唇が紫に変わる理由―「還元ヘモグロビン5g/dL」が示すチアノーゼの本質
第119回医師国家試験 B問題 第11問
国試問題にチャレンジ
毛細血管内血液の還元ヘモグロビン濃度が5g/dL以上になると出現し,皮膚や粘膜が暗紫色になるのはどれか。
- a.黄疸
- b.紅斑
- c.紫斑
- d.網状皮斑
- e.チアノーゼ
対話形式の解説
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ドクターまとめ
チアノーゼは毛細血管内血液の還元ヘモグロビンが5g/dL以上に増えたときに、口唇・舌・爪床などの皮膚や粘膜が青紫色〜暗紫色になる所見です。黄疸はビリルビン、紅斑は血管拡張(圧迫で消退)、紫斑は血管外への出血(圧迫で消退しない)、網状皮斑は微小循環のうっ滞による網目状の斑と、色調変化は原因で区別すると整理しやすくなります。チアノーゼは還元ヘモグロビンの絶対量に依存するため、高度貧血では低酸素血症があっても出にくく、多血症では出やすい点に注意が必要です。また、動脈血酸素飽和度低下による中心性と末梢血流うっ滞による末梢性を区別し、メトヘモグロビン血症や一酸化炭素中毒のような例外も押さえておくことで、視診所見を病態の理解と適切な検査につなげられます。
解答・解説
正解はeです
テーマ
皮膚・粘膜の色調変化をきたす代表的な所見について、その原因物質や発生機序を区別できるかを問う問題である。
還元ヘモグロビンとは
ヘモグロビン(Hb)は酸素と結合した状態(酸素化ヘモグロビン、オキシヘモグロビン)では鮮紅色を示し、酸素を手放した状態(還元ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビン)では暗赤色〜暗紫色を示す。毛細血管内の血液に還元ヘモグロビンが多くなると、その色が皮膚や粘膜を通して透けて見え、口唇・爪床・耳介などが青紫色〜暗紫色を呈する。これがチアノーゼであり、その目安が毛細血管内血液の還元ヘモグロビン濃度5 g/dL以上である。
考え方
問題文の「還元ヘモグロビン濃度5 g/dL以上」「皮膚や粘膜が暗紫色」という2つの手がかりから、チアノーゼと判断できる。ほかの選択肢は、ビリルビン(黄疸)、血管拡張(紅斑)、血管外への出血(紫斑)、皮膚の微小循環のうっ滞(網状皮斑)がそれぞれの原因であり、還元ヘモグロビン濃度で定義されるものではない。 なお、チアノーゼは還元ヘモグロビンの「絶対量」で決まる点が重要である。総ヘモグロビン量が少ない高度貧血では、酸素飽和度がかなり下がっても還元ヘモグロビンが5 g/dLに達しにくく、チアノーゼが目立たない。逆に多血症では、わずかな酸素飽和度の低下でもチアノーゼが出やすい。したがって、チアノーゼの有無だけで低酸素血症の程度を判断してはならない。
選択肢考察
- ×a. 黄疸
誤り。黄疸は血中ビリルビン(ヘモグロビンの分解産物)が増加し、皮膚や粘膜、眼球結膜が黄染した状態である。血清総ビリルビンがおおむね2〜3 mg/dL以上になると肉眼的に認識でき、まず眼球結膜で気づかれやすい。原因は溶血(肝前性)、肝細胞障害(肝性)、胆道閉塞(肝後性)などで、還元ヘモグロビンとは関係しない。柑皮症(カロテン血症)でも皮膚が黄色くなるが、眼球結膜は黄染しない点で区別される。
- ×b. 紅斑
誤り。紅斑は真皮浅層の毛細血管が拡張・充血して皮膚が赤く見える状態である。血液は血管内にとどまっているため、ガラス板で圧迫する(硝子圧法)と血管内の血液が押し出されて赤みが消える。炎症、薬疹、感染症、膠原病などさまざまな原因で生じる。
- ×c. 紫斑
誤り。紫斑は真皮や皮下組織内への出血により、皮膚が紫紅色〜紫色になる状態である。血液が血管の外に出ているため、硝子圧法で圧迫しても色は消えない(紅斑との鑑別点)。大きさにより点状出血(数mm以下)と斑状出血(それ以上)に分けられ、血小板減少・凝固異常・血管の脆弱性(老人性紫斑、IgA血管炎など)が原因となる。時間とともに血色素が分解されて、緑色〜黄褐色へと色調が変化する。
- ×d. 網状皮斑
誤り。網状皮斑(リベド)は、皮膚の微小循環の血流がうっ滞し、網目状の紫紅色〜青紫色の斑を呈する状態である。寒冷刺激で生じる生理的なものもあるが、抗リン脂質抗体症候群、結節性多発動脈炎などの血管炎、コレステロール塞栓症などの病的な原因で生じることもある。局所的な網目状の色調変化であり、還元ヘモグロビン濃度で定義される所見ではない。
- ○e. チアノーゼ
正しい。チアノーゼは毛細血管内血液の還元ヘモグロビン濃度が5 g/dL以上に増加したときに、皮膚や粘膜が青紫色〜暗紫色を呈する状態である。口唇、口腔粘膜、舌、爪床、耳介などの皮膚・粘膜が薄く血流の豊富な部位で観察しやすい。動脈血の酸素飽和度が低下する中心性チアノーゼと、末梢での血流うっ滞により組織で酸素が多く取り出される末梢性チアノーゼに分けられる。
チアノーゼの分類
・中心性チアノーゼ:動脈血酸素飽和度(SaO2)の低下による。原因は呼吸器疾患(肺炎、COPD、間質性肺炎など)による換気・ガス交換障害、右左短絡のある先天性心疾患(Fallot四徴症など)、高地での低酸素など。口唇・舌など体の中心部の粘膜にもみられ、皮膚は温かいことが多い。 ・末梢性チアノーゼ:動脈血の酸素飽和度は正常だが、末梢の血流が遅くなり組織で酸素が多く取り出されることによる。原因は心拍出量低下(心不全、ショック)、寒冷曝露、Raynaud現象、動脈・静脈の閉塞など。手指・足趾など末梢にみられ、皮膚は冷たいことが多く、温めたりマッサージしたりすると改善しやすい。 ・異常ヘモグロビンによるもの:メトヘモグロビン血症(亜硝酸薬、一部の局所麻酔薬などによる)では、還元ヘモグロビンが5 g/dLに達しなくても、メトヘモグロビン約1.5 g/dL程度で同様の青灰色の着色がみられる。この場合、酸素投与で色調が改善しにくい。
チアノーゼと貧血・多血症
チアノーゼは還元ヘモグロビンの絶対量に依存するため、 ・高度貧血:低酸素血症があってもチアノーゼが出にくい ・多血症:軽度の酸素飽和度低下でもチアノーゼが出やすい なお、一酸化炭素中毒では一酸化炭素ヘモグロビン(鮮紅色)が増えるため、強い組織低酸素があってもチアノーゼは目立たない。
皮膚の色調変化の整理
・黄色:黄疸(ビリルビン、眼球結膜も黄染)、柑皮症(カロテン、眼球結膜は黄染しない) ・赤色:紅斑(血管拡張、圧迫で消退) ・紫色:紫斑(出血、圧迫で消退しない)、網状皮斑(微小循環のうっ滞、網目状) ・青紫色:チアノーゼ(還元ヘモグロビン5 g/dL以上)
POINT
・チアノーゼ:毛細血管内の還元ヘモグロビンが5 g/dL以上で出現し、皮膚・粘膜が青紫色〜暗紫色になる。 ・還元ヘモグロビンの絶対量で決まるため、貧血では出にくく、多血症では出やすい。 ・中心性(SaO2低下)と末梢性(末梢血流のうっ滞)を区別する。 ・紅斑は圧迫で消退し、紫斑は消退しない(硝子圧法)。 ・黄疸は血清総ビリルビン約2〜3 mg/dL以上で認識され、まず眼球結膜に現れる。
