StudyMed医師国家試験

腎移植後の脳にリング状病変―決め手は「CD20」が語る中枢神経系原発悪性リンパ腫

第120回医師国家試験 F問題 第41問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第41問

69歳の女性。悪心を主訴に来院した。悪心は3日前から時々自覚していた。既往歴に高血圧症と糖尿病があり,いずれも内服治療中である。慢性腎不全のため5年前に生体腎移植を受け,免疫抑制薬を投与されている。喫煙歴はない。意識レベルはJCSⅠ-1。身長150cm,体重41kg。神経診察で異常を認めない。血液所見:赤血球400万,Hb 12.3g/dL,Ht 41%,白血球6,500,血小板18万。血液生化学所見:総蛋白6.9g/dL,アルブミン4.4g/dL,総ビリルビン0.8mg/dL,AST 22U/L,ALT 10U/L,LD 237U/L(基準124~222),尿素窒素19mg/dL,クレアチニン0.9mg/dL,血糖118mg/dL,HbA1c 6.2%(基準4.9~6.0),Na 140mEq/L,K 4.7mEq/L,Cl 107mEq/L,CEA 2.9ng/mL(基準5以下),CA19-9 2U/mL未満(基準37以下),ProGRP 80pg/mL(基準81以下)。免疫血清学所見:可溶性IL-2受容体685U/mL(基準157~474),CRP 0.1mg/dL。頭部造影MRIのT1強調像(A)と頭部単純MRIのFLAIR像(B)とを下に示す。胸腹部造影CTで異常を認めない。画像所見をもとに病変の生検術を施行した。生検H-E染色標本(C)を下に示す。生検組織内にて増殖を認める細胞は,抗CD20抗体を用いた免疫染色にてB細胞の表面抗原が陽性であった。  診断はどれか。

第120回 F問題 第41問の問題画像
  1. a.膠芽腫
  2. b.脳膿瘍
  3. c.悪性リンパ腫
  4. d.多発性硬化症
  5. e.転移性脳腫瘍

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脳の中にリング状に造影される病変を見つけたとき、どう鑑別を進めて確定診断にたどり着くかを考える問題だ。着眼点は3つ。患者さんが免疫抑制状態にあること、画像の造影パターン、そして生検の病理所見。まず、悪心と軽い意識障害という症状は何を示していると思う?
医学生医学生
神経診察で局所症状はないので、脳の一部の障害というより、頭蓋内圧が上がっているサインでしょうか。
ドクタードクター
いい読みだね。画像では病変の周りに広い浮腫があるから、占拠性病変と脳浮腫で頭蓋内圧が上がり、悪心やぼんやりした意識につながっていると説明できる。では、造影T1強調像でリング状に造影される脳実質内の病変をみたら、まず何を鑑別に挙げる?
医学生医学生
脳神経外科の講義で習いました。膠芽腫、転移性脳腫瘍、脳膿瘍の3つです。
ドクタードクター
その通り。そして免疫が低下した患者さんでは、悪性リンパ腫やトキソプラズマ症もこのリストに加える。この方は腎移植後で免疫抑制薬を飲んでいるから、まさにその状況だ。
医学生医学生
でも悪性リンパ腫って、均一にべったり造影される腫瘤というイメージでした。リング状にもなるんですか。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。免疫が正常な人の中枢神経系リンパ腫は、細胞が密に詰まっているので均一に強く造影されることが多い。ところが臓器移植後やAIDSなどの免疫不全患者に起こるEBウイルス関連のリンパ腫は、内部が壊死しやすく、リング状に造影されることが多いんだ。だから画像だけで5つを見分けるのは難しく、今回は生検で決着をつけている。
医学生医学生
生検のH-E染色では異型細胞がびまん性に密に増えていて、CD20陽性。CD20はB細胞のマーカーなので、B細胞性の悪性リンパ腫ですね。
ドクタードクター
正解。これが確定診断の決め手だ。胸腹部CTでほかに病変がないから、中枢神経系原発悪性リンパ腫と考えられる。その大部分はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫だ。可溶性IL-2受容体の軽い上昇も矛盾しないけれど、炎症でも上がる非特異的なマーカーだから、これだけで診断はできない点は押さえておこう。では、ほかの候補がなぜ違うかを見ていこう。まず膠芽腫は?
医学生医学生
高齢者に多くて、壊死のために不整なリング状造影と強い浮腫を示すので、画像だけなら一番迷いそうです。
ドクタードクター
そうだね。ただ組織では異型の強いグリア細胞の増殖、偽柵状壊死、微小血管増殖がみられ、GFAPなどのグリア系マーカーが陽性になる。CD20陽性のB細胞が密に並ぶ今回の所見とは別物だ。
医学生医学生
脳膿瘍も、免疫抑制状態なら起こりやすそうですが。
ドクタードクター
確かにリスクは高い。でも膿瘍の壁は薄く均一で、粘り気の強い膿は拡散強調像で中心部が強い高信号になるから、画像でほぼ診断できることが多い。組織も好中球やマクロファージ、壊死物質が主体で、単一種類のB細胞が増えるわけではない。今回は発熱もCRP上昇もないね。
医学生医学生
転移性脳腫瘍は、腫瘍マーカーが正常で胸腹部CTに原発巣がないから否定的、ということでしょうか。
ドクタードクター
考え方としては良いけれど、それだけでは転移を完全には否定できない。決定的なのは組織が上皮性の癌細胞ではなくCD20陽性のB細胞だったことだ。ちなみにProGRPは肺小細胞癌、CEAは腺癌のマーカーとして確認されているね。多発性硬化症はどう思う?
医学生医学生
若い女性に多い脱髄疾患なので、69歳で新たに発症するのは考えにくいです。腫瘍みたいに見える脱髄病変もあると聞いたことはありますが。
ドクタードクター
腫瘤様脱髄病変だね。その場合も造影は途切れたリング状、いわゆるopen ringになりやすく、組織は髄鞘の脱落とT細胞・マクロファージの浸潤が主体だ。今回の所見とは合わない。
医学生医学生
画像で鑑別を広げて、最後は病理のマーカーで確定する、という流れなんですね。
ドクタードクター
その通り。発展知識もまとめておこう。中枢神経系原発悪性リンパ腫は脳室周囲や脳梁、基底核など深部にできやすく、病理では腫瘍細胞が血管の周りを取り囲む血管周囲性浸潤が特徴だ。臨床で特に大事なのは、生検前にステロイドを使わないこと。ステロイドで腫瘍細胞がアポトーシスを起こして病変が一時的に縮小し、診断がつかなくなることがある。
医学生医学生
浮腫が強いとついステロイドを使いたくなりますが、リンパ腫を疑ったら生検を優先すべきなんですね。治療は手術で取り切るのでしょうか。
ドクタードクター
いや、浸潤性に広がるので全摘しても予後は改善せず、手術は生検にとどめる。治療は大量メトトレキサート療法を中心とした化学療法が基本で、リツキシマブの併用や全脳照射、自家造血幹細胞移植を併用した大量化学療法などが検討される。また移植後の場合はEBV関連の移植後リンパ増殖性疾患として、可能な範囲で免疫抑制薬を減らすことも治療の第一歩になる。
医学生医学生
移植後の外来フォローでは、悪心のような軽い症状でも頭蓋内病変を考える必要がありそうですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床での教訓だ。免疫抑制下の患者さんの新しい神経症状は、感染症とリンパ腫の両方を念頭において慎重に評価しよう。

まとめ

脳実質内のリング状造影病変では、膠芽腫、転移性脳腫瘍、脳膿瘍をまず鑑別に挙げ、臓器移植後やAIDSなど免疫不全患者では悪性リンパ腫やトキソプラズマ症も加えます。免疫不全者に生じるEBV関連のリンパ腫は壊死によりリング状に造影されやすく、画像のみでの鑑別は困難なため、生検でCD20陽性の異型B細胞のびまん性増殖を確認することが確定診断の決め手となります。中枢神経系原発悪性リンパ腫の多くはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫で、血管周囲性浸潤が特徴であり、可溶性IL-2受容体は参考にとどまる非特異的マーカーです。生検前のステロイド投与は診断を困難にするため避け、治療は大量メトトレキサート療法を中心とし、手術は診断目的の生検にとどめます。画像で鑑別を広げ病理で確定するという流れは、脳腫瘍診療全般に通じる重要な考え方です。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・69歳女性。3日前から時々悪心がある。意識レベルはJCSⅠ-1(だいたい清明だが、今ひとつはっきりしない)で、軽い意識障害がある。神経診察では局所症状を認めない。悪心と軽い意識障害は、頭蓋内の占拠性病変や脳浮腫による頭蓋内圧の上昇で説明できる。 ・5年前に生体腎移植を受け、免疫抑制薬を内服している。免疫抑制薬は主にT細胞の機能を抑えるため、細胞性免疫が低下した状態にある。 ・血算・肝機能・腎機能はほぼ正常(移植腎は良好に機能している)。LDは軽度高値。 ・腫瘍マーカーは、CEA(主に腺癌)、CA19-9(膵胆道系の癌など)、ProGRP(ガストリン放出ペプチド前駆体。肺小細胞癌のマーカー)がいずれも基準範囲内である。 ・可溶性IL-2受容体(sIL-2R)は685U/mLと軽度上昇している。sIL-2Rは活性化したリンパ球から血中に放出され、悪性リンパ腫で上昇する。ただし炎症や感染症でも上がる非特異的なマーカーであり、この程度の上昇だけでリンパ腫と決めることはできない。CRPは0.1mg/dLで、明らかな炎症反応はない。 ・頭部造影MRIのT1強調像(A)では、脳実質内にリング状に造影される病変がある。単純MRIのFLAIR像(B)では、病変の周囲に広く高信号域があり、強い脳浮腫を伴っている。 ・胸腹部造影CTに異常はなく、ほかの臓器に原発巣や病変は見つからない。 ・生検のH-E染色標本(C)では異型細胞がびまん性に密に増えており、免疫染色でCD20(B細胞の表面抗原)陽性である。

診断へのプロセス

脳実質内でリング状に造影され、周りに強い浮腫を伴う病変をみたら、まず膠芽腫、転移性脳腫瘍、脳膿瘍の3つを鑑別に挙げる。さらに免疫が低下した患者では、中枢神経系の悪性リンパ腫やトキソプラズマ症なども加える。 画像だけではこれらを区別しきれない。腫瘍マーカーが陰性で胸腹部CTにも原発巣がないことは転移を考えにくくするが、それだけで転移を否定することはできない。そこで生検が行われ、病変の主体がCD20陽性の異型B細胞の密な増殖であることが分かった。この組織所見から、B細胞性の悪性リンパ腫と確定できる。体のほかの部位に病変がないことから、中枢神経系原発悪性リンパ腫(primary central nervous system lymphoma:PCNSL)と考えられる。 臓器移植後の免疫抑制状態は、EBウイルス(Epstein-Barr virus:EBV)が関与するリンパ増殖性疾患(移植後リンパ増殖性疾患)の危険因子であり、中枢神経系に発生することもある。sIL-2Rの軽い上昇も、リンパ腫として矛盾しない。

設問の考え方

本問は画像の読影だけで決める問題ではない。リング状造影という所見から鑑別を挙げ、最後は生検の病理所見(CD20陽性B細胞の増殖)で確定診断するという流れを理解しているかが問われている。

選択肢考察

  1. ×a.  膠芽腫

    膠芽腫はグリア細胞(神経膠細胞)から発生する、最も悪性度が高い脳腫瘍である(WHO分類grade 4)。高齢者に多く、内部に壊死があるためリング状の不整な造影効果と強い周囲浮腫を示す。このため画像上は本例の鑑別に入る。しかし、組織では異型の強いグリア細胞の増殖、偽柵状壊死、微小血管増殖がみられ、免疫染色ではGFAP(グリア線維性酸性蛋白)などのグリア系マーカーが陽性になる。CD20陽性のB細胞が密に増える本例の組織所見とは合わない。

  2. ×b.  脳膿瘍

    脳膿瘍は、細菌などの感染で脳実質内に膿がたまった状態である。厚さのそろった被膜がリング状に造影され、周りに浮腫を伴うため、画像上は本例の鑑別に入る。免疫が低下した患者では起こりやすい。しかし、膿は粘り気が強く水分子の動き(拡散)が制限されるため、MRIの拡散強調像で中心部が強い高信号になる。このため現在は画像でほぼ診断でき、生検を行うことは少ない。組織では好中球を中心とする炎症細胞、マクロファージ、壊死物質が主体になる。単一種類のB細胞だけが密に増える本例の所見とは合わない。また発熱やCRP上昇といった炎症所見もない。

  3. ○c.  悪性リンパ腫

    生検で異型細胞がびまん性に密に増えており、その細胞がCD20陽性、つまりB細胞であることが示されている。これが確定診断の決め手になる。胸腹部CTでほかの部位に病変がないことから、中枢神経系原発悪性リンパ腫と考えられる。この病気の大部分は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)である。免疫が正常な人では均一にべったり造影される腫瘤になることが多いが、AIDSや臓器移植後などの免疫不全患者に起こるEBV関連のリンパ腫は、内部が壊死しやすくリング状に造影されることが多い。腎移植後の免疫抑制状態、sIL-2Rの上昇も診断と矛盾しない。

  4. ×d.  多発性硬化症

    多発性硬化症は、中枢神経の髄鞘が自己免疫によって壊れる脱髄疾患である。若い女性に多く、症状や病変の場所・時期が繰り返し変わること(空間的・時間的多発)が特徴である。大きな脱髄病変が腫瘍のように見えることはまれにある(腫瘤様脱髄病変)。しかしその場合も造影は途切れたリング状(open ring)になりやすい。組織でも、髄鞘の脱落と、T細胞・マクロファージの浸潤が主体になる。69歳で免疫抑制薬を飲んでいる患者で新たに発症することは考えにくく、CD20陽性B細胞の密な増殖という所見とも合わない。

  5. ×e.  転移性脳腫瘍

    転移性脳腫瘍は成人の脳腫瘍で最も多く、原発巣は肺癌が最も多い。次いで乳癌、腎癌、大腸癌などが続く。皮質と白質の境界付近にでき、リング状の造影効果と強い浮腫を示すので、画像上は本例の鑑別に入る。しかし、本例はCEA・CA19-9・ProGRPが正常範囲で、胸腹部造影CTでも原発巣がない。何より、組織が上皮性の癌細胞ではなくCD20陽性のB細胞であるため否定される。

中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)

・診断時に脳、脊髄、眼(硝子体・網膜)、髄膜に病変が限られる節外性リンパ腫である。90%以上がDLBCLである。 ・高齢者に多い。危険因子には、HIV感染、臓器移植後、免疫抑制療法などの免疫不全状態がある。 ・病変は脳室の周り、脳梁、基底核など深部の白質にできやすく、多発することもある。 ・画像:細胞が密に詰まっているため、単純CTでやや高吸収、MRIのT2強調像で比較的低い信号、拡散強調像で高信号(拡散制限)を示す。免疫正常者では均一に強く造影される。免疫不全者では壊死を伴いリング状に造影されることが多い。 ・病理:腫瘍細胞が血管の周りを囲むように浸潤する(血管周囲性浸潤)のが特徴である。リンパ濾胞はつくらない。CD20、CD79aなどのB細胞マーカーが陽性になる。 ・診断の注意:ステロイドを使うと腫瘍細胞がアポトーシスを起こして病変が一時的に縮小・消失し、生検で診断できなくなることがある。PCNSLが疑われるときは、生検前のステロイド投与をできるだけ避ける。 ・治療:大量メトトレキサート(MTX)療法を中心とする化学療法が基本である。リツキシマブ(抗CD20抗体)の併用や、全脳照射、自家造血幹細胞移植を併用した大量化学療法が検討される。腫瘍は浸潤性に広がるため、外科的に全部摘出しても予後は良くならず、手術は生検による診断が目的になる。

移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)

・臓器移植や造血幹細胞移植のあとの免疫抑制状態で起こる、リンパ球の異常な増殖である。多くはEBVが関与するB細胞の増殖である。 ・T細胞の免疫監視が弱まり、EBVに感染したB細胞が増えることで起こる。 ・治療の第一歩は、可能な範囲で免疫抑制薬を減らすことである。必要に応じてリツキシマブや化学療法を加える。

リング状造影病変の主な鑑別

・膠芽腫:壁が厚く不整。グリア系マーカーが陽性。 ・転移性脳腫瘍:多発しやすく、皮質と白質の境界付近にできる。原発巣を検索する。 ・脳膿瘍:壁が薄く均一。拡散強調像で内部が高信号。 ・悪性リンパ腫(免疫不全者):EBV関連で、壊死によるリング状造影を示す。 ・トキソプラズマ症(AIDS患者):基底核に多発する。 ・腫瘤様脱髄病変:途切れたリング状(open ring)の造影を示す。

POINT

・脳実質内のリング状造影病変では、膠芽腫、転移性脳腫瘍、脳膿瘍の3つをまず鑑別する。免疫不全者では悪性リンパ腫やトキソプラズマ症も加える。 ・中枢神経系原発悪性リンパ腫の大部分はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫であり、CD20陽性である。 ・臓器移植後やAIDSなどの免疫不全はPCNSLの危険因子で、EBVが関与し、リング状造影を示しやすい。 ・可溶性IL-2受容体はリンパ腫のマーカーだが、炎症でも上がるため特異性は低い。 ・PCNSLが疑われるときは生検前のステロイド投与を避ける。治療は大量MTXが中心で、手術は診断のための生検にとどめる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。