StudyMed医師国家試験

その咳、痰は出ていますか?―湿性咳嗽の代表・副鼻腔気管支症候群を見抜く

第118回医師国家試験 E問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第118回 E問題 第14問

主に湿性咳嗽をきたす疾患はどれか。

  1. a.咳喘息
  2. b.間質性肺炎
  3. c.感染後咳嗽
  4. d.胃食道逆流症
  5. e.副鼻腔気管支症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、咳を「痰を伴うかどうか」で分類できるかを問う問題だ。痰を伴う咳が湿性咳嗽、伴わないか、ごく少量なのが乾性咳嗽。それぞれの咳がどんな仕組みで起こるかを押さえれば、選択肢は自然に整理できるよ。
医学生医学生
湿性咳嗽は痰を出すための咳、というイメージで合っていますか。
ドクタードクター
その通り。気道の炎症や感染で分泌物が過剰に作られ、それを外に出すための咳だ。だから治療も、咳を止めるより原因の治療と排痰を促すことが中心になる。一方、乾性咳嗽は咳受容体の感受性が高まったり、刺激を受けたりして起こる咳なんだ。
医学生医学生
呼吸器内科の外来実習で、指導医の先生が必ず「痰は出ますか」と聞いていたのはそのためなんですね。
ドクタードクター
そう、最初の問診で鑑別がぐっと絞れるからね。もう一つの軸が持続期間だ。3週間未満が急性咳嗽、3〜8週間が遷延性咳嗽、8週間以上が慢性咳嗽。長引くほど感染症以外の原因の割合が高くなる。では選択肢を見ていこう。咳喘息はどうかな。
医学生医学生
喘息なので、痰が出そうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。咳喘息は喘鳴や呼吸困難を伴わず、咳だけが症状の喘息の亜型で、日本の慢性咳嗽の原因として最も多いものの一つ。好酸球性の気道炎症と気道過敏性の亢進で咳が誘発されるけれど、分泌物の過剰産生は目立たず、乾性咳嗽が典型なんだ。夜間から早朝に悪化しやすく、気管支拡張薬が効くことが診断の手がかりになる。
医学生医学生
間質性肺炎は、聴診でfine cracklesが聴こえる病気でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。病変の主体は気道ではなく肺胞の壁、つまり間質だから、気道分泌物は増えにくい。だから乾性咳嗽になる。労作時呼吸困難やばち指を伴うことも多いよ。
医学生医学生
感染後咳嗽は、かぜの後に咳だけが残る状態ですよね。感染が絡むなら痰も出るのでしょうか。
ドクタードクター
感染そのものは治っていて、傷ついた気道上皮で咳受容体が過敏になっているのが本態と考えられているから、痰はほとんど伴わない乾性咳嗽が主体だ。多くは自然に軽快するけれど、百日咳やマイコプラズマなど特定の病原体による咳との鑑別は必要だね。
医学生医学生
胃食道逆流症は消化器の病気なのに咳が出る、というのが講義で印象に残っています。
ドクタードクター
胃酸の逆流が迷走神経を介した反射で咳を誘発したり、逆流物が咽喉頭を直接刺激したりして起こる咳だ。分泌物は増えないので乾性咳嗽。胸やけや呑酸、食後や臥位での悪化がヒントになり、プロトンポンプ阻害薬が効く。
医学生医学生
そうすると、残る副鼻腔気管支症候群が湿性咳嗽ということですね。
ドクタードクター
正解。副鼻腔気管支症候群は、慢性副鼻腔炎のような上気道の慢性炎症と、慢性気管支炎・気管支拡張症・びまん性汎細気管支炎などの下気道の慢性炎症が合併した病態だ。上下の気道で好中球性炎症が続き、分泌物が過剰に作られるから、膿性や粘液性の痰を伴う湿性咳嗽が主症状になる。慢性湿性咳嗽の原因として最も代表的なものだよ。
医学生医学生
鼻汁がのどに流れ落ちる後鼻漏も関係しますか。
ドクタードクター
後鼻漏や鼻閉を伴うことは多いね。ただ本態はあくまで下気道の分泌物増加で、後鼻漏は随伴する所見と理解しておこう。治療は14員環や15員環のマクロライド系抗菌薬の少量長期投与と去痰薬が有効だ。
医学生医学生
マクロライド少量長期療法といえば、びまん性汎細気管支炎の話で習いました。
ドクタードクター
そのとおり。びまん性汎細気管支炎は東アジアに多く、多量の膿性痰と労作時呼吸困難を呈し、慢性副鼻腔炎の合併が高率。寒冷凝集素価の持続高値が特徴で、エリスロマイシン少量長期療法で予後が劇的に改善した疾患だ。臨床では、湿性咳嗽なら気管支拡張症や肺結核、非結核性抗酸菌症も鑑別に挙がる。乾性咳嗽ならACE阻害薬による咳も忘れずに、内服歴を確認しよう。

まとめ

咳嗽は痰を伴う湿性咳嗽と伴わない乾性咳嗽に分けられ、湿性咳嗽は気道分泌物の過剰産生を、乾性咳嗽は咳受容体の感受性亢進や刺激を背景にしています。慢性湿性咳嗽の代表が副鼻腔気管支症候群で、慢性副鼻腔炎と慢性気管支炎・気管支拡張症・びまん性汎細気管支炎などの下気道炎症が合併して膿性痰を伴う咳を呈し、マクロライド少量長期療法や去痰薬が有効です。一方、咳喘息、感染後咳嗽、胃食道逆流症、間質性肺炎、アトピー咳嗽、ACE阻害薬による咳はいずれも乾性咳嗽が典型です。持続期間(急性3週未満、遷延性3〜8週、慢性8週以上)と痰の有無という2つの軸で整理すると、長引く咳の鑑別を効率よく進められ、問診の質も高まります。

解答・解説

正解はeです

咳嗽(せき)は、痰(喀痰)を伴うかどうかで「湿性咳嗽」と「乾性咳嗽」に分けられる。 ・湿性咳嗽:痰を伴う咳。気道内に過剰に産生された分泌物を外へ出すための咳であり、気道の炎症や感染で分泌物が増える病態でみられる。治療は咳を止めることよりも、原因の治療と痰の排出を促すことが中心となる。 ・乾性咳嗽:痰を伴わない、あるいはごく少量の咳。気道の咳受容体の感受性が高まったり、刺激されたりすることで生じる。 また、持続期間により、3週間未満を急性咳嗽、3〜8週間を遷延性咳嗽、8週間以上を慢性咳嗽と分類する。慢性(遷延性)咳嗽の原因として頻度が高いのは、乾性では咳喘息、アトピー咳嗽、感染後咳嗽、胃食道逆流症など、湿性では副鼻腔気管支症候群である。 選択肢のうち、気道分泌物の増加を本態とし、痰を伴う咳が主体となるのは副鼻腔気管支症候群である。そのほかの4疾患はいずれも乾性咳嗽が典型である。

選択肢考察

  1. ×a.  咳喘息

    誤り。咳喘息は、喘鳴や呼吸困難を伴わず、咳だけを唯一の症状とする喘息の亜型であり、日本の慢性咳嗽の原因として最も多いものの一つである。好酸球性の気道炎症と気道過敏性の亢進によって咳が誘発されるが、気道分泌物の過剰産生は目立たず、痰を伴わない乾性咳嗽が典型である。夜間から早朝に悪化しやすく、気管支拡張薬が有効であることが診断の手がかりとなる。放置すると典型的な喘息へ移行することがあるため、吸入ステロイドで治療する。

  2. ×b.  間質性肺炎

    誤り。間質性肺炎は、肺胞の壁(間質)に炎症や線維化が起こる疾患である。病変の主体は気道ではなく間質であるため、気道分泌物は増えにくく、痰を伴わない乾性咳嗽を呈する。労作時呼吸困難、両側下肺野背側の捻髪音(fine crackles)、ばち指などを伴うことが多い。

  3. ×c.  感染後咳嗽

    誤り。感染後咳嗽は、かぜなどの上気道炎(主にウイルス感染)が治った後も咳だけが続く状態で、遷延性咳嗽の代表的な原因である。感染によって傷ついた気道上皮で咳受容体の感受性が高まることが原因と考えられ、痰はほとんど伴わない乾性咳嗽が主体である。多くは自然に軽快する。なお、百日咳やマイコプラズマ、肺炎クラミジアなど、特定の病原体による咳との鑑別が必要になる。

  4. ×d.  胃食道逆流症

    誤り。胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)では、下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)の機能低下などにより胃酸が食道へ逆流し、その刺激が迷走神経を介した反射で咳を誘発したり、逆流物が咽喉頭へ達して直接刺激したりすることで咳が起こる。気道分泌物の増加を伴わないため、乾性咳嗽が主体である。胸やけ・呑酸の有無、食後や臥位・会話での増悪が診断の手がかりとなり、プロトンポンプ阻害薬などの酸分泌抑制薬が有効である。

  5. ○e.  副鼻腔気管支症候群

    正しい。副鼻腔気管支症候群(sinobronchial syndrome:SBS)は、慢性副鼻腔炎などの上気道の慢性炎症と、慢性気管支炎・気管支拡張症・びまん性汎細気管支炎などの下気道の慢性炎症が合併した病態である。上下の気道で好中球性の炎症が続き、分泌物が過剰に産生されるため、膿性あるいは粘液性の痰を伴う湿性咳嗽が主症状となる。後鼻漏(鼻汁がのどへ流れ落ちる)や鼻閉を伴うことが多い。慢性湿性咳嗽の原因として最も代表的であり、14員環または15員環のマクロライド系抗菌薬の少量長期投与や去痰薬が有効である。

湿性咳嗽をきたす主な疾患

・急性経過:細菌性肺炎、急性気管支炎(細菌性)、肺水腫(泡沫状の痰)など。 ・慢性経過:副鼻腔気管支症候群、慢性気管支炎(COPDを含む)、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、肺結核、非結核性抗酸菌症、肺癌(気管支肺胞上皮型の腺癌で大量の水様痰を伴うことがある)など。

乾性咳嗽をきたす主な疾患

咳喘息、アトピー咳嗽、感染後咳嗽、胃食道逆流症、間質性肺炎、ACE阻害薬による咳、気胸、胸膜炎、心因性咳嗽など。

びまん性汎細気管支炎(DPB)

副鼻腔気管支症候群の代表的疾患の一つで、東アジアに多い。両肺の呼吸細気管支領域に慢性炎症が起こり、多量の膿性痰と労作時呼吸困難を呈し、慢性副鼻腔炎の合併や既往が高率である。寒冷凝集素価の持続高値が特徴的で、エリスロマイシンの少量長期療法で予後が劇的に改善した。

咳の持続期間による分類

急性咳嗽は3週間未満、遷延性咳嗽は3週間以上8週間未満、慢性咳嗽は8週間以上である。急性咳嗽の多くは感染症によるが、持続期間が長くなるほど感染症以外の原因の割合が高くなる。

POINT

・湿性咳嗽=痰を伴う咳、乾性咳嗽=痰を伴わない咳。 ・慢性湿性咳嗽の代表は副鼻腔気管支症候群(慢性副鼻腔炎+下気道の慢性炎症)。治療はマクロライド少量長期療法・去痰薬。 ・咳喘息、アトピー咳嗽、感染後咳嗽、胃食道逆流症、間質性肺炎、ACE阻害薬による咳はいずれも乾性咳嗽。 ・咳の持続期間:急性<3週、遷延性3〜8週、慢性≧8週。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。