StudyMed医師国家試験

脚が交差する歩き方―両側の痙縮が生む「はさみ歩行」を読み解く

第115回医師国家試験 B問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第115回 B問題 第14問

両側下肢に痙縮を呈する患者の歩容はどれか。

  1. a.開脚歩行
  2. b.動揺歩行
  3. c.小刻み歩行
  4. d.はさみ歩行
  5. e.分回し歩行

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、異常歩行のパターンと障害部位を結びつける問題だ。キーワードは「両側下肢」と「痙縮」の2つ。まずは痙縮とはどういう状態か、確認しておこう。
医学生医学生
上位運動ニューロン、つまり錐体路の障害で起こる筋緊張の亢進ですよね。
ドクタードクター
その通り。錐体路が障害されると脊髄の伸張反射が抑制から外れて亢進し、筋を速く伸ばすほど強い抵抗が出る。最初は抵抗が強く途中でふっと抜ける「折りたたみナイフ現象」が特徴で、腱反射亢進やBabinski徴候陽性を伴うことが多い。
医学生医学生
神経内科の実習で、速く曲げたときだけ引っかかる感じを体験しました。固縮とはどう区別するんでしたっけ。
ドクタードクター
固縮は錐体外路障害で起こり、速度に関係なく関節の可動域全体で一様な抵抗がある。鉛管様とか歯車様と表現するね。痙縮は速度依存性、固縮は速度非依存性、と整理するとわかりやすい。では、下肢に痙縮が起こると、どの筋の緊張が目立つと思う?
医学生医学生
ふくらはぎの下腿三頭筋でしょうか。つま先立ちっぽくなる尖足のイメージがあります。
ドクタードクター
いいね。もう一つ大事なのが股関節の内転筋群だ。両側でこれが強く働くと、両方の太ももが内側に引き寄せられる。その状態で歩くと、振り出した脚が軸足の前を横切るように内側へ入り、両膝がこすれ合いながら脚が交差する。
医学生医学生
はさみの刃が交差するように見えるから、はさみ歩行ですね。
ドクタードクター
正解。はさみ歩行は両側性の痙性麻痺、つまり痙性対麻痺に特徴的な歩容だ。原因としては脳性麻痺、とくに痙直型両麻痺、遺伝性痙性対麻痺、頸髄症などの脊髄圧迫性病変、HTLV-1関連脊髄症などがある。
医学生医学生
でも、痙縮の歩き方といえば分回し歩行を真っ先に思い浮かべました。そちらとはどう違うんですか。
ドクタードクター
そこがこの問題のひっかけポイントだね。分回し歩行は脳卒中などによる片側の痙性麻痺でみられる。麻痺側の下肢は伸展して内反尖足となり、機能的に長い脚になるから、そのままでは足先が床に引っかかる。だから外側へ半円を描くように振り回して前に出すんだ。片側なら分回し、両側ならはさみ、と対で覚えておこう。
医学生医学生
片麻痺だとWernicke-Mann肢位を伴うんでしたよね。OSCEの神経診察の練習で教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。上肢は屈曲、下肢は伸展という姿勢だ。残りの選択肢も見ていこう。開脚歩行はどうかな。
医学生医学生
足を広げてバランスをとる歩き方なので、小脳失調でしょうか。
ドクタードクター
そう。支持面を広げてふらつきを補う歩容で、小脳性運動失調のほか、深部感覚障害による脊髄性運動失調、正常圧水頭症でもみられる。痙縮とは別の機序だ。次に動揺歩行は?
医学生医学生
これも揺れるので小脳かと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこはよく間違えるところだ。動揺歩行はアヒル歩行とも呼ばれ、中殿筋など骨盤周囲の近位筋が弱いことで起こる。片足立ちのときに反対側の骨盤が下がるのを、上半身を左右に揺らして代償しているんだ。Duchenne型筋ジストロフィーや多発筋炎などの筋疾患が代表だね。
医学生医学生
小刻み歩行はParkinson病ですね。前傾姿勢、すくみ足、突進現象とセットで。
ドクタードクター
その通り。錐体外路障害による歩容で、血管性パーキンソニズムでもみられる。こうして並べると、歩き方を見るだけで障害部位の見当がつくのがわかるだろう。
医学生医学生
錐体路なら片側か両側かで分回しとはさみ、錐体外路なら小刻み、小脳なら開脚、筋疾患なら動揺、ということですね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。発展として、前脛骨筋の筋力低下で足が垂れる下垂足では、足を高く上げてつま先から着地する鶏歩になる。腓骨神経麻痺やCharcot-Marie-Tooth病でみられるね。深部感覚障害では踵を床に打ちつけるように歩き、閉眼で悪化してRomberg徴候が陽性になる。外来では患者さんが診察室に歩いて入ってくる数歩が貴重な情報源だから、歩容をしっかり観察する習慣をつけておこう。
医学生医学生
問診の前から診察は始まっている、ということですね。
ドクタードクター
その通り。とくに両側の痙縮を見たら、脳だけでなく頸髄や胸髄の病変も考えて、画像検査の部位を選ぶことが大切だよ。

まとめ

痙縮は錐体路障害による速度依存性の筋緊張亢進で、両側の下肢に生じると股関節内転筋の緊張により振り出した脚が交差する「はさみ歩行」を呈します。脳性麻痺(痙直型両麻痺)、遺伝性痙性対麻痺、頸髄症、HTLV-1関連脊髄症などの痙性対麻痺が代表的な原因です。一方、片側の痙縮(脳卒中後の片麻痺)では分回し歩行、Parkinson病では小刻み歩行、小脳失調では開脚歩行、近位筋の筋力低下では動揺歩行がみられます。歩容と障害部位の対応を整理しておくことは、診察室に入ってくる患者さんの歩き方から病変部位を推定する臨床力の基礎になります。

解答・解説

正解はdです

問われていること

痙縮(けいしゅく)とは、上位運動ニューロン(大脳皮質から脊髄前角細胞に至る錐体路)の障害によって筋の伸張反射が亢進し、筋を他動的に速く伸ばすほど強い抵抗が生じる状態である。最初は抵抗が強く途中で急に抜ける「折りたたみナイフ現象」が特徴で、腱反射亢進やBabinski徴候陽性を伴う。

考え方

下肢の痙縮では、股関節の内転筋群や下腿三頭筋(ふくらはぎの筋)の緊張が特に強くなる。両側の下肢にこれが起こると、両大腿が内側に引き寄せられ、つま先立ち気味(尖足)になる。この状態で歩くと、前に出す脚が軸足の前を横切るように内側へ振り出され、両膝がこすれ合いながら脚が交差する。これを、はさみの刃が交差する様子にたとえて「はさみ歩行(scissors gait)」と呼ぶ。両側性の痙性麻痺(痙性対麻痺)に特徴的な歩容であり、正解となる。 片側の痙縮(片麻痺)であれば分回し歩行になる点と対比して覚えるとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  開脚歩行

    両足を左右に広く開いて支持面を広げ、バランスを補いながら歩く歩容である(wide-based gait)。小脳性運動失調(よろめきながら歩く失調性歩行)、深部感覚障害による脊髄性運動失調(脊髄癆など。足元を見ながら踵を床に打ちつけるように歩き、閉眼で悪化する)、正常圧水頭症(すり足・小刻みで足が床に吸いつくような歩行を伴う)などでみられる。痙縮に特徴的な歩容ではない。

  2. ×b.  動揺歩行

    アヒルのように上半身を左右に大きく揺らしながら歩く歩容である(waddling gait、アヒル歩行)。中殿筋など骨盤周囲の近位筋が弱いと、片足立ちの際に反対側の骨盤が下がるため、これを体幹の傾きで代償することで生じる。Duchenne型などの進行性筋ジストロフィー、多発筋炎などの筋疾患、両側の先天性股関節脱臼でみられる。痙縮による歩容ではない。

  3. ×c.  小刻み歩行

    歩幅が狭く、足をあまり上げずにすり足で歩く歩容である。Parkinson病やParkinson症候群(多発性脳梗塞による血管性パーキンソニズムなど)でみられ、前傾姿勢、腕振りの減少、歩き始めの一歩が出ないすくみ足、歩き出すと止まれなくなる突進現象を伴うことが多い。錐体外路障害による歩容であり、痙縮とは異なる。

  4. ○d.  はさみ歩行

    両側下肢の痙縮により股関節内転筋の緊張が高まり、振り出した下肢が支持脚の前を横切って交差する歩容である。尖足を伴い、つま先で床をこするように歩き、代償として体幹が左右に揺れることも多い。脳性麻痺(特に両下肢に強い痙直型両麻痺)、遺伝性痙性対麻痺、頸髄症や脊髄の圧迫性病変による痙性対麻痺、HTLV-1関連脊髄症(HAM)などでみられる。

  5. ×e.  分回し歩行

    脳卒中などによる片側の痙性麻痺(片麻痺)でみられる歩容である。麻痺側の下肢は股・膝が伸展し、足が内反尖足となって「機能的に長い脚」になるため、そのままでは足先が床に引っかかる。そこで麻痺側下肢を外側へ半円を描くように振り回して前に出す。片側性の痙縮による歩容であり、両側性の痙縮では生じにくい。

代表的な異常歩行と障害部位の対応

・はさみ歩行:両側の錐体路障害(痙性対麻痺)。脳性麻痺、遺伝性痙性対麻痺、脊髄病変。 ・分回し歩行(片麻痺歩行):片側の錐体路障害。脳卒中。上肢は屈曲、下肢は伸展するWernicke-Mann肢位を伴う。 ・小刻み歩行・すくみ足・突進現象:錐体外路障害。Parkinson病、血管性パーキンソニズム。 ・失調性歩行(酩酊様歩行、開脚歩行):小脳障害。脊髄小脳変性症、小脳梗塞、アルコール性小脳変性症。 ・踵打ち歩行:深部感覚障害(脊髄癆、亜急性連合性脊髄変性症など)。Romberg徴候陽性。 ・動揺歩行(アヒル歩行):近位筋(中殿筋など)の筋力低下。筋ジストロフィー、多発筋炎、両側股関節脱臼。 ・鶏歩(鶏状歩行):前脛骨筋の筋力低下による下垂足。腓骨神経麻痺、Charcot-Marie-Tooth病。足を高く上げてつま先から接地する。 ・Trendelenburg歩行:片側の中殿筋筋力低下。立脚時に反対側の骨盤が下がる。 ・正常圧水頭症の歩行:開脚・小刻み・すり足で、足が床に貼りついたような歩行(magnetic gait)。認知症・尿失禁とともに三徴をなす。

痙縮と固縮の違い

痙縮は錐体路障害で生じ、速度依存性(速く伸ばすほど抵抗が強い)で折りたたみナイフ現象を示す。固縮は錐体外路障害で生じ、速度に依存せず関節の動きの全範囲で一様な抵抗(鉛管様、または歯車様)を示す。

POINT

・両側下肢の痙縮(痙性対麻痺)→はさみ歩行(内転筋の緊張で両脚が交差)。 ・片側の痙縮(片麻痺)→分回し歩行。 ・Parkinson病→小刻み歩行、小脳失調→開脚・失調性歩行、近位筋の筋力低下→動揺歩行。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。