同意なき情報提供が許されるとき―守秘義務と虐待通告の境界線
第116回医師国家試験 E問題 第2問
国試問題にチャレンジ
医師の行動として適切なのはどれか。
- a.診断のため本人の同意なく患者の家系を調べた。
- b.診療の内容を患者の実名を含めてSNSに投稿した。
- c.検体の血液が余ったので本人の同意なく遺伝子配列を解析した。
- d.学習のため本人の同意なく患者の皮膚所見をホームページに載せた。
- e.虐待が疑われるため家族の同意なく児童の情報を児童相談所に通報した。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
医師には刑法第134条による守秘義務があり、個人情報保護法のもとで患者情報の目的外利用や第三者提供には原則として本人の同意が必要です。実名を含む診療内容のSNS投稿、同意のない皮膚所見写真の公開、余剰検体の無断の遺伝子解析、同意なき家系調査は、たとえ教育や診断が目的でもプライバシーの侵害となり不適切です。一方、児童虐待防止法では虐待が疑われる段階での通告が義務とされ、守秘義務は通告を妨げないと明記されているため、家族の同意なく児童相談所に通告することは適切な行動です。感染症法の届出、麻薬中毒者の届出、異状死体の届出、高齢者・障害者虐待やDVの通報なども同様に法令に基づく例外にあたります。「同意の有無」と「正当化する法令上の根拠・緊急性」の2軸で判断する姿勢は、日常診療で患者情報を扱ううえでの基本となります。
解答・解説
正解はeです
本問のテーマは、医師の守秘義務と患者の個人情報(プライバシー)の保護、そしてその例外である。 医師には刑法第134条により、業務上知り得た他人の秘密を正当な理由なく漏らしてはならないという守秘義務が課されている。さらに個人情報保護法では、個人情報を本人の同意なく目的外に利用することや第三者に提供することが原則として禁じられている。遺伝情報(ゲノム情報)は本人だけでなく血縁者の情報も含み、生涯変わらないため、特に慎重な取り扱いが求められる。 一方で、守秘義務や同意取得の原則には例外がある。法令に基づく場合(感染症法に基づく届出、児童虐待防止法に基づく通告など)や、人の生命・身体の保護のために必要で本人の同意を得ることが困難な場合などは、本人の同意なく情報を提供しても違法とはならない。 選択肢を判断するときは、「本人(または代諾者)の同意があるか」「同意がない場合、それを正当化する法令上の根拠や緊急性があるか」の2点を確認すればよい。a〜dはいずれも同意を得ておらず、正当化する根拠もない。eのみが法律上の義務に基づく行動であり、適切である。
選択肢考察
- ×a. 診断のため本人の同意なく患者の家系を調べた。
家系の情報(家族歴や血縁者の病歴)は、患者本人だけでなく家族のプライバシーにも関わる情報である。家族歴は通常、患者本人への問診で聴取する。より客観的な情報が必要で、血縁者を診療した医療機関に情報提供を求めるような場合には、患者本人に加えて、情報の対象となる家族それぞれからも承諾を得なければならない。診断目的であっても、本人の同意なく家系を調べることはプライバシーの侵害にあたり、不適切である。
- ×b. 診療の内容を患者の実名を含めてSNSに投稿した。
実名を含む診療内容は、個人を特定できる秘密情報そのものである。これをSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に投稿することは、刑法上の守秘義務違反(秘密漏示罪)にあたり、個人情報保護法にも反する。SNSに投稿された情報は拡散して削除が困難であり、患者に重大な不利益を与える。医療倫理上も許されない行為である。
- ×c. 検体の血液が余ったので本人の同意なく遺伝子配列を解析した。
診療目的で採取した検体は、本人が同意した目的(その診療に必要な検査)以外に用いてはならない。遺伝子配列は個人を識別しうる情報であり、遺伝性疾患の素因など本人や血縁者にとって重大な意味をもつ情報を含む。余った検体を研究などに用いる場合は、倫理審査委員会の承認を受けたうえで、個別の同意、あるいは将来の研究利用を含めた包括的同意をあらかじめ得ておく必要がある。本人の同意なく解析することは不適切である。
- ×d. 学習のため本人の同意なく患者の皮膚所見をホームページに載せた。
皮膚所見の写真だけであれば個人を特定できる可能性は低いと思われがちだが、顔貌・刺青・ほくろ・背景などから本人が特定されるおそれがあり、本人が見れば自分のものだとわかる。教育目的であっても、インターネット上に公開する際には患者の同意(原則として文書)を得なければならない。同意なく公開することはプライバシーの侵害であり不適切である。
- ○e. 虐待が疑われるため家族の同意なく児童の情報を児童相談所に通報した。
児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)では、虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに市町村、福祉事務所または児童相談所に通告しなければならないと定めている。虐待が「疑われる」段階で通告してよく、確証は不要である。また同法は、守秘義務に関する法律の規定が通告義務の遵守を妨げるものと解釈してはならないと明記しており、保護者の同意なく通告しても守秘義務違反にはならない。加えて、医師など児童の福祉に職務上関係のある者は、虐待の早期発見に努めるべき立場にある。保護者が虐待の当事者である可能性を考えれば、家族の同意を求めることはかえって児童を危険にさらしうる。したがって適切な行動である。
守秘義務の根拠
・刑法第134条(秘密漏示罪):医師、薬剤師、助産師などが、正当な理由なく業務上知り得た人の秘密を漏らした場合に処罰される。 ・個人情報保護法:個人情報の目的外利用や本人の同意のない第三者提供を原則禁止している。病歴や遺伝情報などは「要配慮個人情報」として、取得にも原則として本人の同意が必要である。
守秘義務の例外(同意なく情報提供しても違法とならない主な場合)
・法令に基づく場合 - 児童虐待が疑われる児童の児童相談所などへの通告(児童虐待防止法) - 感染症法に基づく届出(例:結核などの患者について、保健所長を経由して都道府県知事に届け出る) - 麻薬中毒者と診断した場合の都道府県知事への届出(麻薬及び向精神薬取締法) - 異状死体を検案した場合の所轄警察署への届出(医師法第21条) ・人の生命・身体・財産の保護のために必要で、本人の同意を得ることが困難な場合(例:意識障害があり身元不明の患者について、関係機関に照会する) ・公衆衛生の向上や児童の健全な育成のために特に必要で、本人の同意を得ることが困難な場合
虐待関連法の通報・通告
児童虐待(児童虐待防止法)のほか、高齢者虐待(高齢者虐待防止法)、障害者虐待(障害者虐待防止法)、配偶者からの暴力(DV防止法)でも、発見者による通報・通告が定められており、守秘義務の規定は通報を妨げないとされている。
POINT
・医師には守秘義務(刑法第134条)があり、個人情報の目的外利用や第三者提供には原則として本人の同意が必要である。 ・学習・研究・公開目的であっても、患者の情報や検体を同意なく利用・公開してはならない。 ・児童虐待は「疑い」の段階で児童相談所などに通告する義務があり、保護者の同意は不要で、守秘義務違反にもならない。 ・法令に基づく届出(感染症法、麻薬及び向精神薬取締法、医師法第21条など)も守秘義務の例外である。
