その咳、肺だけを見ていませんか―鼻と食道から考える慢性咳嗽
第115回医師国家試験 D問題 第13問
国試問題にチャレンジ
慢性咳嗽をきたすのはどれか。2つ選べ。
- a.後鼻漏
- b.食道憩室
- c.逆流性食道炎
- d.食道カンジダ症
- e.機能性ディスペプシア
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
慢性咳嗽は8週間以上続く咳で、胸部X線に異常がない場合の主な原因は咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群(後鼻漏)、胃食道逆流症、ACE阻害薬です。後鼻漏は咽頭・喉頭の咳受容体を直接刺激して湿性咳嗽を起こし、逆流性食道炎は酸による直接刺激と食道からの迷走神経反射で咳を誘発し、胸やけを伴わず咳だけで現れることもあります。食道憩室、食道カンジダ症、機能性ディスペプシアは嚥下困難や心窩部症状など消化器症状が主体で、慢性咳嗽の代表的な原因ではありません。実際の診療では器質的疾患を除外したうえで、咳の性状や随伴症状から原因を推定し、治療反応で確かめる治療的診断が中心となり、複数の原因の重なりにも注意が必要です。咳を「肺の症状」に限定せず、鼻や食道まで視野を広げる発想は、日常診療で長引く咳に向き合う際の基本となります。
解答・解説
正解はa, cです
咳嗽(せき)は、続いている期間によって分類する。3週間未満を急性咳嗽、3週間以上8週間未満を遷延性咳嗽、8週間以上を慢性咳嗽という。急性咳嗽の多くはかぜ症候群などの感染症によるものである。一方、咳が長引くほど感染症以外の原因が多くなる。 慢性咳嗽のうち胸部X線写真に異常がないものでは、主な原因として次のものがある。 ・咳喘息 ・アトピー咳嗽 ・副鼻腔気管支症候群(後鼻漏を伴うことが多い) ・胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD) ・薬剤性(アンジオテンシン変換酵素〈ACE〉阻害薬) ・感染後咳嗽(主に遷延性咳嗽の原因となる) 咳は、気道(咽頭・喉頭・気管・気管支)の粘膜にある咳受容体が刺激されて起こる反射である。そのため、上気道や気道を直接刺激する病態や、食道からの迷走神経反射を介して咳反射を起こす病態が原因になりうる。本問の選択肢では、後鼻漏(鼻汁が咽頭・喉頭へ流れ込み、咳受容体を刺激する)と逆流性食道炎(胃酸の逆流による刺激と反射)がこれに当たる。食道憩室、食道カンジダ症、機能性ディスペプシアは、いずれも消化器症状(嚥下障害、嚥下時痛、心窩部症状など)が中心であり、慢性咳嗽の代表的な原因ではない。
選択肢考察
- ○a. 後鼻漏
正しい。後鼻漏とは、鼻腔や副鼻腔の分泌物が、前方の鼻孔からではなく後方の咽頭へ流れ落ちる状態である。慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などで分泌物が増えると起こりやすい。健常人でも鼻汁は少しずつ咽頭へ流れて無意識に飲み込まれているが、量が増えたり粘稠になったりすると、咽頭・喉頭の咳受容体を刺激して慢性的な咳や痰の原因になる。咽頭の違和感(何かが張り付いている、流れ落ちる感じ)や、頻回の咳払い、声のかすれを伴うことも多い。欧米では上気道咳症候群(upper airway cough syndrome:UACS)とよばれ、慢性咳嗽の主な原因の一つに挙げられている。本邦では、副鼻腔炎に下気道の炎症(慢性気管支炎や気管支拡張症など)を合併した副鼻腔気管支症候群として扱われることが多く、湿性咳嗽(痰を伴う咳)の代表的な原因である。治療は原疾患に対して行う(副鼻腔炎にはマクロライド系抗菌薬の少量長期投与、アレルギー性鼻炎には抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイドなど)。
- ×b. 食道憩室
誤り。食道憩室は、食道の壁の一部が袋状に外側へ突出したものである。成り立ちによって、内腔の圧が高まって壁の弱い部分が押し出される圧出性憩室(咽頭食道憩室〈Zenker憩室〉、横隔膜上憩室)と、食道周囲の炎症(リンパ節結核など)で壁が外から引っ張られてできる牽引性憩室(主に中部食道)に分けられる。本邦では中部食道憩室が多いとされる。多くは無症状で、検査の際に偶然見つかることが多い。大きくなると嚥下困難、食物の逆流、口臭などを起こす。特に大きなZenker憩室では、たまった内容物を誤嚥して咳を起こすことがあるが、慢性咳嗽の代表的な原因として扱われる疾患ではない。
- ○c. 逆流性食道炎
正しい。逆流性食道炎(胃食道逆流症〈GERD〉)は、胃酸を含む胃の内容物が食道へ逆流し、胸やけや呑酸(すっぱい液が上がってくる感じ)などを起こす病態である。咳が起こる機序は次の2つが考えられている。1つは、逆流した酸が咽頭・喉頭まで達して直接刺激する経路である。もう1つは、下部食道の粘膜が酸で刺激されると、迷走神経を介した反射で咳が誘発される経路である。胸やけを自覚しないまま咳だけが続く例もあるため、慢性咳嗽を鑑別するときには必ず考える。咳が悪化しやすい場面として、会話中、食後、起床直後、前かがみの姿勢などが挙げられる。肥満や体重増加も悪化因子である。嗄声や咽喉頭の違和感(咽喉頭酸逆流症)を伴うことがある。診断と治療を兼ねてプロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)を投与し、効果があれば診断の裏付けになる。減量、食後すぐに横にならない、就寝時に上半身を高くするといった生活習慣の改善も重要である。
- ×d. 食道カンジダ症
誤り。食道カンジダ症は、真菌のCandida(主にCandida albicans)が食道粘膜に感染した状態である。内視鏡では白色の苔のような付着物(白苔)が多数みられる。HIV感染症、糖尿病、悪性腫瘍、副腎皮質ステロイド(吸入ステロイドを含む)や免疫抑制薬の使用など、免疫が低下した状態や局所の防御が弱まった状態で起こりやすい。軽いものは無症状で、内視鏡検査で偶然見つかることも多い。症状がある場合は、嚥下時痛、嚥下困難、胸のつかえ感、胸やけなどの食道症状が中心である。咳の原因にはならない。症状があるもの、または免疫不全を背景とするものには抗真菌薬(フルコナゾールなど)で治療する。
- ×e. 機能性ディスペプシア
誤り。機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)は、症状の原因となる器質的疾患(消化性潰瘍や胃癌など)や全身性・代謝性疾患がないにもかかわらず、慢性的に上腹部の症状が続く機能性消化管疾患である。症状は心窩部痛、心窩部灼熱感、食後のもたれ感、早期満腹感などで、Rome IV基準では食後愁訴症候群(postprandial distress syndrome:PDS)と心窩部痛症候群(epigastric pain syndrome:EPS)に分けられる。原因として、胃の運動障害(排出の遅れや、食物を受け入れるときの胃底部の拡張不全)、内臓の知覚過敏、心理社会的因子などが考えられている。咳嗽はディスペプシア症状に含まれず、慢性咳嗽の原因にはならない。
咳嗽の分類(期間による)
・急性咳嗽:3週間未満。大部分はかぜ症候群などの気道感染症。 ・遷延性咳嗽:3週間以上8週間未満。感染後咳嗽が多い。 ・慢性咳嗽:8週間以上。感染症以外の原因が多い。
慢性咳嗽の主な原因と特徴
・咳喘息:乾性咳嗽(痰を伴わない咳)。夜間から早朝に悪化しやすい。気道過敏性の亢進があり、気管支拡張薬が効く。典型的な喘息に移行することがある。 ・アトピー咳嗽:乾性咳嗽。喉のイガイガ感を伴う。気管支拡張薬は効かず、抗ヒスタミン薬や吸入ステロイドが効く。 ・副鼻腔気管支症候群:湿性咳嗽。後鼻漏を伴う。マクロライド系抗菌薬の少量長期投与が有効。 ・胃食道逆流症(GERD):食後・会話・前かがみで咳が悪化しやすい。胸やけを伴うことがある。PPIが有効。 ・ACE阻害薬による咳:乾性咳嗽。ブラジキニンなどの分解が抑えられることによる。中止すれば通常は数週間以内に治まる。アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)への変更を考える。 ・そのほか、喫煙による慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支拡張症、間質性肺炎、肺結核、肺癌、心不全なども原因となる。これらは胸部X線やCTなどで見落とさないようにする。
慢性咳嗽の診療の進め方
まず胸部X線写真を撮り、肺癌や結核などの器質的疾患を除外する。続いて、痰の有無(乾性か湿性か)、咳の出やすい時間帯や状況、随伴症状(胸やけ、後鼻漏、鼻症状など)、服薬歴(ACE阻害薬)、喫煙歴をもとに原因を推定する。そのうえで、推定した原因に応じた治療を試し、効果があるかどうかで診断を確かめる(治療的診断)ことが多い。原因が一つとは限らず、複数の原因が重なっている場合もある。
POINT
・慢性咳嗽は8週間以上続く咳である(3〜8週間未満は遷延性咳嗽)。 ・主な原因は、咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群(後鼻漏)、胃食道逆流症、ACE阻害薬である。 ・後鼻漏は咽頭・喉頭の咳受容体を刺激し、湿性咳嗽の原因となる。 ・逆流性食道炎は酸による直接の刺激と迷走神経反射で咳を起こす。胸やけがなくても咳だけで現れることがあり、PPIが有効である。 ・食道憩室、食道カンジダ症、機能性ディスペプシアは消化器症状が主体で、慢性咳嗽の代表的な原因ではない。
