片足だけ腫れたら全身を疑うな―浮腫の「左右差」が教える局所の病気
第116回医師国家試験 E問題 第4問
国試問題にチャレンジ
浮腫をきたした場合,片側に出現するのはどれか。
- a.肝硬変
- b.急性心不全
- c.ネフローゼ症候群
- d.蜂巣炎(蜂窩織炎)
- e.甲状腺機能低下症
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
浮腫は間質液が過剰に貯留した状態で、Starlingの法則に基づき、毛細血管静水圧の上昇、血漿膠質浸透圧の低下、血管透過性の亢進、リンパ還流障害によって生じます。心不全、ネフローゼ症候群、肝硬変、甲状腺機能低下症などの全身性疾患による浮腫は左右対称の両側性で、甲状腺機能低下症では非圧痕性の粘液水腫が特徴です。一方、蜂窩織炎は主にβ溶血性連鎖球菌や黄色ブドウ球菌による局所の感染症で、血管透過性亢進により片側に発赤・腫脹・熱感・圧痛を伴う浮腫を生じます。片側性浮腫では深部静脈血栓症、リンパ浮腫、骨盤内腫瘍による圧迫も鑑別に挙がり、特に深部静脈血栓症は肺血栓塞栓症につながるため見逃せません。浮腫の分布から病態を推論する視点は、日常診療での原因検索の出発点となります。
解答・解説
正解はdです
浮腫とは、細胞外液のうち間質液(組織間液)が過剰に貯留した状態である。分布によって、全身性浮腫と局所性浮腫に大別される。 全身性浮腫は、体全体の水・ナトリウムの貯留や血漿膠質浸透圧の低下など、全身的な異常によって生じる。原因として心性(心不全)、腎性(ネフローゼ症候群、腎不全)、肝性(肝硬変)、内分泌性(甲状腺機能低下症など)、栄養障害性、薬剤性などがある。全身性浮腫は重力の影響で下肢などの低い部位に目立つが、左右対称(両側性)に出現するのが特徴である。 局所性浮腫は、特定の部位の静脈還流障害、リンパ還流障害、炎症による血管透過性亢進などで生じ、障害された部位に限局するため、片側性に現れることが多い。原因には深部静脈血栓症、蜂巣炎(蜂窩織炎)、リンパ浮腫、骨盤内腫瘍による静脈圧迫などがある。 したがって本問では、選択肢のうち局所の病変によって浮腫を生じる疾患を選べばよい。肝硬変・急性心不全・ネフローゼ症候群・甲状腺機能低下症はいずれも全身性浮腫の原因であり、両側性に出現する。蜂巣炎は局所の細菌感染症であり、炎症の及んだ片側の四肢などに浮腫を生じる。
選択肢考察
- ×a. 肝硬変
肝硬変では、肝臓でのアルブミン合成能が低下して低アルブミン血症となり、血漿膠質浸透圧が下がって血管内の水分が間質へ移動する。さらに、門脈圧亢進や末梢血管の拡張によって有効循環血漿量が減少したと腎臓が感知し、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化されてナトリウムと水が貯留する。これらの全身的な機序で浮腫や腹水を生じるため、浮腫は両側性である。
- ×b. 急性心不全
心不全では心拍出量の低下により腎血流が減少し、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系や交感神経系が活性化されてナトリウムと水が貯留する。右心系の機能が低下すると体静脈圧が上昇し、毛細血管内の静水圧が高まって両下肢などに浮腫を生じる(左心不全では肺うっ血・肺水腫が主体となる)。いずれも全身的な循環動態の異常によるもので、末梢の浮腫は両側性に出現する。
- ×c. ネフローゼ症候群
ネフローゼ症候群では、糸球体から大量の蛋白が尿中に漏れ出る(成人の診断基準では1日3.5g以上の尿蛋白と血清アルブミン3.0g/dL以下)。その結果生じる低アルブミン血症による血漿膠質浸透圧の低下と、腎臓での一次的なナトリウム再吸収亢進によって、全身性の浮腫を生じる。眼瞼や顔面、両下肢に左右対称性に出現し、高度になると胸水・腹水を伴う。
- ○d. 蜂巣炎(蜂窩織炎)
蜂巣炎(蜂窩織炎)は、真皮深層から皮下脂肪組織にかけて広がる急性の細菌感染症で、主な起炎菌はA群β溶血性連鎖球菌などのβ溶血性連鎖球菌と黄色ブドウ球菌である。足白癬や小外傷、虫刺されなどの皮膚の傷が侵入門戸となり、下肢に最も多い。局所の炎症で血管透過性が亢進するため、病変部に境界不明瞭な発赤、腫脹(浮腫)、熱感、圧痛を生じ、発熱などの全身症状を伴うこともある。病変は感染が起きた局所に限られるため、通常は片側の四肢など一側性に浮腫が出現する。リンパ浮腫のある部位は感染を起こしやすく、蜂巣炎を繰り返すことがある。また、炎症が筋膜に及び急速に壊死が進行する壊死性筋膜炎は致死率が高く、強い疼痛や急速な進行がみられる場合は注意を要する。
- ×e. 甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症では、間質にヒアルロン酸などのグリコサミノグリカン(ムコ多糖類)が沈着し、それが水分を保持することで粘液水腫と呼ばれる浮腫を生じる。指で押しても圧痕が残りにくい非圧痕性浮腫(non-pitting edema)が特徴であり、顔面や前脛骨部などに全身性・両側性に出現する。
浮腫の発生機序(Starlingの法則)
毛細血管と間質の間の水分移動は、毛細血管内の静水圧、血漿膠質浸透圧、血管透過性、リンパ還流によって規定される。 ・毛細血管静水圧の上昇:心不全、静脈閉塞(深部静脈血栓症など)、腎不全による体液過剰 ・血漿膠質浸透圧の低下:低アルブミン血症(ネフローゼ症候群、肝硬変、低栄養) ・血管透過性の亢進:炎症(蜂巣炎など)、アレルギー、熱傷 ・リンパ還流障害:リンパ浮腫(乳癌・子宮癌手術後のリンパ節郭清後など)
全身性浮腫と局所性浮腫
・全身性浮腫(両側性):心性、腎性、肝性、内分泌性(甲状腺機能低下症)、栄養障害性、薬剤性(カルシウム拮抗薬、NSAIDs、甘草を含む漢方薬、ステロイドなど)、特発性浮腫 ・局所性浮腫(片側性が多い):深部静脈血栓症、蜂巣炎、リンパ浮腫、骨盤内腫瘍などによる静脈・リンパ管の圧迫、上大静脈症候群(顔面・上肢に浮腫)、血管性浮腫
圧痕性浮腫と非圧痕性浮腫
・圧痕性浮腫(pitting edema):指で圧迫すると圧痕が残る。心性・腎性・肝性など、水分主体の浮腫で多い。 ・非圧痕性浮腫(non-pitting edema):圧痕が残りにくい。甲状腺機能低下症(粘液水腫)、慢性のリンパ浮腫などでみられる。
片側性下肢浮腫をみたら
深部静脈血栓症は肺血栓塞栓症を起こしうるため見逃してはならない。蜂巣炎との鑑別には、皮膚の発赤・熱感の有無、Dダイマー、下肢静脈超音波検査などが役立つ。
POINT
・全身性浮腫(心性・腎性・肝性・内分泌性・薬剤性)は両側性に出現する。 ・片側性浮腫は局所の原因を考える:蜂巣炎、深部静脈血栓症、リンパ浮腫、骨盤内腫瘍による圧迫など。 ・蜂巣炎は主にβ溶血性連鎖球菌・黄色ブドウ球菌による真皮深層〜皮下組織の感染症で、片側の発赤・腫脹・熱感・圧痛を呈する。 ・甲状腺機能低下症の浮腫は非圧痕性(粘液水腫)である。
