その咳、何週間?―持続期間で絞り込む咳嗽の原因
第115回医師国家試験 B問題 第15問
国試問題にチャレンジ
急性咳嗽の原因として頻度が高いのはどれか。
- a.COPD
- b.咳喘息
- c.胃食道逆流症
- d.副鼻腔気管支症候群
- e.マイコプラズマ肺炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
咳嗽は持続期間により急性(3週未満)、遷延性(3〜8週)、慢性(8週以上)に分類され、期間によって原因の構成が大きく異なります。急性咳嗽の大部分は気道感染症で、感冒が最多であり、急に始まる頑固な乾性咳嗽を呈するマイコプラズマ肺炎も代表的な原因です。一方、咳喘息(日本で最多)、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症、COPDは慢性咳嗽の主な原因で、期間が長くなるほど非感染性の病態が中心となります。乾性か湿性かという咳の性状や内服歴も鑑別に役立ち、急性でも心不全や肺血栓塞栓症、慢性でも結核や肺癌といった重大な疾患を除外する視点が重要です。「いつから」「どんな咳か」を押さえることは、日常診療で最もありふれた症状の一つに筋道立てて対応するための基本となります。
解答・解説
正解はeです
咳嗽の持続期間による分類
咳嗽(がいそう:せき)は、持続期間によって次の3つに分けられる。 ・急性咳嗽:3週間未満 ・遷延性咳嗽:3週間以上8週間未満 ・慢性咳嗽:8週間以上 この分類は原因の推定に役立つ。急性咳嗽の原因の大部分は気道の感染症であり、なかでも感冒(かぜ症候群)などのウイルス性上気道炎が最も多く、急性気管支炎や肺炎がこれに続く。持続期間が長くなるほど感染症の占める割合は低下し、慢性咳嗽では感染症単独が原因であることはまれで、咳喘息、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症、アトピー咳嗽、COPDなど非感染性の病態が中心となる。遷延性咳嗽は両者の中間で、感染後咳嗽(感染後に気道の過敏性が残って咳が続く状態)が多い。
考え方
選択肢のうち、急性に発症して咳を起こす感染症はマイコプラズマ肺炎だけであり、他の4つはいずれも慢性咳嗽の代表的な原因である。したがって急性咳嗽の原因として頻度が高いものはマイコプラズマ肺炎となる。
選択肢考察
- ×a. COPD
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、主に長期の喫煙によって気道の慢性炎症と肺胞の破壊(肺気腫)が起こり、気流閉塞が進行する疾患である。気道分泌物の増加と気道の過敏化により、慢性的な咳と痰が続く。感染などを契機とした急性増悪で咳が急に悪化することはあるが、咳嗽の分類上は慢性咳嗽の原因疾患に位置づけられる。
- ×b. 咳喘息
喘鳴や呼吸困難を伴わず、咳だけが続く喘息の亜型である。気道の過敏性亢進があり、夜間から早朝に咳が悪化しやすい。気管支拡張薬が有効であることが診断の手がかりとなり、治療の基本は吸入ステロイド薬である。日本では慢性咳嗽(および遷延性咳嗽)の原因として最も頻度が高い疾患であり、急性咳嗽の原因ではない。経過中に典型的な喘息へ移行する例がある。
- ×c. 胃食道逆流症
胃食道逆流症(GERD)は、胃酸を含む胃内容物が食道へ逆流する病態である。逆流した酸が下部食道の迷走神経を介して咳反射を起こす経路と、咽喉頭まで達した逆流物が直接気道を刺激する経路によって咳を生じる。胸やけや呑酸を伴うことがあるが、消化器症状を欠くこともある。慢性咳嗽の主要な原因の一つで、治療にはプロトンポンプ阻害薬などの酸分泌抑制薬が用いられる。
- ×d. 副鼻腔気管支症候群
副鼻腔気管支症候群(SBS)は、慢性副鼻腔炎などの上気道の慢性炎症に、慢性気管支炎・びまん性汎細気管支炎・気管支拡張症などの下気道の慢性炎症が合併した病態である。後鼻漏(鼻汁がのどに流れ落ちる)を伴い、痰を伴う湿性咳嗽が長く続く。治療には少量長期のマクロライド療法などが用いられる。日本では咳喘息などと並ぶ慢性咳嗽の主要な原因であり、急性咳嗽の原因ではない。
- ○e. マイコプラズマ肺炎
Mycoplasma pneumoniae(細胞壁をもたない細菌)による肺炎で、学童から若年成人に多く、家庭や学校などで集団発生しやすい。発熱や倦怠感とともに急に始まる、痰の少ない頑固な乾性咳嗽が特徴であり、急性咳嗽の原因となる代表的な気道感染症である。咳の激しさに比べて聴診所見が乏しいことが多い。咳は数週間続いて遷延性咳嗽となることもあるが、8週以上の慢性咳嗽の原因となることはまれである。細胞壁がないためβ-ラクタム系抗菌薬は無効で、マクロライド系が第一選択となる(マクロライド耐性株ではテトラサイクリン系やキノロン系を考慮する)。
持続期間別の咳嗽の主な原因
・急性咳嗽(3週未満):感冒などのウイルス性上気道炎が最多。急性気管支炎、肺炎(マイコプラズマ、肺炎球菌など)、インフルエンザ、COVID-19など。非感染性では、急性心不全、肺血栓塞栓症、気胸、気道異物、喘息発作など見逃してはならない疾患もある。 ・遷延性咳嗽(3〜8週):感染後咳嗽が多い。百日咳、マイコプラズマ感染症の長引く咳もこの範囲に入りうる。 ・慢性咳嗽(8週以上):咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症、COPD、ACE阻害薬による咳、喫煙による慢性気管支炎など。肺結核や肺癌などの重大な疾患の除外も必要である。
乾性咳嗽と湿性咳嗽
痰を伴わない乾性咳嗽の原因として咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症、ACE阻害薬、間質性肺炎、マイコプラズマ肺炎などがある。痰を伴う湿性咳嗽では副鼻腔気管支症候群、COPD、気管支拡張症、細菌性肺炎などを考える。
マイコプラズマ肺炎の特徴(非定型肺炎)
・若年者(おおむね60歳未満)、基礎疾患が乏しいか軽微 ・頑固な乾性咳嗽 ・胸部聴診所見が乏しい ・痰がないか、迅速診断でも原因菌が証明されない ・白血球数が正常範囲(10,000/μL未満) これらは細菌性肺炎との鑑別に用いられる項目である。そのほか寒冷凝集素の上昇、多形紅斑や溶血性貧血などの肺外合併症がみられることがある。
POINT
・咳嗽は急性(3週未満)、遷延性(3〜8週)、慢性(8週以上)に分類される。 ・急性咳嗽の原因は気道感染症が主体(最多はかぜ症候群)。マイコプラズマ肺炎は代表的な急性咳嗽の原因である。 ・咳喘息、副鼻腔気管支症候群、胃食道逆流症、COPDは慢性咳嗽の原因。日本では咳喘息が最多。
