StudyMed医師国家試験

痛いリンパ節はむしろ安心?―触診で見分ける「炎症」と「癌の転移」

第116回医師国家試験 E問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第116回 E問題 第3問

径2cmのリンパ節で癌の転移よりも炎症性の腫大を疑うのはどれか。

  1. a.硬い。
  2. b.圧痛を伴う。
  3. c.可動性が乏しい。
  4. d.鎖骨上窩にある。
  5. e.辺縁が不整である。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、首などに触れるリンパ節の腫れが、炎症によるものか癌の転移によるものかを触診所見から見分ける問題だ。径2cmというのは、悪性も十分に考えなければならない大きさ。そのうえで、どの所見が「炎症らしさ」を示すのかを考えよう。
医学生医学生
2cmだと大きいので、どれも悪性っぽく見えてしまいます。そもそも何cmから異常なんでしょうか。
ドクタードクター
一般には径1cmを超えると病的な腫大を考え、2cm以上になると腫瘍性の可能性が高まるとされている。だからこそ、大きさ以外の性状が鑑別の決め手になるんだ。触診で見るのは、硬さ、圧痛、可動性、表面や辺縁の性状。それに部位、年齢、経過を組み合わせる。
医学生医学生
OSCEの頸部診察で、硬さと可動性と圧痛を必ず確認するよう練習しました。でも、それぞれがどういう意味を持つのかまでは意識していなかったです。
ドクタードクター
意味を理解すると一気に覚えやすくなるよ。まず炎症性の腫大から。感染などに反応してリンパ節の中で免疫反応が急に起こると、リンパ節が短期間で腫れ、被膜が急激に引き伸ばされる。だから自発痛や圧痛が出やすい。皮膚に発赤や熱感を伴うこともあるね。
医学生医学生
なるほど、急に腫れるから痛いんですね。ということは、圧痛を伴うのが炎症性を疑う所見ですか。
ドクタードクター
その通り、それが正解だ。逆に癌の転移は、腫瘍細胞がゆっくり増えていくので、通常は痛みを伴わない。ただし転移でも急速に大きくなったり内部が壊死したりすると痛むことがあるから、圧痛だけで決めつけず総合的に判断するのが大事だよ。では、硬さはどうかな。
医学生医学生
硬いのは悪性のイメージがあります。でも炎症で腫れたリンパ節も、パンパンに張って硬く感じそうな気がして。
ドクタードクター
いい疑問だね。炎症性のリンパ節は軟らかいか、やや弾力のある弾性軟程度のことが多い。癌の転移では腫瘍細胞の増殖に加えて間質の線維化が起こるから、石のように硬い「石様硬」になる。悪性リンパ腫ならゴムのような弾性硬。つまり硬いという所見は腫瘍性を疑う方向に働くんだ。
医学生医学生
可動性が乏しいのも、転移の特徴でしたよね。
ドクタードクター
そう。癌はリンパ節の被膜を越えて周囲の組織に浸潤し、皮膚や深部組織と癒着するから、指で動かそうとしても動かない。炎症性のリンパ節は周囲と癒着しないので、よく動くことが多い。辺縁が不整というのも同じ理屈で、被膜外への浸潤や、隣り合う複数のリンパ節が癒合して一塊になることで凹凸が出る。炎症性なら楕円形で辺縁は平滑だ。
医学生医学生
鎖骨上窩という部位はどうでしょう。消化器内科の実習で、胃癌の患者さんの左鎖骨上窩を触るように言われたことがあります。
ドクタードクター
まさにVirchow転移だね。腹部や骨盤からのリンパは胸管を通って左静脈角に注ぐから、胃癌などの腹部の癌は左鎖骨上窩リンパ節に転移しやすい。右鎖骨上窩には縦隔、肺、食道からのリンパが集まる。だから鎖骨上窩の腫脹は悪性の頻度が高い部位として知られていて、炎症性を示唆する所見とは言えない。部位だけで確定はできないけれど、むしろ悪性を疑う方向なんだ。
医学生医学生
整理すると、痛い・軟らかい・よく動く・辺縁が平滑なら炎症性、痛くない・石様硬・動かない・辺縁不整なら転移、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。そこに背景因子も加えておこう。小児や若年者のリンパ節腫脹は反応性が多いけれど、40歳以上では悪性の割合が高くなる。数週間以上持続したり増大したりする場合も悪性を疑う。発熱、体重減少、寝汗といったB症状があれば悪性リンパ腫を考える手がかりになるね。
医学生医学生
悪性が疑われたら、すぐに生検ですか。
ドクタードクター
まずは超音波やCTで性状や分布を評価して、確定診断にはリンパ節生検を行う。穿刺吸引細胞診で癌の転移がわかることもあるけれど、悪性リンパ腫を疑うなら組織構築を見る必要があるから、摘出生検が推奨される。臨床では「痛いから炎症だろう」と経過観察して、縮小しないまま放置されるケースが一番怖い。抗菌薬などで改善しない腫脹は必ず再評価しよう。

まとめ

リンパ節腫脹の鑑別では、大きさに加えて硬さ、圧痛、可動性、辺縁の性状を触診で評価することが基本です。炎症性の腫大は急速な腫大による被膜の伸展で圧痛を伴い、軟らかく可動性良好で辺縁平滑であるのに対し、癌の転移は無痛性で石様硬、周囲への浸潤による可動性不良や辺縁不整、癒合傾向を示します。悪性リンパ腫は弾性硬で無痛性、鎖骨上窩の腫脹は悪性の頻度が高く、左鎖骨上窩への腹部癌の転移はVirchow転移と呼ばれます。径2cm以上、40歳以上、数週間以上の持続・増大は悪性を念頭に置き、画像評価や生検へ進む判断が求められます。触診所見の意味を病態から理解しておくことは、外来でのリンパ節診察を的確に行う土台になります。

解答・解説

正解はbです

リンパ節腫脹(腫大)の原因は、大きく反応性・炎症性(感染症や自己免疫疾患など)と腫瘍性(癌のリンパ節転移、悪性リンパ腫、白血病など)に分けられる。両者の鑑別では、触診で得られる所見(大きさ、硬さ、圧痛の有無、可動性、表面・辺縁の性状)と、腫大の部位、患者の年齢、経過が手がかりとなる。 一般に径1cmを超えるリンパ節は病的腫大を考え、径2cm以上では腫瘍性病変の可能性が高まるとされる。本問は径2cmと、悪性も十分に考えるべき大きさのリンパ節であり、そのなかで炎症性を示唆する所見を選ぶ。 考え方の基本は次のとおりである。炎症性腫大では、リンパ節内で急速に免疫反応が起こり、被膜が急に引き伸ばされるため痛み(自発痛・圧痛)を伴いやすい。硬さは軟〜弾性軟で、周囲組織と癒着しないため可動性は良好である。これに対し癌の転移では、腫瘍細胞の増殖と間質の線維化により石のように硬く(石様硬)、被膜を越えて周囲組織に浸潤・癒着するため可動性が乏しくなり、複数のリンパ節が癒合して辺縁が不整になる。また、腫瘍の増大は緩徐なため通常は痛みを伴わない。したがって、選択肢のうち炎症性を示唆するのは圧痛である。

選択肢考察

  1. ×a.  硬い。

    癌のリンパ節転移では、腫瘍細胞の増殖とそれに伴う線維化(間質反応)のために、石のように硬いリンパ節として触れることが多い。悪性リンパ腫では弾性硬(ゴムのような硬さ)を示すことが多い。一方、炎症性腫大のリンパ節は軟らかい〜弾性軟であることが多い。硬いリンパ節は腫瘍性を疑う所見である。

  2. ○b.  圧痛を伴う。

    炎症性腫大では、感染などに対する免疫反応によってリンパ節が短期間に腫大し、被膜が急激に伸展されるため、自発痛や圧痛を伴うことが多い。周囲の皮膚に発赤や熱感を伴うこともある。これに対し、癌の転移ではリンパ節がゆっくりと大きくなるため、通常は痛みを伴わない(無痛性)。圧痛は炎症性の腫大を疑う所見である。ただし、癌の転移でも急速増大や内部壊死によって痛みを生じることがあるため、他の所見と合わせて総合的に判断する。

  3. ×c.  可動性が乏しい。

    癌が転移したリンパ節では、腫瘍がリンパ節の被膜を越えて周囲組織へ浸潤し、皮膚や深部の組織と癒着するため可動性が乏しくなる(固定される)。炎症性腫大のリンパ節は周囲との癒着がなく、可動性が良好であることが多い。可動性が乏しいことは癌の転移を疑う所見である。

  4. ×d.  鎖骨上窩にある。

    鎖骨上窩のリンパ節腫脹は、悪性疾患の頻度が高い部位として知られる。右鎖骨上窩には縦隔・肺・食道からのリンパ流が、左鎖骨上窩には胸管を介して腹部・骨盤内からのリンパ流が集まる。そのため、肺癌、食道癌、乳癌、胃癌などの転移や悪性リンパ腫の可能性を考える必要がある。特に胃癌などの腹部の癌が左鎖骨上窩リンパ節に転移したものはVirchow転移と呼ばれる。一方、頸部の顎下リンパ節や鼠径リンパ節の腫脹は良性(反応性)であることが多い。部位だけで確定はできないが、鎖骨上窩の腫脹はむしろ悪性を疑う方向の所見である。

  5. ×e.  辺縁が不整である。

    癌の転移では、腫瘍が被膜外へ浸潤したり、隣接する複数のリンパ節が癒合(一塊となる)したりするため、辺縁が不整・凹凸になりやすい。画像検査でも、転移リンパ節は辺縁不整で内部が不均一となり、壊死や石灰化を伴うことがある。炎症性の腫大では、リンパ節は楕円形で辺縁が平滑であることが多い。辺縁不整は癌の転移を疑う所見である。

リンパ節腫脹の性状による鑑別の目安

・炎症性(反応性):軟〜弾性軟、圧痛・自発痛あり、可動性良好、辺縁平滑、急性の経過 ・癌の転移:石様硬、圧痛なし、可動性不良(周囲と癒着)、辺縁不整、複数が癒合して一塊になることがある ・悪性リンパ腫:弾性硬(ゴム様)、圧痛なし、可動性は保たれることが多い、複数のリンパ節が腫大することが多い

悪性を疑う要素

・大きさ:径1cmを超えれば病的と考え、径2cm以上では腫瘍性の可能性が高くなる。 ・年齢:小児や若年者のリンパ節腫脹は反応性であることが多いが、40歳以上では悪性疾患の割合が高くなる。高齢者では悪性疾患を念頭に置いて評価する。 ・経過:数週間以上にわたって持続・増大する場合は悪性を疑う。 ・部位:鎖骨上窩リンパ節腫脹は悪性の頻度が高い。 ・全身症状:発熱、体重減少、盗汗(寝汗)などのB症状は悪性リンパ腫を疑う手がかりとなる。

Virchow転移

胃癌などの腹部臓器の癌が、胸管を経て左鎖骨上窩リンパ節に転移したものをいう。胸管は左静脈角(左内頸静脈と左鎖骨下静脈の合流部)に注ぐため、腹部からのリンパ流は左側に集まる。

精査

悪性が疑われる場合は、超音波検査やCTで性状・分布を評価し、診断確定にはリンパ節生検(穿刺吸引細胞診や摘出生検)を行う。悪性リンパ腫が疑われる場合は、病理組織型の診断のため摘出生検が推奨される。

POINT

・炎症性腫大:圧痛・自発痛あり、軟らかい、可動性良好、辺縁平滑。 ・癌の転移:無痛性、石様硬、可動性不良、辺縁不整、癒合傾向。 ・悪性リンパ腫は弾性硬で無痛性。 ・鎖骨上窩のリンパ節腫脹は悪性を疑う(左鎖骨上窩ではVirchow転移)。 ・径2cm以上、40歳以上、持続・増大する腫脹では悪性を念頭に置く。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。