名前のついた徴候を「手技と機序」で覚える―髄膜刺激症候から後腹膜出血まで
第118回医師国家試験 B問題 第22問
国試問題にチャレンジ
身体診察所見と病態・疾患の組合せで正しいのはどれか。
- a.えくぼ徴候 ―― 女性化乳房
- b.Kernig徴候 ―― 髄膜炎
- c.Chvostek徴候 ―― 胸水貯留
- d.Blumberg徴候 ―― 停留精巣
- e.Grey-Turner徴候 ―― 尿路結石
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
人名や形容で呼ばれる身体診察所見は、「どこを、どう診察して、何が起こるか」という手技と機序をセットで理解すると、対応する病態を確実に結びつけられます。Kernig徴候は下肢伸展で炎症のある髄膜が引き伸ばされて生じる髄膜刺激症候で、項部硬直・Brudzinski徴候とともに髄膜炎やくも膜下出血で陽性となります。えくぼ徴候はCooper靱帯に浸潤した乳癌、Chvostek徴候はTrousseau徴候とともに低カルシウム血症などによるテタニー、Blumberg徴候は反跳痛として腹膜炎、Grey-Turner徴候とCullen徴候は重症急性膵炎などの後腹膜出血を示します。徴候は感度・特異度に限界があるため単独で診断を確定・否定せず、ほかの所見や検査と組み合わせて判断することが大切です。機序に基づく整理は、国試対策だけでなくベッドサイドで所見の意味を即座に読み取る力の土台になります。
解答・解説
正解はbです
本問は、人名や形容で呼ばれる代表的な身体診察所見(徴候)と、それが示唆する病態・疾患の対応を問う知識問題である。 解き方としては、各徴候について「どの部位を、どのように診察して、何が起こる所見か」を思い出し、その機序から対応する病態を導くとよい。えくぼ徴候は乳房の皮膚のひきつれ(悪性腫瘍の浸潤)、Kernig徴候は下肢の伸展に伴う髄膜の伸張痛(髄膜刺激症候)、Chvostek徴候は顔面神経の被刺激性亢進(低カルシウム血症などによるテタニー)、Blumberg徴候は腹膜の炎症による反跳痛(腹膜刺激症候)、Grey-Turner徴候は後腹膜出血による側腹部の皮下出血斑(重症急性膵炎など)である。この整理から、正しい組合せはKernig徴候と髄膜炎のみとなる。
選択肢考察
- ×a. えくぼ徴候 ―― 女性化乳房
誤りである。えくぼ徴候(dimpling sign)は乳癌を示唆する所見である。乳腺と皮膚を結ぶ支持組織であるCooper靱帯に癌が浸潤すると、靱帯が短縮・牽引されて皮膚が内側へ引き込まれ、えくぼのようなくぼみが生じる。腫瘤の上の皮膚を軽くつまむと誘発されやすい。女性化乳房は男性の乳腺組織が良性に増生する状態で、乳輪下に柔らかい円板状の腫瘤を触れるが、皮膚の引きつれは生じない。
- ○b. Kernig徴候 ―― 髄膜炎
正しい組合せである。Kernig徴候は、仰臥位の患者の股関節と膝関節をそれぞれ90度屈曲させた状態から膝関節を伸展させようとすると、疼痛や抵抗のために十分に伸展できない所見である。下肢の伸展により腰仙部の神経根と、それを包む炎症を起こした髄膜が引き伸ばされることで生じる。項部硬直、Brudzinski徴候(頭部を前屈させると股関節・膝関節が反射的に屈曲する)とともに代表的な髄膜刺激症候であり、髄膜炎やくも膜下出血で陽性となる。
- ×c. Chvostek徴候 ―― 胸水貯留
誤りである。Chvostek徴候は、外耳孔の前方(耳介の前方で頬骨弓の下あたり)を走る顔面神経を指や打腱器で叩くと、同側の口角や顔面筋が攣縮する所見である。神経・筋の興奮性が高まった状態、すなわち低カルシウム血症(副甲状腺機能低下症など)によるテタニーで陽性となるほか、過換気症候群による呼吸性アルカローシスや低マグネシウム血症でもみられる。胸水貯留とは関係がない。胸水貯留では打診での濁音、呼吸音の減弱、声音振盪の減弱などがみられる。
- ×d. Blumberg徴候 ―― 停留精巣
誤りである。Blumberg徴候は反跳痛のことで、腹壁を手でゆっくり深く圧迫し、急に手を離したときに強い痛みを感じる所見である。手を離した瞬間に炎症のある壁側腹膜が動いて刺激されるために生じ、腹膜炎(急性虫垂炎の進行例、消化管穿孔など)を示唆する腹膜刺激症候である。停留精巣は精巣が陰嚢内に下降していない状態で、陰嚢内に精巣を触れないことや鼠径部に精巣を触れることで診断する。
- ×e. Grey-Turner徴候 ―― 尿路結石
誤りである。Grey-Turner徴候は側腹部(主に左側腹部)の皮膚に出現する暗赤色〜青紫色の皮下出血斑である。重症急性膵炎で膵周囲に生じた血性滲出液が後腹膜腔を伝って側腹部の皮下に及ぶことで生じる。臍周囲の同様の出血斑はCullen徴候とよばれる。いずれも後腹膜出血を反映するため、腹部大動脈瘤破裂や異所性妊娠破裂などでもみられることがある。尿路結石では側腹部の疝痛や肋骨脊柱角(CVA)の叩打痛がみられるが、皮下出血斑は生じない。
主な人名・形容徴候と対応する病態
・髄膜刺激症候:項部硬直、Kernig徴候、Brudzinski徴候、jolt accentuation(頭部を左右に素早く振ると頭痛が増強する)。髄膜炎、くも膜下出血で陽性。 ・テタニーの誘発試験:Chvostek徴候(顔面神経の叩打で顔面筋が攣縮)、Trousseau徴候(上腕をマンシェットで収縮期血圧以上に数分間圧迫すると手指が助産師手位をとる)。低カルシウム血症、アルカローシス、低マグネシウム血症で陽性。 ・腹膜刺激症候:Blumberg徴候(反跳痛)、筋性防御、板状硬。腹膜炎で陽性。 ・急性虫垂炎の圧痛点・徴候:McBurney点、Lanz点の圧痛、Rovsing徴候(左下腹部を圧迫すると右下腹部が痛む)、psoas徴候。 ・急性膵炎(重症例)の皮膚所見:Grey-Turner徴候(側腹部)、Cullen徴候(臍周囲)。 ・急性胆嚢炎:Murphy徴候(右季肋部を圧迫しながら深吸気させると痛みで吸気が止まる)。 ・乳癌の皮膚所見:えくぼ徴候(Cooper靱帯への浸潤)、橙皮状皮膚(peau d'orange:皮膚リンパ管の閉塞による浮腫)、乳頭陥凹。
POINT
・Kernig徴候は項部硬直、Brudzinski徴候と並ぶ髄膜刺激症候で、髄膜炎・くも膜下出血で陽性となる。 ・えくぼ徴候は乳癌(Cooper靱帯への浸潤)を示唆する。 ・Chvostek徴候はTrousseau徴候とともに低カルシウム血症などによるテタニーの所見である。 ・Blumberg徴候は反跳痛であり腹膜炎を示唆する。 ・Grey-Turner徴候(側腹部)とCullen徴候(臍周囲)は重症急性膵炎などの後腹膜出血を示す。
