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その検査で出血源はわかるか?―血痰の原因検索で「回り道」を見抜く

第116回医師国家試験 E問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第116回 E問題 第1問

血痰の原因を検索するうえで優先度が低いのはどれか。

  1. a.喀痰細胞診
  2. b.内服薬の確認
  3. c.呼吸機能検査
  4. d.喀痰抗酸菌検査
  5. e.胸部エックス線写真

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、血痰を訴える患者さんの原因検索で、どの検査や確認を優先すべきかを考える問題だ。着眼点はシンプルで、「その手段が出血の部位や原因の特定に直接つながるか」。まず、血痰を見たらどんな疾患を思い浮かべるかな。
医学生医学生
呼吸器内科の講義では、肺癌と結核は絶対に見逃すなと言われました。
ドクタードクター
その2つが最重要だね。ほかにも気管支拡張症、肺炎や肺膿瘍、アスペルギローマ、非結核性抗酸菌症、さらに心不全や僧帽弁狭窄症、肺血栓塞栓症、血管炎によるびまん性肺胞出血など、原因は幅広い。だからこそ、頻度が高く見逃すと重大なものから効率よく確認していくことが大切なんだ。
医学生医学生
まず画像ですよね。胸部エックス線写真は外せないと思います。
ドクタードクター
その通り。簡便で低侵襲、肺癌の腫瘤影、結核の空洞影や散布影、肺炎の浸潤影、気管支拡張の所見などを一度にスクリーニングできる。異常があれば胸部CT、さらに気管支鏡へと進むのが基本の流れだ。では喀痰細胞診はどうだろう。
医学生医学生
肺癌を探す検査ですね。でも末梢の腺癌だと痰に癌細胞は出にくいと病理の講義で聞いた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。喀痰細胞診が特に威力を発揮するのは、太い気管支に発生する中心型、なかでも扁平上皮癌だ。腫瘍が気道内腔に露出しているから血痰を起こしやすく、痰にも癌細胞が出やすい。喫煙歴のある中高年の血痰なら、非侵襲的にできる優先度の高い検査だよ。
医学生医学生
結核を考えるなら喀痰抗酸菌検査も必須ですね。
ドクタードクター
そう。塗抹、培養、核酸増幅検査を組み合わせて調べる。肺結核は空気感染するから、診断のためだけでなく院内感染対策や接触者への対応という意味でも、早く確認しなければならない。非結核性抗酸菌症も血痰の原因として増えているから、同じ検査で評価できるのは大きい。
医学生医学生
内服薬の確認は検査ではないので、優先度が低いように思えてしまいました。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。ワルファリンやDOACなどの抗凝固薬、アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬を飲んでいれば、出血の原因や増悪因子になりうる。薬の内容から心房細動や弁膜症、冠動脈疾患などの基礎疾患も見えてくる。さらに気管支鏡のような侵襲的検査の前には休薬の判断も必要だから、問診の早い段階で必ず確認すべき項目なんだ。
医学生医学生
なるほど。そうすると残るのは呼吸機能検査ですね。スパイロは換気の能力を測る検査なので、出血の場所も原因もわからない気がします。
ドクタードクター
正解。呼吸機能検査は肺活量や1秒量・1秒率から閉塞性・拘束性換気障害を評価する検査で、COPDや間質性肺炎の評価には欠かせないけれど、出血源の同定にはほとんど役立たない。しかも最大努力での呼出が必要だから、咳を誘発して出血を助長するおそれもある。血痰の原因検索では優先度が低いということだ。
医学生医学生
臨床実習でスパイロを手伝ったとき、患者さんがかなり咳き込んでいたのを思い出しました。出血中の人にはつらいですね。
ドクタードクター
いい実感だね。検査は「何を知りたいか」から逆算して選ぶもので、手元にあるから全部やるものではない。ここで発展知識も押さえておこう。まず、本当に気道からの出血かを確かめること。鼻出血や口腔内出血の垂れ込み、消化管からの吐血との区別が必要なんだ。
医学生医学生
喀血は鮮紅色で泡沫状、吐血は暗赤色で食物残渣を含むことが多い、とCBTの勉強で覚えました。
ドクタードクター
その通り。喀血はアルカリ性、吐血は酸性のことが多いのも参考になる。そしてもう一つ大事なのが大量喀血への対応だ。喀血で怖いのは出血量そのものより窒息だから、気道確保を最優先し、出血している側を下にした側臥位をとらせて健側の肺に血液が流れ込むのを防ぐ。止血には気管支動脈塞栓術などを考慮する。
医学生医学生
健側を守るために患側を下にする、というのは理屈で覚えると忘れにくいですね。
ドクタードクター
そうだね。まとめると、血痰を見たら問診で喫煙歴・結核の既往や接触歴・内服薬を押さえ、胸部画像と喀痰検査で肺癌と抗酸菌感染症を中心に原因を探る。そのうえで必要に応じてCTや気管支鏡に進む。この流れを頭に入れておけば、優先度の判断で迷うことはないはずだ。

まとめ

血痰の原因検索では、肺癌(特に中心型の扁平上皮癌)と肺結核・非結核性抗酸菌症を見逃さないことが最重要であり、問診(喫煙歴、結核の既往・接触歴、内服薬)、胸部エックス線写真、喀痰細胞診、喀痰抗酸菌検査を組み合わせて初期評価を行います。抗凝固薬・抗血小板薬は出血の原因・増悪因子となるうえ、侵襲的検査前の休薬判断にも関わるため、内服薬の確認は早期に欠かせません。一方、呼吸機能検査は換気障害の評価には有用ですが出血源や原因の同定にはつながらず、努力呼出で咳を誘発するおそれもあるため優先度は低くなります。あわせて、偽性喀血や吐血との鑑別、大量喀血時の気道確保と患側下の側臥位といった実践的な知識も重要です。「その検査で何がわかるのか」から逆算して検査を選ぶ姿勢は、あらゆる症候の診療に通じる基本となります。

解答・解説

正解はcです

血痰とは、痰に血液が混じった状態をいう。気道(気管・気管支)や肺実質のどこかに出血源があることを示す症状であり、診療ではまず「どこから、何が原因で出血しているか」を明らかにすることが目標となる。なお、喀出される血液がほぼ純粋な血液である場合は喀血と呼び、量が多ければ気道閉塞や窒息の危険を伴う緊急事態となる。 血痰の原因検索では、頻度が高く、かつ見逃すと重大な結果を招く疾患を優先して確認する。代表的なのは肺癌、肺結核・非結核性抗酸菌症、気管支拡張症、肺炎・肺膿瘍などの感染症であり、加えて抗凝固薬・抗血小板薬の内服による出血傾向も重要な要因となる。そのため初期評価では、(1)問診(喫煙歴、結核の既往や接触歴、内服薬など)、(2)画像検査(胸部エックス線写真、必要に応じて胸部CT)、(3)喀痰検査(細胞診による悪性細胞の検索、抗酸菌の塗抹・培養・核酸増幅検査)を組み合わせる。 本問は「優先度が低い」ものを選ぶ問題である。各選択肢が出血源や原因疾患の同定に直接つながる情報をもたらすかどうか、という観点で判断すればよい。呼吸機能検査は換気の能力を評価する検査であり、出血の部位や原因についての情報はほとんど得られないため、血痰の原因検索における優先度は低い。

選択肢考察

  1. ×a.  喀痰細胞診

    喀痰を顕微鏡で観察し、悪性細胞(癌細胞)の有無を調べる検査である。血痰は肺癌の重要な症状の一つであり、特に太い気管支に発生する中心型(肺門型)肺癌、なかでも扁平上皮癌では腫瘍が気道内腔に露出しやすく、血痰を生じやすいうえに喀痰中に癌細胞が出やすい。喫煙歴のある中高年の血痰では肺癌を必ず念頭に置くべきであり、非侵襲的に実施できる喀痰細胞診は優先度の高い検査である。

  2. ×b.  内服薬の確認

    ワルファリンや直接経口抗凝固薬(DOAC)などの抗凝固薬、アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬を内服していると出血傾向が生じ、血痰の原因あるいは増悪因子となる。また、内服薬の内容から基礎疾患(心房細動、心臓弁膜症、冠動脈疾患など)を推定できることもあり、原因の絞り込みに役立つ。さらに、気管支鏡検査などの侵襲的検査を行う際には抗血栓薬の休薬の要否を判断する必要があるため、内服薬の確認は早い段階で行うべき重要な事項である。

  3. ○c.  呼吸機能検査

    呼吸機能検査(スパイロメトリーなど)は、肺活量や1秒量・1秒率を測定して閉塞性・拘束性換気障害の有無や程度を評価する検査である。換気機能の評価には有用だが、出血がどこから起きているか、何が原因かといった情報はほとんど得られない。また、強制呼出などの努力呼吸を要するため、出血している患者では咳嗽を誘発して出血を助長するおそれもある。したがって血痰の原因検索において優先度は低い。

  4. ×d.  喀痰抗酸菌検査

    肺結核や非結核性抗酸菌症(NTM症、肺MAC症など)は血痰の代表的な原因である。喀痰の抗酸菌塗抹検査(Ziehl-Neelsen染色や蛍光法)、培養検査、核酸増幅検査(PCRなど)で菌を検出することで診断に至る。特に肺結核は空気感染するため、院内感染対策や接触者への対応の観点からも早期に確認すべきであり、優先度の高い検査である。

  5. ×e.  胸部エックス線写真

    簡便かつ低侵襲で、血痰の原因となる肺癌の腫瘤影、結核の空洞影や散布影、肺炎の浸潤影、気管支拡張症の所見などをスクリーニングできる。肺水腫など循環器疾患に伴う所見も評価できる。血痰の初期評価としてまず行うべき画像検査であり、異常があれば胸部CTや気管支鏡検査へと進む。

血痰・喀血の主な原因

・腫瘍:肺癌(特に中心型の扁平上皮癌)、気管支カルチノイドなど ・感染症:肺結核、非結核性抗酸菌症、肺炎、肺膿瘍、肺アスペルギルス症(アスペルギローマ) ・気道疾患:気管支拡張症、気管支炎 ・循環器疾患:僧帽弁狭窄症、うっ血性心不全(肺水腫ではピンク色泡沫状痰)、肺血栓塞栓症(肺梗塞) ・血管炎・免疫疾患:多発血管炎性肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎、抗GBM抗体病(Goodpasture症候群)などによるびまん性肺胞出血 ・出血傾向:抗凝固薬・抗血小板薬の内服、血小板減少、凝固異常

血痰の診療の流れ

1. 本当に気道からの出血かを確認する:鼻出血や口腔内出血の垂れ込み(偽性喀血)、消化管からの吐血との鑑別が必要である。喀血は泡沫状で鮮紅色、アルカリ性であることが多く、吐血は暗赤色で食物残渣を含み、酸性であることが多い。 2. 問診:喫煙歴、結核の既往・接触歴、内服薬、心疾患の既往などを確認する。 3. 検査:胸部エックス線写真、胸部CT、喀痰検査(細胞診・抗酸菌検査・一般細菌検査)、血液検査(血算、凝固能)を行い、必要に応じて気管支鏡検査で出血源を同定する。 4. 大量喀血では気道確保を最優先とし、出血側を下にした側臥位をとらせる。止血には気管支動脈塞栓術(BAE)などを考慮する。

POINT

・血痰の原因検索の基本は、問診(喫煙歴・結核歴・内服薬)、胸部画像(エックス線→CT)、喀痰検査(細胞診・抗酸菌検査)である。 ・見逃してはならない原因は肺癌と肺結核であり、抗血栓薬による出血傾向も必ず確認する。 ・呼吸機能検査は換気障害の評価に用いる検査で、出血源の同定には役立たない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。