StudyMed医師国家試験

右の足に出る異常反射、犯人は左の橋―錐体交叉で読み解くBabinski徴候

第118回医師国家試験 C問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第118回 C問題 第12問

右Babinski徴候が陽性になるのはどれか。

  1. a.右大脳半球病変
  2. b.左橋病変
  3. c.右小脳病変
  4. d.左頸髄病変
  5. e.馬尾障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、Babinski徴候という病的反射から病変部位を推定する問題だ。考えるべきポイントは2つ。Babinski徴候がどの経路の障害で出るのか、そしてその経路がどこで左右交叉するのか。まずはBabinski徴候の意味から確認しよう。
医学生医学生
足底の外側をこすったときに母趾が背屈する反射ですよね。OSCEの神経診察でハンマーの柄を使って練習しました。
ドクタードクター
そうだね。正常成人では母趾は底屈するから、背屈するのは異常で、錐体路、つまり皮質脊髄路という上位運動ニューロンの障害を示す代表的なサインだ。ここで大事なのは、錐体路の障害でしか出ないということ。
医学生医学生
ということは、小脳や末梢神経の障害では出ないということですか。
ドクタードクター
その通り。だから小脳病変と馬尾障害はまず外れる。小脳は錐体路の通り道ではないから、小脳半球の病変では同側の運動失調、つまり測定障害や反復拮抗運動障害、企図振戦、筋緊張低下が出るけれど、Babinski徴候は出ない。
医学生医学生
馬尾は脊髄の一部だと思っていたので、錐体路障害が起こりそうな気がしていました。
ドクタードクター
そこは誤解しやすいね。成人の脊髄は第1〜2腰椎の高さで脊髄円錐として終わって、その下の脊柱管には腰仙髄から出た神経根が束になって走っている。これが馬尾で、末梢神経、つまり下位運動ニューロンにあたるんだ。だから馬尾障害では下肢の弛緩性麻痺、腱反射の低下・消失、サドル型感覚障害、膀胱直腸障害が出て、Babinski徴候は出ない。
医学生医学生
なるほど、馬の尻尾のような神経根の束なんですね。では残りの3つは錐体路が通る場所ですが、左右はどう考えればいいでしょう。
ドクタードクター
ここで2つ目のポイント、錐体交叉だ。錐体路は中心前回から放線冠、内包後脚、中脳の大脳脚、橋底部、延髄錐体を通り、延髄下端の錐体交叉で大部分が反対側へ渡って、脊髄側索を下行する。交叉より上の病変なら反対側に、脊髄の病変なら同じ側に症状が出る。
医学生医学生
右大脳半球の病変は交叉より上なので、症状は左側に出る。だから左片麻痺と左Babinski徴候になるわけですね。
ドクタードクター
正解。脳卒中で右の内包が障害されると左片麻痺になる、というのと同じ理屈だね。では左の頸髄病変はどうかな。
医学生医学生
頸髄はもう交叉した後なので……左側に出ます。右ではないですね。
ドクタードクター
そう。左頸髄の外側皮質脊髄路が障害されると、同側の左にBabinski徴候が出る。典型例が脊髄の半側障害であるBrown-Séquard症候群で、病変側に運動麻痺と深部感覚障害、反対側に温痛覚障害が出る。温痛覚の経路は脊髄に入ってすぐ交叉するからだ。
医学生医学生
消去法でも残りますが、左の橋は交叉より上なので、右側にBabinski徴候が出る。これが正解ですね。
ドクタードクター
その通り。錐体路は橋の腹側、橋底部を下行していて、まだ交叉前だから、左の病変で右上下肢の麻痺と右Babinski徴候が出る。さらに病変が左の顔面神経核や外転神経核に及ぶと、左の脳神経麻痺と右の片麻痺が組み合わさった交代性片麻痺になる。橋下部腹側で左の末梢性顔面神経麻痺と右片麻痺を示すのがMillard-Gubler症候群だ。
医学生医学生
神経内科の実習で、脳幹梗塞の患者さんの顔と手足の麻痺が左右逆で驚いたのを思い出しました。中脳だとWeber症候群でしたね。
ドクタードクター
よく覚えているね。Weber症候群は同側の動眼神経麻痺と対側の片麻痺だ。脳神経麻痺の側が病変側を教えてくれるから、交代性片麻痺は局在診断の強い手がかりになる。
医学生医学生
まとめると、右Babinski徴候なら、左の大脳から脳幹までの病変か、右の脊髄の病変を考えればいいということですね。
ドクタードクター
完璧だ。臨床での注意点もいくつか押さえておこう。まず乳児は錐体路の髄鞘化が未完成なので、1〜2歳ごろまでは生理的にBabinski徴候が陽性になりうる。次に、Chaddock反射のように外果の下をこする方法も同じ意義をもつから、Babinski徴候がはっきりしないときに併用するといい。そして、重い脳卒中の急性期や脊髄損傷直後の脊髄ショックでは、錐体路障害があっても一時的に弛緩性麻痺や反射低下を示すことがある。反射が低下しているから下位運動ニューロン障害だと早合点しないことが大切だ。
医学生医学生
上位運動ニューロン障害なら痙性麻痺、腱反射亢進、病的反射陽性で、下位運動ニューロン障害なら弛緩性麻痺、反射低下、筋萎縮や線維束性収縮、という対比も合わせて覚えておきます。

まとめ

Babinski徴候は錐体路(上位運動ニューロン)障害を示す病的反射であり、小脳病変や馬尾などの下位運動ニューロン障害では出現しません。錐体路は延髄下端の錐体交叉で左右が入れ替わるため、大脳・内包・中脳・橋など交叉より上の病変では対側に、脊髄病変では同側に症状が出ます。したがって右Babinski徴候は左の大脳〜脳幹か右の脊髄の病変で生じ、左橋病変がこれに該当し、脳神経核を巻き込めばMillard-Gubler症候群のような交代性片麻痺を呈します。乳児での生理的陽性や、脳卒中急性期・脊髄ショックでの一時的な反射低下にも注意が必要です。経路と交叉部位から症状の出る側を導く考え方は、神経診察による局在診断の基本となります。

解答・解説

正解はbです

テーマ

Babinski徴候は、足底の外側をかかとからつま先方向へこすったときに、母趾が背屈(上に反り返る)し、ときに他の趾が扇状に開く現象である。正常成人では母趾は底屈するため、背屈は異常であり、錐体路(皮質脊髄路)すなわち上位運動ニューロンの障害を示す代表的な病的反射である。

考え方

本問は「どこが障害されると、右下肢にBabinski徴候が出るか」を問う。鍵は次の2点である。 ①Babinski徴候は錐体路(上位運動ニューロン)の障害でのみ出現する。小脳や末梢神経(下位運動ニューロン)の障害では出ない。 ②錐体路は延髄下端の錐体交叉で左右が入れ替わる。したがって、交叉より上(大脳・中脳・橋・延髄上部)の病変では病変と反対側に、交叉より下(脊髄)の病変では病変と同じ側に症状が出る。 錐体路の経路は、大脳皮質一次運動野(中心前回)→放線冠→内包後脚→中脳大脳脚→橋底部→延髄錐体→錐体交叉(大部分の線維が対側へ)→脊髄側索(外側皮質脊髄路)→脊髄前角細胞である。 右側にBabinski徴候を出すには、交叉より上なら左側、交叉より下なら右側の錐体路が障害されればよい。選択肢のうち、これに当てはまるのは交叉より上にある左橋の病変である。よって正解はbである。

選択肢考察

  1. ×a.  右大脳半球病変

    誤り。右大脳半球の運動野や内包の病変で障害される錐体路は、まだ錐体交叉を通過していない。そのため症状は病変と反対側に現れ、左片麻痺とともに左Babinski徴候が陽性となる。右側には出現しない。

  2. ○b.  左橋病変

    正しい。錐体路は橋の腹側(橋底部)を下行しており、この時点ではまだ錐体交叉の手前である。左橋底部が障害されると、交叉後に右側の脊髄へ向かうはずの線維が障害されるため、右上下肢の麻痺と右Babinski徴候が出現する。病変が左の顔面神経核や外転神経核などの脳神経核・神経線維に及ぶと、病変側(左)の脳神経麻痺と反対側(右)の上下肢麻痺を組み合わせた交代性片麻痺を呈する。例えば、橋下部腹側の病変で左末梢性顔面神経麻痺と右片麻痺がみられるものをMillard-Gubler症候群という。

  3. ×c.  右小脳病変

    誤り。小脳は錐体路の経路に含まれないため、小脳病変ではBabinski徴候は出現しない。小脳半球の病変では、病変と同側(右)の四肢に運動失調(測定障害、反復拮抗運動障害、企図振戦など)や筋緊張低下がみられる。小脳症状が同側に出るのは、小脳からの出力が交叉したのちに大脳皮質へ戻り、さらに錐体路で再び交叉するという二重交叉の結果である。

  4. ×d.  左頸髄病変

    誤り。頸髄は錐体交叉より下にあり、そこを下行する外側皮質脊髄路はすでに交叉を終えている。したがって左頸髄の錐体路が障害されると、病変と同側の左側にBabinski徴候が陽性となる。脊髄の左半側が障害される典型例がBrown-Séquard症候群で、病変レベル以下で同側(左)の運動麻痺・腱反射亢進・Babinski徴候・深部感覚(振動覚・位置覚)障害と、対側(右)の温痛覚障害を呈する。温痛覚を伝える外側脊髄視床路は、脊髄に入ってすぐ(1〜2髄節上行する間に)交叉するためである。

  5. ×e.  馬尾障害

    誤り。脊髄は成人では第1〜2腰椎の高さで終わり(脊髄円錐)、それより下の脊柱管内には腰仙髄から出た神経根が束になって走行する。これを馬尾といい、末梢神経(下位運動ニューロン)にあたる。馬尾障害では下肢の弛緩性麻痺、腱反射低下・消失、サドル型感覚障害、膀胱直腸障害などがみられ、上位運動ニューロン徴候であるBabinski徴候は出現しない。

上位運動ニューロン障害と下位運動ニューロン障害

・上位運動ニューロン(錐体路)障害:痙性麻痺、筋緊張亢進(痙縮、折りたたみナイフ現象)、腱反射亢進、Babinski徴候などの病的反射陽性、筋萎縮は乏しい(廃用性程度) ・下位運動ニューロン(脊髄前角細胞〜末梢神経)障害:弛緩性麻痺、筋緊張低下、腱反射低下・消失、病的反射陰性、筋萎縮・線維束性収縮

病変部位と症状の出る側

・大脳半球、内包、中脳、橋、延髄上部(錐体交叉より上):病変と反対側の片麻痺・Babinski徴候 ・脳幹病変で脳神経核を巻き込む場合:病変側の脳神経麻痺+対側の片麻痺(交代性片麻痺)。代表例に、中脳のWeber症候群(同側動眼神経麻痺+対側片麻痺)、橋のMillard-Gubler症候群(同側顔面神経麻痺〔外転神経麻痺を伴うこともある〕+対側片麻痺)がある。 ・脊髄(錐体交叉より下):病変と同側の運動麻痺・Babinski徴候 ・小脳:病変と同側の運動失調(錐体路徴候なし)

Babinski徴候の補足

・乳児では錐体路の髄鞘化が未完成のため、生後1〜2歳ごろまでは生理的に陽性となりうる。 ・類似の病的反射としてChaddock反射(外果の下をこする)があり、Babinski徴候と同じ意義をもつ。 ・急性期の重度脳血管障害や脊髄損傷直後(脊髄ショック)では、錐体路障害があっても一時的に弛緩性麻痺・反射低下を示すことがある。

POINT

・Babinski徴候は錐体路(上位運動ニューロン)障害の徴候 ・錐体路は延髄下端の錐体交叉で交叉する:交叉より上の病変は対側、脊髄病変は同側に出現 ・右Babinski徴候 → 左の大脳〜脳幹(橋など)または右の脊髄の病変 ・小脳病変(同側の失調)や馬尾・末梢神経障害ではBabinski徴候は出ない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。