StudyMed医師国家試験

陰影は照射野をなぞる―化学放射線療法後の息切れ、その正体は放射線肺炎

第120回医師国家試験 C問題 第51問

国試問題にチャレンジ

第120回 C問題 第51問

70歳の男性。1週間前からの咳と労作時の息切れを主訴に来院した。3か月前に肺小細胞癌(病期ⅢA)と診断された。診断時,自覚症状はなく,すぐに化学放射線療法が開始され,放射線治療は予定通り終了した。外来で化学療法の継続が予定されている。既往歴に特記すべきことはない。喫煙歴は30本/日を50年間。飲酒は機会飲酒。石綿などの粉塵吸入歴はない。意識は清明。身長170cm,体重62kg。体温36.5℃。呼吸数16/分。SpO2 90%(room air)。右胸部にfine cracklesを聴取する。血液所見:赤血球468万,Hb 13.9g/dL,Ht 42%,白血球7,800(分葉核好中球52%,好酸球2%,単球6%,リンパ球40%),血小板21万。血液生化学所見:LD 280U/L(基準124~222),BNP 10pg/mL(基準18.4以下)。免疫血清学所見:CRP 1.0mg/dL,β-D-グルカン2.2pg/mL(基準10以下)。胸部CT上の線量分布図(A)と受診時の胸部単純CT(B)とを下に示す。  最も考えられる診断はどれか。

第120回 C問題 第51問の問題画像
  1. a.肺水腫
  2. b.細菌性肺炎
  3. c.放射線肺炎
  4. d.好酸球性肺炎
  5. e.ニューモシスチス肺炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肺癌に対する化学放射線療法を終えた患者さんに新たに出てきた咳と息切れの原因を考える問題だ。カギは2つの画像の比較。治療計画で使った線量分布図と、受診時のCTの陰影がどう重なるかに注目してほしい。
医学生医学生
抗癌薬を使っているので、まずは免疫不全に伴う感染症を心配してしまいます。
ドクタードクター
その発想自体は大切だよ。化学放射線療法後の呼吸器症状では、感染症、放射線肺炎、薬剤性肺障害、心不全による肺水腫、癌の進行をまず並べる。そのうえで検査値を一つずつ解釈していこう。発熱がなく、白血球も増えていない、CRPは軽度上昇にとどまる。これは何を意味するかな。
医学生医学生
細菌感染ならもっと炎症反応が強く出るはずなので、細菌性肺炎は考えにくいということですね。
ドクタードクター
その通り。細菌性肺炎なら発熱や膿性痰、好中球優位の白血球増多、CRPの明らかな上昇を伴い、聴診ではcoarse crackles、画像では区域や葉に沿った浸潤影になることが多い。今回聴こえているのはfine cracklesで、これは間質性の病変を示唆する音なんだ。
医学生医学生
CBTの勉強で、捻髪音は間質性肺炎、水泡音は肺炎や肺水腫と覚えました。では、ニューモシスチス肺炎はどうでしょう。LDも少し上がっています。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。ニューモシスチス肺炎は細胞性免疫が低下した人に起こり、LDやKL-6、β-D-グルカンが上がるのが手がかりだ。でも今回はβ-D-グルカンが正常。しかもCTでは両側びまん性のすりガラス陰影になるのが典型だから、片側に偏った今回の分布とも合わない。
医学生医学生
肺水腫も、BNPが正常なので否定的ですね。
ドクタードクター
そう。心原性肺水腫なら両側肺門中心の蝶形陰影や小葉間隔壁の肥厚、胸水がみられ、BNPが上がる。好酸球性肺炎も、末梢血好酸球が2%と正常で、喫煙を始めたばかりという経過でもない。では、決め手の画像を見ていこう。線量分布図では、高線量域が右前方の縦隔から右肺門・気管周囲を通って、右背側の傍椎体部へ斜めの帯状に伸びている。
医学生医学生
受診時のCTでも、右肺の縦隔寄りと背側にすりガラス陰影や網状影が出ていますね。位置がそっくりです。
ドクタードクター
まさにそこがポイント。陰影は肺区域や葉の境界とは無関係で、照射範囲をなぞるように分布している。辺縁が直線的になりやすいのも放射線肺炎の特徴だ。発症時期も照射終了後1〜6か月という好発期に合っていて、fine cracklesやLD上昇といった間質性肺炎の所見もそろう。だから最も考えられるのは放射線肺炎だね。
医学生医学生
放射線治療学の講義で、正常組織の有害反応には急性期と晩期があると習いました。放射線肺炎はその間くらいの時期に出るんですね。
ドクタードクター
よく整理できているね。放射線でⅡ型肺胞上皮細胞や血管内皮細胞が傷害されて炎症が起き、数か月以内に放射線肺炎として現れる。そして慢性期には照射野内の線維化、容積減少、牽引性気管支拡張を伴う放射線肺線維症へ移行していくんだ。
医学生医学生
化学療法も続いているので、薬剤性肺障害との区別も難しそうです。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。実臨床では必ず鑑別に残る。区別の手がかりは分布で、薬剤性肺障害は照射野に限らず両側性・びまん性に広がることが多い。逆に、放射線肺炎がまれに照射野外へ広がって器質化肺炎の像を示すこともあるから、経過をよく追うことが大切だよ。
医学生医学生
治療はステロイドでしょうか。
ドクタードクター
無症状で画像だけの段階なら経過観察もあるけれど、今回のように症状と低酸素血症がある場合は副腎皮質ステロイドを投与し、酸素療法も行う。注意したいのは減量のスピード。急に減らすと再燃しうるので、数週から数か月かけてゆっくり漸減するんだ。
医学生医学生
呼吸器内科を回ったとき、放射線治療前にV20という指標を確認していたのを思い出しました。
ドクタードクター
いいエピソードだね。V20は20Gy以上照射される肺の体積の割合で、平均肺線量とともに放射線肺炎のリスク評価に使う。ほかに化学療法の同時併用、高齢、肺機能の低下、そして既存の間質性肺炎が危険因子で、特に間質性肺炎がある人は重症化しやすい。今回のように限局型の小細胞癌ではプラチナ製剤とエトポシドに胸部照射を同時併用するのが標準だから、治療後の外来では放射線肺炎を常に念頭に置いておこう。

まとめ

胸部放射線治療の終了後1〜6か月頃に乾性咳嗽や労作時呼吸困難、低酸素血症が出現し、CTで照射範囲に一致したすりガラス陰影・浸潤影を認めれば放射線肺炎を考えます。陰影は肺区域や葉に一致せず、照射野をなぞる直線的な辺縁をもつのが特徴で、fine cracklesやLD上昇は間質性病変を示唆します。発熱・白血球増多がなければ細菌性肺炎、β-D-グルカン正常ならニューモシスチス肺炎、BNP正常なら肺水腫、好酸球正常なら好酸球性肺炎は考えにくく、化学療法中では両側びまん性に広がりやすい薬剤性肺障害との区別も重要です。症状を伴う場合は副腎皮質ステロイドで治療し、再燃を防ぐためゆっくり漸減します。線量分布図と画像を重ねて読む視点は、化学放射線療法を受ける肺癌患者の経過観察で欠かせない臨床力です。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・70歳男性。1週間前から咳と労作時の息切れがある。 ・3か月前に肺小細胞癌(病期ⅢA)と診断され、化学放射線療法(化学療法と胸部放射線治療の併用)を受け、放射線治療は予定どおり終了している。化学療法は外来で継続予定である。 ・重喫煙歴(30本/日×50年、ブリンクマン指数1,500)。粉塵吸入歴はない。 ・体温36.5℃で発熱なし。SpO2 90%(室内気)と低酸素血症がある。右胸部にfine crackles(捻髪音: 細かいパチパチという断続性ラ音で、間質性の肺病変を示唆する)を聴取する。 ・血液検査: 白血球7,800で増多なく、好酸球2%と正常。LD 280U/Lと軽度上昇。BNP 10pg/mLと正常。CRP 1.0mg/dLと軽度上昇。β-D-グルカン2.2pg/mLと正常。 ・画像A(治療計画CTに重ねた線量分布図): 等線量曲線が、右前方の縦隔から右肺門・気管周囲を通って右背側の傍椎体領域へと、斜めの帯状に分布している。照射範囲は右肺の内側(縦隔寄り)に集中している。 ・画像B(受診時の胸部単純CT): 右肺の前方縦隔寄りと、背側の傍椎体部に、すりガラス陰影と網状影・浸潤影が出現している。病変の分布は肺区域や葉の境界には一致せず、画像Aの照射範囲(帯状の高線量域)に重なっている。背景肺には喫煙による気腫性変化もみられる。

診断のプロセス

胸部への放射線治療を受けた患者が、照射終了から数か月以内に咳・息切れ・低酸素血症をきたした場合、まず鑑別に挙げるべきなのは、放射線肺炎、抗癌薬などによる薬剤性肺障害、感染症(細菌性肺炎、ニューモシスチス肺炎などの日和見感染)、心不全による肺水腫、癌の進行(癌性リンパ管症など)である。 本例では、発熱がなく白血球増多もなくCRPは軽度上昇にとどまるため細菌感染は考えにくく、β-D-グルカン正常からニューモシスチス肺炎も否定的である。BNP正常で心不全による肺水腫も考えにくい。好酸球の増加もない。 決め手は画像所見である。新たに出現した陰影が、解剖学的な区域とは無関係に、放射線の照射範囲に一致して分布している。放射線肺炎の陰影は、照射野の形をなぞるような直線的な辺縁をもつことが特徴である。発症時期も照射終了から1〜6か月という好発期に合致し、fine cracklesやLD上昇といった間質性肺炎を示す所見もそろう。以上から放射線肺炎と診断する。 なお、化学療法中であるため薬剤性肺障害も鑑別に残るが、薬剤性の場合は陰影が照射野に限局せず両側性・びまん性に広がることが多い点で区別する。

選択肢考察

  1. ×a.  肺水腫

    心原性肺水腫では、両側の肺門部を中心とした蝶形陰影(butterfly shadow)、小葉間隔壁の肥厚(カーリーB線に相当)、両側胸水などがみられ、陰影は通常左右対称性に広がる。本例では陰影が右側の照射範囲に限局しており、心不全で上昇するBNPも10pg/mLと正常であるため考えにくい。

  2. ×b.  細菌性肺炎

    細菌性肺炎では、発熱、膿性痰、coarse crackles(水泡音)、白血球増多(好中球優位)、CRPの明らかな上昇がみられ、画像では肺区域や肺葉に沿った浸潤影や気管支透亮像を伴う浸潤影を呈することが多い。本例は発熱がなく、白血球7,800・好中球52%と増加しておらず、CRPも1.0mg/dLと軽度上昇にすぎない。聴取されるのはfine cracklesであり、陰影も解剖学的区域ではなく照射範囲に沿っているため、細菌性肺炎は考えにくい。

  3. ○c.  放射線肺炎

    胸部への放射線照射によって肺胞上皮細胞や血管内皮細胞が傷害されて起こる間質性肺炎であり、照射終了後1〜6か月(特に1〜3か月)頃に、乾性咳嗽、労作時呼吸困難、ときに発熱で発症することが多い。本例は照射終了後まもなく咳と息切れが出現し、SpO2 90%の低酸素血症、fine crackles、LDの軽度上昇を認める。最大の根拠は、CTの新たなすりガラス陰影・浸潤影が、線量分布図で示された照射範囲に一致して分布している点である。感染症・心不全・好酸球性肺炎を示す所見もなく、放射線肺炎と診断できる。症状を伴う場合(有害事象共通用語規準CTCAEのGrade 2以上)は副腎皮質ステロイドの投与を検討し、症状改善後もゆっくり減量する。急な減量で再燃しうるためである。

  4. ×d.  好酸球性肺炎

    好酸球性肺炎は、急性型では発熱・呼吸困難とびまん性のすりガラス陰影、気管支肺胞洗浄液での好酸球増加(25%以上)を特徴とし、喫煙開始直後に発症することが知られている。慢性型では末梢血好酸球増多と、胸膜直下・上肺野優位の浸潤影(肺水腫の陰性像とよばれる)が典型的である。本例では末梢血好酸球は2%と正常で、陰影も照射範囲に限局しており、合致しない。

  5. ×e.  ニューモシスチス肺炎

    ニューモシスチス肺炎は、HIV感染症や副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬・抗癌薬の使用などによる細胞性免疫低下患者に起こる日和見感染症である。発熱、乾性咳嗽、急速に進む低酸素血症を呈し、CTでは両側びまん性のすりガラス陰影(胸膜直下が保たれることが多い)を示す。検査ではβ-D-グルカン、LD、KL-6の上昇が手がかりとなる。本例ではLDはやや高いものの、β-D-グルカンは2.2pg/mLと正常で、陰影も照射範囲に限局した片側性の分布であるため考えにくい。

放射線肺炎の要点

・機序: 放射線による肺胞上皮細胞(特にⅡ型肺胞上皮)や血管内皮細胞の傷害から炎症が起こり、その後、慢性期には放射線肺線維症へと移行する。 ・発症時期: 照射終了後1〜6か月が多い。照射中に発症することもある。 ・症状: 乾性咳嗽、労作時呼吸困難、微熱。無症状で画像所見のみのこともある。 ・画像: 照射野に一致したすりガラス陰影・浸潤影。辺縁が直線的で、肺区域や葉間に一致しない。慢性期には照射野内の線維化、容積減少、牽引性気管支拡張を呈する。 ・まれに照射野外へ陰影が広がることがあり、器質化肺炎の像を示すこともある。 ・危険因子: 照射された肺の体積と線量(V20: 20Gy以上照射される肺の体積の割合、平均肺線量など)、化学療法の同時併用、既存の間質性肺炎、高齢、肺機能低下など。特に既存の間質性肺炎がある患者では重症化しやすい。 ・治療: 無症状(Grade 1)なら経過観察。症状がある場合(Grade 2以上)は副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンなど)を投与し、数週〜数か月かけて漸減する。低酸素血症には酸素療法を行う。

化学放射線療法後・抗癌薬治療中の呼吸器症状の鑑別

・放射線肺炎: 照射野に一致した陰影。 ・薬剤性肺障害: 抗癌薬や免疫チェックポイント阻害薬などによる。照射野に限らず両側性・びまん性の陰影をとることが多い。 ・感染症: 細菌性肺炎(発熱、膿性痰、白血球・CRP上昇)、ニューモシスチス肺炎(β-D-グルカン上昇)、サイトメガロウイルス肺炎など。 ・心不全・肺水腫: BNP上昇、両側性陰影、胸水。 ・癌の進行: 癌性リンパ管症(小葉間隔壁や気管支血管束の結節状肥厚)、腫瘍増大による無気肺など。

肺小細胞癌の治療の概要

小細胞癌は増殖が速く、診断時に転移していることが多い一方、化学療法・放射線療法に対する感受性が高い。限局型(病変が片側胸郭内と所属リンパ節に限られ、一つの照射野に収まる)では、プラチナ製剤(シスプラチンなど)とエトポシドによる化学療法と胸部放射線治療の同時併用が標準治療である。治療で完全奏効が得られた場合には、脳転移予防のため予防的全脳照射が検討される。

POINT

・胸部放射線治療後1〜6か月の咳・息切れ+照射野に一致した陰影(直線的な辺縁、区域に一致しない)→放射線肺炎。 ・鑑別: 細菌性肺炎(発熱・白血球/CRP上昇)、ニューモシスチス肺炎(β-D-グルカン上昇・両側びまん性)、肺水腫(BNP上昇・両側性)、好酸球性肺炎(好酸球増多)、薬剤性肺障害(照射野外にも広がる)。 ・症状を伴う放射線肺炎(Grade 2以上)は副腎皮質ステロイドで治療し、ゆっくり漸減する。 ・fine crackles、LD上昇は間質性肺炎を示唆する所見。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。