StudyMed医師国家試験

照射から3か月後に何が起こる?―「場所」と「時期」で読み解く放射線治療の有害事象

第115回医師国家試験 F問題 第41問

国試問題にチャレンジ

第115回 F問題 第41問

72歳の男性。肺がん検診で胸部異常陰影を指摘され来院した。左肺上葉に径25mmの結節影を認め,臨床病期IA期の原発性肺腺癌と診断された。心機能が低下しているため,手術療法は困難と判断され,根治目的に放射線治療を施行した。  治療終了3か月後の有害事象として認められる可能性が高いのはどれか。

  1. a.脱毛
  2. b.血球減少
  3. c.放射線肺炎
  4. d.放射線食道炎
  5. e.放射線皮膚炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、手術できない早期肺癌に根治的放射線治療を行った後、どんな有害事象が起こりうるかを考える問題だ。ポイントは2つ。「どこに照射したか」と「照射後どのくらい経ったか」。この2軸で整理すると、答えは自然に絞れるよ。
医学生医学生
放射線の副作用というと、抗癌剤みたいに脱毛や血球減少が全身に出るイメージがあります。
ドクタードクター
そこがよくある誤解なんだ。抗癌剤は血流に乗って全身に届くから、毛根や骨髄など分裂の盛んな細胞が全身で傷つく。一方、放射線治療の有害事象は原則として照射された部位にしか起こらない。まずこの大原則を押さえよう。
医学生医学生
放射線医学の講義で、放射線は「局所療法」だと強調されていました。では今回は、どこに当たっているんでしょうか。
ドクタードクター
手術不能のI期非小細胞肺癌では、体幹部定位放射線治療、いわゆるピンポイント照射が標準的だ。多方向から腫瘍にビームを集中させ、1回に大きな線量を少ない回数で照射する。腫瘍は呼吸で動くので、その動きを見込んだ余裕を周囲にとる。だから腫瘍だけでなく、周囲の正常な肺も一定量照射されることになる。
医学生医学生
それなら照射後に起こりやすいのは、肺そのものの障害ということですね。
ドクタードクター
その通り。次に時期の軸だ。放射線の有害事象は、照射中からおおむね照射後3か月以内に出る急性期と、それ以降に出る晩期に分けて考える。急性期は皮膚・粘膜・骨髄など分裂の盛んな組織に起こりやすく、多くは一過性。晩期は線維化や血管障害が主体で、不可逆なことが多い。
医学生医学生
Bergonié-Tribondeauの法則ですね。CBTの勉強で、未分化で分裂の盛んな組織ほど放射線感受性が高いと覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。そして放射線肺炎はその中間、照射終了後1〜6か月、特に3か月前後に好発する。今回の時期とぴったり一致するから、正解は放射線肺炎だ。
医学生医学生
脱毛はどうでしょう。全く起こらないんですか。
ドクタードクター
放射線による脱毛は、毛包が照射野に入ったときだけ起こる。全脳照射などでは問題になるけれど、肺への照射で頭髪には当たらない。しかも照射中から出る急性期の反応だから、3か月後に新たに出るものでもないんだ。
医学生医学生
血球減少も、照射される骨髄がわずかなら起こりにくいということですね。
ドクタードクター
そう。骨盤や脊椎など造血骨髄を広く照射した場合や全身照射、化学療法を併用した場合には問題になるが、小さな肺腫瘍への単独照射ではほとんど影響しない。起こるとしても照射期間中の急性期の変化だ。
医学生医学生
放射線食道炎は、肺の近くなので迷いました。臨床実習で放射線科を回ったとき、食道癌の患者さんが照射中に「飲み込むとしみる」と訴えていたのを覚えています。
ドクタードクター
いい経験だね。食道炎は縦隔リンパ節を含めて照射する局所進行肺癌や食道癌で問題になり、照射開始2〜3週後から嚥下時痛として出て、多くは照射終了後数週で軽快する急性期の有害事象だ。末梢の早期肺癌への定位照射では、食道は照射範囲から離れているから高線量はまず当たらない。
医学生医学生
放射線皮膚炎も急性期ですし、多方向から照射するなら一か所の皮膚に線量が集中しにくいですね。
ドクタードクター
その理解で正しい。皮膚炎は照射中から終了後数週間の発赤や色素沈着が主体で、定位照射では問題になりにくい。つまり「場所」で食道・頭髪・骨髄が外れ、「時期」で急性期の皮膚炎や食道炎が外れるわけだ。
医学生医学生
放射線肺炎になったら、どんな症状が出て、どう対応するんでしょう。
ドクタードクター
多くは無症状で、画像で照射野に一致したすりガラス影や浸潤影が見つかるだけだ。解剖学的な肺区域と無関係に、照射範囲に沿った直線的な境界をもつのが特徴だよ。乾性咳嗽、発熱、労作時呼吸困難が出ることもあり、症状があれば副腎皮質ステロイドを使う。陰影が照射野を越えて広がる場合は重症化に注意が必要だ。
医学生医学生
間質性肺炎がある人だと危なそうですね。
ドクタードクター
まさに重要な危険因子だ。ほかに照射される肺の体積と線量、化学療法の併用なども関係する。だから治療計画では正常肺の線量を厳しく評価するし、治療前に間質性肺炎の有無を確認することが欠かせない。最終的には照射部位に晩期障害として放射線肺線維症が残ることが多い。また定位照射では、胸壁に近い腫瘍なら肋骨骨折や胸壁痛、中枢気道に近い腫瘍なら気道の重篤な障害など、腫瘍の位置によって注意すべき晩期障害も変わってくるよ。

まとめ

放射線治療の有害事象は原則として照射された部位にのみ生じ、照射中〜照射後約3か月の急性期(皮膚炎、粘膜炎・食道炎、脱毛、骨髄抑制など)と、それ以降の晩期(線維化、血管障害など)に分けて考えます。手術不能のI期非小細胞肺癌には体幹部定位放射線治療が行われ、腫瘍の呼吸性移動を見込んで周囲の正常肺も照射されるため、照射終了後1〜6か月、特に3か月前後に放射線肺炎が好発します。放射線肺炎は照射野に一致した直線的境界の陰影が特徴で、無症状なら経過観察、症状があればステロイドで治療し、間質性肺炎の合併や照射肺体積の大きさは危険因子となります。脱毛や血球減少、食道炎、皮膚炎は照射部位あるいは時期が合わないため考えにくいと判断できます。「照射部位」と「照射後の時期」の2軸で有害事象を整理する考え方は、あらゆる部位の放射線治療を理解するうえでの基本となります。

解答・解説

正解はcです

症例の整理

・72歳男性。肺がん検診で異常陰影を指摘され、左肺上葉に径25mmの結節を認めた。 ・臨床病期IA期の原発性肺腺癌(非小細胞肺癌)と診断された。径25mmで所属リンパ節転移・遠隔転移がないため、TNM分類第8版ではT1cN0M0、IA3期に相当する。 ・I期非小細胞肺癌の標準治療は外科切除(肺葉切除+リンパ節郭清)であるが、本例は心機能低下のため手術が困難と判断され、根治を目指した放射線治療が選択された。

治療の内容

手術不能のI期非小細胞肺癌に対する根治的放射線治療としては、体幹部定位放射線治療(SBRT: stereotactic body radiation therapy、いわゆるピンポイント照射)が標準的である。多方向からの照射ビームや回転照射を腫瘍に集中させ、1回に大線量(例えば1回12Gyを4回、計48Gyなど)を少ない回数で照射する。腫瘍は呼吸で動くため、その動きを見込んで腫瘍の周囲に数mm~1cm程度の余裕(マージン)をとった範囲が照射される。リンパ節領域への予防的照射は行わない。

設問の考え方

放射線治療の有害事象は、照射された部位にのみ生じる(局所的な影響)ことが大原則である。そのうえで、発症時期によって次のように分けて考える。 ・急性期有害事象: 照射中から照射終了後おおむね3か月以内に生じる。細胞分裂の盛んな組織(皮膚、粘膜、骨髄など)に起こりやすく、多くは一過性である。 ・晩期有害事象: 照射終了後数か月~数年を経て生じる。線維化や血管障害が主体で、不可逆的なことが多い。 本例では、照射範囲に含まれるのは主に腫瘍とその周囲の肺組織であり、照射終了3か月後という時期は放射線肺炎の好発時期(照射終了後1~6か月、特に3か月前後)に一致する。照射部位と時期の両面から考えるのがポイントである。

選択肢考察

  1. ×a.  脱毛

    放射線による脱毛は、毛包が照射野に含まれる場合にのみ起こる局所的な有害事象である。頭部への照射(全脳照射など)で問題となるが、本例の照射部位は左肺上葉の腫瘍とその周囲であり、頭髪は照射されない。また脱毛は照射中から生じる急性期の反応で、3か月後に新たに出現するものではない。

  2. ×b.  血球減少

    放射線による血球減少は、骨盤骨や脊椎など造血骨髄の広い範囲が照射された場合や全身照射、化学療法を併用した場合に問題となる。本例は小さな肺腫瘍への放射線単独の局所照射であり、照射される骨髄の量はごくわずかで、臨床的な血球減少は起こりにくい。また、起こるとしても照射期間中の急性期の変化である。

  3. ○c.  放射線肺炎

    肺腫瘍への照射では、腫瘍の呼吸性移動を見込んだマージンを含めて周囲の正常肺も照射されるため、その部位に放射線肺炎が生じうる。放射線肺炎は照射終了後1~6か月、特に3か月前後に好発し、本例の時期と一致する。多くは照射野に一致した無症候性の陰影にとどまるが、乾性咳嗽、発熱、呼吸困難をきたすこともあり、照射野を越えて広がる場合は重症化することがある。

  4. ×d.  放射線食道炎

    放射線食道炎は縦隔リンパ節領域を含む照射(局所進行肺癌や食道癌など)で問題となり、照射開始2~3週後ごろから嚥下時痛・つかえ感として現れ、多くは照射終了後数週で軽快する急性期の有害事象である。本例のような末梢型のI期肺癌への定位照射では、食道は照射範囲から離れており、高線量が当たることはほとんどない。3か月後の有害事象としては考えにくい。

  5. ×e.  放射線皮膚炎

    放射線皮膚炎(発赤、色素沈着、びらんなど)は照射中から照射終了後数週間に生じる急性期反応が主体である。定位照射では多方向からビームを入射するため、特定の部位の皮膚に高線量が集中することは少なく、問題となりにくい。照射終了3か月後に新たに生じる有害事象としては可能性が低い。

I期非小細胞肺癌の治療

・標準治療は外科切除(肺葉切除+リンパ節郭清)である。 ・心肺機能低下や高齢などで手術が困難な場合、または患者が手術を希望しない場合には、体幹部定位放射線治療(SBRT)が選択される。局所制御率は高く、手術不能例の根治的治療として確立している。 ・I期では原則として化学療法の併用は行わない(術後補助療法の適応は病期・状況による)。

放射線肺炎

・発症時期: 照射終了後1~6か月(特に3か月前後)。 ・症状: 乾性咳嗽、発熱、労作時呼吸困難。無症状で画像のみの変化のことも多い。 ・画像: 照射野に一致したすりガラス影・浸潤影で、解剖学的な肺区域とは無関係に、照射範囲に沿った直線的な境界をもつのが特徴である。照射野を越えて広がる場合は重症化に注意する。 ・危険因子: 照射される肺の体積と線量(V20など)、間質性肺炎の合併、化学療法の併用など。 ・治療: 軽症は経過観察、症状がある場合は副腎皮質ステロイドを投与する。 ・最終的には照射部位に放射線肺線維症(晩期障害)が残ることが多い。

放射線治療の有害事象の時期と例

・急性期(照射中~照射後3か月以内): 皮膚炎、粘膜炎(口内炎、食道炎)、脱毛、骨髄抑制、放射線宿酔(悪心・倦怠感)、下痢(腹部・骨盤照射)など ・亜急性~晩期: 放射線肺炎(数か月後)、肺線維症、脊髄症、腸管狭窄・潰瘍、直腸出血、膀胱萎縮、二次発がんなど ・定位照射に特有の晩期有害事象: 胸壁に近い腫瘍では肋骨骨折や胸壁痛、中枢気道に近い腫瘍では気道・食道の重篤な障害などがあり、腫瘍の位置により注意点が異なる。

組織の放射線感受性

細胞分裂が盛んで未分化な組織ほど放射線感受性が高い(Bergonié-Tribondeauの法則)。リンパ球・骨髄・生殖腺・腸上皮などは感受性が高く、神経・筋・骨などは低い。

POINT

・放射線治療の有害事象は原則として照射された部位にしか起こらない。 ・放射線肺炎は照射終了後1~6か月(特に約3か月)に好発し、照射野に一致した陰影を示す。治療はステロイド。 ・皮膚炎・食道炎・脱毛・骨髄抑制は照射中~直後の急性期有害事象。 ・手術不能のI期非小細胞肺癌には体幹部定位放射線治療(SBRT)が行われる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。