行動するための土台になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・83歳の高齢男性が、夏の日中に長時間の農作業をしていた。高温の環境に長くいたことが分かる。 ・作業中にめまいとふらつきを訴え、その後に意識がもうろうとした状態で発見された。 ・意識レベルはJCSⅢ-100(刺激しても目を開けず、痛み刺激を払いのける動作をする)で、重い意識障害がある。 ・体温40.3℃と著しい高体温がある。 ・心拍数120/分の頻脈、血圧92/50mmHgの低血圧、呼吸数24/分の頻呼吸、口腔内の乾燥がある。これらは大量の発汗による脱水と、それに伴う循環血液量の減少を示す。
診断
高温の環境にいたあとに、40℃以上の高体温、意識障害、脱水が出ていることから、重症の熱中症(熱射病)と診断できる。日本救急医学会の熱中症の重症度分類ではⅢ度(入院・集中治療が必要)に当たる。さらに、深部体温40.0℃以上かつGCS 8以下を満たす最重症の「Ⅳ度」にも当たると考えられる。高齢者は暑さやのどの渇きを感じにくく、体温を調節する力も弱いため、熱中症になりやすく、重症になりやすい。
設問の考え方
重症の熱中症では、高体温が続く時間が長いほど脳や多くの臓器の障害が進む。このため、できるだけ早く体温を下げることが救命の鍵になる。体温を下げる応急処置をする場所は、体に熱が入ってくるのを防ぎ、体から熱を逃がしやすい環境である必要がある。 体から熱が出ていく経路は、放射(熱線として出る)、伝導(触れているものに熱が移る)、対流(周りの空気に熱が移る)、蒸発(汗や水が気化するときに熱を奪う)の4つである。それぞれの経路について、熱が逃げやすくなる環境かどうかで選択肢を判断する。理想は冷房の効いた涼しい室内(救急車内を含む)であり、それができなければ風通しの良い日陰に移す。
選択肢考察
- ×a. アスファルトの上
夏の日中のアスファルトは日射で強く熱せられ、気温よりもはるかに高い温度になる。その上に患者を寝かせると、伝導によって地面から体へ熱が直接入り、さらに照り返しの熱(放射熱)も受ける。体温を下げるどころか上げてしまうため、不適切である。
- ×b. 気温の高いところ
皮膚と周りの空気との温度差が小さいほど、対流や伝導で熱は逃げにくくなる。気温が体温に近い、あるいは体温より高いと、逆に周りから体へ熱が入ってくる。体温40℃を超える患者を冷やすには、できるだけ気温の低い場所(冷房の効いた室内や救急車内など)に移すべきであり、不適切である。
- ×c. 湿度の高いところ
暑い環境では、汗や体表の水が蒸発するときに熱を奪うこと(気化熱)が最も重要な放熱の手段になる。湿度が高いと水分が蒸発しにくくなるため、この冷却効果が大きく落ちる。現場で体に水を吹きかけて冷やす方法(蒸散冷却)の効果も下がるため、湿度の高い場所は不適切である。
- ×d. 風のあたらないところ
風があると、体の周りの温まって湿った空気が入れ替わり、対流と蒸発による放熱が進む。風のない場所では体の周りに熱と湿気がこもり、冷却の効率が落ちる。応急処置では、風通しの良い場所を選ぶか、うちわや扇風機で風を送るのが望ましく、不適切である。
- ○e. 直射日光を避けたところ
直射日光の下では、太陽の放射熱を受け続けて体温がさらに上がる。日陰や屋内など直射日光の当たらない場所へ移すことは、熱中症の応急処置の第一歩である。体に入ってくる熱を断ったうえで、衣服をゆるめる、体表に水をかけて風を送る、首・わきの下・足の付け根など太い血管が皮膚の近くを通る部位を冷やす、といった冷却を始める。
熱中症の重症度分類(日本救急医学会)
・Ⅰ度:めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、こむら返り。意識障害はない。現場での対応(涼しい場所への移動、冷却、水分・塩分の補給)で対応できる。 ・Ⅱ度:頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下(JCS 1以下の軽い意識障害)。医療機関での診察が必要である。 ・Ⅲ度:Ⅱ度に加えて、中枢神経症状(JCS 2以上の意識障害、小脳症状、けいれん)、肝・腎機能障害、血液凝固異常(DIC:播種性血管内凝固)のいずれかがある。入院による治療が必要である。 ・Ⅳ度:2024年の診療ガイドラインで新しく設けられた最重症の区分である。深部体温40.0℃以上かつGCS(Glasgow Coma Scale)8以下を目安とする。急速な体温の冷却(Active Cooling)を含む集中治療が必要である。
熱中症の応急処置の基本
1.涼しい場所へ移す:冷房の効いた室内や車内が最善である。なければ風通しの良い日陰に移す。 2.衣服をゆるめ、体を冷やす:体表に水をかけ、うちわや扇風機で風を送る(蒸散冷却)。首、わきの下、足の付け根を氷のうなどで冷やす。 3.水分と塩分を補給する:意識がはっきりしていて自分で飲める場合に限り、経口補水液などを飲ませる。意識障害や嘔吐がある場合は、誤嚥の危険があるため口から飲ませず、医療機関で輸液を行う。
医療機関での冷却
・体表冷却:蒸散冷却、冷水に体を浸す方法(冷水浸漬)、冷却ブランケットなど。 ・体内冷却:冷やした輸液、胃や膀胱の冷水洗浄、血管内冷却カテーテルなど。 ・重症例では、意識障害やDIC、横紋筋融解症、急性腎障害、肝障害などの多臓器の障害に注意して全身を管理する。
高齢者が熱中症になりやすい理由
・暑さやのどの渇きを感じにくい。 ・汗をかく量が少なく、皮膚の血流を増やす反応も鈍い。 ・体の水分量がもともと少ない。 ・利尿薬などの内服薬が影響することがある。
POINT
・重症の熱中症(40℃以上の高体温+意識障害)では、できるだけ早く体温を下げることが救命の鍵である。 ・応急処置は、直射日光を避けた涼しく風通しの良い場所で行う。冷房の効いた室内が最善である。 ・熱は放射・伝導・対流・蒸発の4つの経路で逃げる。高温、高湿度、無風、直射日光、熱い地面は、いずれも放熱を妨げる。 ・意識障害がある患者には口から水分を飲ませない。 ・2024年のガイドラインでⅣ度(深部体温40.0℃以上かつGCS 8以下)が新設された。
