薬疹で休薬しても「群」は変わらない―ランダム化を守るITT解析の考え方
第120回医師国家試験 C問題 第52問
国試問題にチャレンジ
40歳の男性。全身の皮疹を主訴に来院した。この患者は2か月前から新しい降圧薬の効果を検討する二重盲検化ランダム化比較試験〈RCT〉に参加しているが,1週間前から全身に皮疹が出現した。意識は清明。体温36.6℃。脈拍60/分,整。血圧146/84mmHg。皮膚科を紹介したところ,薬疹の疑いと診断された。研究事務局に報告し,研究プロトコールに沿って,割り付けられていた薬を休薬することとなった。なお,この臨床試験の参加者は計画通りに集まり,患者登録は終了している。 その後の手続きとして正しいのはどれか。
- a.臨床試験を中止する。
- b.新たな対象者を補完する。
- c.この患者から得られたデータは処分する。
- d.試験終了後も使用された薬は患者に非開示とする。
- e.この患者のデータは割り付けられた群のまま取り扱う。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
ランダム化比較試験の主な解析はITT解析であり、副作用による休薬や脱落があっても、参加者は最初に割り付けられた群のまま解析します。中止した人を除外したり群を組み直したりすると、ランダム化でそろえた群間のバランスが崩れ、治療効果を過大評価する選択バイアスが生じるためです。副作用が出た参加者は安全確保のため休薬し、データは捨てずに有害事象として記録・報告します。1例の有害事象だけで試験全体を中止したり、登録締切後に参加者を補充したりはせず、盲検は試験終了後や緊急時には開示できます。PPS解析やas-treated解析との違いを理解しておくことは、論文を批判的に読む力と、臨床試験に関わる際の適切な対応の両方につながります。
解答・解説
正解はeです
状況の整理
40歳の男性が、新しい降圧薬の効果を確かめる二重盲検ランダム化比較試験〈RCT:randomized controlled trial〉に2か月前から参加している。1週間前から全身に皮疹が出て、皮膚科で薬疹が疑われた。発熱はなく、意識も清明で、脈拍・血圧も含めて全身状態は安定している。研究事務局へ報告したうえで、プロトコール(研究実施計画書)に従い、割り付けられた薬を休薬することになった。参加者の登録は計画どおりに終わっている。
この問題で問われていること
本問は皮疹の診断ではなく、「RCTの参加者が途中で割り付けられた治療を受けられなくなったとき、その参加者とデータをどう扱うか」を問うている。カギになるのは解析の原則である intention-to-treat〈ITT〉解析だ。 RCTの最大の強みは、ランダムに割り付けることで、年齢・重症度・体質など既知と未知の背景因子が両群で偶然以外には偏らないようにできる点にある。ところが、副作用で薬を中止した人、服薬を守れなかった人、途中で脱落した人を解析から外したり、実際に飲んだ薬で群を組み直したりすると、両群の参加者の性質がずれてしまう。たとえば副作用を起こしやすい人や体質的に治療が合わない人が実薬群からだけ抜ければ、実薬群には「薬に耐えられた人」だけが残り、効果も安全性も実際より良く見えてしまう(選択バイアス)。 そこで、参加者が実際にどの治療をどれだけ受けたかに関係なく、最初に割り付けられた群のまま解析するのがITT解析である。休薬した本例も、割り付けられた群の一員としてデータを扱い続ける。こうすれば、副作用による中止という現実の臨床で起こる出来事も含めた「その治療方針をとったときの効果」が評価できる。
あわせて押さえる手続き
・副作用は試験薬の安全性を評価するうえで欠かせない情報なので、有害事象として記録し、プロトコールや規制に従って報告する。 ・休薬は参加者の安全を守るための個別の対応であり、ただちに試験全体を止めることにはつながらない。 ・登録を締め切った後に参加者を入れ替えたり補ったりはしない。
選択肢考察
- ×a. 臨床試験を中止する。
誤り。新しい薬では一定の割合で副作用が起こることを前提に試験は計画されており、参加者1人に薬疹の疑いが出たことだけで試験全体を止める理由にはならない。本例では該当者を休薬して経過を追えばよい。試験全体の中止を検討するのは、予想を大きく超える重い有害事象が相次ぐ場合や、中間解析で効果・安全性に明らかな差が出た場合などである。その判断は、多くの試験では独立データモニタリング委員会などの勧告を受け、研究の責任者・依頼者が行う。担当医が単独で決めるものではない。
- ×b. 新たな対象者を補完する。
誤り。登録は計画どおりに締め切られている。休薬した人を除いて代わりの人を入れると、事実上その人を解析から外したことになり、ランダム化でそろえた群間の比較可能性が損なわれる。また、後から入った人は登録時期や観察期間が他の参加者と違うため、一貫した評価もできなくなる。脱落や中止は、あらかじめ見込んで必要な症例数を設定しておくのが原則である。
- ×c. この患者から得られたデータは処分する。
誤り。ITT解析では、中止・脱落した参加者のデータも割り付けられた群に含めて解析する。また、試験薬で薬疹が起こったという事実は、安全性を評価するうえで重要な情報である。さらに、研究で得たデータや記録は、法令や指針、研究計画書で決められた期間、保存しなければならない。都合の悪いデータを捨てれば結果の信頼性が根本から揺らぎ、研究不正にもつながる。
- ×d. 試験終了後も使用された薬は患者に非開示とする。
誤り。盲検化(ブラインド)は試験中の評価の偏りを防ぐための手段であり、試験が終われば役目を終える。参加者が希望すれば、どちらの薬を使っていたかを開示できる。特に本例のように薬疹が疑われた場合、原因となった可能性のある薬を本人が知っておくことは、今後同じ薬や似た構造の薬を避けるうえで大切である。なお、重い有害事象で治療方針を決めるのにどうしても必要なときは、試験中でも決められた手順で割り付けを開示(緊急キーオープン)できる。
- ○e. この患者のデータは割り付けられた群のまま取り扱う。
正しい。RCTの主な解析では、実際に治療を続けたかどうかに関係なく、最初に割り付けられた群として参加者を解析するITT解析が原則である。副作用による休薬は、その治療を選んだときに実際の臨床でも起こりうる結果の一つである。これを群に含めておくことで、ランダム化による群間のバランスが保たれ、治療効果を過大評価する偏りを避けられる。本例は休薬後も割り付けられた群の参加者として、データを記録・解析する。
RCTの解析方法の比較
・ITT解析(intention-to-treat):割り付けられた群のまま全員を解析する。ランダム化の利点が保たれ、偏りが最も少ない。実際の臨床で治療方針を選んだときの効果に近く、優越性試験の主な解析に用いられる。一方、中止や不遵守が多いと群間差が小さく出やすい(保守的な推定)。 ・PPS解析(per protocol set):プロトコールどおりに治療を完遂した人だけを解析する。「薬をきちんと飲んだときの効果」を見るには役立つが、除外された人に偏りがあると群間の比較可能性が崩れる。非劣性試験では、ITTに近いFAS(full analysis set:最大の解析対象集団)とPPSの両方で結論が一致するかを確かめることが多い。 ・as-treated解析:実際に受けた治療で群を分け直して解析する。ランダム化の意味が失われるため、主な解析には用いない。
盲検化
・単盲検:参加者だけが割り付けを知らない。 ・二重盲検:参加者と治療・評価をする側(医師など)の両方が知らない。プラセボ効果や評価者の主観による偏りを防ぐ。 ・緊急時は決められた手順で割り付けを開示できるようにしておく。
臨床試験中の有害事象への対応の流れ
1. 参加者の安全を最優先にして、診察・治療を行い、必要ならプロトコールに従って休薬・中止する。 2. 有害事象として重症度と試験薬との因果関係を評価・記録し、研究責任者や研究事務局(治験の場合は治験依頼者や医療機関の長)に報告する。 3. 重篤な副作用で、未知のもの(治験薬概要書などに記載のないもの)は、法令で決められた期限内に規制当局へ報告する。 4. 必要に応じて、説明文書やプロトコールを改訂し、他の参加者にも情報を提供する。
試験全体の中止を検討する状況
独立データモニタリング委員会が中間解析などをもとに、安全性に重大な懸念がある、有効性が明らかになった、続けても差が出る見込みがない(無益性)などと判断して勧告したとき、試験の中止・早期終了が検討される。
POINT
・RCTの主な解析はITT解析:途中で中止・脱落した参加者も、最初に割り付けられた群のまま解析する。 ・目的は、ランダム化でそろえた群間のバランスを保ち、選択バイアスを防ぐこと。 ・副作用が出た参加者は休薬などで安全を確保し、データは捨てずに有害事象として記録・報告する。 ・登録締切後の参加者の補充はしない。1例の副作用だけで試験全体は中止しない。 ・盲検は試験中の偏りを防ぐためのもの。試験終了後は希望に応じて割り付けを開示でき、緊急時は試験中でも開示できる。
