「治らないぶどう膜炎」は脳からのサイン―中枢神経原発悪性リンパ腫の4つの素顔
第115回医師国家試験 D問題 第12問
国試問題にチャレンジ
中枢神経原発悪性リンパ腫について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.若年女性に好発する。
- b.初発症状にぶどう膜炎がある。
- c.大部分はB細胞リンパ腫である。
- d.診断時に約半数で全身転移を認める。
- e.副腎皮質ステロイドは根治的な治療薬である。
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
中枢神経原発悪性リンパ腫は、病変が脳・脊髄・髄膜・眼に限られる節外性リンパ腫で、高齢者にやや男性優位に発症し、免疫不全は危険因子となります。90〜95%以上がB細胞性で、組織型はほとんどがびまん性大細胞型B細胞リンパ腫です。網膜は発生学的に中枢神経の一部であるため眼内リンパ腫を合併しやすく、ステロイドが効きにくいぶどう膜炎様の症状(仮面症候群)が初発となることがあります。「原発」は全身病変がないことを前提とした診断名であり、ステロイドは腫瘍を一時的に縮小させるだけで根治薬ではなく、治療の中心は大量メトトレキサート療法を基盤とする化学療法です。生検前のステロイド投与が診断を妨げる点は、脳腫瘍診療に携わるうえで必ず知っておきたい実践的な知識です。
解答・解説
正解はb, cです
中枢神経原発悪性リンパ腫(primary central nervous system lymphoma:PCNSL)は、脳・脊髄・髄膜・眼(網膜・硝子体)といった中枢神経系にだけ病変があり、全身のリンパ節や他臓器には病変を認めない節外性リンパ腫である。本問ではその疫学(好発年齢・性別)、組織型、初発症状、病変の広がり、治療の原則が問われている。 考え方の軸は次の4点である。 1) 好発は高齢者(60歳代以降)で、男性にやや多い。 2) 組織型はほとんどがびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)である。 3) 眼は発生学的に中枢神経の一部であり、眼内(硝子体網膜)リンパ腫を合併しやすい。そのため、霧視や飛蚊症など「ぶどう膜炎」に似た症状で見つかることがある。 4) 副腎皮質ステロイドで腫瘍は一時的に縮むが、根治はできない。治療の中心は大量メトトレキサート(methotrexate:MTX)療法を基盤とする化学療法である。 また、「原発」とは全身に病変がないことを前提にした診断名である。この定義を押さえておけば、「診断時に約半数で全身転移」という記述が成り立たないことはすぐにわかる。
選択肢考察
- ×a. 若年女性に好発する。
誤り。PCNSLは高齢者に多い疾患で、診断時の年齢の中央値は60歳代であり、半数以上が60歳以上である。性別ではやや男性に多い。近年は高齢化に伴って患者数が増えている。HIV感染症や臓器移植後の免疫抑制状態など、免疫不全のある人では若い年齢でも発症するが(この場合はEBウイルスが関与することが多い)、「若年女性に好発する」という記述は当てはまらない。
- ○b. 初発症状にぶどう膜炎がある。
正しい。網膜と視神経は発生学的に間脳から生じた中枢神経の一部であり、PCNSLでは眼内(硝子体網膜)リンパ腫を合併することがある。PCNSLの診断時に眼病変を伴う例は1〜2割程度とされ、逆に眼内リンパ腫が先に見つかった例では、経過中に高い頻度で脳病変が出てくる。眼内リンパ腫は硝子体の混濁や網膜下の浸潤を起こし、霧視や飛蚊症として自覚される。所見が慢性のぶどう膜炎に似ており、ステロイドの効きも不十分なため、「治りにくいぶどう膜炎(仮面症候群)」として発見されることがある。診断には硝子体の生検(細胞診、硝子体液中のIL-10/IL-6比の上昇、遺伝子再構成の検索など)を用いる。
- ○c. 大部分はB細胞リンパ腫である。
正しい。PCNSLの90〜95%以上は非Hodgkinリンパ腫のB細胞性で、組織型はほとんどがびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である。腫瘍細胞は血管周囲に集まって増える(血管周囲性浸潤)のが特徴である。T細胞性リンパ腫やHodgkinリンパ腫はまれである。
- ×d. 診断時に約半数で全身転移を認める。
誤り。PCNSLは、病変が中枢神経系(脳・脊髄・髄膜・眼)に限られ、全身のリンパ節や他臓器に病変がないことを前提にした疾患概念である。診断時には全身CTやPET-CTなどで中枢神経系以外の病変がないことを確かめる。中枢神経系の外に病変が見つかった場合は、全身性リンパ腫が中枢神経に広がった「二次性中枢神経リンパ腫」として扱い、PCNSLとは区別する。そのため「約半数で全身転移を認める」という記述は定義からして成り立たない。なお、PCNSLが再発するときもほとんどは中枢神経系の中であり、中枢神経系の外での再発は少ない。
- ×e. 副腎皮質ステロイドは根治的な治療薬である。
誤り。リンパ腫の細胞はステロイドでアポトーシス(細胞死)を起こしやすく、投与すると腫瘍が速やかに縮み、画像上ほとんど見えなくなることもある(いわゆるghost tumor)。しかし効果は一時的で、多くは再び大きくなるため、ステロイド単独では治癒は望めない。脳浮腫や神経症状を和らげる目的で使うことはあるが、根治的な治療薬ではない。治療の基本は大量MTX療法を基盤とする多剤併用化学療法(リツキシマブを併用することも多い)で、その後に全脳照射による放射線療法や、自家造血幹細胞移植を併用した大量化学療法による地固め療法を行う。また、生検の前にステロイドを使うと腫瘍細胞が壊れて病理診断がつかなくなることがあるため、可能な限り生検までは投与を控える。
PCNSLの概要
・頭蓋内に発生する腫瘍のうち数%を占め、高齢化とともに増えている。 ・危険因子は先天性・後天性の免疫不全(HIV感染症、臓器移植後の免疫抑制療法など)である。免疫不全に伴う例ではEBウイルスの関与が多い。ただし、大部分は免疫能が正常な高齢者に発症する。
症状
・進行の速い局所神経症状(片麻痺、失語など)、認知機能の低下や性格の変化などの精神症状、頭蓋内圧亢進症状、けいれん。 ・眼病変を伴う場合は霧視・飛蚊症(硝子体網膜リンパ腫)。
画像所見
・脳室周囲、脳梁、基底核などの深部白質に好発し、多発することも多い。 ・腫瘍細胞の密度が高いため、CTでは等〜高吸収域、MRIではT2強調像で等〜低信号、拡散強調像で高信号(ADC値は低下)を示す。 ・造影剤で均一に強く増強される。脳梁に広がると蝶の羽のような形(butterfly pattern)を示すことがある。 ・壊死や出血は比較的少なく、膠芽腫(中心が壊死してリング状に増強されることが多い)との鑑別点となる。
診断
・定位脳生検などによる病理診断が原則である。前述のとおり、生検前のステロイド投与はできるだけ避ける。 ・病期を評価するため、全身CT・PET-CT、骨髄検査、髄液細胞診、眼科的評価(細隙灯顕微鏡検査・眼底検査)を行う。 ・髄液中の可溶性IL-2受容体やβ2ミクログロブリンが補助的な指標として使われることがある。
治療
・寛解導入療法:大量MTX療法を基盤とする化学療法を行う。MTXは大量投与にすることで血液脳関門を通過する。 ・地固め療法:全脳照射、または自家造血幹細胞移植を併用した大量化学療法を行う。 ・高齢者では、大量MTX療法と全脳照射を組み合わせると遅発性の白質脳症(認知機能障害)が問題になりやすい。そのため、放射線照射を減量・延期する方針がとられることがある。 ・外科的に切除しても予後は改善しないため、手術の役割は生検による診断に限られる。 ・再発・難治例に対しては、Bruton型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬のチラブルチニブが本邦で2020年に承認されている。
POINT
・PCNSLは高齢者(60歳代以降)に多く、やや男性に多い。免疫不全は危険因子である。 ・90〜95%以上がB細胞性で、組織型はほとんどがDLBCLである。 ・眼内(硝子体網膜)リンパ腫を合併しやすく、ぶどう膜炎に似た症状(仮面症候群)で見つかることがある。 ・定義上、病変は中枢神経系に限られる。全身に病変があれば二次性の中枢神経リンパ腫として扱う。 ・ステロイドの効果は一時的で、根治はできない。生検前の投与は診断を妨げる。 ・治療の中心は大量MTX療法を基盤とする化学療法で、全脳照射などを組み合わせる。
