聴く・叩く・見る・測る―息切れの身体所見を「病態」で読み解く
第116回医師国家試験 B問題 第2問
国試問題にチャレンジ
異常呼吸あるいは息切れを主訴とする患者の所見と原因の組合せについて正しいのはどれか。
- a.Coarse crackles ―― 喘息
- b.胸部打診で濁音 ―― 気胸
- c.頸静脈の怒張 ―― 右心不全
- d.SpO2 95%(room air) ―― 呼吸不全
- e.Cheyne-Stokes呼吸 ―― 上気道閉塞
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
息切れや異常呼吸の診察では、聴診・打診・視診・SpO2といった基本的な所見を、それぞれが反映する病態と結びつけて解釈することが重要です。内頸静脈の拍動は右房圧を反映するため、頸静脈怒張は右心不全を示唆しますが、心タンポナーデや緊張性気胸などでもみられる点に注意が必要です。coarse cracklesは肺炎や肺水腫、喘息はwheezes、気胸は打診で鼓音、上気道閉塞はstridorが典型で、Cheyne-Stokes呼吸は心不全や中枢神経障害による呼吸調節の異常を示します。呼吸不全はPaO2 60 Torr以下(SpO2約90%以下)と定義されるため、室内気でSpO2 95%は基準を満たしません。所見の成り立ちから考える習慣は、救急外来や病棟での迅速な原因推定に直結します。
解答・解説
正解はcです
息切れ(呼吸困難)や異常呼吸を訴える患者の診察では、呼吸器疾患だけでなく、心疾患、神経疾患、代謝異常など幅広い原因を考える必要がある。その手がかりとなるのが、聴診(副雑音の種類)、打診(含気の多寡)、視診(頸静脈、呼吸パターン)、パルスオキシメータによる酸素飽和度といった身体所見・簡便な検査である。 本問は、それぞれの所見が「どのような病態を反映するか」を正しく対応づけられるかを問うている。考え方の軸は次のとおりである。 ・副雑音:断続性ラ音(crackles)は閉じた末梢気道や肺胞が開く音、連続性ラ音(wheezes、rhonchi)は狭くなった気道を空気が通る音である。 ・打診:空気が多いと鼓音(過共鳴音)、空気が少ないか液体・組織で置き換わると濁音になる。 ・頸静脈:右心系の圧(中心静脈圧)を反映する。 ・SpO2:呼吸不全の基準であるPaO2 60 Torrがおおよそ SpO2 90%に相当する。 ・異常呼吸パターン:呼吸中枢の調節異常を示すものと、気道の物理的な閉塞を示すものを区別する。 これらを当てはめると、所見と原因が正しく対応しているのは「頸静脈の怒張―右心不全」のみである。
選択肢考察
- ×a. Coarse crackles ―― 喘息
Coarse crackles(水泡音)は、低音で粗い断続性ラ音であり、気道内の分泌物や液体の中を空気が通過するときに生じる。主に吸気初期から中期に聴取され、細菌性肺炎、肺水腫(心不全)、気管支拡張症などでみられる。喘息は気道の狭窄が病態の中心であり、呼気時に優位な高音の連続性ラ音であるwheezes(笛様音)を聴取するのが典型である。
- ×b. 胸部打診で濁音 ―― 気胸
打診音は、叩いた部位の直下にどれだけ空気があるかで決まる。気胸では胸膜腔に空気がたまるため、患側で鼓音(過共鳴音)を呈し、あわせて呼吸音の減弱もみられる。濁音は含気が減ったり液体・組織で置き換わったりした状態で生じ、胸水貯留、無気肺、肺炎(大葉性肺炎などの浸潤影)、腫瘤などでみられる。
- ○c. 頸静脈の怒張 ―― 右心不全
内頸静脈は弁を介さずに右房とつながっているため、その拍動の高さは右房圧(中心静脈圧)を反映する。右心不全では右室が血液を十分に送り出せず、右房圧と体静脈圧が上昇するため、頸静脈怒張がみられる。同時に下腿浮腫、肝腫大(うっ血肝)、腹水などの体循環うっ血の所見を伴う。座位や45度の半座位で頸静脈の拍動が明らかに高い位置まで見えることが怒張の所見である。なお、心タンポナーデ、収縮性心膜炎、緊張性気胸、上大静脈症候群なども頸静脈怒張をきたすため、鑑別に含める。
- ×d. SpO2 95%(room air) ―― 呼吸不全
呼吸不全は、室内空気吸入時の動脈血酸素分圧(PaO2)が60 Torr以下となる状態と定義される。酸素解離曲線から、PaO2 60 TorrはSpO2 約90%に相当するため、SpO2 90%以下が呼吸不全を疑う目安となる。健常者のSpO2はおおむね96〜99%であり、室内気でSpO2 95%は呼吸不全の基準を満たさない。
- ×e. Cheyne-Stokes呼吸 ―― 上気道閉塞
Cheyne-Stokes呼吸は、浅い呼吸から次第に深く大きな呼吸となり、再び浅くなって無呼吸(10〜20秒程度)に至る、というパターンを周期的に繰り返す呼吸である。呼吸中枢の調節が不安定になることで生じ、重症心不全(循環時間の延長)、脳血管障害などの中枢神経疾患、尿毒症、薬物中毒などでみられる。上気道閉塞では、吸気時に高調な連続音であるstridor(吸気性喘鳴)を聴取し、陥没呼吸や、睡眠時にはいびきと閉塞性無呼吸を伴うのが特徴である。
肺の副雑音の分類
・断続性ラ音(crackles) fine crackles(捻髪音):高音で細かい。吸気後半に聴取。間質性肺炎(特発性肺線維症など)、石綿肺。 coarse crackles(水泡音):低音で粗い。吸気初期〜中期に聴取。肺炎、肺水腫、気管支拡張症。 ・連続性ラ音 wheezes(笛様音):高音。気管支喘息、COPD、心臓喘息。 rhonchi(いびき様音):低音。太い気道の分泌物、COPD。 stridor:吸気時優位の高音。喉頭・気管など上気道の閉塞(異物、喉頭蓋炎、クループ、腫瘍など)。 ・その他:胸膜摩擦音(胸膜炎)。
打診音と含気の関係
・鼓音(過共鳴音)→ 含気増加:気胸、COPD(肺気腫)、巨大肺嚢胞 ・濁音 → 含気減少:胸水、無気肺、肺炎、肺水腫、腫瘤
呼吸不全の定義
・室内空気吸入時のPaO2 60 Torr以下。 ・Ⅰ型:PaCO2 45 Torr以下(間質性肺炎、肺水腫、肺塞栓など)。 ・Ⅱ型:PaCO2 45 Torr超(COPD増悪、神経筋疾患など肺胞低換気)。 ・PaO2とSpO2の目安:PaO2 60 Torr ≒ SpO2 90%、PaO2 40 Torr ≒ SpO2 75%。
代表的な異常呼吸パターン
・Cheyne-Stokes呼吸:漸増・漸減と無呼吸の周期。心不全、脳血管障害、尿毒症。 ・Biot呼吸:不規則な深さの呼吸と無呼吸が突然入れ替わる。脳幹(延髄)障害、髄膜炎。 ・Kussmaul呼吸:深く規則的な大呼吸。糖尿病性ケトアシドーシスなどの代謝性アシドーシス。 ・失調性呼吸:リズム・深さとも全く不規則。延髄障害。
右心不全と左心不全の所見
・右心不全(体循環うっ血):頸静脈怒張、下腿浮腫、肝腫大、腹水、肝頸静脈逆流。 ・左心不全(肺うっ血):労作時呼吸困難、起坐呼吸、発作性夜間呼吸困難、coarse crackles、Ⅲ音。
POINT
・coarse crackles=肺炎・肺水腫、fine crackles=間質性肺炎、wheezes=喘息、stridor=上気道閉塞。 ・打診は含気で考える:気胸は鼓音、胸水・無気肺は濁音。 ・頸静脈怒張は右房圧上昇の所見で、右心不全を示唆する。 ・呼吸不全はPaO2 60 Torr以下(≒SpO2 90%以下)。 ・Cheyne-Stokes呼吸は心不全や中枢神経障害でみられ、気道閉塞の所見ではない。
