「私の考え」は誰のもの?―自我障害と思考内容の障害を見分ける一本の線
第118回医師国家試験 C問題 第13問
国試問題にチャレンジ
自我障害の訴えでないのはどれか。
- a.「自分の考えが他人に操られています」
- b.「自分の考えが抜き取られてしまいます」
- c.「自分の考えでない考えが勝手に浮かんできます」
- d.「自分の考えが電波に乗って世界中に伝わっています」
- e.「自分の考えなど取るに足らない価値のないものです」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
自我障害とは、思考や行為が「自分のもの」「自分がしている」と体験される感覚が失われる状態で、Jaspersの挙げた能動性・単一性・同一性・境界性の障害として理解できます。作為体験(させられ体験)、思考奪取、自生思考、思考伝播はいずれも考えの所有権や自他の境界が崩れた体験であり、統合失調症に特徴的で、多くがSchneiderの一級症状に含まれます。一方、「自分の考えには価値がない」という訴えは、考える主体は自分のまま保たれており、病的であればうつ病の微小妄想に通じる思考内容の障害で、自我障害ではありません。「誰が考えているか(自我意識)」「何を考えているか(思考内容)」「どうつながるか(思考形式)」という3つの軸で精神症状を整理すると、訴えから疾患を推定し、希死念慮の確認など次の対応につなげる力が身につきます。
解答・解説
正解はeです
テーマ
自我障害とは、本来「自分のもの」として体験されるはずの思考・感情・行為について、その自分らしさ(自己所属感)や、自分が主体として行っているという感覚が失われる体験をいう。Jaspersは自我意識の特徴として、①能動性(自分が考え行動しているという意識)、②単一性(自分は一人であるという意識)、③同一性(過去から現在まで同じ自分であるという意識)、④境界性(自分と外界・他者が区別されているという意識)を挙げ、これらが障害された状態を自我障害とした。統合失調症に特徴的であり、Schneiderの一級症状にも、思考奪取、思考伝播、作為体験(させられ体験)などの自我障害が多く含まれている。
考え方
患者の訴えが自我障害かどうかを判断するには、「自分の考えや行為が、自分のものでなくなっている」「自分と他者・外界との境界が崩れている」という要素があるかを見る。 a〜dはいずれも、考えが他人に操られる、抜き取られる、勝手に浮かぶ、外部に伝わるといった形で、思考の自己所属性や自他の境界が失われており、自我障害にあたる。 これに対しeは、考えの持ち主はあくまで自分であり、その価値を低く評価しているにすぎない。自我意識そのものは保たれており、内容(思考内容)の問題である。病的であれば、うつ病でみられる微小妄想に通じる思考内容の障害と位置づけられ、自我障害ではない。よって正解はeである。
選択肢考察
- ×a. 「自分の考えが他人に操られています」
自我障害である。自分の思考が他者の力によって動かされ、自分の意思で考えているのではないと感じる体験で、作為思考と呼ばれる。思考・感情・行為が外部から操られると感じる作為体験(させられ体験)の一型であり、自我の能動性が障害されている。Schneiderの一級症状の一つで、統合失調症を強く示唆する。
- ×b. 「自分の考えが抜き取られてしまいます」
自我障害である。自分の考えが外部の力によって頭から奪い去られると体験するもので、思考奪取(考想奪取)という。会話中に考えが突然途切れる思考途絶を、患者が「誰かに考えを抜き取られた」と意味づけることもある。Schneiderの一級症状に含まれる。
- ×c. 「自分の考えでない考えが勝手に浮かんできます」
自我障害である。自分の意図と無関係に考えが次々と自然に湧き出てくる体験で、自生思考という。思考が自分のコントロールを離れて生じる点で、自我の能動性が損なわれている。統合失調症の初期にみられることが多く、病状が進むと「外から考えを入れられる」と体験する思考吹入(考想吹入)へ移行することがある。
- ×d. 「自分の考えが電波に乗って世界中に伝わっています」
自我障害である。自分の考えが声に出さなくても周囲や世界中に広まってしまうと体験するもので、思考伝播(考想伝播)という。自分の内面と外界との境界が失われた状態(自我の境界性の障害)であり、Schneiderの一級症状に含まれる。
- ○e. 「自分の考えなど取るに足らない価値のないものです」
自我障害ではないため、本問の正解である。考えの主体は自分であると認識されたうえで、その価値を低く見積もっている訴えであり、自我意識(能動性・境界性など)は保たれている。単なる自信のなさ・謙遜である可能性もあるが、病的なものであれば、自分を実際以上に劣った・価値のない存在と確信する微小妄想(うつ病でみられ、罪業妄想・貧困妄想・心気妄想が代表)に近い、思考内容の障害として扱われる。
主な自我障害
・作為体験(させられ体験):思考・感情・行為が他者に操られていると感じる(例:「体が何者かに動かされる」) ・思考奪取(考想奪取):考えが抜き取られる ・思考吹入(考想吹入):他者の考えが吹き込まれる ・思考伝播(考想伝播):考えが周囲に伝わってしまう ・考想察知:考えが他人に見抜かれている、知られていると感じる ・自生思考:考えが勝手に浮かんでくる ・離人症(離人感):自分が自分であるという実感、外界の現実感が失われる(自我の能動性の実感が薄れる体験で、統合失調症以外に離人感・現実感消失症、うつ病などでもみられる) ・二重自我(自我の単一性の障害)、解離性同一症(自我の同一性の障害)
Schneiderの一級症状
考想化声、話しかけと応答の形の幻聴、自分の行為を批評する幻聴、身体への被影響体験、思考奪取やその他の思考への干渉、思考伝播、妄想知覚、感情・衝動・意志の領域における作為体験。自我障害が多くを占める点に注目する。
自我障害と紛らわしい「思考の障害」
・思考形式(思路)の障害:滅裂思考、連合弛緩、思考途絶(統合失調症)、観念奔逸(躁病)、思考制止(うつ病)、迂遠(てんかん、認知症など)。これらは思考のつながり方・速さの障害であり、自我障害ではない。 ・思考内容の障害:妄想。うつ病では微小妄想(罪業・貧困・心気妄想)、躁病では誇大妄想、統合失調症では被害妄想・関係妄想などが代表的である。
POINT
・自我障害=思考や行為の「自分のもの」という感覚(能動性・単一性・同一性・境界性)の障害 ・作為体験、思考奪取、思考吹入、思考伝播、自生思考は自我障害(統合失調症に特徴的) ・「自分の考えには価値がない」は自我意識が保たれた思考内容の問題で、病的なら微小妄想(うつ病) ・思考途絶・滅裂思考・思考制止は思考形式の障害で自我障害ではない
