StudyMed医師国家試験

腕は曲がり、脚は伸びる―Wernicke-Mann肢位から読み取る錐体路障害のサイン

第110回医師国家試験 H問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第110回 H問題 第2問

歩行時の姿位を図に示す。  この患者の左下肢に予想されるのはどれか。

第110回 H問題 第2問の問題画像
  1. a.筋緊張低下
  2. b.腱反射減弱
  3. c.足クローヌス
  4. d.線維束性収縮
  5. e.アステリキシス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、歩行時の姿勢という見た目の情報から障害部位を推定し、そこから出現する神経所見を予測する問題だ。まずは姿勢が何を意味するかを言葉にしてみよう。図の患者さんの左上肢と左下肢、それぞれどんな肢位になっているかな。
医学生医学生
左腕は肘も手首も指も曲がって体に引き寄せられていて、左脚は膝が伸びてつま先が下を向いています。
ドクタードクター
よく観察できているね。足関節は底屈して内反、いわゆる尖足だ。上肢は屈曲、下肢は伸展。これがWernicke-Mann肢位で、脳卒中後の痙性片麻痺に典型的な姿勢なんだ。伸びて見かけ上長くなった麻痺側の脚を、股関節を中心に外側へ半円を描くように振り出す歩き方を分回し歩行と呼ぶ。
医学生医学生
脳神経内科の実習で、脳梗塞後のリハビリ中の患者さんがまさにそう歩いていました。
ドクタードクター
臨床で実際に見ておくと一生忘れないよ。では、この姿勢はどこが障害されて起こるのだろう。
医学生医学生
左半身の麻痺なので、右大脳半球の内包あたりで錐体路が障害されたということですね。
ドクタードクター
正解。錐体路、つまり皮質脊髄路の障害で、上位運動ニューロン障害が起きている。ここが問題の核心だ。上位運動ニューロンは脊髄反射を上から抑制している。その抑制が外れるとどうなるかな。
医学生医学生
反射が強く出るようになる……つまり筋緊張は亢進して、腱反射も亢進するはずです。
ドクタードクター
その通り。だから麻痺側では痙縮、腱反射亢進、Babinski徴候などの病的反射、そしてクローヌスが出現する。正解は足クローヌスだ。クローヌスは筋を急に伸ばしてそのまま保持すると、伸張反射が繰り返し起こって律動的な収縮と弛緩が続く現象で、腱反射が著しく亢進した状態を反映している。
医学生医学生
OSCEの神経診察で練習しました。膝を軽く曲げて足底を押し、足首を急に背屈させて保持するんですよね。
ドクタードクター
そう、下腿三頭筋が繰り返し伸張反射を起こして、足が細かく底屈と背屈を反復する。膝蓋骨を急に押し下げて誘発する膝クローヌスもある。では、筋緊張低下はどうだろう。
医学生医学生
脳卒中の直後は弛緩性麻痺になると聞いたので、少し迷いました。
ドクタードクター
鋭いね。確かに発症直後の急性期は一時的に筋緊張が低下することがある。でも図のように特徴的な肢位で歩けている段階は慢性期で、痙性麻痺になっている。むしろWernicke-Mann肢位そのものが、上肢屈筋と下肢伸筋という抗重力筋の痙縮が優位になって形成されるんだ。痙縮は速く動かすほど抵抗が強くなる速度依存性で、途中で急に抵抗が抜ける折りたたみナイフ現象を伴う。筋緊張低下は下位運動ニューロン障害や小脳障害でみられる所見だね。
医学生医学生
腱反射減弱も同じで、反射弓そのものが壊れる末梢神経や前角細胞の障害で起こるもの、と考えればいいですか。
ドクタードクター
完璧だ。腱反射は脊髄レベルの単シナプス反射だから、感覚神経・前角細胞・運動神経・筋のどこかが障害されると減弱・消失する。錐体路障害なら逆に亢進する。線維束性収縮も下位運動ニューロン、特に前角細胞の障害で、運動単位がぴくぴくと勝手に収縮する現象だ。
医学生医学生
ALSでは痙縮と線維束性収縮が一緒に出ると習いました。
ドクタードクター
そう、ALSは上位と下位の両方が障害されるからね。でも脳卒中の片麻痺は上位運動ニューロンだけの障害なので、線維束性収縮は出ない。最後のアステリキシスは?
医学生医学生
羽ばたき振戦ですよね。消化器内科の実習で肝硬変の患者さんに手を前に伸ばしてもらって診察しました。
ドクタードクター
いい経験だね。姿勢を保つ筋の収縮が瞬間的に途切れる陰性ミオクローヌスの一種で、肝性脳症のほか尿毒症やCO2ナルコーシスなどの代謝性脳症でみられ、通常は両側の上肢で観察される。片麻痺の徴候ではない。
医学生医学生
姿勢から上位か下位かを判断して、そこから所見を予測する、という順番が大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。上位運動ニューロン障害は筋緊張亢進、腱反射亢進、病的反射陽性、クローヌス出現で、筋萎縮は廃用性の軽いものにとどまる。下位運動ニューロン障害は筋緊張低下、腱反射減弱、高度の筋萎縮、線維束性収縮。この対比表は国試で何度も問われる。異常歩行も整理しておこう。両側の錐体路障害ではさみ足歩行、Parkinson病では小刻み歩行やすくみ足、下垂足では鶏歩、筋ジストロフィーでは動揺性歩行、小脳障害では失調性歩行だ。
医学生医学生
歩き方を見るだけで、かなり病態が絞り込めるんですね。
ドクタードクター
診察室に入ってくる歩き方は、最初に得られる神経所見だからね。臨床では、痙縮が強いと尖足のため転倒しやすくなるので、装具やリハビリ、場合によってはボツリヌス毒素療法などの痙縮治療も検討される。見た目の姿勢から、障害部位、出る所見、生活上の問題まで連想できるようにしておこう。

まとめ

上肢を屈曲させ、下肢を伸展・尖足にして麻痺側下肢を外側へ振り出して歩く姿勢はWernicke-Mann肢位(分回し歩行)であり、脳卒中後の慢性期にみられる痙性片麻痺、すなわち錐体路(上位運動ニューロン)障害を示します。上位運動ニューロンによる脊髄反射の抑制が外れるため、麻痺側では痙縮、腱反射亢進、Babinski徴候などの病的反射、足クローヌスが出現します。一方、筋緊張低下・腱反射減弱・線維束性収縮は下位運動ニューロン障害の徴候であり、アステリキシス(羽ばたき振戦)は肝性脳症などの代謝性脳症でみられる所見です。なお脳卒中の急性期には一時的に弛緩性麻痺となることがある点にも注意が必要です。姿勢や歩行から障害部位を推定し、上位・下位運動ニューロン障害の対比を使って所見を予測する思考は、神経診察の基本であり臨床で繰り返し役立ちます。

解答・解説

正解はcです

図の患者は、左上肢を肘・手関節・手指で屈曲させて体幹に引き寄せ、左下肢は膝を伸ばし足関節を底屈(尖足)・内反させた姿勢で歩いている。これは上肢屈曲・下肢伸展を特徴とするWernicke-Mann肢位であり、脳卒中後の痙性片麻痺に典型的な姿勢である。伸展して見かけ上長くなった麻痺側下肢を、股関節を中心に外側へ半円を描くように振り出す歩き方は分回し歩行(片麻痺歩行)と呼ばれる。 この肢位は、右大脳半球の内包などで錐体路(皮質脊髄路)が障害され、左半身に上位運動ニューロン障害が生じた慢性期の状態を示す。上位運動ニューロン障害では、脊髄反射に対する上位中枢からの抑制が失われるため、麻痺側では痙縮(筋緊張亢進)、腱反射亢進、Babinski徴候などの病的反射、クローヌスが出現する。 したがって、左下肢に予想される所見は、上位運動ニューロン障害の徴候である足クローヌスである。下位運動ニューロン障害の徴候(筋緊張低下、腱反射減弱、線維束性収縮)や代謝性脳症の徴候(アステリキシス)とは区別して考える。

選択肢考察

  1. ×a.  筋緊張低下

    誤り。錐体路障害の慢性期には、麻痺側の筋緊張は亢進して痙縮となる。痙縮は他動的に関節を速く動かすほど抵抗が強くなる速度依存性の筋緊張亢進で、動かし始めに強い抵抗があり途中で急に抜ける折りたたみナイフ現象を伴う。Wernicke-Mann肢位は、上肢屈筋群と下肢伸筋群(抗重力筋)の痙縮が優位になることで形成される。なお脳卒中の発症直後(急性期)には一時的に弛緩性麻痺となり筋緊張が低下することがあるが、図のような肢位で歩行している段階では痙性麻痺である。筋緊張低下は下位運動ニューロン障害や小脳障害でみられる。

  2. ×b.  腱反射減弱

    誤り。腱反射(深部腱反射)は脊髄レベルの単シナプス反射であり、上位運動ニューロンから抑制を受けている。錐体路が障害されるとこの抑制が外れるため、麻痺側では膝蓋腱反射やアキレス腱反射が亢進する。腱反射の減弱・消失は、反射弓そのもの(感覚神経、脊髄前角細胞、運動神経、筋)が障害される末梢神経障害や下位運動ニューロン障害でみられる所見である。

  3. ○c.  足クローヌス

    正しい。クローヌスは、筋を急に伸張し、その伸張を持続させたときに筋が律動的に収縮と弛緩を繰り返す現象で、腱反射が著しく亢進した状態を反映する。足クローヌスは、膝を軽く曲げた状態で検者が足底を押して足関節を急に背屈させ、そのまま保持すると、下腿三頭筋の伸張反射が繰り返し起こって足が細かく底屈・背屈を反復するものである。錐体路障害の代表的な徴候で、膝蓋骨を急に下方へ押し下げて誘発する膝クローヌス(膝蓋クローヌス)もある。左片麻痺の患者では左下肢に出現が予想される。

  4. ×d.  線維束性収縮

    誤り。線維束性収縮は、1つの運動単位に属する筋線維群が不随意に収縮する現象で、皮膚の上から筋がぴくぴくと細かく動くのが観察される。脊髄前角細胞など下位運動ニューロンの障害で生じ、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や脊髄性筋萎縮症、頸椎症性神経根症などでみられる。ALSでは上位・下位運動ニューロンがともに障害されるため痙縮と線維束性収縮が共存しうるが、脳卒中による片麻痺は上位運動ニューロンのみの障害であり、線維束性収縮は出現しない。

  5. ×e.  アステリキシス

    誤り。アステリキシス(asterixis、羽ばたき振戦)は、手関節を背屈させて上肢を前方に伸ばした姿勢を保たせると、姿勢を保つ筋の収縮が瞬間的に途切れて手が羽ばたくように落ちる現象で、陰性ミオクローヌスの一種である。肝性脳症で有名だが、尿毒症、CO2ナルコーシス(高二酸化炭素血症)などの代謝性脳症でもみられ、通常は両側性に上肢で観察される。錐体路障害による片麻痺の徴候ではない。

上位運動ニューロン障害と下位運動ニューロン障害の比較

・筋緊張:上位では亢進(痙縮)、下位では低下(弛緩) ・腱反射:上位では亢進、下位では減弱・消失 ・病的反射(Babinski徴候など):上位では陽性、下位では陰性 ・クローヌス:上位で出現 ・筋萎縮:上位では目立たない(廃用性の軽度萎縮のみ)、下位では高度 ・線維束性収縮:下位で出現

Wernicke-Mann肢位

脳卒中後の痙性片麻痺でみられる特徴的な姿勢。麻痺側上肢は肩関節内転・内旋、肘関節屈曲、前腕回内、手関節・手指屈曲となり、下肢は股関節伸展・内旋、膝関節伸展、足関節底屈・内反(尖足)となる。上肢では屈筋、下肢では伸筋の痙縮が優位になることによる。

主な異常歩行

・分回し歩行(片麻痺歩行):脳卒中などによる痙性片麻痺 ・はさみ足歩行(痙性対麻痺歩行):両側錐体路障害(脳性麻痺、痙性対麻痺など) ・小刻み歩行・すくみ足・突進現象:Parkinson病 ・鶏歩:腓骨神経麻痺など下垂足を生じる疾患 ・動揺性歩行(アヒル様歩行):筋ジストロフィーなど体幹・腰帯部の近位筋の筋力低下。体幹を左右に大きく揺らしながら歩く ・トレンデレンブルグ歩行:中殿筋などの股関節外転筋の筋力低下(変形性股関節症、発育性股関節形成不全など)。片脚支持時に支持脚と反対側の骨盤が下がる ・失調性歩行(酩酊様歩行):小脳障害

羽ばたき振戦がみられる主な病態

肝性脳症、尿毒症、CO2ナルコーシスなどの代謝性脳症。

POINT

・上肢屈曲・下肢伸展の姿勢で麻痺側下肢を分回して歩くのはWernicke-Mann肢位で、痙性片麻痺(錐体路障害)を示す。 ・上位運動ニューロン障害では筋緊張亢進(痙縮)、腱反射亢進、病的反射陽性、クローヌス出現となる。 ・筋緊張低下、腱反射減弱、線維束性収縮は下位運動ニューロン障害の徴候である。 ・アステリキシス(羽ばたき振戦)は肝性脳症などの代謝性脳症でみられる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。